ひといずin Angel beats!   作:堂上

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第46話

「百人だ」

「何が?」

「戦力が百人増えたと思え。お前の意志は引き継ぐ。行け!」

突然現れた椎名はとてつもなく頼もしい一言をくれた。その言葉に頷こうとした、その時

「ちょっっっと待てぇぇぇーい!!」

どこからか女の声が聞こえてきた。いや、ていうかこれ出夢の…

と、考えているとドカーンなんていう爆弾でも落ちたんじゃないかと言う轟音が鳴る。

その爆心地の煙に人影が2つ見えた。

その人影の片方が煙の中から姿を現す。

「ぎゃはははっ、百人?足りねえ足りねえ!心っ底足りないねえ!けど安心しな!僕が来たからには──戦力が60億人増えたと思っていいぜ?」

ニヤニヤと、こんな影なんて物の数にも数えない有象無象だと言うようにそう言った。やはり出夢だった。

「だ~。くそ、なんか久しぶりだぜこの感覚…。昔ならムカついてただけなのに、久しぶりすぎて愛しく感じてくらぁ…」

ブツブツ呟きながら煙の中から人識もでてくる。

「ちょ、お前らどこから?!」

「どこからって…空から?」

微妙に日向と会話が合っていない出夢。

「人識、出夢。お前らも助けてくれるのか?」

「は~?助けねえよ。人は勝手に助かるだけだ…」

「は?」

いや、まあ人識らしいといえば人識らしい言葉のような気もするが…なんだかパクリのような気がする台詞だ。

「なんつってな」

俺の葛藤なんてつゆ知らず、ニカっと爽やかな笑顔を作る。

「ま、任せろや。こんな奴ら殺して解して並べて揃えて─晒してやるからよ」

「…ああ、助かる!」

ここを人識たちに任せ走りだそうとした瞬間、バサァっとこれまた空から羽を使って誰かが俺の目の前に降り立つ。

「奏!どうかしたのか?」

「結弦…ゆりの声が、ううん。心が…爆発してる」

「ゆりの…心?」

どういう意味なのか、何が起こっているのか判然としない。だけど奏の切羽詰まった表情を見ると悠長に構えている暇が無いことがわかる。

「ゆりならコンピューター室だ!」

唐突に後ろから人識が叫んだ。

「コンピューター室…わかった!急ごう、奏!。

日向!ついて来い!」

「おおよ!」

「音無さーん!僕も行きますよ!」

これだけ居ればきっと大丈夫だろう。待っていてくれ!ゆり!

 

「行ったか…」

ゆりの下に走って行く音無達の姿を確認する。

その隙をつかんばかりに影が数体、襲いかかってくる。

それを最小限の動きでヒョイとかわし、すれ違い様に手持ちのナイフを振るい消滅させる。

「かはは。手応えねえなぁ」

チラリと椎名の方を見てみるとやはり余裕綽々という感じだ。

「おーい、出夢。移動すんぞー」

「あー?なんでー?」

返事している間にもアホみたいに影をなぎ倒していく。

「一カ所に戦力の要を三人も置いたら非効率だろーが。

俺達は移動して、他の奴らの手助けすんぞ」

「へーい。うおら!」

最後の土産とばかりに蹴りを横に一閃し、こちらに駆け寄ってくる。

「よし。んじゃまず階段降りっか」

勿論その階段には影がうじゃうじゃ蠢いている。

「よっしゃ!任せろ!ぎゃは!」

そう言うやいなや猛然とダッシュし、階段に向かう。

そして、階段にうじゃうじゃいる影の大群に両腕をぐるぐる回しながら(簡単に言うなら駄々っ子がするあのパンチのようなものだ。威力は壮絶だが)突っ込んでいく。

俺はその後を駆け足でついていく。

 

階段を降りることに無事成功し、まずは適当な方角に歩いていく。

すれ違う影達に通り魔まがいの事を続けながら進んで行くと、食堂が見えてきた。

目を凝らすとそこに見覚えのない奴が影と戦っていた。

「おい、人識。なんかあそこで戦ってるやつがいるぞ」

「ああ、しっかし、誰だろうな。見たことねえや。まあ良いや、ちょっくら手助けすっか」

「おー!」

少し駆け足の速度を速めてそいつに駆け寄っていくと何か叫んでいるのが聞こえてきた。

「絶対にここの肉うどんは死守する!お前らなんぞには負けん!!」

「なっ?!」

思わずずっこけてしまう。こんな肉うどんに対しての情熱を持ったやつを俺は奴以外に知らない。

だが、今目の前で影と戦っている奴は俺の記憶とは合致しない。

「ん?なんだ、人識じゃないか。どうしたのだ?危ないぞ?」

そんな俺の困惑なんて知らぬ存ぜぬと言うようにあっけらかんとした口調でそう言う

「お、お前、松下五段か!?」

「む?そうだが?」

「そうだが?じゃねえよ!何を当たり前みたいに言ってやがる!お前、最後に会ったときと体型が変わりすぎじゃねえか!思わずずっこけちまったよ!」

ちょっと見てない間に痩せすぎだ!完璧に別キャラだろ!

「ん?ああ~、すまんな。山籠もりしてたもんでな。食うものに困っているとこうなった」

「なーなー、そんなんでちゃんと戦えんの?」

「心配するな。むしろ今はキレがいい」

「あー、そうかい…まあそれなら良いんだけどよ。まぁちょっくら加勢すんぜ」

「おお、そうか!すまんな」

「気にすんな。なっ、出ず…「あ?なに?」

五段との会話が終わり出夢の方を見ると既にすんごい数を倒していた。正直もうここにいる影の数はかなり少ない。

「あ~どうする?まだ加勢、いる?」

「い、いや。ここまでしてもらって申し訳ないくらいだ…」

「そっか。んじゃ、行くわ」

「おう。俺もここを片付けたらすぐ追いかける」

五段に手を振り出夢の方に向かう。

「おい、出夢。次行くぞ」

「ん~?もういいのか?」

「こんだけやりゃあ充分だ」

「あ、そうなのか?じゃあ行くか!」

こんだけやってかなり倒してる自覚ねえのかよ…

 

五段の手助けを終えてまたしばらく進軍していくと、校舎の窓からキラリと光るものを見つけた。

「ありゃあライフルか?」

「んー?あー、そうみたいだな」

狙撃手が誰かはここからじゃ確認出来ないけどなかなかの腕前だ。

一体一体確実に消滅させていっている。

「けど、ちっと分が悪いか」

銃声に反応してるのか影がぞくぞく集まって来ているのに対してスナイパーライフルじゃ連射のスピードが間に合ってない。

「しゃーねえ、行くぞ!」

「おっしゃー!」

ナイフを二本逆手に構えて全速力で走り、切り刻んでいく。切り刻むついでに狙撃手が誰なのか視認出来る距離まで近づいたから確認してみる。

「大山じゃん」

これは意外だった。普段の大山といえば特徴がないのが特徴、とゆりに言われるほどにこれといった特技などはない奴だ。

だからてっきり俺は銃の腕前も普通、かつ扱う物もオーソドックスな拳銃くらいのものかと思い込んでいた。しかし、今使っている物はスナイパーライフル。そしてその腕前も常人以上であることは確実だ。

「かはは、やるじゃねーか。こりゃ、神様も吃驚仰天してるぜ」

関心している間にもザクザクと斬り進んでいき、ようやく大山もこちらに気がついたようだ。

「人識くん!それに出夢くんも!」

こちらに気づいた瞬間、声をかけようとスコープから目を離し、少し窓から身体を乗り出す。──その後ろでザワザワと黒い霧のようなものが少しづつ形を形成していくのが見えた。

「ったく、バカ」

「え?何か言ったー?」

 

後ろでちゃくちゃくと霧から生物に変わった影にはまるで気づいていない。

「なんでもねーよ!そこ動くな!」

「へ?」

逆手に構えていたナイフを通常の握りに戻し、大きく振りかぶって投擲する。

「う、うわあぁぁ!」

頭を抱え少し伏せた大山の左を通り過ぎ、影に命中し、消滅する。

「え?」

なにが起こったのか呑み込めていない様子だ。

「おーい。後ろ、影居たぞ」

「う、嘘!?そ、そっか、それでナイフを投げて助けてくれたんだね!ありがとう!」

「ったく、そんなんで影にやられちまったら入江が悲しむぞー?」

「あ、あはは…そうだね…。うん。頑張るよ!僕、絶対に生き残る!」

「ま、死んでんだけどな。大山、そこでずっとジッとしてたら影にまた後ろとられっから校舎ん中移動しながら撃て!」

「あ、そっか!うん、分かったよー!」

そう言ってすぐに移動を始める。

「人識、ここらへんも結構片付けたぞ」

「ん、ならまた移動すっか」

 

校舎を離れ再度進んで行くと、野球場まで辿り着いた。そこでまた1人、影に応戦している人物を発見する。今回は遠くからでも誰かが認識できた。

長ドスと拳銃を構えて影と戦っている。長ドスを使うのなんかアイツしかいねえ。

「今度は藤巻だ」

普段はあまり戦闘の際に目立つような働きを見たことがなかったけど、流石に戦線の幹部といったところか、なかなかの腕前で影達を薙払っていく。

しかし、いかんせん数が多すぎる。五段や大山の時よりも更に数がいる。

「ありゃあやべえな。行くぞ出夢!」

「ああ!」

まだかなり距離があるため、2人とも全力で走り藤巻の加勢に向かう。あと少しで藤巻の下に着く──その時、藤巻がグラウンドの土の凹凸に足をとられ、倒れてしまった。

「藤巻!」

考える前に、身体が動いていた。昔なら考えられないような行動だ。残忍で極悪非道。老若男女容赦なしに命を奪っていた筈の俺が、藤巻に突進して影の前から弾き飛ばす。しかし、タッパのない俺は藤巻を跳ね飛ばすので精一杯で、代わりに藤巻がさっき居た位置に入れ替わるように止まることになる。ようは身代わりだ。

あー、しくった。自分で思ってたよりも護る事に躍起になってたみてえだ。あー、ざまあねえな…

「悪い、出夢…」

今から避ける事は不可能。それほどに影は近づいていて、俺は目を閉じ、諦めた───だが、ドンッ、と誰かに弾かれた。

「なっ?!」

諦め閉じていた目を見開き、衝撃の方向を見るとそこには───

「出夢!?」

「ぎゃはは、バカ人識。僕がお前を助けねえわけないだろ?」

なんで、なんでお前は笑ってる?そんな安心したみたいに、心残りがないみたいに、心の底から良かったって感じてるみたいに。

「バイバイ」

そして、出夢は、最後まで笑顔で影に飲み込まれた。

 


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