ひといずin Angel beats!   作:堂上

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第42話

ー空き教室ー

「さあ走り抜けろ今日 まだ見ぬ未来へとGo! 革命起こしに行こう 夢を叶えに行こう♪」

今ユイが作詞作曲した新曲を練習している。

「ストーップ!」

ひさ子が手を交差させながら演奏を中止させる。

「こらユイ!そんなヨレヨレなリズムで続けるな!」 

「ふぇー」

「そうだぞ。ギターも歌声も中途半端になってる」

「ユイー、歌うか弾くかどっちかに専念した方がいいんじゃないの?」

「あー、そりゃ言えてる。

今のまんまじゃ酷すぎるわ」

素人の俺にゃわかんねえけどそんなダメだったのか?

「そんな~。岩沢さんは弾きながら歌ってるじゃないですか~」

「そりゃ岩沢はどっちも上手いからな」

「やだなひさ子照れるじゃない」

なんでそこで頬を赤くすんだよ。

「うぅ~。あたしだって頑張ってますよ~。

ライブだって盛り上がってるじゃないですか~」

「でも今回は新曲だぜ?」

そこまで言った所でガラガラッと扉を開けて天使が入ってきた。

「ひゃあぁぁぁ!天使?!」

「あー!天使じゃ…いってぇ!」

余計なことを言いそうだった出夢の腕をつねって黙らせる。

天使はユイの所まで近づき、指を指して

「お前のギターのせいでバンドが死んでいる」

一瞬沈黙が場を包んだ。

「い、一瞬にして今のバンドの弱点を見抜いた!?」

「なんだお前音楽話せたのか!?よしとことん話そう!」

「やっぱりただ者じゃない!」

「音がわかるのよ~」

「そんな~、皆は気付いてないと思ってたのにぃ~!」

これ言わせたの音無だよな?またなんつータイミングで…

「というわけで、そのギターは没収させてもらう」

ユイからギターを奪ってトテトテと出て行った。

「うえぇ…」

ユイがショックから放心状態でへたり込んだ。

「ちょっとユイ!」

「大丈夫か?!」

 

その頃の音無たち

「はい」

奏がギターを差し出す。

「なぜお前1人なんだ?」

「追ってこなかったから」

「え?」

 

ー空き教室ー

「shine days♪」

ジャジャン。と演奏が終わる。

「おー!いいぞいいぞー!ぎゃは!」

「そうそう、ギター無しなら全然よれないじゃん」

「えー、でもボーカルもギターいるっしょ?」

「3人もいらないよ。しかもあんたぐらいのレベルじゃ余計ね」

「あたしが言いたいのは~!

やっぱバンドはボーカルがギター背負って歌うのが一番絵面的に痺れんでしょって話じゃゴラーーー!!」

「こんの…!」

「うわ、こいつひさ子さんにキレた!」

「逆ギレかよ…」

「やっぱギター取り返してくる!」

そう言って走り出す。

「お、おいこらユイ!」

「どこ行った?!

あ、居たー!待てぇー!」

マジで行きやがった…。まあ、これで音無の作戦が成功したってことか。

「しかし、天使もえらくタラタラ歩いてたんだな」

でも、こいつらには言っとかないとだな。

「あー。それなんだけどな…」

俺は音無の目的。それに俺と出夢の事を岩沢たちに話した。

「ふーん、あの記憶なし男がね」

「みんなをここから卒業させる、か」

意外なくらいみんな落ち着いていた。

「驚かないんだな」

「んー、まあね。なんて言うか、いつかはこんな時も来るんじゃないかな~、とは思ってたし」

「実際、ここの音楽キチは消えかけてたからな」

「ま、そういうことだ」

「なるほどな」

岩沢が消えかけたのも、覚悟を作る要因だったんだな。

「…でも、よりによってあの子えらんじゃったんだね~」

「どういうことだ?」

「正直、あいつを卒業させるのはガルデモメンバーの中じゃ一番厳しいだろうね」

関根とひさ子が神妙な顔つきで言う。

「あいつに何があったんだよ?」

「あたしたちもあいつから聞いただけだから全部話してるかは知らないよ」

ユイのことだからマジな部分ははぐらかすとかしそうだな。

「あの子、小さい頃に車に跳ねられて身体が動かなくなったらしいんだ」

「あいつが?あんな元気に僕たちと遊んでるのにか?」

「ここはケガとか病気が治るからね」

「話戻すね。

それであの子は生きてる頃出来なかったことが人一倍多いんだ。あたしたちが聞いただけでも、野球にサッカー、それにプロレス。あ、もちろんバンドもね」

「全部テレビで観てたものに憧れてたみたいだよ。

でも、なにかまだ隠してると思う。それでさ、それがあいつにとっての鍵なんだと思う」

「人は見かけによらないってよく言ったもんだなそりゃ」

俺は肩をすくめる。

「あたしは音無君じゃ無理だと思うんだ」

「なんで?あいつ頭はいいぞ?」

「ユイが求めてるのはそういうものじゃないんだよ、きっと」

「…ふーん」

こりゃまた難しいやつを選んだな音無のやつ。

「そこでだ零崎。

あいつらの様子見てきてくれないか?」

「…は?」

「だってさ、気になるじゃん」

「いや、なんで俺?」

「お前殺人鬼 だったんだろ?なら盗み見とかできるだろ?」

「そりゃ出来ねえことねえけど…」

よく尾行してたしな…。

「や・れ」

「…わーったよ!行ってくる!」

「待てよ、僕も行く!」

「お前は騒ぐから駄目だ!抑えといてくれひさ子!」

「りょーかーい」

後ろから出夢のうめき声を聞きながら音無たちの所に向かう。

 

ー中庭ー

「おっ、いたいた」

「オリャアァァ!」

俺が見つけた瞬間、音無は地面に叩きつけられた。

なにやってんだ…?

「保たない…」

「待ってくださいよぅ!次は出来ますからぁ!」

頭をさすりながら帰ろうとする音無を必死で止めるユイ。

「ほんと最後だからな?」

 

「オオォラアァ!」

またもや思いっきり投げつけられる音無。

あれはもしかして、ジャーマン?そういやプロレスしたがってたとかさっき言ってたな。

「もう帰る」

「せんぱ~い!」

「お前さ、もしかしてブリッジとか出来ないんじゃねえーの?」

「出来ますよぉ」

「やってみろよ」

「よっ…と?あれ?」

ブリッジ出来ねえのにジャーマン出来るわけがねえ。音無、無駄に痛い思いしたな。

「まずはブリッジの特訓だな」

「え~、つまんな~い」

「いいからやれ!」

 

「せーの、よー!」

「ほら、頑張れ~」

音無がブルブル震えてるユイの腹を木の枝でつつく。

あれセクハラじゃね?

「ぷはぁ」

「ダメだろこら~」

「だぁってぇ、こんな格好したことないんだもん!」

「でも出来なきゃジャーマンスープレックス出来ねえぞ?」

「う、うぅ…頑張ります…」

意外と根性があるな…さすがガルデモのボーカルやってるだけあるわ。

 

ー数時間後ー

「ほっと!

で、出来てます、よねぇ?」

ブルブル震えてるけど、まあ合格か。

「ブルブル震えてるが、ま、いっか」

 

音無の腹に手を回して、ジャーマンの体勢に入る。

「じゃあ、行きますよ~!」

「来い!」

「んんんぅぅ~」

「おお!」

ちゃんと腹に腕が回っている。これは逃げようがない!完璧だ、完璧なジャーマンスープレックスだ!

…痛いだろうな…。

「1、2、3~カンカンカーン、試合終了~!」

「ふぇ?

やった、やったんだあたし!?

あはは、やった!バンザーイ!」

「こんなのがあと幾つ続くんだ?」

「ダー!」

キラキラしてるユイと疲れ果ててる音無。

ほんとよくやるよな。

 

ー空き教室ー

「…って感じだったよ」

只今岩沢たちに報告中。みんな腹抱えて笑ってる。

まぁ、分かるけど。

「大変だね~音無くんも」

「ほんとだよね~!ジャーマンってここじゃなきゃ大ケガしてるんじゃない?」

「案外根性あったんだね記憶なし男。ナヨナヨしてるのかと思ってたけど」

「一発目がこれか。あの新入りも可哀想に」

「ま、あいつがやりたくてやってんだ。しゃーねえんじゃね?」

これはあいつの自己満足でもあるからな。

「意外と厳しいね、あんた」

「そうでもねえよ、いつも通りだ。

まだ何かするっぽかったからもう一回行ってくるわ」

 

ーサッカー場ー

「おーおー、集まってるな~。」

サッカー場のグラウンドに音無、日向、野田、藤巻、TKがやってく来ている所だった。ちなみにグラウンドの真ん中にユイが立ってる。

辺りを見回すと柱の近くに人影を見つけた。

「ありゃあ…」

 

「よっ、なにしてんだ?」

俺が声をかけると少し体をビクッとさせてこちらに振り向く。

「あなた…なにをしに?」

「あー、見学?」

「なぜ?」

「あー、そりゃ…「きやがったか。キックオフ!」あ、始まったみたいだぜ?」

ユイがボールを蹴り出す。

「ボールを蹴り始めたぞ」

「行くぞぉ!てめーらぁ!」

気合い満々のユイに対して男達は何かポカンとしてる。

「わかった!手紙の主はあいつだ!きっと、いつも不甲斐ない俺たちに苛立ちを覚えていたんだ!それでこんな真似を!

よーし!ゴールを守れ!この勝負負けられねえ!俺たち男が勝つ!」

 

「なあ、あれは無理ねえか?」

「さあ?結弦がこう言えば絶対うまくいくはずだ。って言ってたけど」

「あ、そ」

あいつもアホだったんだな

 

「よくわからんが…わかったぁ!」

うわ、うまくいってる?!

「なめんじゃねーぞこら!」

「I kiss you!」

「日向、キーパー!」

「おおよ!」

 

「どけや!こんボケぇ!」

「ふん、下手くそなドリブルを。隙だらけだ。覚悟ぉ!

あ痛っ!?」

「おっしゃぁ!1人抜きぃ!」

「何事だ?」

「なにやってんだ野田?!」

 

「なるほどな。その悪趣味なのはこれのためか」

天使の腕の悪魔みたいなのを指さして言うと、表情を暗くして

「…これ悪趣味だったんだ…」

あー、悪いことしちまったかな。

 

「2人目ぇ!どぉりゃぁ!」

ユイがドリブルを放棄して藤巻に蹴りを入れる。

「審判!レッドカードだろ今の?!」

「セーフ」

グラサンつけてきっと誰かのモノマネをするユイ。けどな、誰かわかるモノマネしろよ!

「どこの誰のつもりだよ?」

 

「まだまだ行くぞてめーら!」

「頼むぞTK、音無!」

「easy come easy go!」

「任せろ!」

「3人目ぇ!」

「ha!」

TKがボールを奪うことに成功する。

「よっしゃあ!」

「here we…「とーり!」oooh!」

が、音無に邪魔される。

これありなのか?グダグダだぞ?

「てめえどっちの味方だよ?!」

 

「ふん!最後は…てめえか!

殺してでもゴールを奪う!」

「お前スポーツマンシップはどこ行った!?」

仲良いなぁこいつら。

「んなこと知るかぁ!

覚悟!必殺、殺人ギロチンシュート!」

「俺を殺したいのかゴールを奪いたいのかツッコミ所の多いシュートがきやがったー!」

シュートはゴールに向かっている。

「おわ、奇跡だ!」

「日向ー!」

シュッとまた天使が石を打ち出した。

「ああ!」

石がボールに当たって軌道を変えられる。目の前での急激な変化に日向はついていけない。

「へ?は、入った?いやったー!」

「バカな…! 」

「俺たちの負けだなんて…」

「ユイ1人にだぞ?」

「scrambleでtrouble dance」

「最悪だ…」

「絶対内緒にしておこうな」

「うむ…」

なるほど、こうやって自然にあいつらの口止めもするってことか。

「おっと、ばれるといけねえからな。俺は退散させてもらうわ。

音無には内緒で頼むぜ?」

「わかったわ」

 

ー空き教室ー

「プロレス、サッカーってことは次は野球だろうな」

俺は報告を終えて少し雑談してから行くことにする。

「そうだね、あたしたちが聞いた限り」

「プロレスのジャーマンにサッカーでは4人抜いたんだっけ?

だったら次はホームランとかかな?」

「言いかねねえな…」

もしそうだったら難しいどころじゃねえぞ。

「ユイって確か球技大会の時一回も打ってないんじゃなかった?」

「見事に空振りしかしてねえよ」

「「………………」」

みんなが一斉に黙り込む。

「ま、まあとりあえずまた様子見てきてよ」

「ああ、行ってくる」

 

ー野球場ー

やっぱり音無たちは野球場に居た。

「あー!当たった!」

「当たりゃいいってわけじゃねえからなぁ

もっとボールをよく見て、バットの芯で当てて見ろよ」

当たりゃ良いわけじゃないって事はやっぱホームラン狙ってるっぽいな。

 

ゴロを打った

「ボールの上を叩きすぎてる」

小さいフライ

「今度は下過ぎ」

空振り

「目ぇ瞑ってて当たるかぁ!」

弱々しいピッチャーライナー。

「はぁ…非力だ…」

こりゃ無理だぜ。パワプロっで言ったらパワーGでホームラン狙らってるみたいのもんだ。

 

もう日が暮れてきた。でもまだ続ける2人。

「おら!頑張れ!」

「そりゃ頑張るよぉ!」

「もう一回!」

「ふっ…あれ?」

バットを振る手にもう力がない。

「ダメだお前…疲れて握力落ちてる。これ以上続けても今日は無駄だ。」

「ええー!」

また明日か。

 

ー空き教室ー

「あー、やっぱりホームラン打つつもりなんだ」

「ああ、でもいい当たりでも外野の真ん中に届いてなかった」

「もしかしてそれって無理なんじゃ…?」

「もしかしなくても無理だろうな」

「僕なら一発で打ってやるのに」

「お前は例外だからな」

「でもさ、きっとホームランを打てたとしてもユイは満足しないんじゃないかな?」

唐突に関根がそう切り出す。

「お前らにも言ってないあいつにとっての鍵ってやつか?」

「うん。

ユイって好き勝手になんでもかんでもやってるイメージかもしれないけど、あの子ほど周りに気を使ってる人は居ないと思うよ」

「そうか?日向をいじめて笑ってるし、人のことアホ呼ばわりばっかしてるぞ?」

「日向先輩にはそういう気遣いをしなくても良いくらい心を開いてるんだよ。

アホ呼ばわりはその場を明るくするためなんじゃないかな?まあ単に気に入ってるっていうのもあるんだろうけど」

しかし、こいつも本当によく人を見てるな。

「そんなもんか?

でも、そしたらあいつのこと救ってやれるやつは居ねえのか?」

「居るでしょ、1人」

「いやでもあいつもアホだからなあ」

不安だ…。

「まあなんにしても明日も頼むね」

「はいはい、わかってるよ」

 

ー次の日ー

「おりゃあ!」

「てぇい!」

「どっせーい!」

相変わらず飛ばねえなぁ

「ん?あいつは…」

俺は1人の人影を見つけた。

 

 

「よっ、なにしてるんだ?」

「お?人識?」

日向がボールを拾ったところで話しかける。

「いや、何かしてるっつーか通りかかっただけだけど…」

「だけど?」

「なぁ、あいつらっつーより音無が何しようとしてるか、分かるか?」

いつになく真剣な目で分かる。もう日向は気づいている。

「まあ、な」

「そっか。もしかしてこの前出夢と校内歩き回ってたのも今みたいな事だったのか?」

「ああ」

「そうか…。

なあ、どんな気持ちだった?」

これは出夢が消えるのを知ってということだろう。

「耐えられなかった。だから止めた。

…俺はな。お前は知らねえけど」

「………」

「じゃあな。

ちょっと音無と話してみりゃいいんじゃね?」

後ろに手を振りながらその場を去る。

 

「あれ?」

「今日はもう暗くてボールが見えないな。また明日だ!」

「えー!?ああ…」

今日もだめか。

 

音無が片づけている

「お前らなにやってんの?

よっ!」

日向はバットを構えて振る。

「お前もやるか?

本気の野球」

「フルスイングか…最近してねえや。そういうのも悪くねえかもな」

音無が投げた球は日向に打ち返されフェンスを越えた。

 

次の日

「ハア…ハァ…えい!」

また空振りか

「どうした?!全然振れてねえぞ!」

ユイのやつ、手にマメでも出来てんな、こりゃ

「んぅ!ああ…」

ユイがその場にへたり込む

「大丈夫か!?」

音無がすぐさま駆け寄る

「お前、手ぇ見してみろ」

「やだ」

「見せろって」

ユイの手をとる

「ああ…」

あの反応だとやはり手がボロボロみたいだ

「所詮無理なんだよ…」

ユイがそう言いながら立ち上がる

「もういいや、この夢」

そしてあっけらかんとそんな言葉を口にする

「あきらめんなよ」

音無はなんとか励まそうとする

「色々ありがとね。何でこんなことしてくれたの?」

「それは、お前がやりたかったことだろ?最後まで頑張れよ!」

「ホームランなんて冗談みたいな夢だよ。ホームランが打てなくても、こんなにいっぱい体動かせたんだからもう十分だよ。

毎日部活みたいで楽しかったなぁ!

言ったでしょ?あたし、体動かせなかったから、だから、すげー楽しかった!」

これはきっと本心なんだろうと分かる。だけど、どこか強がったようだった

「じゃあ、もう全部叶ったのか?」

「叶う?なにが?」

「その、体が動かせ無かったとき出来なかったこと」

音無の言葉を聞いて、一瞬だけ逡巡する

「ああ…、もう一個あるよ。」

そして、ポツリとそう言った

「なに?」

音無が立ち上がりながら訊く

「結婚」

「…え?」

まるで何とも思ってないかのようにサラリと発せられた言葉に、音無の動きがとまる

「女の究極の幸せ」

淡々とユイがそう語る

「でも、家事も洗濯も出来ない、それどころか1人じゃなんにも出来ない、迷惑ばかり掛けてるこんなお荷物…誰がもらってくれるかな…」

途中までは明るく努めていた語調も言葉を進めるにつれて弱々しくなっていく

「神様って酷いよね…あたしの幸せ全部奪っていったんだ…」

自分を支えてるバットを持つ手が震えてる

「そんなこと…ない…」

「じゃあ先輩。あたしと結婚してくれますか?」

ユイが音無を睨む。

「え?」

音無は咄嗟に言葉が出ない

「それは…「俺がしてやんよ!」

「あっ…」

声した方に振り返るとそこには日向がいた。

…そうか、お前はそうすることに決めたんだな

ユイがバットを握る手を離す

「日向…」

「俺が結婚してやんよ

これが、俺の本気だ…!」

日向が今までにないほど真剣な眼で言う

「そんな…先輩はほんとのあたしを知らないもん」

生きていた頃の思い出からかそんな日向の言葉を信じれずにいるみたいだ

「現実が、生きてた頃のお前がどんなでも、俺が結婚してやんよ

もしお前がどんなハンデを抱えてても」

「ユイ歩けないよ?立てないよ?」

1つ1つ確認するように質問する。だが、それも愚問だった

「どんなハンデでもっつったろ!歩けなくても、たてなくても、もし子供が埋めなくても…それでも…俺がお前と結婚してやんよ!」

日向の決意は本物だ

「ずっとずっと、側にいてやんよ

ここで出会ったお前はユイの偽物じゃない、ユイだ

どこで出会っていたとしても俺は好きになっていたはずだ…

また60億分の1の確率て出会えたらそん時もまたお前が動けない体だったとしても、お前と結婚してやんよ…」

優しく、ユイの心に染み込ませるように想いを伝えていく日向

「出会えないよ…ユイ、家で寝たきりだもん…」

もうとっくに日向の想いは伝わっているだろうから、これは今まで通りの軽口の類なのだろう

「俺、野球やってるからさ、ある日お前ん家の窓を打った玉でパリーンと割っちまうんだ。

それを取りに行くとさ、お前がいるんだ。

へへっ、それが出会い

話するとさ、気が合ってさいつしか毎日通うようになる。介護も始める。そういうのはどうだ?」

日向の語る2人の未来。それはすぐに想像出来た。

「うん…へへ…ねえ、その時はさ、あたしをいつも1人で介護してくれたあたしのお母さん、楽にしてあげてね」

だんだんと、ユイから光の球がポツリポツリと現れる

「まかせろ」

「よかった…」

 

 …そして

    消えた…

 

「…よかったのか?」

「…よかったさ。」

「嘘つけバーカ。強がりやがって」

「人識、見てたのかよ…

へへっ、恥ずかしい所見られちまったなぁ」

照れたように鼻の下を擦る

「いや、今まで見てきた中で一番かっこよかったぜ?」

「おっ、マジ?!サンキュー」

…ほんと空元気って感じだ

「日向、お前はこれからどうする?」

音無が唐突に訊く

「俺も最後までつきあうさ…まだ心配な奴らが残ってるからな…」

日向が空を仰ぐ。涙を隠すように。

「そっか…」

 

そうだ。あと1人、フォローしなきゃいけない奴がいるな

 

ー天使対策本部ー

私は先ほどまで行われていたやり取りを思い出す。

結婚してやんよ、かぁ…

変な語尾つけちゃって

「ほんと、アホね…」

そう物思いに耽っていると、神も仏も天使もなし。と声が聞こえ、扉が開けられる。

「お、やっぱ此処にいたか」

「…どうかした?人識くん」

「いや、落ち込んでるかなと思ってな」

えらくストレートに言ってくれるじゃない。

「何のことかしら?」

「しらばっくれても無駄だっての。

目、赤いぞ?」

「………」

恥ずかしさで少し頬が赤くなる

「…好きだ、って言うくらいならいいんじゃねえか?」

ほんと、オブラートに包むってこと出来ないのかしらね

「…良いのよ、これで

それに、略奪愛って柄じゃないしね」

「そうか?お前なら男奪って、おーっほっほ、とか言って笑ってそうじゃん」

「どういう意味よ?!」

大体あんたね、と続けようとしたところでトランシーバーに連絡が入る。

「遊佐さん?どうかした?」

『影が現れました』

いつも通りの単調な話し方。だがその説明をうまく飲み込むことが出来ない

「かげ?もうちょっとちゃんと説明してよ」

『影としか説明できません

今駆けつけた野田さんが倒したところです

大山さん1人では危ないところでした』

「危ないって…なにが?」

影…危ない…何なの、このイレギュラーは?

「おい、なんだ影って」

考える事に集中しすぎて人識くんがいたのを忘れていた。

「分からない。でも、気をつけなさい」

「分からんけど、分かった。

じゃ、またな」

そう言って、出て行く。

なにが起こってるの?この世界で…

 

ー空き教室ー

ゆりの所に寄ってからガルデモの皆にユイの事を伝える

「そうか…ユイの奴満足しちまったか」

「ああ、ほんと思い残す事は無いって顔だったぜ」

「日向先輩もたまにはやるねぇ!かっこいーじゃん!」

「確かに、あのちゃらんぽらんにしては良くやったね」

岩沢って日向の事そういう感じに見てたんだな

「来世の愛を誓うなんて素敵ですね…」

入江は想像の世界に入ってるようだ

「もう、アイツと一緒に演奏できねないんだな…」

ポツリと、ひさ子が言葉を洩らした

すると、皆今までせき止めていた感情を隠しきれなくなったのか、俯いて黙り込んでしまった。

こりゃ俺は邪魔だな

「じゃあ、俺帰るわ。疲れたしな」

そう言い残して足早に部屋を後にする

 

寮に帰る道の途中に見覚えのある人影を見つける。てか、出夢だ。

「なにやってんだ?お前」

「人識、どうなった?」

「…消えたよ」

「そっか…」

「ああ…」

それっきり2人とも一言も発さずに歩き続ける

「なあ、お前はあの時消えたかったか?」

「どうしたんだよ?急に」

これはユイが消えたのを見た時から頭の隅に焼き付いて離れなかった疑問だった。

「ユイが消える時の顔みたらつい、な」

「………バーカ。

そんなわけないだろ。僕はお前と一緒に居れて幸せだよ」

ぷいっと、そっぽを向いてそんな事を言う。しかも耳まで赤くなってる。

そんな出夢がたまらなく愛おしい

「出夢」

ん?とやや不機嫌な表情で振り向く

ずっと一緒に居よう。とは、この世界では言えない。だからせめて

「最後まで、一緒に居ような」

「うん」

そして唇を軽く重ねた。

 


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