ひといずin Angel beats!   作:堂上

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遅くなりましたがABのゲーム化が決まりましたね。非常に楽しみです。
では、今回はユイの話の前に1つオリジナル話を書かせていただきます。


第40話

ー医局(閉鎖中)ー

今日は奏と誰を卒業させるかを話し合う事になっている。なぜ、保健室かと言うと、単純に人が来ないからだ。だけど次に話す時はまた場所を変えないといけないだろう。ゆりは人の動向に聡いからな。

と、つらつらと考え事をしていると、ガチャッとドアが開き奏が入ってきた。

「結弦…早いのね」

「ああ、俺は特に用事がなかったからな」

奏は生徒会の仕事で俺より遅れた事を気にしてるみたいだからそう言ってやると、そう、と言いイスに腰掛けた。

 

「それで、誰にするの?」

早速本題に入る奏。

「ああ。それについてはもう考えてあるんだ」

「誰?」

「人識と出夢だよ」

そう。卒業させるならまずこの2人だっていうのは奏が目を覚まして卒業される事にした時から決めていた。

「なぜ?」

「あの2人の思い残した事ってさ、お互いがお互いに再会して、和解することだったんだよ。

そして、今それは叶ってる。だから、あとは背中を1つ押してやるだけだと思うんだ」

「そう…。わかった。あなたがそう言うならそれで良いと思うわ」

「そうか!じゃあ、まずはどう背中を押すか、だな」

ここが問題だ。2人はすでに好きに暮らしていて楽しそうにやっている。それを卒業させるようにするにはどうすればいいのか。

「本人に訊いてみたら?」

「うーん…。そうだな、それしかないか。

でも、人識に訊くのはマズいから、出夢の所に行こう。

それじゃ、まずは出夢探しだ!」

「おー」

奏が手を握り締めて天に突き上げる。

「あー、奏。悪いんだけど、出夢の所には俺1人で行くからな」

「えっ…」

「いやいや、つーかお前が来たらダメだろ?敵ってことになってんだから」

「そう…わかったわ…」

奏が本当に残念そうに肩を落としている。

「ごめんな。じゃあ、いってくるよ」

俺はドアを開けて出夢を探しに行く。

 

校内は広いからかなり時間がかかると思ったけど案外すぐに見つかった。

しかも都合よく出夢1人だった。

「よぉ、出夢。1人か?」

後ろから声をかける。

「おー、音無じゃん!どーした?珍しいじゃん、僕に話しかけてくるなんて」

「いや、ちょっと話があってな。今時間あるか?」

そう訊くと出夢は間を空けずに「ああ、別にいいぜ!ぎゃは!」と返してきた。

「そっか。じゃあ、早速質問なんだけど…お前のここに来た理由、つまり思い残しってさ、人識との決別にあるんだよな?」

急にこんな事を訊かれたから当然だが不思議そうにこちらを見てくる。

「あー、うん。まあそうだけど、それだけなのか?」

「いや、これは別にただの確認だから、ここからが本当に訊きたいことなんだ。

お前はやりたいこととかあるか?例えば、そう、人識と何かするとかさ」

またもや突拍子もない質問に頭にハテナマークを浮かべている。

「人識としたいこと?うーん……

あっ!!あるぞ!」

「なんだ!?」

「デート!」

「デート?」

「そう!ちょっとここで待っててくれ!すぐ取ってくる!」

そう言ってものすごいスピードで走り去っていった。

しかし、取ってくるって何をだ?

 

それから五分ほど経ってから出夢が戻ってきた。

「これ!」と言って一冊のノートを差し出してきた。

「ノート…?」

パラパラとめくるとそこには

オシャレして人識と待ち合わせ

遊園地とか映画館とか行く

最後はキス

など、年端もいかない少女が考えるようなささやかな、ましてや殺し屋の面影など微塵もないようなデートプランが書かれていた。

書かれているものが本当に年端もいかない少女が考えたようなものなのが余計にこの少女が普通の人生を送ってきていないことを感じさせる。

「これ、いつ書いたんだ?」

「この前、天使の目を欺くっつって授業受けるフリしたときにな」

確かにあの時出夢はなにかを楽しげに書いていた気がする。

「…わかった!

さすがに目一杯オシャレしたり、映画館とか遊園地は行けないけど、このデート、俺が叶えさせてやる!」

「え、本当に…?」

出夢は目を丸くされて驚いている。

「ああ!じゃあどこかでゆっくりデートプランを練ろう」

「やった!行こう行こう!ぎゃはは!」

 

俺は今花壇がたくさん置いてある広場のような場所に来ている。

なぜこんな所にいるかというと昨日の夜中にいきなり出夢がベランダの窓を割って入ってきて「明日の12時に集合な!場所はここに書いてっから!ぎゃはははは!」と言って紙を一枚置いて出て行った。

そしてその紙に『花壇のある広場!!』と書いてあったからだ。

まったく夜中に迷惑な奴だ。…けど、なんか懐かしかったな。

 

まあそんなあれこれがあって今俺はここにいるわけなんだが…もう12時を10分以上過ぎている。

「ったく、おっせ「とっしー!待ったー?!」やっと来た…か…?」

やっと来たかと振り向いたらそこにはいつもはストレートの髪を少し巻いて その上花を模した髪飾りをつけていた。

「人識、どうだ?似合ってるか?」

普段じゃ考えられないほど女の子らしく上目遣いで訊いてくる。

「別に……普通だよ。ほらっ、どこか行くんだろ。早く行くぞ!」

俺はいつもみたいに照れ隠しでぶっきらぼうに言ってしまう。

「へへ~、人識顔真っ赤~♪」

「るせぇ!ひっつくな!」

出夢がからかいながら腕を組んでくる。やべえ、顔熱い。

「で、どこ行くんだ?」

「えーと、まず食堂でかるーく飯にしようぜ~」

「んー、まあちょうど昼飯時だしな」

「決っまり~!じゃあ早く行こう!ぎゃは!」

出夢そんな急いでどうすんだよってくらいにグイグイ引っ張られて食堂に向かう。

 

ー食堂ー

食堂について俺はそこまで腹が空いてなかったからサンドイッチに出夢も俺に合わせてサンドイッチを頼んだ。

 

「なあお前今日やけに食うの遅くねーか?」

食べ始めてもう15分は経ってるがまだ出夢が食べ終わらない。いつもよりもチビチビと食べ進んでいる。

「んなことねーよ。ほらもう食べ終わるし」

確かにもうあと一口大なのだが、いつもなら俺より早く食べ終わるはずなのになぁ。

「ごちそうさまでした!じゃ、デザート買ってくるな!」

「は?おい!…行っちまった…」

確かに俺も何か甘いものを頼もうとしてたけど、あいつなんか変だな。

 

「おまちどお~」

しばらくして出夢が普通のパフェより約2倍ほどの大きさのパフェを買ってきた。しかもパフェ1つにスプーンを2つさしている。

「さあ食べよ食べよ!

はい、あーん」

「あーん、じゃねえよ!!展開早すぎだろうが!?」

「えー、せっかくカップルパフェ買ってきたのに~」

「そんなもんがあるのがまず驚きだよ!よく見つけて来たな!?」

「愛の力ってやつさ…

じゃあ仕切り直しな。はい、あーん」

「だからなにが「あーん!」ぐぶぅ!」

俺の抗議も虚しく口の中にスプーンを突っ込まれる。うん、でもまあうまい。

「美味しいか?」

小首を傾げながら訊いてくる。普段ならまだ問答を続ける所なんだがどうもいつもと勝手がちがう。なんというか、ドキドキする。

「まあ、うめえよ。こんな風に無理やり押し込まれなきゃもっとな」

ただ素直にうまいとだけを言えないのが俺だ。

「そりゃ人識が拒否るからだろ~?大人しく口開けてれば普通に食わしてやるのに」

「こんなとこでそんな事できるかアホ!」

そう言い捨てて俺は自分のスプーンで食べ始める。

出夢が、むー、と頬を膨らまして睨んでくる。無視だ無視。直視できねえ。

 

ようやく地獄のような天国のような時間が終わった。

「んで、結局どこ行くんだよ?」

「次はブラブラ散歩だー!行くぞー!ぎゃは!」

「なんで散歩?」

「いいから行こうぜ

…ん」

出夢がそっぽを向きながら手を出してくる。

「…なんだよ」

「手、繋ごうぜ」

「ブッッッ!!」

俺は盛大に吹き出してしまった。

「な、なななんでだよ?!」

「…なんだよ、嫌なのかよ~」

「嫌だとかそういう事じゃなくてだな「いいから!行くぞ!」ちょっ!」

出夢が強引に手を繋いできて引っ張られる。しかも繋ぎ方が指と指を絡ませる所謂恋人繋ぎだ。

 

なんだよこの状況…

周りから超見られてる気ぃする。

「じゃあ、まず河原のほうにいこうぜ」

「あ、ああ」

相変わらず手を繋いだまま歩く。

 

俺達は河原に行ったり、体育館に行ったり、校舎を回ったりとずっと歩き回った。でも未だに出夢の目的がわからない。

「人識、座れる所探そう」

「ん、ああ」

そういやこれかなりの距離歩いてるよな、よく考えたら。まあ俺達は大して疲れやしないけど。

 

「おーい!ひと「日向ー!!ちょっと用があるんだ来てくれ!」ちょ、音無なんだよ?!」

「いいから!」

ベンチでもないかと歩き始めて少し呼ばれたかと思って振り返ったけどいつも通り日向と音無がじゃれてるだけだった。

「どーした?」

「いや、呼ばれた気がしたんだけどな」

「気のせいだろ~?

あ!あそこにベンチあったぞ!」

「ホントだ。いやでも前まであんなとこにあったか?」

「いいじゃん気にすんなよ!早く早く~」

「急がなくてもベンチは逃げねえよ~」

ったくせわしないのはいつも通りだな。

 

出夢がベンチに座ってからなぜか黙り込んでいる。その間も手は繋いだままで、しかも肩に頭をもたれさせている。なんかいい匂いすんな。

「……なあ」

「……なんだよ?」

「結局何がしたかったんだ?」

「…わかんねえのかよ」

出夢が怒ったように睨んでくる。

「オシャレして、あーんして、手ぇ繋いで!ここまでしたのにまだわかんねえのかよ!

…こんなの、デート以外ねえだろうが…アホ…」

もしやとは思ってた。でもまさかとも思ってた。

生きてた時からデートとは言っても殺し屋の仕事なんかをしてたから。

俺達がデートを…それもこんなまともなデートをするなんて考えたられなかったから。

「出夢…なんで…」

「いつも言ってるだろ…好きだからだよ。人識の事が友達としてでも家族としてでもなくて、男として好きだからだよ…」

ホントは分かってた。気づいてた。でもどこか照れくさくて気づかないふりしてた。

「人識、場所変えよ」

俺は無言で首を縦に振った。

 

ついた先は屋上。もう夕日がでている。

「人識」

「なんだ?」

「僕の事、好きか?」

この質問はー生きてた頃から何度もされた質問ー

ー出夢を失う事になった質問ー

ー俺が間違えてしまった質問ー

もう同じ事は繰り返したくなかった。

「好きだよ。

…俺は匂宮出夢の事が女として、好きだ」

出夢が驚いたように目を見開く。

「そっかぁ…。僕達、両想いだったんだ…」

目にはドンドン涙が溜まってきている。

「人識、大好きだ…」

出夢が俺に近づいて優しく俺の唇に唇を重ねる。そして、離れた。

目尻に涙を浮かべながら微笑んだ。その笑顔は綺麗で儚かった。

それと同時に出夢から光がポツポツと現れる。これは理澄や岩沢と同じだ。

冗談じゃねえ!せっかく素直になれたんだ!なにか、こいつを止める言葉はー

「出夢!…今の冗談だぞ?」

「……………は?」

出夢が盛大に顔を崩す。光が体から出なくなってる。なんとか成功したみたいだな。

「こんの…アホッ!!」

思いっきり頭に拳骨を落とす。

「え?え?」

頭を押さえながらオロオロしている。こんな所を見るのは初めてだ。

「せっっっかく素直になれてこれからって時にてめえはなんで消えようとしてんだボケ!!

てめえは告白してOKもらってそれで満足なのか?!

俺は満足できねえよ!もっといっぱい恋人みたいなことすんじゃねえのかよ!」

言いたいことがたくさんありすぎて言い切れないけどこれくらいは言ってやりたかった。

「人識…ごめん」

俯いて謝っている出夢を見てちょっと頭が冷めてきた。

「いや、こっちこそ悪かった。でも、もう先に消えようとか思うなよ…消えるときは一緒にな」

「うん…!」

出夢はいつもの笑顔に戻っていた。

 

「でさ、なんで急にこんなデートなんてしようとしたんだ?」

「んー、あー、それは音無がしたいことないかって言うからさ」

音無?なんでここで音無が?

しかも、したいことがないか?これじゃまるで俺達を消そうとしてるみたいな…。

ここまで考えて、なにかが頭の中で噛み合った。

今まで疑問に感じたことと今聞いた情報が。

「…そういうことか」

呟いて、呼びかける

「音無いるんだろ?出てこいよ」

叫んでからしばらく静寂に包まれる。出夢はよく状況を読めてない。

そして、ようやく屋上から校舎内に繋がる扉を開けて音無と天使が現れる。

「…どういう事だ?音無」

「俺、思いだしたんだ。生きてた頃の事をちゃんと。そしたら悪くない人生だったなって。それを皆にも分かって欲しくて…」

バツの悪そうな顔をしている音無。

「つまり、戦線を裏切るってことか?」

「違う!…そうじゃないんだ。

ここは生きてる頃青春を謳歌出来なかった奴らの救済場なんだ。

奏もそのためにみんなに学園生活をちゃんと送れるようにしようとしてただけなんだよ」

「お前の言いたいことは分かった。間違ってないさ、やってることは」

そう言うと表情が明るくなっていく音無。

「でも、悪い。

俺と出夢はまだ居たいんだよ、ここに。

せめて皆が消えるまでは」

「…そうか。こっちこそ悪かった。無理に卒業させたかった訳じゃないんだ。俺達も。

なあ、奏」

「うん」

最初はムカついたけど話を聞いて落ち着いてきた。

だから、これだけは言っとかないとな。

「ありがとな。お前らのおかげで俺達は付き合えた」

「僕もデート楽しめた!ぎゃは!」

「いや、これくらいどうって事ないさ」

「だからまあ、せめてものお礼としてゆりには黙っとくから。

まあ頑張れや」 

手を振りながらこの場を立ち去る。

 

その後良い時間だったから晩飯を食べて、少し話して。寮に向かう。

 

女子寮の前についてしばらく立ち止まる。

名残惜しいような気持ちになる。

「…じゃあ、また明日、な」

「うん、また明日」

また明日会える。

それも今までとは違う関係で。

そう言い聞かせて別れる。

 

風呂に入って歯を磨いてベッドに潜り込む。

真っ暗になった部屋で呟く。

「あ~、寝れねー」

 

 

 

 

 

 

 


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