ー天使対策本部ー
天使奪還が終わり、本部に戻って来た。
が、今までに無いくらい沈黙が部屋を漂っていた。それを破ったのは高松だ。
「これまでに無いことです。天使のあんな状態は初めてです。
このまま二度と目を覚まさないことも場合によってはあり得るかもしれません」
高松はとても事務的にそういった。ゆりはそれを椅子にもたれて、ギシギシさせながら聞いている。
天使は今音無が側についている。
「それこそイレギュラーな事態よ。目覚めるわ。
そして寝過ぎたという結果に変わる」
ゆりが自分に言い聞かせているようにも聞こえるように言う。
「その時の彼女はどの彼女なんだ?」
「「……………」」
「おおー!!椎名が喋った!?」
一瞬の沈黙から藤巻が叫ぶ。
「これは相当重要なことだってことだよ!」
「まさにそう。それが問題よ」
みんなが興奮しているなか、ゆりだけは冷静だった。
「で?どっちなんだよ?」
「それは最初の天使だよ。一緒に釣りをした」
「だが、俺達を襲った意識は全て好戦的で冷酷だった」
「数で言えば100体1くらいだぜ」
「それなら大丈夫じゃね?僕は60億と1人までなら相手が出来る。
その僕と互角に戦えるあいつが100対1くらい勝てないわけがないじゃん」
「アホ。相手は全員自分なんだぞ。勝てるわけねえだろ」
「今何故意識を失っているのか?
多分、その100だか60億だかの意識があいつの小さな頭の中でこう…ぐちゃぐちゃになって、酷いことになってるからじゃねえのか?」
日向が言いたいことを上手くまとめれてないようだが手振りをつけてなんとか意見を言う
「じゃあ目覚めるとしたら100の意識で目覚めることもあるの?」
「割合で考えれば元のままで目覚める可能性は約1%ってことね」
「どうする?」
「手は打ってあるわ。
竹山くんを天使エリアに送り込んだ。マニュアル翻訳の出来る仲間と共にね」
「TKと松下五段は?」
「保健室よ。2人の見張り」
まあ、100の意識の方で目覚めたらやばいからな。
「TKはあれで英語全然ダメだからな」
…じゃあいつもの喋ってるあれなんなんだよ
「データを全て消しログインパスワードを変え全ての能力を封じる…ということか。
だがそれも一時しのぎでしかない…わかっているのか?」
直井が組んでいた足をひらいてそう言う。
「わかってる…。いつか突破されてまたデータを打ち込まれる」
「ならばマシンごと破壊してしまえばいい」
「マシンはコンピューター室の備品としてかわりはいくらでもある。ソフトも同様」
「くっそ…」
野田が悔しそうに頭をかきむしる。
「ありゃあ?今日の皆さんは頭良さそうですよ?なにか悪いものでも食べましたか?」
「あとは天命を待つだけね。果たして神は誰に味方するのか…」
ユイを無視して窓から真っ暗な空を見てゆりは呟く。
神に反抗をするために作った戦線があとは神頼みか…
「傑作だな…」
結局、天使は冷酷な意識で目覚めたと音無から報告を受けた。
その情報とほぼ同時に全校集会として体育館に集められた。内容は天使がテストに工作されたことを自分で証明して、生徒会長に復帰するというものだった。
出夢をはじめとしたテストに細工したメンバーは現在反省文を書かされてる。
「やっぱり、神は俺達には味方しなかったか。…かはは。ま、そりゃそうだわな」
廊下を歩きながら呟く。
「…でも、妙な感じだぜ」
考えると少しおかしいところがあった。冷酷な天使として目覚めたのに、授業を受けてない音無は無傷だったり、TKと五段もやられてない。
「まあ考え過ぎだわな」
そもそも人の心なんて俺にはわかんねえしな。
…あ、でもあいつ天使なんだっけか。いや、どっちでも変わんねえか。俺には分からない。分かるのはそれだけだ。