「はぁっ、はぁっ、ったく、強えーなぁ!くそ!」
出夢が直井に催眠術をかけられ、戦い始めてすでに2時間を越えている。グラウンドの方からは銃声や悲鳴が響いている。
(別に殺されても死なねえけどよ、こんな状態の出夢にやられんのはぜってぇお断りだ。あいつが責任感じる所なんて見たくねぇ)
人識は生前、そしてこの世界に来てからを合わせてもここまで出夢と互角に戦った事はなかった。特にこの世界に来てからは殺しても死なないためか、何度も殺されている。かなりの短時間で。
しかし、今はすでに2時間を越えてなお、死闘を演じている。それは、出夢という、友人であり、好きな相手であり、そして、家族のような存在である、出夢のためだった。
振り返れば、この世界での人識の行動のモチベーションは、出夢が悲しまないためなど、そのほとんどが、出夢に関係している。
零崎一族とは、家族を守ることをモチベーションに強くなる殺人鬼一族。
人識は今、ナイフを牽制に使い、あくまでも打撃で出夢に攻撃をしている。人識は出夢を殺す事はしたくないのだ。
「出夢!いい加減目ぇ覚ましやがれ!」
人識は出夢に足払いをかけ、出夢の上に馬乗りする。所謂マウントポジションだ。
「敵、人識は敵なんだ…。狐さんが言ってた…」
出夢はどうやら、人識と決別するきっかけとなった狐さん、もとい西東天の言葉が頭をめぐっているようだ。
(狐さん…?人間失格のやろうの敵とか名乗ってたあいつか?)
「出夢!俺は敵じゃねえよ!」
「敵だ…。お前は僕を大嫌いだって言った…。僕の事をバカにしてるって、狐さんも…」
「アホか!あん時も言っただろうが!殺して解して揃えて並べて晒して刻んで炒めて千切って潰して引き伸ばして刺して抉って剥がして断じて刳り貫いて壊して歪めて縊って曲げて転がして沈めて縛って犯して喰らって辱めてやるって、俺に出来ることならなんてまもしてやるって、そんで愛してもやるって!」
人識は怒鳴る。腹の底から、心の底から。
すると、出夢の目からうっすらと涙が浮かんでくる。
「人、識ぃ…」
「俺が、お前を大嫌いになるわけねぇだろうが。俺は、昔も、今も、これからだってお前のことが大好きだぜ。だからよ、そんな狐野郎の言葉なんか無視しろよ」
人識が言い終わると、コクン、と首を縦に振って、眠ってしまった。
「はあ~、疲れたぜ、ちくしょー。まっ、なんかスッキリしたけどな。さあ、グラウンドの方に行くか」
人識は出夢を担いで教室からグラウンドに向かう。
…グラウンドに着くと、戦線メンバーは血まみれで倒れ、死んでいた。いや、まあいい、それはいいとしてだ。
「音無、お前マジもんのホモだったのか?」
そう、音無が直井を抱きしめているのだ。そして直井も涙を流している。
「ひ、人識?!違う、誤解だ!これは直井の生前がだな…」などと言い訳をしている。
ー天使対策本部-
直井の騒動の翌日、なんと直井が戦線に加わった。音無の側に居たいらしい。
「ということだ、愚民ども。あ、もちろん音無さんはメシアですが!」
おいおい、マジ?
「ったく、つくづく傑作だ…」