-球技大会当日-
「おーおー、みんな順調に勝ち上がってるな~♪」
日向がトーナメント表を見て嬉しそうに言った。
「ぎゃはは!僕たちの出番はまだなのかよ?」
「そーだな、そろそろ行きますか!」
出夢のもう我慢できないという雰囲気を感じたのか日向が気楽そうに歩き始める
「つーわけで、この先は俺達に勝ったほうが上がるって事で」
「またか…、どんどん参加者が増えていく」
日向が事情を説明すると、審判をしているNPCがもううんざり、といった風に返してきた。
「いーじゃん!俺達もこの学校の生徒だぜ?!ほら、お前もなんか言えよ」
日向がユイに振る
「死ぬ気でかかってこいやごらぁぁぁ!!」
ユイがドスを利かした声で中指立てて挑発する。
「ドス利かせてどうすんだよ!」
「痛い、痛いです先輩~。ホームランが打てなくなります~」
「そんな期待はなからしてねぇよー!」
日向がキレてユイにプロレス技をかける。
「おい、お前らお約束してねぇでさっさとやろーぜ」
俺は呆れて日向にストップをかける
「はぁ、はぁ、そうだな。よし、皆集まれ」
日向の呼びかけに皆が円陣の形で集まる
「ここで負けたら罰ゲーム決定だ。初戦だけは死ぬ気で行こうぜ」
日向が発破のようなものをかける
「僕は全部勝つつもりだぜ~!ぎゃはは!」
「わかったからお前はしばらく黙ってろ、な」
「えー、キスして黙らせてくれよ?ぎゃは!」
「な、なに言ってんだてめぇ!?」
出夢の反則級の言葉で俺は赤面してしまう。
「零崎、匂宮、うるさい」
「「…はい」」
すると、岩沢がすごく怖い声で窘めてきた。黙るしかない。つか、マジ怖ぇ
「あー、じゃあ打順言うぞ~。一番、お前な」
「俺かよ?」
「俺は?!」
日向が音無を一番に指名すると野田が日向に怒鳴る
「まあ、待て。二番は俺、三番は椎名っち、そして四番が、お前だ。走者一掃しなきゃお前の負けだぜ?」
「ふっ、良いだろう」
日向、野田の扱い方うめえな
「んで、五番、人識な。んで出夢が六番」
「あ?出夢の方が力強えし、出夢が五番のがいいんじゃねーのか?」
「いや、野田がホームラン打ったらランナーなしになるからな。お前が出てから出夢のが点が多く入るはずだ」
「ふーん、なるほど…なのか?しかしお前、野球に詳しいんだな?」
俺は納得すると同時に疑問を覚えた
「ん、まあな」
日向はそれだけ答えた
「その後は、岩沢が七番、で、君が八番。…ユイは九番な」
「なんでじゃあ!」
「お前打てない臭がプンプンするからだよ」
「そんな~、先輩~」
ユイが半泣きで日向にしがみついている
「じゃあユイ、私と打順変わろう」
「え?いいんですか!?」
「いいよ、私どうせバット振んないし」
「やった!!」
ユイが飛び跳ねて喜んでる
「ったく、じゃあまあその打順で行くぞ」
一番の音無は初球を打ち返した…のだが、何故か野田がハルバードで打ち返し、2人で打ち合いをしていた。結果は当然アウトだ
「アホだ…」
こりゃユイに言われてもしゃーねえな
その後の日向、椎名は連続ヒットで出塁した。
野田はやる気なさげにバッターボックスに入る。すると相手のキャッチャーがイラついた表情をする
「いいのか?」
「なにが?」
キャッチャーの言葉に野田は睨みを利かせて答える
「来い!」
キャッチャーがピッチャーに指示する。ピッチャーが球を投げると、野田が片手、しかも逆手で持って打つ。…ホームランだ。バカ力だな。
五番、俺だ。
俺は…まあ無難にヒットだ。あんま力ねえからな。
出夢の打順。
「ぎゃはは!とっしー、僕が愛の力で返してやるぜぇ~!」
「うるせー!とっとと打て!」
恥ずかしいやつめ
ピッチャーの投げた球は星になった。…こいつの力は野田の比じゃねえな。
その後、ユイ、NPCと三振。スリーアウトチェンジだ。
「…で?なんで俺がピッチャー?」
音無がピッチャーに指名され、不満そうだ。ちなみに俺はサード、出夢はセンター。岩沢はライトだ
「野田がホームラン打ったんだ。お前は三振取らなきゃ負けだぜ~」
「俺達は一体何と戦ってんだ?」
音無がごもっともな事を呟き、球を投げる
すると野田が「そんなものかぁ!」と音無に全力で投げ返す
音無も「なんだと!」と言って野田に投げ返す。また2人でやってる。もちろんフォアボールだ
「だから2人でやってんじゃねえ!」
日向が2人につっこむ。
ようやくまともに投げて、二番からは三者凡退だった。
二回の攻撃。
日向は岩沢に何かボソボソと話し、バッターボックスに向かわせた。
「何言ったんだ?」
俺が聞くと
「んー?まあ楽しみにしてな」
日向がニヤリと笑いそう言う。
すると岩沢が相手のキャッチャーに何か言っている。耳を傾けると「ボールが当たってギター弾けなくなると嫌だから、出来るだけ遠くに投げてくれない?」と上目遣いで言っていた。…反則じゃね?これ
キャッチャーは当然岩沢を敬遠した。その後はまあ、さっきの回と同じ展開で点を重ねて、二回コールドで試合終了だった。
戦線メンバーのチームが順調に勝ち上がっていると、天使が生徒会と野球部の面々を引き連れてきた。
「生徒会副会長の直井です。我々は生徒会チームを結成しました。そしてあなた達を正当な手段で排除させていただきます」
と学ランに学生帽を被った青年。直井が俺達を指差してそう宣言してくる。
「メンバー全員野球部かよ…、いくらなんでも勝てるわけねえ」
日向がもう諦め気味にそう言う。まあ、気持ちはわかるが。
戦線メンバー達は次々と生徒会チームに敗れていった。俺達も勝ち上がっていき、決勝戦でぶつかることに。
「よお、ここまで来てやったぜ」
「……」
日向が挑発するも、天使は眉一つ動かさない。
「くそ、可愛くねえな~、挑発の一つもしてみろってんだ」
日向が少し荒れてる
俺達は今まで通りの展開で点を取るも、相手のレベルが今までと桁違いのため、得点と同じくらいに失点をしてしまう。
一進一退の攻防を続け、九回裏、ツーアウト二、三塁。
「タイム!なあ日向、抑えれる気しねぇよ、ピッチャー交代…日向?」
音無が耐えきれずにタイムを取り、日向に話しかけるが、どこか日向の様子がおかしい、どこか上の空だ。俺も気になり日向に駆け寄る。
「おい、どうしたんだ?日向」
「あ、ああ…。昔にも、こんな事あったなって…」
日向はやはり心ここにあらずという感じで答える
「どういうことだ?」
「俺、野球部でさ、三年の最後の夏の大会でさ、大事な試合でさ、暑くて、口ん中泥の味しかしなくて。九回裏、ツーアウト二、三塁。ここで打ち取れば勝ちで、簡単なセカンドフライが上がったんだ…。それを捕れたのか捕れなかったのか、それがわかんねぇんだ。…いや、捕れたなら忘れねえよな…きっと、捕れなかったんだ…。さぁ、守備につけよ、勝とうぜ」
日向は喋り終わり、位置に戻れと言われる。だが、これで最後まで語ったとは思えなかった。
「まだ続きあんだろ?」
俺が思ったままのことを言うと、日向は目を見開き驚く。
そして「まいったな…なんでわかんだよ?これなのか?」日向は苦笑してから、おどけたように口の横に手を添える。
「ちげぇよ。…ただ、なんとなくだ」
「そうか…。まあ、いいさ。ここまで言ったなら最後まで言うか。俺の人間のクズみたいな死に方を。俺は、その試合に負けた後、ロッカールームで動けずにいた。俺のせいで、俺のせいでって自分をせめて、皆にどういう顔して話せばいいかわかんなくて、動けなかった。俺のその様子を見て、チームメイトの1人が先輩に俺の事を相談したらしいんだ。その先輩は俺が1人で着替えてるとこに来て、白い粉を出してこう言ったよ。「辛いよな、きついよな。そんなお前に必要なのはこんな物じゃねえか?な、一回でいいから使ってみろよ。気持ち良くなれるぜ」って。そして、俺は一回使ったんだよ。そしたら、やめられなくてな、薬中になってた。そんな時に、街を歩いてると、薬が切れて、幻覚が見えて、俺は逃げ回ってた。…そしたら、トラックに引かれて。気づいたらここにいた。…どうだ?これが、俺の最期さ。…さあ、これでいいだろ?さっさと勝とうぜ。」
日向は語り終わると、決意したような表情で俺達に言葉をかける。
「日向…」
音無も日向と似た表情で渾身の一球を投げる。
バッターは音無の球をつまらせ、フライを上げた。飛んだ先は…セカンド。
(マジかよ…!)
「日向ぁ!」
俺と音無は日向に向かい走る。このフライを捕ったら、日向は消えてしまうだろう。
日向は岩沢がMysongを歌い、消えかけた時と同じような表情でフライを捕る体勢をとる。
そしてフライを捕ろうとしたその時
「隙だらけじゃあ!ボケェ!今までの恨みぃ!」
…ユイが日向にプロレス技をかけていた。
「いででで、てっめぇ今回だけは許せねえ!」
「痛いです!痛いですぅ!すみません、今度からは空気読みますからぁ!」
日向はこれ以上ないくらいに怒り、ユイにプロレス技をかける。
「ホームイン」
そんなことをしてる内に逆転され、俺達の負け。野田は悔しがってたけど、他の皆は笑っていた。…日向とユイ以外は。
後日、日向とユイがブリッジしてまま、放心状態になってたのはまた別の話。