「はあ、My songを作った時みたいなインスピレーションが降りてこない…。それもこれもあいつのせいだ…」
岩沢は天使エリア侵入作戦の日、歌っている途中に消えかかった。しかし、それを止めた人物がいた。零崎人識だ。彼はいつも予想外の行動をしている。その大半は出夢のためだが…。
そして、その作戦の次の日、ゆりから「バラードもなかなか良いわね」とサムズアップ付きで言われた。そしてそして、只今作曲に勤しんでいるのだが…どうにも身に入らない。なんとかMy songに匹敵するほどの曲を、と考えていると人識の顔が浮かぶ。消えかけていたところを救われた時に言われた一言に不覚にもいい男じゃないか、と思ってしまった。それからというもの人識と出くわすと小走りで逃げ、目が合いそうになるとつい逸らしてしまう。などなどの行動をしてしまう。そして、岩沢にはその理由がどうにも理解出来なかった。本人からしたら悩みの種だが、端から見たら、ああ、惚れたな…、と一目で分かるほど露骨だ。
「むぅ、どうしたら…このままじゃあ曲が作れない…。」考えて考え抜いた。これまでの人生で音楽の事以外でここまで考えたのは初めてというほどだ。そして、考えた末…
「というわけなんだ、ひさ子。」やってることが出夢と一緒だった。
「あんた、そろそろ音楽以外のことに目ぇ向けなよ…」ひさ子は自分を頼ってきた岩沢に呆れてしまっている。
「どうにもあいつには調子を狂わされる。天使エリア侵入作戦の前の練習の時もそうだ」あの時、人識の言葉に心を乱されてしまったりしている。
「ふーん、そう。で?あたしにどーしろと?」ひさ子は既にやる気なし。当然だ。本来、相談に来るまでもなく済んでるはずの案件だ。
「この不審な行動をしてしまう理由はなんだ?ってことだよ」
「あんたね…、ほんと音楽以外の事になるとからっきしだね」
やれやれ、と一息つき考える。(どうするべきか…。本当の事を言うのは簡単だけどなあ。正直、こういう岩沢を見とくのは楽しいしな)
「そうだね…あたしはそんな経験はないからねぇ。とりあえず一回、零崎と話してみなよ」心の中でにしし、と笑いながらアドバイスするひさ子。
「それが出来ないから来てるんだ」岩沢はすこしむくれて言う。こういう表情はレアだ。
「じゃあ、歌いな。あんたにはそれしかできないんだろう?」ひさ子はキメ顔でそう言った。
「そうだ、そうだよな!私にはそれしかできないんだから!」
「そうだ岩沢!行ってこい!」
「ああ、サンキューひさ子!」岩沢はひさ子の下から旅立った。
「と言っても、あいつは一体どこにいるんだ?」勢いよく出て行ったが、零崎人識は昔から放浪癖がある。それを探すのはなかなか困難だ。
「ったく、とりあえず食堂に行くか…」
食堂を見回すと人識はいた。出夢と一緒にご飯を食べている。
それを見た岩沢はズキン、と心臓が痛む感覚を覚えた。そして、言い表せられない苛立ちと。
(…なんでだ?あいつらならいつも一緒にいるじゃないか。なのになんでこんな…)岩沢は思考を巡らせた。そして、ひさ子の言葉を思い出す。歌え、という言葉を。
(この痛みをどうにか使って歌を作る!)…結局そこに行き着く岩沢だった。
「…できない!」…ダメだった。そもそもまだ彼女は自分が恋していることに気づいていないので現状を歌えなかった。
「くそ!使えないなぁ、零崎のやつ!」
「俺がどうかしたのか?」
「ひゃうっ!」独り言を言っていた(それもかなり失礼な)時に急に現れた人識に驚き、変な声を出してしまった岩沢だった。
「おいおい、大丈夫かよ?」一応心配する人識。
「な、なんでもなぃ…」つい口調が尻すぼみになる岩沢。
「おい、顔赤いぞ?熱か?」
(私、顔赤くなってるのか?なんで?)ここまできて気づかない岩沢。
「違う。…夕日のせいだ」
「まだ夕日は出てねぇっつの」
「そんなことどうだっていい!」岩沢は今までの会話をすべてひっくり返すような事を言い出す。
(くそ、なんでこいつと目を合わせられない…?)
「なんだよ、お前まだ歌ってるよの邪魔されたこと怒っているのか?」
(…ん?そうか、そうだったのか!それがこいつと目を合わせられない理由か!)人識の言葉に勝手にそう思い込んでしまう。
「まあ、そういうことだ。でも今日までにしといてやるよ。…じゃあな!」岩沢は言い逃げみたいなことをしてその場を離れた。
「そうかそうか、でもこれで万事解決。さぁ曲作るぞ~♪」岩沢は解決?したということで曲を作り始める。
「…なぜだ!?できない!」やっぱりダメだった。