ーB17ー
ここまで進むとトラップはなくなってきていた。
「残ったのはあたしとあなた達だけね…」ゆりが呟く
残ったのは、俺、ゆり、出夢それに音無だ
「そうみたいだな」と音無が返すと、ゆりが壁を叩いた。
「本当の軍隊なら全滅じゃない…!みんなを犠牲にして…、ひどいリーダーね」と珍しく落ち込んだ声音で言うゆり
死なないとはいえ、やはり仲間を犠牲にしたのは気にしているようだ
「しょうがねーよ。対天使用のトラップなんだからこのくらいじゃないと」と音無が慰めようとする。
「おいゆり、ちょっと休もうぜ、あそこで」と出夢が珍しく、ほんとーに珍しく気を使った発言をした。
「そうね…、そうしましょう。服も乾かしたいし」と出夢が指さした方に向かいながら言う
そこは数人が休むには十分なスペースになっている
「よくあんな個性的な奴らの指揮をとれるな。なんであんたがリーダーなんだ?」と音無が訪ねる。
「最初に刃向かったから…、それだけの理由よ…」ゆりがつまらなそうに言う。
「天使にか?」音無は大体聞かなくてもわかるだろうが一応聞いた
「そう」とゆりは短く答える
(そんな理由でリーダーだったのか…、俺はてっきり他がアホばっかだからだと)と失礼な事を考えている俺
「…弟妹がいたのよ」ゆりが突然語り始める
「え…?」音無は少し驚いた風に聞き返す
「音無くんにない記憶の話よ」そしてゆりは自分の生前を語る。
「私が長女でね、妹が2人、弟が1人いたわ。私の両親は仕事が上手くいっていて家は裕福だったわ。」と自分の家の事情を前置きとして話す。
「夏休みのことよ。両親が出掛けてる午後に見知らぬ男達が家に入ってきたの」ここから本題のようだ。
「私はお姉ちゃんとしてあの子たちを守らなきゃって思った。…でも、かないっこないじゃない、ねぇ?」と語りかけてくる。誰も返事はしない。
「そいつらは私に「ここで一番高い物をもってきな。そうしたらこの子たちは助けてあげるよ。でも、見つけられなかったら10分ごとに1人ずつ殺してくね」って言ってきたわ。私は探した。家にある壺とか目に付く高価なものを渡した。でもあいつらは「残念はずれ~」って言って、私を走らせ続けた。10分経って、まず上の妹を殺されたわ。他の2人は怖がってた。当たり前よね。…そして、探し続けて、結局、警察が30分後に来たわ。…みんな死んだ後にね。生き残ったのは私だけ」ゆりの過去を聞き、俺たちは返す言葉が見当たらない。
「別にミジンコになったって構わないわ。私は、 本当に神がいるのなら、立ち向かいたいだけよ。 だって…理不尽すぎるじゃない…! 悪い事なんて何もしていないのに…。あの日まで は、立派なお姉ちゃんでいられた自信もあったの に……。 大事な者を30分で奪われた。そんな理不尽ってな いじゃない…!そんな人生なんて……許せない じゃない……!!」ゆりは悔しそうに、人生を呪ったように、そう言った。
「 …強いな。ゆりは」音無はゆりの話を聞き、そう言う。
「え…?」 突然の音無の一言を聞いて、ゆりは驚いている。
「俺の記憶がそんなのだったら、とっとと消えて しまいたくなるかもしれない。でも、ゆりは抗うんだな…」音無は心底感心した風に言う
「…そうよ」ゆりは答える
「なぁ、一つだけ聞いていいか?」音無は何か思いつき質問する
「何?」ゆりは返事をする
「ゆりは…どうして死んだんだ?」音無はゆりが話してなかったことについて聞く
「…馬鹿ね。自殺なんかじゃないわよ!自殺した人間が抗うわけないじゃない!それにこの世界で自殺した人間はいないわ」ゆりは少し怒ったように言う。元気が戻ったようだ
「さあ、行きましょう。あなた達はあたしが守る 」ゆりは決意したように言い、立ち上がる。
奥に進むと、鉄で出来た四角の蓋があった。この下にギルドがあるらしい。
「せーの…」それを俺と音無で開ける。すると梯子があった。
「この梯子を使って降りるの。絶対手と足を滑らしちゃダメよ。死ぬから。じゃあ私が先に行くからついてきてね」とゆりが先に降りていく。そして、音無、俺、出夢の順で降りる。
梯子を降りると、そこにはとてつもないでかさの工場があった。そこで職人のような奴らが武器を作っている。
おお~、と出夢が喜んでいる。
「お前、ハシャいでここ壊すんじゃねえぞ」と釘をさしておく。わかってるわかってる、と出夢は返事するがどこまで本気なのか…。
「おお!ゆりっぺだ!」
「無事だったんだ!」
などと職人たちが駆け寄ってくる。
「ここで武器を作ってるのか」と音無が話しかけてくる
「みたいだな。」と俺も返す
ゆりと職人たちが話しているのを見ていると、上から突然爆発音が聞こえた。天井越しに衝撃が伝わってくる。
「また引っかかった!」職人の1人が言う。どうやら天使がトラップにかかった音のようだ。
「どうする、ゆりっぺ?」職人が聞くと
「ここは破棄するわ!」とゆりが宣言する
「しょ、正気かゆりっぺ?!」と職人は驚きを隠しきれない様子だ
「大切なのは場所や道具じゃない、記憶よ。あなたたちそれを忘れたの?!」とゆりが叱責する。
「い、いや…」職人たちはたじろぐ
「どういうことだよ、ゆり」と音無がたずねる
この世界では命ある物は生まれない。けど、形 だけの物は生み出せる。それを合成する仕組みと作り出す方法さえ知って いれば、本来何も必要ないのよ。土塊からだって作れるや。」とゆりが言う。俺のナイフもそんな風に作られたのか。
「だが、いつからか効率優先となり、こんな工場でレプリカばかりを作る仕事に慣れきってしまった」と、突然現れた白髪でボサボサの髪型をし、ゴーグルをしたおっさんのような奴が言う
「チャーさん…」職人たちは、チャーを見て言う
「本来あたし達は形だけの物に記憶で命を吹き込んできたはずなのにね」ゆりが懐かしげに言う
「なら、オールドギルドへ向かおう。長く捨て置 いた場所だ。 あそこには何もないが…ただ、土塊だけなら山ほ どある。あそこからなら地上へも、戻れる」チャーが提案する。
「ここは?」職人たちが聞く
「爆破だ」チャーが答える
「ええぇ!?」職人たちは驚きの声をあげる
「持っていくべきものは記憶と、職人としてのプ ライド、それだけだ。違うか、お前ら!」チャーが問う
「はい!」職人たちはチャーの問いに答える
「よーし!爆薬を仕掛けるぞ!チームワークみせろ!」チャーが激を飛ばす
「おおぉぉ!」職人たちも激に答えるように作業にはいる
「さぁ、私たちは天使の足止めに行くわよ」ゆりが俺たちに言う
「ぎゃははは!待ってたぜぇ!」出夢が一際高いテンションで返事する。
「じゃあ行くわよ!」ゆりの言葉を聞き俺達は梯子を登る。