こちら調査兵団索敵班   作:Mamama

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一か月も放置してすみません。色々実家がごたついていたものですから。

今回はイアンさんとリコさんマジかっけえ、という感想からできた小話。
次こそはリクエストされたものを書きますから。


閑話二

 駐屯兵団の主な役割とは巨人が発生したときの防衛戦だ。3年前、超大型巨人によってウォール・マリアが破られた際にも駐在兵士によって多くの住民の命が救われた。調査兵団とは違い、住民の目に見える範囲で職務に当たっているため、近隣住民からの評判はそう悪いものではない。また三つの兵団の中では最大規模の軍勢を誇るというのも特徴だ。

 

そんな駐屯兵団だが、壁上から巨人達の動向を探る彼らには通常の防衛任務とは違うレベルの緊張感に包まれていた。理由は簡単で、現在調査兵団が壁外遠征を行っているからだ。遊撃として最も高い錬度を誇る調査兵団は人類の主戦力、それを欠いての不安だった。特にそれは兵士達の間で『小鹿』と揶揄されるキッツ・ヴェールマンは顕著で、極度の緊張でひきつけを起こしたかのようにびくんびくん痙攣する姿が度々目撃された。

 

3年前に超大型巨人に壁を破られてもなお気楽でいられる脳内ファンタジー兵士はさすがにいない。巨人の恐ろしさを目の当たりにした彼らがいつも以上の緊張感を持つのは仕方のないことだ。

 

いつ超大型巨人に強襲されるか分からない恐怖と戦いながら緊張感を保つ。そんな彼らの精神的な戦いが終わったのは調査兵団が遠征に繰り出してから何度目かの太陽が昇ろうとした時だった。

 

遠方に調査兵団の一団を確認した駐屯兵団の間に僅かに弛緩した空気が流れる。それはウォール・ローゼ南端の突出区画トロスト区を警備していたリコ班、ミタビ班、イアン班も同様だった。

 

「調査兵団が帰ってきたか・・・」

 

「ああ、遠征中に巨人が湧いてくることもなかったな」

 

「二人共、まだ任務が終了したわけではないぞ、気を抜くな」

 

 

 イアン、ミタビの会話にリコが注意を促す。とはいっても険のある声ではなく、リコも緊張を解いているのだろう。注意したのも形式的な側面が強い。

 

「私はそろそろ隊長を起こしてくる。他の班員は持ち場を離れるな」

 

 言いつつ、リコが立体機動装置を使って持ち場を離れていく。リコの命令を聞いたリコ班の面々は師事に従い、定位置で警戒にあたる。

 

「キッツ隊長、また失神したのか」

 

「ものすごく今更なんだが、あの人が隊長やっていて大丈夫なのか?正直なところイアン、お前の方が適任なような気がするんだが」

 

「あの人はあの人で指揮官としては優秀なんだがな。確かに少々柔軟性に欠ける部分があるが、俺達は防衛戦がメインだ。打って出るよりも現状維持の方が望ましいだろう」

 

 無駄話に花を咲かせていると、後方から悲鳴じみた金切り声が聞こえた。二人の上司である、キッツ・ヴェールマンのものだ。

 

「・・・なんだ今の声」

 

「リコがキッツ隊長に冷や水ぶっかけたか、右ストレート喰らわした音だな。もしくはシャイニングウィザード」

 

「・・・一応、上司なんだが」

 

 過激すぎる女傑の行動にイアンは冷や汗が止まらなかった。

 

「そうでもしなけりゃ起きないんだからしょうがないだろ。リコの奴もストレスが溜まってるからな」

 

 自分の上司をストレス解消の捌け口にされていると堂々と明言された。現在進行形でサンドバックにされている上司に内心で祈りを捧げておく。それでどうにかなるような問題でもないが。

 

「しかし、リコにストレスが溜まっているのか?俺はそんな風には感じなかったが」

 

「そりゃあ、お前にはそんなそぶりは見せないだろう。というかお前本当に気づいてないのか」

 

「どういう意味だ?」

 

 イアンの疑問にミタビは頭を掻き毟りながら、言葉を選ぶように言う。

 

「最近リコが、そのなんというか、挙動不審だったりしたことはなかったか?」

 

「リコが挙動不審?そうだな、そういえば――――」

 

 腕を組んで思い出す。そういえば、あの時のリコは様子がおかしかったな、と。

 

 

 

 

 

 

 

駐屯兵団の班長室。そこでリコはコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいた。新聞や文庫本を読んでいる姿はよく見ていたが、雑誌を読んでいるのは初めて見た。しかも何故か若干締まりのない、だらしない顔をしている。例えて言うなら、自分の世界に浸っているとか、妄想しているようなそんな顔だった。偶然通りかかったイアンはそれに物珍しく思い、声をかけたのだ。

 

『珍しいな、リコ。なんの雑誌を読んでいるんだ?』

 

『い、イアン?あ、いやこれは・・・』

 

 普段の冷静さはどこにいったのか、しどろもどろだった。両腕で隠すように持っていた雑誌を隙を見て抜き取る。リコが冷静さを欠いた状態だからこそできる芸当である。

 

『ちょっ!や、やめてよ・・・!』

 

『見られて困るようなものでもないだろう。それで、なんの雑誌だ?』

 

 なんとか取り返そうとするが、いかんせん体格が違いすぎる。リコが必死にジャンプしても雑誌には手が届かない。観念したリコは恥ずかしげに頬を染め、視線を反らしながら言う。

 

『・・・・・・ゼ、ゼクシィ』

 

 ウェディングドレスの女性が表紙のブライダル雑誌だった。

 

『なんだリコ、結婚するのか。知らせてくれれば祝うのに』

 

『け、結婚するわけじゃない!ただ、なんというか、そういうのに興味があるだけだから・・・』

 

 言葉がどんどん尻すぼみになっていく。視線を背け、言い訳のように言葉を重ねるその姿は親に怒られた子供のようだった。

 

『あー、すまない。なんといか、こちらが無神経だった』

 

 謝罪をしながら、雑誌を返す。リコはそれを宝物のように両腕で抱きかかえる。

 

『別にいい。けど、一つだけ聞きたい』

 

『ん、なんだ?』

 

『もしもの仮定だ。もしも私が結婚するというなら、その、なんだ。う、嬉しい、か?それとも寂しいか?』

 

『?何を言っているんだリコ。それはもちろん――――』

 

 言葉を切り、リコの顔を見据える。

 

『嬉しいに決まっているだろう。友人だからな』

 

 ぶち、と切れてはいけないものが切れてしまう嫌な音が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、どうなったんだ?」

 

 イアンの話しを聞いていたミタビが顔面をヒクつかせながら聞く。

 

「どう、と言われてもな。機嫌が急に悪くなったな。あとその日以降からリコの机にゼクシィが常備されるようになった」

 

「・・・奥手にもほどがあるだろ、あとそのアプローチの仕方はどう考えても間違ってるって・・・」

 

 ぼそりといったミタビの言葉はイアンの耳には届かなかった。

 

「最近はゼクシィの他にたまごクラブとひよこクラブも混ざるようになったな」

 

「そ、それはなんとも・・・」

 

 あまりの飛躍っぷりに言葉が見つからない。ミタビは自分の顔面が引きつっているのが分かった。

 

「他になにかないのか?」

 

「ああ、そういえばリコに『付き合ってくれないか?』と言われたことはあったな」

 

 イアンのカミングアウトにミタビのみならず、二人の会話を盗み聞きしていた他の班員全員が盛大に吹いた。

 

「そ、それで、お前はなんて答えたんだ?」

 

「リコには普段から世話になっているからな、『買い物ぐらいならいつでも付き合う』と言った」

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

「ミタビ班、集合」

 

「「「了解」」」

 

 ミタビの呼びかけに班員が一斉に集結する。それは尋常ではない速度だった。何故か班員達と肩を組みスクラムを形成したミタビ班をぽかんとした顔でイアンが見ていた。

 

「おいおいどうすんだよ、リコまたブチ切れるぞ」「もう早くくっつけよ」「リコたんprpr」「もげてしまえ鈍感野郎」「いっそ俺がイアンさんを掘るというのはどうでしょう」「いや、自分がイアンさんと穴兄弟の誓いを」「リコさん、俺を罵ってください・・・!」「まあ、あれですよ兎にも角にも最初にやることは決まってますよね」「ああ、そうだな」「やれ、班長である俺が許可する」

 

 会議というか男のみっともない部分をさらけ出した話し合いが終わる。スクラムで篭った声はイアンまで届かなったのか、状況がつかめていないような表情をしている。

 

「知っているかイアン、『リア充爆発しろ』という言葉を―――」

 

 ミタビの怨念の篭った声にイアンは思わず背筋が震えた。彼女いない歴=年齢のミタビにとってイアンの所業は看過することができなかったらしい。凄まじい笑みを浮かべながらミタビ班がイアンの周囲を包囲する。イアン班とリコ班は関わりを持ちたくないのか、見て見ぬ振りを決め込むらしい。

 

リコが定位置に戻ってきた時に見たのはイアンが固定砲台の砲弾代わりに砲身に詰めかけられており、さすがにまずいと感じたイアン班とリコ班が必至になって止めようとしている光景だった。そんな彼らを怒鳴りつけながらも、リコの口はほんの少し弧を描いていた。こんな馬鹿騒ぎができる幸せを味わいながら。

 

願わくば、もう少しだけ陽だまりのようなこの時間を――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵士とは結局のところ消耗品の使い捨てだ。もし死んでしまっても補充されるだけで、名も無き兵士がいなくなってしまっても、それだけで世界が終わってしまうわけではない。なにも変わらず、世界は回っている。

けれども、命を投げうってまで得た功績そのものが消えることはない。

人類が初めて巨人に勝った。その日、その功績を決して忘れることはないだろう。誰かが欠けていては成功しない作戦だった。誰もが人類の糧となった。今日この場で戦っていた誰もが、世界を救った勇者だった。

 

「――――皆・・・死んだ甲斐があったな・・・」

 

 嬉しいという気持ちは確かにある。初めて人類が巨人に勝ったこの瞬間に立ち会えたことに誇りを感じてだっている。それでも死を悼み、悲しいと思うのは、彼らの死を侮辱しているということなのだろうか。

 

 




イアンさんは鈍感系主人公。
進撃中学校ではイアンさんとリコさんがフォークダンスでぺア組んでましたし、原作でも恋仲に発展することは十分あり得たんじゃないかなと思います。

しゃべり方がおかしい、という部分が一部あるかもしれませんが、自分の中では普段はああいうしゃべり方じゃないのかな、と妄想しながら書きなぐっている弊害です。ご容赦ください。

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