こちら調査兵団索敵班   作:Mamama

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三話、四話とシリアスが続きます。
巨人に関して原作でも明かされていない部分が多くあり、もしかしたら独自設定的な要素があるかもしれません、ご注意を。


三話

「―――――口頭伝令だ!!ロレンス!うちの援護班だけじゃ数が足りん!機動力を重視の援護班を引っ張ってこい!中央・指揮にも連絡!他の奴らは密集体形をとって風の抵抗を少しでも減らせ!あのモヒカン共を振り切るぞ!」

 

 エルドは声を張り上げ素早く命令する。緊急事態だが焦りを見せず、ベテランに相応しい姿だった。

 

「「「了解!」」」

 

 班で随一の駿馬を駆る伝令係のロレンスが一人隊から単騎駆けするのを見送り、400メートル程に迫った3体の巨人を見据え、副官であるエルジンに問う。

 

「・・・エルジン。あのモヒカン共、振り切れそうか」

 

「難しい、と言わざるを得ないでしょう。振り切れたとしても他の班が標的にされてしまったら終わりです」

 

 伝達班、特に初列はどうしても他と比べて巨人と遭遇する確率が高い。追ってくる巨人を避けるため、また他の部隊に口頭伝令を行う場合もあるため、他の班と比べて駿馬が多い。最も機動力のある伝達班ですらじりじり距離を詰められてきているのだ。他の班と接触したら目も当てられない状況になる。

巨人にも体力があり、体力を使い果たすと動きは著しく鈍る。

なのでこういった状況であれば馬の体力を無視しトップスピードに乗り、巨人の体力が尽きたところで速力を緩め、馬の体力回復に努めるというのが定石だが、未だ猛スピードで追ってくる巨人を見ると今回に関しては期待できそうにない。なんつう体力馬鹿共だ、とエルドは悪態ついた。

 

「打って出る・・・ではいくらなんでも無理だな、この人数では」

 

「そうですね、現実的ではありません」

 

 距離はおよそ300メートル、こうなると巨人の様子もはっきり確認できる。3体とも15メートル級巨人だ。立体機動が生かせない平野部で巨人3体を相手取るなどただの自殺行為。立体機動が最大限に生かせる市街戦でもかなり困難を極めるだろう。打ち上げた信煙弾を見て、初列六・伝達の援護班はすぐに駆けつけてくるだろうが、頭数が足りなさすぎる。戦場で生き残るコツは自分と相手の戦力差を精確に測ることだ。その点でいえばエルドは優秀だった。ここで突っ込むのは無謀なだけだとわかっていた。しかし―――

 

「ま、援護班が間に合わないか、追いつかれたらそれでもやるしかないんだがな」

 

 ポツリと呟くようにエルドは言う。例え敗北が必至だとしても、調査兵団として果たさなければならない責務がある。だができるならそんな事態は勘弁して欲しかった。

 

「これは時間との勝負だな・・・」

 

 伝令係のロレンスを思い出す。馬術に関してはずば抜けて優秀な頼りになる部下を。

今はその部下を信じようとエルドは思う。

信じることしか、できなかった。

 

 

 

 

 初列五・伝達。そこには何故か初列四・伝達の援護班であるアジド班の姿があった。

5メートル級奇行種の発見が遅れ、半壊しかけていた初列五・伝達の援護に向かっていたためである。立体機動が使えそうな民家跡を発見し、何とか奇行種を撃破。今はズレてしまった走路の軌道修正中である。奇行種討伐が終了した時点で速やかに初列四・伝達の定位置に戻ろうとしたが、後方、おそらく初列六・伝達から黒の信煙弾が上がるのを見て、念のため初列五・伝達に留まっていた。嫌な予感をひしひしと感じていたアジドだが、その予想は見事的中することになる。

 

「口頭伝令です!初列六・伝達が3体の巨人の襲撃を受けています!援護をお願いします!」

 

 憔悴したような伝令係の様子を見てついてねえ、とため息を一つ。初列五・伝達の援護班はほぼ全滅している。緊急事態で最寄の部隊に援護の要請を出したのだ。アジド班が出張るしかない。

 

「本当、ついてねえなあ。・・・お前らぁ!また仕事だ!覚悟はいいか!?」

 

「度重なる困難、避けられぬ戦い。それは闇の世界から堕ちた俺の因果であり俺の罪だ。暗黒龍を身に宿した時点でまともな人生を歩めないことなど既に分かっている・・・。ぐっ!落ち着け、神剣バルムンク!またお前に血を吸わせてやるからな・・・!」

 

「ク、クヒヒ!クヒヒヒヒヒヒヒ!また殺せる?また殺せるの?またころ、殺ころころ殺ころころ殺殺殺・・・!」

 

「あ~♪儚き~我が人生~♪いつしか~夢は~♪さめるもの~だから~♪」

 

「――――――聞くまでもなかったなぁ!!気合入れていくぞ手前等ぁ!」

 

 頼りになるが同時によく頭を痛めさせる戦友達に激を飛ばす。戦い前の悲壮さはそこにはなかった。

 

 

 

 

「エルド班長!増援部隊、三班が到着しました!」

 

「よし!間にあったか!」

 

 残り距離はおよそ150メートル、何とか首の皮一枚繋がった。だが繋がったのはあくまで首の皮一枚だけで、決して楽観視できるものではない。むしろここからが正念場である。

 

「増援の援護班は班ごとに分かれて巨人の注意を引いてくれ!奴らを分裂させる!エルド班はそのまま直進!」

 

「「「了解!」」」

 

 三つの班が三方向から巨人に接敵する。まずは3体の巨人を分裂させようとするが―――

 

「駄目です!増援部隊のは目もくれません!直進してきます!」

 

「一目もくれないだと!?クソ!分かってはいたがやっぱり奇行種か!腱は削げないか!?」

 

「速度が速すぎてタイミングが掴めません!できたとしても一度に3体は不可能です!」

 

「やっぱり無理か。・・・援護班は一度集合してくれ!」

 

 残り距離は100メートル。巨人の速度は徐々に落ちているが、それはこちらの馬も同じだ。

最悪だ。最悪だが、最悪程度で絶望する程度の者などに初列・伝達など務まらない。ここにいる者は既に心臓を捧げた猛者達。絶望程度では、絶望足りえない。

 

「―――――――打って出るぞ」

 

 静かにエルドはそう言った。 放置すれば被害が出る。ここで振り切ったとしても後続の部隊に被害が出る。なにをどうしても被害が出る。ならば調査兵団に所属する者として為す事はなんなのか。

決まっている、あの巨人を殺すことだ。勝率は低い。だが分の悪い賭け、博打などいつものことだ。

 

「200メートル先に民家跡があるな。セプティス、グラディナ、お前ら索敵班は馬を率いて先に行っとけ。指揮はエルジン、お前だ。言いだしっぺの俺が先陣きらないとな。あと増援部隊の奴らはこんな事に付き合わせてしまってすまない」

 

「なぁに、今度酒の一杯でも奢ってくれりゃぁ十分でさぁ!」

 

 ケラケラ笑いながら言うのはアジド。エルドに非難の声をあげるものは誰もいなかった。怯えた表情をした者は誰もいなかった。皆、戦士の顔をしていた。そんな兵達の様子を見てエルドは僅かに笑った。

 

「・・・ああ、そうだな!今日生き残ったらこの場にいる全員に酒奢ってやる!」

 

 一転、顔を引き締め指示を飛ばす。

 

「立体機動装置を起動させろ!」

 

 ワイヤが射出され、エルドを含めた援護班総勢20名は民家の屋根に飛び移る。

 

「総員、戦闘準備!まずは目と腱を狙って動きを止めるぞ!俺の班はサポート、他の班は背後から強襲だ!あのモヒカン共の毛根を死滅させてピクシス指令のお仲間を増やしてやれ!」

 

 軽口を叩きながら、二対の柄を握り構える。巨人達との距離は50メートルほどに縮まっていた。

 

「――――――迎撃するぞ!!」

 

「「「応!!」」」

 

 

 

 

 

 

 アジド・ダハカという人間は訓練兵時代を経験した、いわゆる正規兵ではない。元々は単なる農業生産者だった。アジドの人生の転機は二年前の領土奪還作戦で徴兵されたことまで遡る。要するに人身御供にされたわけだから彼の内心は最悪の一言に尽きた。しかもアジドの部隊を率いるというのが自分より一回りは歳が違いそうなナディア・ハーヴェイという女だ。

装備は中古、ガスの補給は難しく、錬度は調査兵団とは比べものにならないほど低く、ついでに士気も低い。とどめにその出陣前から崩壊しかけている部隊を率いるのは経験の浅そうな指揮官。

――――――あ、これは死んだわ。

アジドがそう思うのは無理はない。なにしろ部隊の指揮官であるナディアですら同じことを思っていたのだから。いくら経験を積んだといっても元は単なる生産者である。実戦でいきなり戦えるのなら苦労などない。巨人に会う機会などこれまで一度もなかったアジド達一般人で9割構成された部隊は初めて巨人に遭遇した時点でパニックに陥り、あっという間に5割の兵が巨人が腹に収まることになった。

巨人が人間を貪り食らうそこは「世界」というものを端的に、そして正確に表していた。

弱肉強食、弱いものは強者に淘汰されて死ぬ。

幾度となく巨人と遭遇し、時には逃げ、時には戦い、多くの命が失われた。

そこには暗い暗い絶望しかなく、殆どの者が生きる希望など無くしてしまっていた。たった一人ナディア・ハーヴェイを除いて。

アジドは奇跡的に生還を果たし、そのまま調査兵団に入団した。

 

アジドにとってナディアはそれほどまでに鮮烈な存在だった。領土奪還作戦に参加して良かったと思えるほどに、希望を捨てないナディアの姿に心を奪われたのだ。それは恋愛感情などではなく、尊敬の念だった。巨人に喰われて死ぬことはなぜか恐ろしくなかった。おそらく領土奪還作戦で死線を彷徨い続けてしまったせいで壊れてしまったのだろう。そんなものよりもナディアに向ける感情の方が圧倒的に上回っていた。

それは狂信などではなく、唯の一途な想いであり。彼女に救ってもらった命は彼女のために捧げると誓った。

 

 

 

 

 

 

――――ふと、目が覚めた。

 

 状況から判断するに意識を失っていたのは一瞬の事なのだろうが、随分と長い夢を見ていた気がした。過去の軌跡をなぞるそれはそれは走馬灯のようで、事実それはおそらく走馬灯なのだろう。起き上がろうとすると失敗する。見ると、右腕の肘から先がなかった。噴水のように流れていく血は現実と乖離した出来の悪い夢のようだが、絶え間なく襲う激痛が現実だということを教えてくれる。片手では巨人を殺すことができない。だから左手で刃を抜き、その刃を右手の肘に直接押し込んだ。痛みは既に臨界点を突破、アドレナリンの異常分泌で痛みをあまり感じなくなっていることに感謝する。

立ち上がると、すぐ傍にモヒカンの巨人が蒸気を上げて消滅していた。血の流しすぎで体が冷える。震える身体を叱咤し、無理やり動かす。

戦いは、まだ続いているのだから。

 

気づくと巨人が眼前に迫っていた。立体機動のワイヤを数メートル先の地面に突き刺し、なんとか躱した。突進の隙をついて一人の戦友が巨人の足の腱を切り裂いた。けれどその巨人は意にも反さない様子で自分の足の腱を切り裂いた下手人を掴み上げる。骨が砕ける音がした。血を吹きだす様子を何故か他人事のように眺めている。戦友の意識は途絶えていなかった。

 

「・・・暗黒、の、氷の刃、全てを、飲み込め。エターナルフォースブリザード、相手は、死ぬ・・・」

 

 喰われる最後まで、己を貫く。その言葉の直後、頭が食い破られた。

戦わなければ死ぬ。戦わなくては死ぬ。戦友が食い殺される様子を見て、そんな当たり前の事を思い出した。ワイヤを巨人の後ろ首に射出。体が宙に浮き、そのGだけで意識が飛んでいきそうだった。うなじに迫る。刃を埋め込んだ右腕と左腕に力を籠め、巨人のうなじを無理やり削ぎ落した。

巨人が倒れた事によって体が投げ出される。態勢を整えるほどの体力もなく、そのまま地面に叩きつけられた。意識が混濁する中、何かに持ち上げられた。それがなんであるかなど今更問うまでもない。

巨人の顔が迫る。顎が開かれ、口の中に運ばれても恐ろしくはなかった。けれども、と思う。

せめて最後にもう一度だけ会いたかったな、と。

 

―――――姉御、俺は姉御の役に立てましたかねぇ・・・。

 

 直後、断頭台のギロチンのように落ちてきた歯に押しつぶされ、全ての感覚が消え失せた。

 

 




読者の方に質問なのですが、原作キャラの性格改変についてはどうお考えでしょうか。
原作である進撃の巨人では登場キャラがほいほい死んでいくので、しゃべり方や性格が掴みづらいことがあります。ですのである程度自分の脳内で「こいつは普段こういう性格なんじゃないかな」と想像して書いている部分があります。現状、扱いに困っているのはミケさんです。この人、すぐにお亡くなりになったものですので、かなり性格が掴みづらいです。自分の想像としては、
人の体臭を嗅いで鼻で笑う、巨人の接近を嗅覚で察知できる→嗅覚が非常に優れている→嗅覚が優れていてぱっと思いつき、ミケに合いそうな人物は?→ジミー大西
・・・どうしましょうかね、これ。

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