こちら調査兵団索敵班   作:Mamama

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※不意に思いついた閑話です。本編とは多分関係ありません
※筆者はモヒカンに対して特別な感情を持っていないことをここで明言しておきます
※読者の方にモヒカンスタイルの方がいましたら、今回の閑話で不快に感じるかもしれませんがその点はご了承ください
※原作何年前?という質問がありましたが、筆者の頭の中では原作2年前という設定になっています


閑話一

「―――しかし巨人の実験とはどういうものですか?」

 

巨人に変身できるという稀有な能力を持ったエレンが巨人の生態調査を担当しているハンジにそんな疑問を投げかけてしまったことが彼にとって最大の不幸だった。彼は今夜ジェットコースターが頂上に向け登っていくような恐怖を味わうことになる。

思えば気づくべきだったのだ。話を振ったときの周りのメンバーの反応を。無言で立ち去っていく先輩達の様子を。

 

「あぁ・・・やっぱり。聞きたそうな顔してると思った・・・」

 

眼鏡の奥の瞳が怪しくギラリと光った、そんな錯覚をエレンは感じた。

 

 

 

 

 

「―――私は思うんだ。本当は・・・私達に見えている物と実在する物の本質は・・・全然違うんじゃないかってね」

 

己の解釈も交え、ハンジは一旦話を止める。喉を渇きを癒すためにすっかり温くなった紅茶を口に運んだ。

 

「憎しみを糧にして攻勢に出る試みはもう何十年も試された。私は既存の見方と違う視点から巨人を見てみたいんだ。空回りで終わるかもしれないけど・・・ね」

 

その考えが万人に理解されるわけではない。謂れのない誹謗中傷もあった。けれどハンジ・ゾエという人間の在り方は変えられないのだ。

 

「でも・・・私はやる」

 

言いきったその表情は力強いものだった。折れることができない己の信念。必ずやり遂げようという覚悟。方向性は違えど、その在り方はエレンと酷似したものだった。

エレンは素直にハンジを尊敬した。いや、正しく言うと「調査兵団」という組織そのものに敬意を覚えた。変革を求める人間の集団、それこそが調査兵団なのだと。

 

だからこそ。

だからこそ、エレン・イェーガーは選択を間違ってしまったのだ。

 

「よかったら実験の話をもっと聞かせていただけませんか?」

確定している未来が変わることは決してない、それでも知らない方が幸せというものもある。知らないが故の無自覚な蛮勇は結局のところ、己の身を滅ぼすだけだ。自分が今現在地雷原を走り抜けている途中だという自覚はエレンにない。

変革を求める人間の集団、それこそが調査兵団。その認識は間違いではない。間違いではないのだが、認識不足だったのだ。調査兵団とは変人の巣窟でもあるということをエレンは知らなかった。

 

ハンジにとってはエレンの言葉はまさに悪魔が耳元で囁いたような甘い甘い言葉。自分の考えに理解を示してくれた者に対する嬉しさ。

 

「2年前―――」

 

 唐突に、そして静かにハンジは切り出した。

 

「とても興味深い報告があったんだ。エルドが発見した3体の巨人、普通の巨人にはありえないことにその3体は仲間意識を持っていた・・・少なくとも報告を見る限り、群れの概念があることに間違いはない。・・・奇行種はこういった普段あり得ない行動をするものだけど、その3体の巨人の外見には共通した特徴があったんだ。なんだと思う?」

 

「目で見て分かる特徴ですか?・・・俺には単純に身長とか、外見が似ていたぐらいしか思いつきませんが・・・」

 

「髪型だよ。その巨人はね、3体ともモヒカンだったんだ」

 

「・・・モ、モヒカンですか?」

 

 意外すぎるその答えにエレンの声が若干裏返る。その髪型はエレンも知っている。住居区で何度かガラの悪そうな男がそんな髪型をしていたのを見たことがある。

 

「そう、これは驚くべきことなんだよ!未だかつて!モヒカンの巨人が確認されたという報告はない!しかも3体同時に3モヒカン!わかるかいエレン!?巨人の生態の一端が!モヒカンという特殊な髪型に隠されているかもしれないんだよ!?もしこの仕組みを解明することができれば巨人の行動メカニズムの研究も大きく進む!ああ!モヒカン最高!!」

 

 既にモヒカンがゲシュタルト崩壊しそうな連呼ぶりだった。

 

「は、はあ・・・」

 

 突如として身を乗り出し興奮したように力説するハンジに若干引いたエレンは適当に相槌を打っておく。

 

「ああ!明日の実験が待ちきれないよ!」

 

 恍惚とした表情で言うハンジの言葉にエレンは違和感を感じた。

『明日の実験が待ちきれない』?

 

「・・・あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

 

 おそるおそる、エレンは聞く。どうか違って欲しいと願いながら。

 

「もしかして俺もモヒカンにしなければならないとか?ははは、そんなわけありませんよね」

 

「え?いやだなあ、なにを言ってるんだいエレンは―――」

 

 hahahaと朗らかに笑い、ハンジは続ける。

 

「―――もちろんするに決まってるじゃないか」

 

「」

 

そうだ・・・オレは・・・欲しかった

新しい信頼を あいつらという時のような心の拠り所を・・・

もうたくさんなんだ 化け物扱いは・・・

仲間外れじゃもう・・・

だから・・・仲間を信じることは正しいことだって・・・そう思いたかっただけなんだ

・・・そっちの方が都合がいいから

 

「ビーンとソニーは既にセット済みだよ。わざわざ美容師を招いたかいがあったね!いやあ、さすがの私も髪型に着目するという発想はなかったんだよ。その点ナディアには感謝だね。彼女は私達とは違う観点を持っている。サポート能力のみならず、思考も中々にアクロバティックに奇天烈で、加えて発想力に富んでいる。さすがに巨人煮込んでスープ作りだそうと言い出した時はドン引きしたけどね―――エレン?どうして泣いてるの?」

 

―――ミカサ・・・お前・・・髪が伸びてないか・・・?

 

 

 

 

 

夜明け前、薄暗い街中を疾駆する三つの影があった。

アニ・レオンハート

ライナー・ブラウン

ベルトルト・フーバーの3人組である。

 

「もうすぐ着くわよ」

 

「ああ。・・・ベルトルト、お前は見張りを頼む」

 

「分かった」

 

 無駄のない動きで時折周囲を散策しながら進む。3人の目的は捕らえられた2体の巨人の暗殺である。彼らが用いている立体機動装置も自分達のものではない、巨人進行の際に死んだ兵達のものを再利用するという周到ぶり。

 

「見張りが交代する隙を見計らって殺るわよ、タイムリミットは30秒」

 

「十分だ」

 

 声を潜め、作戦の最終確認。周囲を窺うベルトルトの合図でアニとライナーは一気に標的へと接近する。そして構えた刃を振りおろそうとし―――

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・ねえ、ライナー」

 

「・・・なんだ」

 

「どうしてこいつらモヒカンなの?」

 

 しかもご丁寧に肩パット付き。そして何故か傍らには特注サイズのヘルメットが置いてあった。まったくもって意味が分からない。

 

「・・・俺が知るかよ」

 

「それもそうね。・・・さっさと終わらせましょうか」

 

「・・・そうだな」

 

 緊張感が溢れていたはずの現場が弛緩する。それほどまでにモヒカン巨人の光景はシュールだった。

 

 




二話のあとがきにおいて遅くなると書きましたが、三話の投稿が遅くなると思います。
今のところどういう風に話を進めていくのかは頭の中で大体まとまっていますのでもう少しお待ちを
お気に入り登録が200を超えました。自分の作品が受け入れてもらえるか不安でしたのでうれしく思います。これからも応援よろしくお願いします。

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