その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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未来


最終回「絶望そして――」

無形拠点『ホーム』

 

「ただいまっと」

 

観音開き扉をくぐり2人と1書が帰還した。騒がしくも退屈はしなかった世界から

 

出てきた場所は主庭の中心辺り、夏休みに穴だらけになったそこは綺麗に整地され以前の姿を取り戻していた

 

「おお~、しっかり中まで詰まってる感じがする」

 

「そりゃ巻き戻しだろうしな、元の状態に戻ってるだろうよ」

 

何度も主庭の地面を踏みしめるエインを横目に九桜は、手を握り、開くという動作を始め、それを何度も続ける

 

「どったの父さん?」

 

(九桜?)

 

娘と妻が声をかけ

 

「いや、帰って来たんだなぁって実感がな動きにくさとかないもんだからつい」

 

とそんなことを言っていると、屋敷の方から歩いてくる人影があった

 

「おう、3人とも御帰り」

 

時雨であった。鳶色の髪を揺らし、右手を肩の位置で振りながらこちらに近づいてきている

 

「ああ、ただいま姉さん」

 

手を振り返し、答えると

 

「早速で悪いが九桜は精密検査な、この前無茶やったから。エインとオウルはこっちの手伝い、12番倉庫の掃除をやっててな人手が足りん」

 

早口で伝えていくその内容に、エインは頬を膨らませ、オウルは魔道書形態からヒトガタを取り

 

「えー父さんと一緒がいいー」

 

(私も)

 

「私もそうしてやりたいんだがな、母様の指示なんだこれが」

 

苦笑交じりにそう答える

 

母様――つまり(上役)からの指示だと

 

それを聞き、面食らったような顔をし一つため息をつき、うなだれた

 

「うぅ~しばらく一緒に居たかったのに」

 

(残念)

 

そんな2人の頭を優しく撫ぜてやり

 

「ま、診断終わったらそっちに合流するさ、それまで2人でガンバレ」

 

軽く頭を2度叩いて歩き出す

 

「母様のとこ行きゃいいんだろ?」

 

「ああ、速めに終わらしてこっちの手伝いも頼む」

 

はいよーと、追い越し後ろに居る時雨に声をかけゆっくりと歩いていく

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ホーム』にある日本屋敷は縦横500mの正方形の各辺の中心から対辺への渡り廊下が伸びており、田の□部分が生活区、十の部分が対辺への渡り廊下となっている

 

生活区も満遍なく部屋が敷き詰まっているのではなく、中庭側の廊下に出れる個所もあり息苦しさのようなものは無い。

 

しかも生活区と言っても実際に暮らしているのは主庭に接している□の底辺部分であり残りの辺にある部屋は虚の研究資料や実験施設、共用の倉庫などになっている

 

なお余談であるが、色々と便利だからと渡り廊下の交差点に家族共用の研究施設(たまり場)が作られている

 

そんな屋敷だが、□の左下の角となっている場所に虚の部屋があり

 

「ただいま帰りました」

 

襖を開き、九桜がその部屋に入る

 

四方5m程の部屋の壁は本棚で完全に埋まっており、日の光が入らず蝋燭の形をした永久光の火が怪しく部屋を照らしている

 

その中の西側の本棚の前に小さな机が置かれており、その前に虚は座っていた

 

九桜の方を向き、笑顔を見せる

 

「お帰り九桜、初めてのセカイは楽しかったかしら?」

 

「ああ、色々と話したいこともあるけど……まぁ早く診断終わらせて向こうの手伝い行きたいかな」

 

「はは、せっかちね全く……精密検査って言っても九桜のデータ取るのは一瞬だから結果がでるまであの子達を手伝ってあげなさい」

 

そう言いつつ、指を高速で動かし、幾つもの幾何学模様が描かれていく

 

「と、出来た出来た」

 

幾何学模様が一つに纏まり、魔法陣へと変わる

 

「部屋の真ん中に立って」

 

了解とうなずき、部屋の中心に立つ

 

「てか、屋敷の広さに対して狭いなここ」

 

「あーなに、狭い方が落ち着くし体動かしたくなったら主庭か外の空地に霊華と走りに行けばいいからねぇっと」

 

魔法陣が九桜の頭から足までゆっくりと降りた。虚の手元に情報が書かれた紙束が生成される

 

「うん、こっから精査して結果が出るから大体1時間ぐらいかな?終わったら使い魔を行かせるから3人揃って来てね」

 

「了解、また後で」

 

「ええ、また後で」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

九桜が出ていき、襖を閉めると虚は仰向けに倒れ込む

 

紙束を捲り九桜の体の状態を確認する

 

それは――

 

「虚ーお茶持ってきたよー」

 

霊華の声が聞こえ、襖が開く音がする

 

「虚?どうしたの一体?」

 

素早く襖を閉め、霊華が虚の頭の脇に座り、2つの湯飲みが乗った盆を床の上に置く

 

「ごめん、ちょっと自己嫌悪」

 

今にも泣きそうな声で呟いた虚は上体を起こすと

 

1時間(・・・)こうさせてて」

 

霊華の胸に抱き付き、嗚咽を漏らし始めた

 

少し驚いた様子を見せた霊華だが

 

「全く、仕方ないなぁ」

 

と、虚の頭を優しく撫ぜる

 

(恐らくこうなるだろうと予測はしていた)

 

虚の思考が悪い方へと向く

 

(だけど、これは)

 

紙束から読み取れる情報はあまりに酷いものだった、本人すら自覚しないであろうものだが、これは――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1時間後

 

虚の使い魔が12番倉庫に呼び出しに来て、九桜達3人は揃って虚の部屋にいた

 

虚と向かい合うように九桜が座り、その左右にオウルとエインが座る

 

「まぁ結論だけ先に言っておく」

 

そう虚が切り出した

 

「今後1万とプラマイ5千年ぐらいで死ぬ、確実に」

 

非常にざっくりとしたものだった、ポカンと状況が呑み込めない3人に対し

 

「原因は魔力道6割の損傷によるゆっくりとした魂魄死、魔力道が魂の方から伸びてるからこその死因ね」

 

神界の神の場合、魔力道というのは唯々体に張り巡らせているのではない

 

魔力を分解し生命エネルギーに変換している神にとっては一方通行の血管といった感じであろうか

 

「ちょっと待ってくれ、魔力道の損傷つっても自然回復するもんじゃ」

 

「今回は事情が違うわ、最もこんなケース今までに無いものだけど」

 

「は?」

 

虚は一つため息をつくと

 

「私と父さん、それから父さんの側近の1人と時雨、九桜もだけど、非常に特殊な魔力道なのよ」

 

身体の正中線を指でなぞりながら

 

「循環型完全対称魔力道っていってね、左右の魔力道が体中を循環してそれが全く同じ形を作ってるの」

 

(それの何処が!!)

 

普段のオウルからは考えられない程の大きな念が届く、発声にするならば叫ぶといっていいだろう

 

循環型魔力道を持っている神は度々生まれる。だが彼らが魔力道を損傷しようと問題なく修復され、そのような問題は起こったことがない

 

虚が語りだす、なぜこうなったのかを

 

「この魔力道はね、魔力を増幅させるのよ」

 

増幅、そう言ってしまえば単純なことだろう。だがそれが意味するのは

 

「僅かな魔力でもこの魔力道を巡らせるだけで数千倍~数万倍まで膨れ上がる。そこに世界創造で作ったセカイの強度上げようとして多量の魔力を流し込んだことで欠損した、これが1つ」

 

左手の人差し指を立てる

 

「そして2つ目が、この魔力道が物凄いデリケートであること。大昔、父さんもオーバーロードを起こすような戦闘をした後、回復が始まらず完全消滅しかかったことがあるって聞いたことがある」

 

だけどと続け

 

「アレは腐っても虚無から別れた3柱の1柱だから完全に死ぬことは無い、その時も側近連中と母様が必死に霧散した魂を集めて50年かけて蘇生したらしいし」

 

少し間をあけ

 

「まぁ1つ目は完全に私のミス、だから……」

 

左手を開き、快音をたて、左手に拳を打ち込む

 

「絶対に死なせはしないはしない、もう並列思考を使ったどうすればいいかは分かってる」

 

その言葉に九桜は、縋るように

 

「治るんだよな」

 

「ええ、死にはしない(・・・・・・)わ」

 

微妙なズレがある、だがそんなことは知ったことではないとでもいうように

 

「この方法なら絶対に死にはしない、だけど相応のリスクもあるから……1日猶予を上げるから考えなさい」

 

ようやく止まっていた思考が動き始めたのか、その言葉を聞いてエインが声をあげる

 

「はぁ?治るんなら受けた方が」

 

「エイン、母様は死にはしないって言ってるだけで治るとは一言も言ってないぞ」

 

「あっ」

 

前を見据える

 

「聞かせてくれ母様、死ななくて済む方法を」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ……」

 

深夜、九桜は一人部屋を抜け出し廊下に座り込み主庭を見ていた

 

「ちいと強引すぎるだろアレ」

 

聞かされた方法、確かにそんなことができるのならば、大十字九桜という存在は死にはしないだろう

 

(寝れないの?)

 

声がかかった、彼にとって最愛の人。鈴を転がしたような小さいがよく通る声

 

オウルは九桜の隣に座り、九桜を見上げた

 

そんなオウルの頭を撫ぜ

 

「まぁな、流石に色々とあり過ぎた」

 

(同感)

 

小さく、笑い合う

 

「いやさ、アレが来て滅ぼして、仕込み発動させて回帰して、帰ってきたら余命宣告ときたもんだ」

 

(強引だった)

 

「だよなぁ、確かに俺は死にはしないけど」

 

(けど?)

 

続きを促すようにオウルが九桜に問う

 

魔法使い(・・・・)としては死ぬだろ、完全に」

 

全身の損傷部を1か所に集めてその部分を壊死、切り離すことによって全身の崩壊及び、魂魄死をさけるといった方法

 

これが虚が提案した最善手だった

 

だが、循環型魔力道が欠損した場合、重大な問題が発生する

 

循環型魔力道の持ち主は魔力を魔力道に流し込み、循環させ魔法を使う

 

ただの魔力道の持ち主は発生させる起点に魔力を送り込んで魔法を使う

 

循環させるというプロセスを経るため一部でもなくなると完全に魔法が使えなくなってしまう

 

その分、彼らは通常の魔力道持ちとは比較にならないレベルでの魔法の並行起動や単一魔法に注ぎ込める魔力量が大きく異なる

 

循環させることにより通常の魔力道で全身に魔力行き渡らせるという行為に必要な量が千だとすると循環型は百程で全身に魔力を通せる

 

魔力を満たさねばならない者と循環させるだけで済むもの、差は歴然である

 

魔力道の欠損による魔法を使えなくなるといったデメリットも仕方のないことである

 

「だから、どうするかって感じだな」

 

(私は受けてほしい)

 

「魔法が使えなくなってもか?」

 

ん、と頷かれる。オウルは九桜の方を向き笑みを見せ

 

(だって私が一緒に生きたいは貴男だから)

 

彼女は続ける

 

(魔法が使えなくても)

 

目が弧を描き、笑みが深くなる

 

(貴男は貴男だから)

 

今まで共に生きてきたが見たこともない表情で、今までに覚えがない程長い言葉だった

 

「それじゃ」

 

彼は言った

 

「受けるか、施術」

 

続け

 

「俺もお前と共に生きたいよ、オウル。そこにエインや母様達も入るけど」

 

一息おき

 

「俺は、お前と永劫共に居たいから」

 

言い切り、どちらともなく抱きしめ合う

 

(成功するかな)

 

「ああ、きっとするさ。なんたって母様がやるんだから成功以外あり得ない」

 

2人は小さく笑い合い

 

(これからもずっと一緒?)

 

「ああ、ずっと一緒さ」

 

月の光が2人を照らす、それは契約、それは誓約、永劫続く約束であった

 

2人の影が一つに重なり合い、部屋へと戻っていく

 

生きることを諦めず、生きていくと誓ったのだった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

二日後

 

診断の結果、最も損傷が酷い左腕に損傷部を集めることとなった九桜を未だ取れぬ包帯を煩わしく思いながらも隣にオウルを伴って自身の離れの地下に潜っていっていた

 

仕込みの一つ目、それの確認だった

 

終点には扉があり、分厚く、音を通しにくいはずのそこから中の音が聞こえてくる

 

右腕で扉を押し開けるとその中は雑多な研究施設と研究機器、開発機器が所狭しと並んでおり、その中を多くの人間が走り回っている

 

ミスカトニック大学陰秘学科魔導機械科に所属していた者達だ

 

彼等の『ホーム』内九桜離れ地下研究生産所への転送、それが仕込みの一つ目であった

 

走り回っていた彼等は九桜とオウルが入ってきたことに気づきそちらに目線をなげかける

 

人見知りで今にも逃げ出したくなっているオウルだが、これから先、九桜をしっかり支えていかねばならないという思いもあり、涙目になりながらも九桜の横に立っている

 

九桜は魔導機械科(いつもの連中)に対し声を張り上げ

 

「ちょっとミスで順当にいけば、これから1万5千年後辺りに左腕が消えて魔法が使えなくなるが、魔法の火力を補うためにまずは兵器開発、一丁いってみるか」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2千年後 第1の課題である魔道書完成名を「瑠璃の魔道書」、書かれた魔法は流れ、変動するモノの支配

 

1万4千年後 第2の課題である『ホーム』の移動化に成功、モチーフにしたものは地上界を旅しているときに立ち寄ったセカイで関わった全長15キロの大機竜リヴァイアサン

 

そしてサイズ違いの同型艦を本拠にし、本格的に地上世界の探求を始める

 




これにて第1部完結、エターなりかけもしましたがなんとか完結までもって来れました。

次は第2部かゼロ使モノで1本書くかと言った感じで

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