その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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第64話:ようやくの

(どうするっかなぁ)

 

もう間近に迫ったキャノンボールファストのための実習授業のさなか、九桜は自身のISの調整をしながら同時に悩んでいた

 

軍施設襲撃から約1週間、どうせアレがバックに居るのだろうと見切りを付けこちらの前に出てきたらどう対処するかという頭の痛くなる問題もあるがそれとは別にさらに頭を抱えたくなる問題が発生していた

 

(まぁ最悪のことも想定した準備も進めてるけどこっちもなぁ)

 

(せっかく沢山つけたのに)

 

キャノンボールファストのルールに小さな文字で記述されていた1文

 

“なお今年度は特例として、大型スラスターを非固定浮遊部位(アンロックユニット)としている場合、2基1対以上の使用を認めない”

 

このような1文である

 

(確かに背部大型スラスターを6基も積んでる機体なんぞこの学校でも俺ぐらいだろうけどいくら何でも露骨だろこれ)

 

(どんまい)

 

九桜のIS『エイン・ソフ』は多重スラスターによる超大出力による、何者も寄せ付けない速度が売りの機体ではある。だが多重スラスターが同時に弱点ともなってしまうある欠点があった

 

機構が複雑化しているためスラスターの最高出力が並のISの9割程しかないのだ。

 

そこを強引に瞬時加速(イグニッション・ブースト)の加速用出力を層状に保持して連続で放出し通常ではありえない速度を生み出す多段式(ブラスター)瞬時加速(イグニッション・ブースト)で補っているとはいえ

 

(大小合わせ並のISの高速移動時の1.2倍ぐらいは行けるが消費エネルギーがなぁ)

 

(初速で引き離す?)

 

(あーその方法も試算してみたけどやっぱエネルギーが足りなくなって途中で落ちるんだよなぁ)

 

(むぅ)

 

オウルと2人して頭を悩ませていると不意に声がかかった

 

「大十字」

 

ISの影から顔を出すとすぐそこに

 

「どうしました?織斑先生」

 

織斑先生がアリーナの入り口付近に置かれたコンテナを指さしていた

 

「届け物だそうだ」

 

「届け物?なんですかね」

 

「そこまでは知らん、宛名にお前の名前が書いてあるコンテナが今日になったらいきなり校門に置かれていたそうだ。危険物の可能性も考慮して中の見分をするために1度開け、危険がないことが確認されたが……」

 

珍しく言葉を濁した彼女に

 

「もしかして、それがなんなのか」

 

「ああ、IS用の兵装ということは分かったが、その他のことは何もだそうだ。それと、手紙が同封されていたがお前にはわかるとしか書いていなかったとか」

 

はぁ、と頷きISを待機状態に戻しコンテナに歩き出す

 

「まぁつまり開けて受領すればいいですね」

 

「ああ、ついでにコンテナの送り返しもな」

 

了解ですと返し、速度を上げ、コンテナまで走る

 

高速実習をするアリーナだけあり、そこそこの距離を走り到着した。

 

「さてさて、一体なんじゃらほいっと」

 

コンテナを開けるとそこには円柱状の機械3つが棒状のパーツでつながれた逆三角の形状をした物だった

 

頂点に当たる部分は直径30cm高さ10cmほどであり、残りの2点に当たる部分はその半分程度の大きさであった

 

九桜は首を傾げ

 

「分かると言われてきたがさっぱり分からん、とりあえず装備させてみるか」

 

本気で心当たりがなかった、まぁそれでも装備させてみるかーぐらいの気持ちでISを纏い、頂点が胸の位置にくるように装着する

 

「おっ?」

 

ISが情報を網膜投影してくる。そこには

 

「あー……あーこっちに来る前に頼んでたな確かに」

 

(本気だった?)

 

「ああ、起動させるまでマジで分からんかった。言ったはいいもののマジで完成させるとは」

 

『IS装着型真空空間発生装置』

 

九桜がISに来る前、余力があったら作ってくれと魔導機械学科の面々に頼んでおいた『エイン・ソフ』の単一仕様、超高速エネルギー回復『蒼天陽光』を常時稼働させるための装備だった

 

(こいつがあればエネルギー問題は解決したも同然だな)

 

(チートくさい)

 

(まぁはなっからそういったモンだしな)

 

起動させると『エイン・ソフ』を中心に直径2mほどの空間が真空状態になりエネルギーが回復していく

 

(流石、俺が真空でも余裕で活動できるって知ってる連中が作った物、生命維持装置の自動起動が付いてない)

 

(信頼)

 

(いい連中だよ全く)

 

装置を停止させ、ついでにコンテナを拡張領域にしまっておく

 

(これで超高速で飛び回れるってわけだ)

 

(楽しい?)

 

(ああ、それとエネルギー問題が解決したから、もう1つの悩み事に集中出来るしな)

 

1つ大きな伸びをし

 

(おっし、んじゃま一つカッ飛んでみるか)

 

装置を再び起動、2基1対となったスラスターに魔力を通し小型スラスターを露出させ莫大量の光がスラスターに集まる

 

(噴射口は夏休み中の暇な時間を見つけて不壊金属(オリハルコン)に置き換えたから制限は無しだ、飛ぶぞ)

 

(いいよ、行こう)

 

スラスター内に溜めた出力を連続で起動、そして

 

(高速起動出力にチェンジ)

 

その加速力を初速とし、さらに加速

 

時折さらに多段式瞬時加速を使い、アリーナ内に作られた擬似コースをわずか30秒ほどで1周する

 

1周を終わらせ、超高速状態のまま直角に下方向へ曲がり地表10センチのところで完全静止する。各機能にいくらでもエネルギーを振り分けられるようになったからこその慣性を無視した動きに周囲は度肝を抜かれるが

 

(ようやくだ)

 

そう

 

(ようやく理想としていた動きができる)

 

自身の普段の動きがそもそも重力や慣性の法則を無視したような動きをしているのだ。それが理想像だったからこそ今までの動作に不満しかなかったが、ここにきてようやく理想としていた自身の戦闘時通常動作を行え

 

(ようやくってとこだな)

 

九桜は口角を歪め、弧を作った

 




さぁさ、ここから時間は運命の時まで飛ぶ

無限光の主がどのような道を選ぶかは……さてさて、どうなるものか

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