その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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時間はかかっても完結は絶対にさせるので安心して下さい


第63話:襲撃

学園祭が終わり、次のイベントの話が出始めるようになる程度には時間が過ぎた

 

あの日の夜から九桜による特訓が始まっており、今夜もオウルを膝の上に乗せ、簡単な魔法を無限光の魔道書内から探し、オウルに使わせるという特訓をしているのだが

 

(むう)

 

本日も失敗続きであった。九桜の魔力制御を合一状態ならば常に行っているが、自身と九桜の魔力量に()()()()()があり、感覚がまるで違うのが現実だ

 

ちなみに、総魔力量だけで言えばオウルの魔力量は虚にも匹敵するものがあるが質の違いがあり、虚のように居るだけでセカイを歪め、壊すようなことにはなっていない

 

「今度はちいと少なかったなー」

 

片手で空間投影ディスプレイに映し出されている目録を弄りながら、オウルの魔力に干渉しどの程度の魔力を使えばいいかを示すが

 

(難しい)

 

だろうねぇと前置きをし

 

「魔力量が膨大だと大雑把になるからなぁ……だけどこういった細々としたものが基礎になるから疎かにもできんとこもあるからここはしっかりできるようにならんとな」

 

(知ってる)

 

即座とも言っていいタイミングで言われた言葉に苦笑交じりに

 

「ゆっくり覚えていこうってことだよ」

 

ん、と返した彼女がまた集中状態に入り、九桜は目録のチェックを再開する。その中で少し……いやかなり目を引くものがあり

 

「このフィンガーシリーズってどこら辺の世界で使われてたんだよ……しかも最後なんなんだよこれ完全に初見殺しだろ」

 

ぼそりと声に出してしまった。オウルも気になったのか一旦中断し

 

(どれ?)

 

「260の4の10」

 

少し考え込むような素振りをみせ

 

(魔法と機械が高度に発達した世界)

 

「まぁ銃弾系の魔力弾使うからそうなんだろうけどこの最後だけは釈然としねぇ」

 

無限光の魔道書に記載されている魔法は虚が旅したことのあるセカイ全ての魔法が記載されており、どのようなセカイかも情報として納められている

 

その為、九桜にしろオウルにしろ、もしかすると虚までがどんな魔法が収められているのか完全に把握していないところがある

 

そしてその中でも特に印象に残っているものには

 

(コメントがついてる)

 

「なんて」

 

(考えた奴殺す)

 

このように一言コメントが付いている。物騒なものであったり褒め称えるものであったり千差万別だが物騒なコメントを書いているときの虚を想像してしまった九桜はついつい

 

「マジギレかよ怖っ」

 

そう口に出してしまうのだが、その言葉を口に出した瞬間、鈴の音を聞いた

 

「ん?」

 

(どうかした?)

 

頭を掻き、こちらに来る前に軍事基地、特に地図に記載されていないような場所を中心にとある術式を仕込んで来たのだが

 

「アメリカの軍事基地に仕込んだ術式の1つに反応が引っかかった」

 

(行く?)

 

「行かなマズイだろ?」

 

とりあえず彼の大本の雇い主はアメリカであり、仕込みも許可を取ったものである。これで行かなかったらさらに面倒なことになるのは目に見えているのでそう返す。

 

(そう)

 

魔道書形態に戻ったオウルを手早くISの待機状態である鎖に巻き付け転移門を開き該当地点へ飛ぶ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第十六国防戦略拠点――通称『地図にない基地(イレイズド)

 

基地のゲート付近はすでに戦闘の爪痕を残しており、その爪痕を残した犯人と、残された結果である決して致命傷ではないが動けない程度に風穴を開けられている軍人達の姿があった

 

「おーおー派手にやってるねぇ」

 

背後から聞こえたその声に襲撃者――青いISを纏った少女が一瞬で体ごと振り返るが

 

「トライフィンガー・バスターショット」

 

握り拳の状態から人差し指、中指、薬指の指先を線でつなぐと正三角形になるような形にし、その中心からビームのような状態の魔力弾を撃つ。不意打ち気味に叩き込んだ1発だが、襲撃者はギリギリのところで回避する

 

回避行動からの基地への飛び込みを阻止するために角度をつけ連射するが、相手が空中に居ることと、単発であるため避けられ続ける。

 

ここで1発超光速まで弾速を速めようかとも思ったが、地上界でそれを行うと弾速による衝撃波やその他諸々の処理を無くすために物理法則を書き換える結界を貼る必要があることを思い出し断念

 

ゆえに

 

「やるねぇ……だが」

 

トライフィンガーの状態から小指を追加し、正方形を指先で作り

 

「フォースフィンガー・ガトリングショット」

 

断続的にライフル弾ほどの魔力弾を飛ばすフォースフィンガーに変化させる。計測魔法で計測した結果60発/sほどの発射速度であり、ISの装甲をガリガリと削り取っていく。

 

(使い勝手)

 

オウルのそんな問いかけに一つうなずき

 

「良好ってやつだな、んじゃとどめ行くか―」

 

五指全てを大きく広げ、緩く曲げ

 

「フィフスフィンガー」

 

握り込む

 

「バスターブレード」

 

その手に出現したのは幅広で長大な魔力剣。フィンガーシリーズの最終到達点が今までと打って変わり近接武器であるという事実、実際これが生み出されたセカイでは奇襲用として重宝されていたものである

 

この初見殺しのような術式に対し、襲撃者はというと今まで以上の射撃を予期していたようで回避行動に重点を置いた動きの開始点を驚きと戸惑いで崩され

 

「なっ」

 

移動先まで筒状の防護結界を貼り、周囲を気にせず超音速でカッ飛んできた九桜が大上段からの振り下ろしを行うが、襲撃者はスラスターを全力で噴かせ、右側に転がるように飛ぶ

 

だがわずか遅れ、左腕が切断される。その結果を確認した九桜は二の太刀を加えようと逆袈裟に振るうが

 

「おっと」

 

転移魔法――慣れていないのか自身の周囲に結界を展開しているものだが、結界があまりにも曲者であり、剣速が緩まり寸でのところで逃がしてしまう

 

「ふむ……腕1本か」

 

(転移?)

 

「ああ、しかも転移障壁に億単位で即死と汚染系が詰められてたからなぁ……俺1人だったらともかくこの状況じゃあなぁ」

 

下を見るとまだ十分助かる軍人たちが目に付く、彼は飛行術式を解除し地上に降りると

 

「さてさて、ここで起こったことの状況説明も面倒だが……あの術式的にアレ絡みだろうが、もう送り込んできたとはなぁ」

 

(どうする?)

 

少し考え

 

「目の前に姿現さないならもうしばらくは放置するが……どうせ大舞台整えて嫌がらせしてくるのは目に見えてらぁな」

 

(ん)

 

そう返し、いくつかの魔法をまとめていくオウルは

 

(移動の準備はしとく)

 

「応、まかせた」

 

さてさて、どこから手を付けようかねぇと口にしながら、治療魔法を用意していくその背中はどこか悲し気なものであった

 


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