その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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分けないと1万字超えることが確定したので先に前半分を前編として上げる


第62話前編:学園祭、虚降臨

時刻は午前10時頃、IS学園の学園祭が始まってから2時間ほど経過し一般参加者は未だ続々と増えている。そんな入場ゲート付近にちょっとした人だまりができていた。

 

その中心には長い白髪をポニーテールにし、黒地に白い水晶塊が描かれた着物を着た顔の左半分を鼻の下まで覆い隠す黒いラインが3本入った仮面と右耳に狐の尻尾がついている耳飾りを付けた絶世の美女が立っていた

 

(うつほ)

 

彼女は手にした懐中時計を見ながら、予定では9時半には迎えに来ると言っていた息子(九桜)が予定から30分遅れていることから、大した理由でなかったらお仕置きしようと考えついたところで、懐中時計を袖口に投げ込み、顔をあげた

 

すみません、すみませんと人だまりを割りこちらに来る待ち人がようやく来たからだ。

 

人だまりを割り、虚の前に大変申し訳なさそうにした九桜は頭をかきつつ

 

「すいません、予想以上の客入りだったので遅れました」

 

彼らのクラスが立てていた予想では客入りのピークは11時~12時辺りであり、まさか開幕と同時に大量の客が来るとは思ってもいなかった。そのため本来ならばある程度の作り置きとクッキーやケーキの生地を作り終わったら抜ける予定だった九桜までもが接客に導入され、ある程度捌けた今になってようやく来れたのだった

 

「ああ、それじゃ仕方ないわね。さ、それじゃ行きましょう九桜」

 

そう言い、虚は九桜に手を差し出した。九桜はその手をとり、

 

「ええ、行きましょうか“母様”」

 

周りでキャーキャー騒いでいる者達に聞こえるように母様という部分を強調して言った。

 

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校内に入り“よく出来過ぎた狐の尻尾の耳飾り”について質問し

 

(で、うまいこと変化してる母さんは……)

 

(ああ、これ解けるまで私としか話せないようにしてあるから九桜が話しかけても無駄よ)

 

(無駄な労力っ!)

 

(こういったことで変に楽しまないと人生損よ?)

 

(変態)

 

(九桜っ、オウルが苛めるのっ!)

 

(そればっかりは否定できない気がするなぁ)

 

(訓練倍ね)

 

(えげつねぇよっ!!)

 

とこのような最終的なオチがとてもえげつない会話があったことをここに記す

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

校舎内に入り、教室を使い出店されている店舗を見てまわる

 

「クラス毎でお店出してるだけあっていろいろあるわねぇ」

 

(その口調ほんと何とかならないの?気味悪くて仕方ないんだけど)

 

「ええ、部活でも出してるところもあるようで1日で回りきれるか分かりませんねぇ」

 

(こっちもやめたいんだがなぁ……依頼だから下手に地を出すわけにはいかないんだよなぁ)

 

口頭と念話によって話される会話だが、虚に限っては口を動かし、声を出した場合にどれだけ届くかを計算し、その距離までに減衰を再現したうえ、耳から聞こえるように作り上げた念話術式によってだが。そういった会話を続けていたが、虚がふと足を止めた。そこは美術部の出店であり

 

「あら、爆弾解体ゲームなんてものあるんだね、入ってみよ」

 

(面倒な依頼を受けたものねぇ)

 

「ええ、わかりました」

 

(まぁ口調以外は楽な仕事だよ)

 

ドアを開き中に入る。今はちょうど空いているらしく入ったとたんに

 

「お、大十字君いらっしゃ~い」

 

「噂のお母さまもいる!」

 

「うっわ、すっごい美人さん」

 

囲まれた。そう言ってよかった。そんな彼女等を手で静止しつつ

 

「ええ、とりあえず1つずつお願いします。うちの母は出来る人なので」

 

「うん、こんなとこまで出鱈目家族だね!」

 

チラリと虚が目線を合わせ

 

(技術のみ、身体強化無しでどっちが速いか勝負ね)

 

(あいよっと)

 

配布され、道具を受け取る。それを床に置き、同時に始める。そこからは傍から見れば神業だった。次々と装置を解除し、同時と言っていいタイミングで配線を切り、解除する。だが

 

「よし、終わりっ」

 

「タッチの差で負けましたか」

 

100分の1秒程の違いだが虚の方が先に配線を切っていた。右人差し指を顎に当て、小首をかしげ楽し気に

 

「んーそれじゃ今度何かお願い聞いてもらおうかな」

 

「母様のお願いというと無理難題吹っかけられそうですが……私に出来ることなら何なりと」

 

「よしよし……それじゃ、次行こうか」

 

出口で賞品を貰い、再び学園を巡る。

 

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12:05

 

「さて、そろそろ交代の時間なのでうちのクラスの店に来ませんか?」

 

九桜がそんな提案をしたのは各クラスや部活の出店をしばらく見て回った時であった。午前は織斑が、午後は九桜がということになっている。この母を好き勝手に動き回れるより、自分の目が届く場所に居てほしいという願いもあってのことだ。

 

「コスプレ喫茶だったっけ?指名制なら行くよ」

 

「客寄せパンダになってくれるのなら話し相手も務めますよ」

 

「んーこんな怪しいのが客寄せになるかしら?」

 

頬に手を当てとても真面目な口調でそんなことを言う虚に、ため息をついた九桜が

 

「母様が世間一般で言うところだと絶世の美女なので問題ないと思いますよ」

 

「あーそうえばこの顔美人の括りだったわね。周りがこのレベルしかいないからすっかり失念してたわ」

 

「確かに私を除けば美形しかいませんねぇうちの家系」

 

爺婆にしろ、祖叔母達も姉も母×2も全員が超が付くほどの美形揃いでは美的感覚がマヒするのもうなずけるだろう。ついでに黒厳の側近も皆美形である

 

「九桜も変えられるからそうすればいいじゃない」

 

「確かに3日経つと忘れられる顔ですがなんだか愛着がわいてしまいましてねぇ」

 

「分かる分かる、長いこと同じ姿でいるとその姿に愛着わくのよねぇ……っとそこ?」

 

九桜は懐中時計を取り出し時刻を確認すると

 

「ええ、ちょうど仕込みの時間で一時休止中のようですし」

 

仕込み中書かれた看板が出ているが構わずドアを開ける、慌ただしくしていた女子達がドアの方を向き

 

「あ、大十字君帰ってきた!!」

 

「噂の美人母も一緒だ!!」

 

そんな彼女たちに虚を指さし

 

「ええ、しばらくここで私と共に客寄せになってもらいますので席の方に案内してあげてください。私はその間に着替えてまいりますので」

 

その言葉に彼女たちの目が輝く、今学園中で大騒ぎになっている大十字九桜の母親をしばらく独占できるとなってはそれはやる気を出すのには十分だった

 

「ホント!?やったぁ!」

 

「こちらにどうぞ」

 

席に案内されるなか着替えるために確保した別教室に急ぐ九桜の背中に虚は

 

「それじゃ待ってるわよー」

 

と手を振りながら声をかけた

 

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12:10

 

仕込み時間が終わり、看板がどけられようとしているころ、九桜はドアを開けた

 

「へぇ全部九桜が作ったんだ」

 

「はい、大十字君が採寸からなにまで」

 

着替えから帰ってきた九桜が戻ってきてまず目についたのは虚がデュノアを捕まえて会話に花を咲かせている姿だった

 

「何してるんですか母様、デュノアさん捕まえて」

 

「あ、戻ってきた」

 

「いや、九桜がどんなことしてたのかなって気になってね、いろいろ聞かせてもらってたんだ」

 

ニヤニヤと笑う虚と申し訳なさそうにしているデュノアの2人を見て大体の事情は察せられた。ため息をつく九桜を見て、デュノアはそそくさと

 

「それじゃ私はここらへんで」

 

「ええ、ありがとう。楽しかったわ」

 

笑顔で手を振る虚にデュノアは会釈しその場を離れていく

 

「すみませんでしたデュノアさん、このお礼は必ず」

 

そうデュノアの背中に声をかける九桜の服装を上から下まで見つめ、虚は

 

「ふむふむ、燕尾服にモノクル……完璧に執事コスだね!」

 

そんな母親にまたため息をつき、彼女の斜め後ろに立つ。そんな九桜に

 

「座らないの?」

 

「こうしていた方が客寄せ兼お客様の目の保養になるでしょう?」

 

虚は、確かにねと返事を返しメニューを取り、中を覗く。全て見終わった後、こちらに声と念話を同時に投げかけてきた。

 

「それにしてもすごい名前のメニューねぇ」

 

(こっちを給仕しながら片時も目線外さずに見てる子はいったいなに?)

 

「ええ、反対票が2票ほど出たのですが賛成が圧倒的多数でこんなことに」

 

(日本の暗部組織のトップ、魔術関係も扱ってるからウチの噂も知ってる)

 

「それじゃこの『執事にご褒美セット』1つ」

 

(ちょっと面倒だから殺気当ててこっち意識させないようにしていい?)

 

「分かりました、お嬢様。すぐにお持ちしますのでしばしお待ちを」

 

(やめーやそういうことするの、ほっときゃこっちに手出ししないだろうし)

 

楯無が酷い目にあいそうになるのを止め、一礼しキッチンテーブルにオーダーされた物を取りに行く。他の給仕係や織斑はブローチ型のマイクを使い、オーダーを直接キッチンに届けていたが、九桜はモノクルにそういった機能を仕込んである。

 

キッチンテーブルに行くとすぐさま注文された物が渡される。内容はアイスティーとクッキーのセットだ。これらも、九桜が淹れ方とレシピを学園祭2日前にキッチンチームに渡し、指導したといったことがあったものだ。

 

受け取った九桜は慌ただしく動いているクラスメートを優雅に避け、虚のテーブルまで運ぶ

 

「お持ちいたしました、お嬢様」

 

「ええ、ありがとう」

 

アイスティーを一口飲み、クッキーを1つ丸ごと口の中に放り込んだ虚は

 

(あら?これも自作?)

 

(ホントは市販のもん買ってきてそれを出す予定だったんだけどな……機材とか材料とか諸々を俺が用意することにしてここで作ってる)

 

機材はそろそろ自前の調理器具一式が欲しいと思っていた九桜がさっくりと購入し、レンタルと偽り、使わせている。調理器具は文化祭後、九桜が回収し、この夏休みに『ホーム』に作られた九桜専用の離れに転送することになっているが、表向きは返却することになっており業者になりすました式神とトラックも用意済みだ

 

(あら手の込んだことで)

 

「ところで、もう一人の子は今は休憩中なのかしら?」

 

ふと、虚が思い出したように九桜に声をかける。そういうセカイなのだから希少価値の高い人間を見ておきたかったのだろう。

 

「ええ、午前に私が時間を貰い、午後は彼の予定ですし」

 

「へぇそうなの」

 

「ええ、ですがたった今この話を聞いて飛び出していった生徒会長のせいで嫌な予感がひしひしと」

 

午後は彼の予定といった言葉が聞こえた瞬間、飛ぶようにドアに向かい、無音でドアを開き、飛び出していった楯無の姿に何か起きると直感した九桜がもはや諦めた口調で言い放つ。

 

「大変ねぇ」

 

「ええ、ここに来てから騒ぎが起こらなかった時などひと時もありません。おかげで退屈せずに済みますが」

 

「毎日楽しそねぇ……お茶おかわり」

 

「かしこまりました」

 

九桜は一礼し、キッチンテーブルに新しいアイスティーを取りに行く。そこで校内に放送が流れた

 

「1年1組大十字九桜君、至急第4アリーナ更衣室までお越しください。繰り返し連絡します……」

 

(面倒事が向こうから光の速さでやってきた)

 

つい念話で愚痴を言いたくなるような予想的中具合だった。そんな九桜に苦笑交じりに虚は席を立ちつつ

 

「それじゃ私もそろそろご退場させてもらおうかしら、いつまでも貴重な1席を占領し続けるわけにもいかないし」

 

並んで歩き、会計をさっくりとすまし、九桜の背中をたたき優しい口調で

 

「お疲れさま、私は1人で回ってるから頑張ってきなさい」

 

そう送りだした、第4アリーナに向かう九桜はそんな虚に

 

「立ち入り禁止のところに入らなければこの学園の大部分は解放されているので退屈はしないはずですので、しばらく1人で回っていてください」

 

念を押すように念話でも

 

(くれぐれも立ち入り禁止の場所には入るなよ)

 

そう伝え走って、第4アリーナの更衣室に向かうのであった。

 




後編は多分土日中には出せるはず

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