その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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第60話:面倒な奴

翌日

 

SHRと1限目の半分を使った全校集会、今月中程にある学園祭の説明をするためのものだ。全生徒が集まっているものだから2人を除いて全員が女性なIS学園な為

 

(姦しいねぇ)

 

説明が始まっていないということもあり、好き勝手周囲の者としゃべっている。そんな彼女らは皆笑顔で学園祭の話題で盛り上がっている

 

(皆元気)

 

(だなぁ)

 

子を見守る親のような穏やかな声で取り留めもないことを話していると

 

(大十字君、聞こえてる?)

 

(んー?どうしたいきなり)

 

ある程度までは夏休み期間でできるようになり念話も使えるようになったデュノアが話しかけてきた

 

(なんか魔力感じるんだけど……もしかしてこの中にまだ魔法使いっているの?)

 

(ああ、前見てればわかると思うぞ)

 

(へ?)

 

(出てくる)

 

「それでは生徒会長から説明させていただきます」

 

壇上に現われたのは先日、九桜に突っかかってきた女生徒――この学園の生徒会長更識楯無であった。

 

(え?嘘、ここの生徒会長って)

 

(まーとりあえずは100年ぐらい前から魔術に手ぇ出してるみたいだな。あんまり関わるなよー、とりあえず織斑一夏の術的攻撃の護衛役ってなってるからバレると面倒だぞ~)

 

(もしかして学校に張ってある結界も?)

 

(そそ、だけど俺から言わせればまだまだ構成が甘くてすり抜けも多いんだがね……てかよく気がついたなアレ、あれもそこそこの……)

 

その時、弟子の娘がしっかりと成長できたことを喜びながら、学園に張られた対呪術用結界について解説しようとした九桜の耳にとんでもない言葉が飛び込んできた

 

「名付けて、『各部対抗男子争奪戦』!」

 

(ファッ!?野郎面倒くさいマネを)

 

(ちょ、大十字君落ち着いて)

 

(ストップ)

 

思わず本気の殺気を叩き込もうとした彼をデュノアとオウルの声が止める。止まりはしたもののそのあとの説明の間ずっと彼は不機嫌であった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

教室

 

「えーでは司会進行をする大十字九桜です。大変面倒なことに私の存ぜぬところで男子争奪戦なるものが開催することが決定していたようです。生徒会滅びればいいのに。まぁ私情は抜きにしておきましょう」

 

「「「「「「今とんでもないこと言ったよね!?」」」」」」

 

まぁまぁと両の手のひらをクラスメイトに見せ落ち着かせ

 

「さて、やるからには1位を狙いたいものですが……私達のクラスにはほかのクラスが持っていないものがあります。はい、ボーデヴィッヒさん」

 

「私の嫁とお前だな」

 

「ええ、世界にたった2人しかいない男性操縦者が私達のクラスにはそろっています。その武器を最大限生かす出し物を考えてほしいのですが……まぁメイド喫茶の類似品で執事喫茶でもやればいいんじゃないんですかね?ついでに来場者用で何人かメイド服で接客するようにすれば」

 

「「「「「「「「「「「そ れ だ ! ! 」」」」」」」」」」」」」」

 

「ちょっと待てー!!!」

 

ガタリと席から身を乗り出し、賛成票を投じるが1名は反対のようだ。だが悲しいかなこれは民主主義的決定、多数に少数は負ける。

 

「あ、服の心配は問題ありませんよ、今から作れば間に合うでしょうし」

 

「え?大十字君ってお裁縫できるの?」

 

もっともな意見であるが、そこでデュノアがケータイを取り出しとある画像を出す。

 

「みんなちょっと集まって」

 

その画像を見せ一言

 

「これ、メイドイン大十字」

 

まるで時が止まったかのようにピタリと止まる彼女ら、そこに追い打ちをかけるように

 

「正確には私が以前に作ったものの型紙をデュノア夫人に提供したものですが……まぁ接客担当の人数分作るだけで済むのでむしろ時間は余るでしょうねぇ」

 

ふとそこまで言って九桜はあることに気づいた

 

「皆さん乗り気ですが……ほかの意見などは?」

 

止まっていた彼女らが動き出し、矢継ぎ早に

 

「え?なんで?」

 

「貴重な男性操縦者がコスプレして接客してくれるんだよ!絶対1位間違いなしだって!」

 

「そうだよ!」

 

そんな彼女らの熱意に少し引きながら

 

「はぁ、それなら対案なしということで執事喫茶……いえ、メイドもいるのでコスプレ喫茶ということにしておきましょう。そこで頭抱えてるクラス代表、とりあえずやることは決まったので織斑先生に報告をお願いします。こちらは必要なものをまとめておきますので」

 

報告はクラス代表に投げ、必要になりそうなものをリストアップしていく作業に移る

 

「クッ、恨むからな大十字」

 

「あーはいはい、いいから行ってください。お礼として今度弁当でも作って差し上げますので」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

放課後、第3アリーナ

 

「いやすまんなISの調整手伝ってもらって」

 

「別に構いませんわ、そちらからの頼みごとなんて大変貴重でしょうし」

 

「うん、それにこっちの全開まで引き出してくれるようにやってくれるからこっちもいい訓練になったよ」

 

ISの展開状態こそ解除しているものの3人ともISスーツのままであった。ことの始まりは九桜が夏休み終盤、訓練も終わり自主鍛錬が主になり時間を持て余していたことがきっかけであった。

 

自主鍛錬が終わってしまったら暇で暇で仕方がなかった彼はISの関節部やスラスターといった比較的壊れやすい(彼のようにギリギリまで振り回せば)部分を構造式から創り出したオリハルコンに置き換え万が一のために擬似的な魔力導管を各部に作ったのだった。

 

だがあまりに熱中し過ぎ試運転を行うのを忘れていてちょうどよく捕まえられたデュノアとオルコットに調整を手伝って貰っていたのだった。

 

「そういってくれると有難いな、今度お礼でなんか菓子でも作ってやるよ」

 

「ホントっ!やった、大十字君のお菓子美味しかったからうれしいよ」

 

「ええ、ですけど美味しすぎて食べ過ぎてしまいそうですわ……」

 

「ああ……」

 

デュノア家の別荘で夕飯のデザートとしてケーキやプディングといった菓子類を出したのだが、驚くべき速さで消化されていったことを思い出し、苦笑いを浮かべながら

 

「なるべく低カロリーですむもんに……ん?」

 

「あら」

 

アリーナの入り口が開き見知った3人が入ってきた。更識、ボーデヴィッヒ、織斑だ。

 

「何しに来た更識後ろにうちのクラスの2人も連れて」

 

「あら、そっちこそなんでこんなところに居るのかしら?訓練なんて必要なさそうな奴が」

 

「言ってろ、こちとら夏休みで少し弄ったからそこの2人が第4アリーナ使って特訓がてらちょいと調整ついでに混ざっただけだ」

 

「あら、まともな理由ね、私は一夏君の専属コーチになったから鍛えてあげる為によ」

 

その発言にデュノア、オルコット、ボーデヴィッヒの3人が

 

「ちょっと一夏!」

 

「一夏さん!」

 

「一夏、貴様!」

 

だがその時、微量だがデュノアから魔力が溢れ

 

「あ、バカッ!」

 

九桜が反射的に叫んだ瞬間、更識が動いた。瞬時にISを身に纏い、手にした大型槍を必殺の意思を込めデュノアの首元に突き込む

 

「どういうつもりかしら大十字、この学園に魔力がある者が紛れ込んでて、それをかばうなんて」

 

だがそれは叶わず

 

「ハッ、どういうつもりねぇ、それを言いたいのはこっちだぜ」

 

デュノアの前に瞬時に移動し、大型槍の穂先に極小の結界を展開し受け止め怒気を含んだ声でそう言った。

 

「なに?」

 

「魔力の性質、気配、色、こういった要素から善悪の判断も出来ねぇのかってことが一つ、そして……」

 

ボリボリと頭を掻き、底冷えするような冷たい声で

 

「この俺が悪たる者を見逃すとでも?」

 

絶対零度、そうとしか表現のしようがない冷たい目で更識を見咎めた

 

「ッ!!」

 

ぞわりと全身に鳥肌を浮きだたせ、顔を真っ白にした更識をさらに追い込むように冷たい声で

 

「そういった連中の魔力はいくら隠そうがどっか歪みが出るそれさえ分かってないド素人にとやかく言われる筋合いはないな」

 

ふん、と鼻息一つたて

 

「さて、ここにいると面倒そうだ。俺はここで帰るからあとは勝手にやってろ。デュノア、すまんがしばらく織斑の教官役は休みにしろ。少なくとも、ソイツが織斑の教官をやってる間はだ」

 

そう言い、デュノアの手を引きアリーナの出入り口へ歩いていく。

 

「ちょ、大十字君自分で歩けるから離してよ」

 

そんな声も無視し、デュノアを引きずるように九桜はアリーナから出ていった。

 


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