第59話:2学期スタート
夏休みが終わり2学期が始まった。九桜はあの後、虚と黒厳、霊華に時雨と他にも黒厳の側近連中からしごかれるという地獄のような模擬戦の日々を送り何とかセカイ創造能力を実戦で使えるレベルまでに至りさらに模擬戦のランクが上がり虚や黒厳が常に戦闘用魔力運用の2%ほどを出すようになった。そんな地獄も終わりIS学園に戻ってきている
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IS学園更衣室、男性用は存在しないので女子とは別の更衣室で着替えることとなっている男性操縦者2人がしゃべりながら制服からISスーツに着替えをしている。なんでも織斑たちは2週間ほどフランス旅行を満喫したようで
「で、お前が帰ったあとシャルのお母さんの隠れ家?を巡ったりしたわけよ」
「へぇアイツの隠れ家知ってる奴らなんぞ数えるくらいしかいなかったはずだけどよく会えたな」
「それが向こうから会いに来てくれたんだよ。なんでも似た魔力と大十字の魔力を感じたとか言って」
「なるほどねぇ、確かにそれなら知り合い連中は来るわな……よしっとほれ、さっさとお前も着替えちまえ。授業遅れるぞ」
織斑が九桜の方を見るともう着替え終わっていた。一緒に更衣室に入り、同じタイミングで着替え始めたのだがいつも通り早い九桜に
「わかってるけど相変わらず着にくいなこれ」
「常に着ときゃ良い。男子用制服の下ならそこまで目立たんしな」
「一度試したけど試作品だからか蒸れて仕方なかったからもう二度とやりたくねぇ。てかあれか、大十字がいつも着替え早い理由って」
「まぁそんなとこだ。女子達のは普通に通気性良いらしいけど俺たちのは試作品かつデータ取らないといけないからか蒸れて仕方ないけど、専用の術式組んでエンチャントしてやったから通気性抜群だぜ」
ISを効率的に運用するために着用するISスーツだが、こと女性用にしかノウハウがない分野であり、男性操縦者のデータ取り用に様々なセンサーや端末が仕込まれた結果通気性が損なわれひどく蒸れるようになってしまった。それを嫌がってわざわざ専用の術式を組み上げISスーツにエンチャントして定着。ついでのように自動洗浄術式もかけているため割と自信作なのである。
「くっそ、便利そうなことしやがって」
「ほれ、着替え終わったなら行く……」
目線で織斑を促した九桜がけだるげに入口を見たまま止まる
「どうしたんだよ大十字」
そう織斑が九桜に聞いたとき、入口が開き青い髪の少女が入ってきた。少女は織斑に笑顔を向け
「初めましてだね。織斑一夏君」
返事を返すべきかどうか悩みを抱きかけた瞬間
「織斑、先行って先生に伝言頼むわ。トップの青髪が喧嘩売ってきたので遅れますってな」
「は?いや、でも」
「いいから行け」
反論を許さないような九桜の口調に首をひねりながらアリーナへの入り口まで歩いていく織斑を見送り、入ってきた少女に視線を向け
「で?織斑は気づかなくて当然だが、この大気中の水分を使った光の反射による迷彩と氷結魔術の杭との融合品の攻撃はなんなんだか?俺はこんなもん受ける覚えは……お前に対しては結構あるな更識」
更識――古来から日本に存在する対暗部用暗部なのだが、陰陽術や西洋魔術にも手を広げているようで裏では少し話題になっている組織である。九桜も昔何度か仕事が被ったとこもありそのたびに顔を合わせるこの少女に心底面倒くさそうにそう尋ねた。
「昔の仕事でかち合った分じゃなくて今回の仕事の分よ」
「へぇ読んでみたところによるとたかが33程度しか感知できてないお前らが、こっちの仕事に口出すと?全くお笑いだ」
思考を読むことも簡単に行うと少女も知っている。だが何重にも張った記憶障壁がいともたやすく破られたことに怒りがわいたようで噛みつくように
「ッ!なによ、じゃなそっちはいくつ感知できたって」
「細かいのも合わせるとざっと5千。即死クラスのみだと400、周囲まで影響のあるボム型は20ってとこだな。レベルがちげぇんだよお前ら更識とはな。ほれ帰った帰った、こちとらこれから授業で忙しいんだよ」
周囲の魔術を一瞬ですべて破壊し、羽虫を追い払うかのように右手を動かす。
「くっ……お、覚えてなさいよっ!」
「おーおー今度も腕上げてこいや、これの発想自体はいいもんだからなー。ほれ、この封呪符が証拠品だから持ってけー」
寮に入った時からずっとため込んでいた封呪符を少女に投げ渡し、掴み取ったことを確認してから
(あーやだやだ。今学期もめんどくさいことになりそう)
(頑張れ)
(あいよーっと)
IS『エインソフ』の待機状態である鎖型のイヤリングに縛られているオウルに答え、アリーナに入り
「いやーすみません、ここのトップの青髪が喧嘩売ってきましてそれをいなしてたら遅れました」
「その説明で通ると思うのか馬鹿者め」
今学期1番目に織斑先生の出席簿による殴打を受けとてもいい音が鳴りわたるアリーナは夏よりも涼しく、秋のおとずれを感じ取れた。