その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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クソ超絶チート爺登場(なおガワはイケメンのもよう)


第58話:夏休み?ねぇよそんなもん

ホームの入口

 

「ただいま~っと」

 

(ただいま)

 

「帰ってきたわよ~」

 

門を押し開け、庭園に入っていく3人だが1歩進むにつれ顔が険しくなっていく。

 

「いったいどんな戦闘したんだこれ」

 

「想定してたよりもひどいなぁもう」

 

九桜と(うつほ)との模擬戦での地面の抉れは九百数十mといったところだったのに対し、数百km地下に造られているエイン専用の整備場の天井(虚の最大防御壁が刻印されて常時発動している)が露出していた。しかもただ露出しているだけではなく

 

「おいおい、正1階位(対神王術式)が直撃しても無傷のはずの障壁が蜘蛛の巣みたいに罅入ってるってどういうことだよ」

 

いっけん何かの模様が入ってるように見えるが模様ではなく、無事なところがほとんど無いレベルで罅が入っている。

 

そんな穴を見ながらまだ周囲に結界が貼られているので歩いて迂回し母屋に向かう。その時間を利用し、九桜は霊華に質問していた

 

「母さん、アレって確か理論上は統合世界以下がまとめて全部吹っ飛ぶような攻撃食らっても薄く傷が付く程度って聞いたとこあるんだけど」

 

「確かにそのレベルなら余裕で耐えられるけど……多分御義父様の36枚剣陣じゃないかな?アレを何発も受けたら罅ぐらいは入るはずだし」

 

「まず36枚剣陣ってとこからおかしいよな。王族の専用魔法陣だって16枚剣陣だろ?母様だって重ねるのはそれが限界でそれ以上は無理って言ってたし」

 

「神王専用魔法陣だから御義父様しか使えないし、そもそも使おうと思わないって虚が話してたことがあったけどさすがに理由までは分からないなぁ。オウルはなんでか知ってる?」

 

(性質が固定される)

 

「は?」

 

(破壊のみになる)

 

それは、と九桜が口を開きかけた時だった

 

「その言葉の意味の通りだよっと。この糞親父が火力にしかパラメータ振ってないようなレベルの火力そのせいだし」

 

「もう1戦やるかバカ娘、今度も俺が勝つがな」

 

「ぬかせ、次は勝つわよ」

 

障壁のを挟んだ向こう側、九桜と霊華の高さに異様にボロボロな虚と、全体的に短いが整った黒髪に絶世の美貌と言える虚と酷く似た顔、だが右目に額から頬までの刀傷があり、瞼は閉じている。高身長の九桜よりもさらに10cm高い背丈、無形の戦闘用ロングコートと同じように足首まで丈のあるこの世のありとあらゆる色を混ぜたような黒色のコートをまとった右腕が千切れかけていて修復中の九桜の祖父――神王、黒厳(こくげん)が何事もないように立っている。

 

浮いているといった様子はないので足の下に障壁で床でも作っているのだろう。

 

「ごめんね、ちょっとこのアホ火力と言い合ってたから帰ってきたの気づかなくてね。今解除するから」

 

「誰がアホ火力だ。それいったらそっちだって効率厨だろうが」

 

「最小限の労力で最大の効率求めて何が悪いんだか。ほいっと解除」

 

ガラスが砕けるような音が鳴り結界が解除され、虚が右手に九桜の手を、左手に霊華の手を取り

 

「ほら、そこらへんの話してあげるから早く戻ろ。そしてらコレさっさと帰すから」

 

とスタスタと空中を歩いていく。この程度のことは簡単にできるので九桜と霊華は手を引かれ歩いていく。

 

虚の口からは黒厳に対する罵倒の言葉が連続して出ているが、その中にも親愛の感情がわずかにだが感じ取れ、和やかな雰囲気で談笑し、穴の上を歩いていく4人。

 

だが異変は穴を半分ほど過ぎた時に起こった。

 

虚が引く手のうち九桜側が突然止り、虚が怪訝そうにそちらを見る。

 

「九桜ッ!?」

 

彼女の目に映ったのは片膝をつき、左手で右胸を握るように押さえている九桜の姿。異変はそれだけではなく

 

《解除条件を達成しました》

 

無機質な声、だがここにいる全員は声音を知っていた。無機質だが確かに――

 

「おい虚、どういうことだこれは」

 

そう、無形虚の声音に間違いなかった。

 

《黒厳及び無形虚の戦闘及び規定魔力量に到達――これより魂魄に刻まれた術式を解凍、導入を開始いたします。導入中は暴れまわることになるので付近にいる存在は死ぬ気で取り押さえてください》

 

「おいマジでなんだこれ。馬鹿娘なにした一体」

 

「馬鹿な……早過ぎる」

 

「使い古されたネタやってないで説明しろアホ」

 

「えっと2人とも?コントみたいなことやってないで……九桜の体なんか光ってるけど」

 

愕然とした顔をしている虚とその肩を揺すっている黒厳に霊華がそんな言葉をなげかけると霊華の目に映る景色は一変していた

 

「母屋の近くってことは……転送された?」

 

母屋の縁側が目の前にあり、何やらさまざまな術式で魔道書状態のまま拘束され縁側におかれたオウルが目の前にあり

 

「はぁ、見てろってことよねぇこれは」

 

オウルの近くに腰かけ、持ち上げひざの上に置き表紙をゆっくりと撫ぜながら

 

「大丈夫よ。虚と御義父様に任せておけば問題ないから」

 

再び結界が貼られ戦場となった大穴を見つめているその瞳はどこか寂しいものだった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

胸を押さえている九桜から少し距離をとり

 

「父さん、50%まで解放しといた方がいいよ」

 

「いやマジでなにしでかしたんだよお前。ほら、御父さん怒らないから話してみなさい」

 

チラリと黒厳の方を見る虚、ため息を一つつき

 

「あの子と初めて会った時に仕込んだ術式があってね」

 

「ふむふむ」

 

「万が一私と父さんがガチで戦闘するようになって、九桜の魔力量が一定に達したら発動するようにしたんだけど」

 

「ちょい待て、いつも通りのじゃれ合いみたいな親子喧嘩しただけだぞ」

 

「当時の私達の75%ぐらいって今のじゃれ合い6日続けたら十分届くわよね」

 

「周辺魔力量で判断させるようにしたなお前」

 

当時からかなり研究が進み周辺にばらまかれた魔力量は、十分条件にはまるぐらいのものだ

 

「効率化すると大量の術をばら撒くようになって困るのよね。ついでに今の今まで私も仕込んだこと忘れてたわ」

 

「後で説教することが確定したわけだが……どんなもん仕込みやがったお前」

 

「説教は勘弁してほしいけど説明するより見た方が早いわよ。ほら」

 

《解凍が完了しました。これより導入を始めます。なお、導入に際し術式の試運転を兼ねて暴れまわりますので何とか抑えてください》

 

次の瞬間、景色が一変した。周囲は星空に、だが地面はなく、障害物もなく、星空すら彼方に描かれたように動きがない。

 

「えらく適当なシステムボイスだったから術式も適当なもんだと思ったが……なかなか良いじゃなかこれ」

 

眼前、ゆっくりと立ち上がる九桜を視界から離さず、周囲を確認する黒厳

 

「種別はセカイ創造型、対象は……結界とかで囲った内部のモノ全部か?耐久値も俺とお前の2人が全力出しても壊れないと見た」

 

この男は決して威力のみに特化し、脳筋のようにそれにしか知識が回らないわけではい。むしろ神界における魔術の基礎を作り、常に第一線で改良と追加を繰り返し、発展させてきたのが黒厳だ。

 

娘に最高の称号が移るまでは神界の魔術系の称号はすべてこの男が保有していたこともあり、初見の術式だろうが効果を見抜けるだけの知識量は持っている。

 

「だけどなぁ……この程度の術式で50%は」

 

後方に50m、黒厳がしゃべるのをやめ下がった距離だ。

 

「おい、なんだよこの面白いの」

 

だが彼は出せる全速でそれだけの距離を下がったのにもかかわらず左腕が消滅していた。

 

それ行った九桜は上半身をわずかに前に倒しだらりと腕を垂れ下げ、左手に周囲の空間のように星空が浮かぶ帯を握っていた。

 

「だから言ったでしょ、50%もあれば押さえられるはずだから2人で」

 

「いや、俺がやる」

 

虚の言葉を遮り、黒厳が答える

 

「いや、違うな、俺にやらせろってのが正しい」

 

言葉から読み取れる感情は喜、そして彼の顔は狂気に満ちた笑顔を形づくっていた。そんな彼の様子に気づいたのかため息の後に

 

「好きにしてちょうだい……ただし、修復時間が長くならないようにするように」

 

その言葉を黒厳に言った瞬間に、切り落とされ、消滅した左腕が修復され、背中から4対、両手両足側頭部から1対ずつ、黒い翼が生えた。

 

「黒翼9対、十八枚羽根」

 

九桜が展開した六対の翼の羽一枚一枚が世界糸破壊程度だが、黒厳の羽の一枚一枚は世界糸が数千集まった世界管というレベルを一〇単位で消し飛ばせるだけの魔力が詰まっている。

 

黒厳の位相倉庫から浮き上がってくるものがある。鍵束だ。一つ一つが手のひらほどある大きな六本の鍵が束ねられている。

 

「これを使いのも久しぶりだな」

 

その鍵束を手に取ろうと腕を動かしたとき、再び帯が振られた

 

「構造と性質は理解した。あとは壊すだけだ」

 

だがそれは彼に届くことはなく、途中で砕け散った。

 

「お前が得意にしてるこれな、元は俺がやり始めたことだからな」

 

鍵束を手に取り、Ⅰと刻印された鍵を外し

 

「剣よ」

 

右腕を前に伸ばし右に捻る。鍵が粒子となり形を無くし、別の形を作り出す。漆黒の両刃のロングソード。王族専用魔法陣たる剣陣、そのモチーフとなった剣だ。右手でそれをつかみ、左足をわずかに前に出し、腰を浅く落とし刀身を肩に担ぐように構える。

 

「行くぞ、せいぜい粘ることだな」

 

彼我の距離は200mほど、それを一足でつめ上半身の捻りを加え大上段からの一閃。容易くセカイを薙ぐ黒厳の一撃は九桜の左腕を斬り飛ばすはずだった。

 

「なるほどなぁ」

 

だが、当たる寸前で帯によって阻まれていた。

 

「さっきまではまだ完全に変換されてなかったから術式を破壊する要領で砕けたが、今は完全に変換が終わってそれも一つのセカイとなってると……強度とか考えるとこんぐらいかねぇ」

 

左手に黒く輝く光

 

「]bh:@g」

 

神言詠唱及び36枚剣陣からの絶大な威力を載せた拳が帯を狙い放たれる。拳と帯がぶつかり、帯が千切れた。だが、その瞬間

 

「……ッ!」

 

とてつもない悪寒がはしった。彼が回避のため後方に下がるタイミングとそれは同じタイミングだった。千切れた帯が指向性を持ったように黒厳を狙い膨張。先端は尖りこのままいけばどこまでも追ってくるだろう。ならば

 

「迎撃するしかねぇわな。伸びてきてるってこたぁ脆くなってるだろ」

 

剣に薄く薄く薄く魔力の膜が包む。柄を両手で握り腰だめに構える

 

「黒王流、一ノ型」

 

右から左に薙ぐように振るう

 

「桜花」

 

纏わせた膜は刃、薄く薄く薄く刃の厚みが1つの原子よりも薄い刃。使い手の特性を持たせたその刃は風を切るかように膨張した帯を切り裂く。そのまま刃を構えた状態で再び九桜に突っ込む黒厳

 

「面白れぇなぁそれ。魂の方に焼き付かされた性質なんだよなぁ」

 

左手を柄から離す。

 

「ならよぉ」

 

左手そのものが黒く染まる。それは彼のコートと同じ色――この世のありとあらゆる色を混ぜたような黒色だ

 

「この俺が複写できない道理はねぇってこったぁ!!」

 

九桜の元までたどり着いた黒厳は黒く染まった左手を九桜の胸の中心に叩き込む。左手に幾条の光が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返す

 

「まだ完全に焼き付いてないってなら焼き付くまで続けてやるよぉ!!」

 

神王、黒厳――本来彼の色は万象包みこむ優しい黒色。だがしかし、万象包み込むということは他人の色(魂の性質)を自身で包み己の一部にできるということ。彼は神界誕生時から多くの神や動物の色を見境なく包みこみ、自分の糧にしていった。

 

迎撃のため帯が彼を切り裂こうと迫るが、先程の一撃で対処法をつかんだ黒厳は

 

「下手に千切るからこうなら、跡形もなく消し飛ばせばいいんだよなぁ!!」

 

ゆっくりと右目の瞼が開かれる。右目周辺に数多の魔法陣が現われては消えを繰り返し、完全に開かれ、その視界に映っていたモノすべてが虚無に消えた。効果が出た瞬間に目を閉じ

 

「虚光の瞳っつってな、クソはた迷惑な俺の親父から譲り受けた代物でな。目に映るもの全てを虚無に返す特性を持ってるって言ってもまだ正気に戻ってねぇか」

 

九桜の左腕は根こそぎ消し飛び、普通なら自動的に修復に入る筈なのだが

 

「ついでに俺の破壊の性質を膜にしてお前の左肩に置いてやった。これまでを見るとどうやら左手からしか力を使えんらしいしな」

 

幾重にも拘束魔術で九桜を拘束していく。なんだかんだで意外と時間がたってるからもうしばらくすれば正気に戻るだろう。

 

そうした処理をし終わった後、虚が黒厳に近づいてくる。

 

「乱暴ねぇ、瞳は使わなくても父さんなら十分消し飛ばせたでしょうに」

 

「こいつも使ったんだからせっかくだし久しぶりにな」

 

「ああ、そう」

 

ガックリと肩を落とした虚を横目に複写を行っていた黒厳が

 

「そろそろ終わるみたいだぞっと」

 

魂への術式の転写の終わりを感じ取っていた。事実

 

《導入が完了しました。意識が戻るまで1日必要です》

 

無機質な音声が再び流れると九桜が力を失ったようにガクリとひざから崩れ落ちた。そんな彼の体を黒厳が肩に担ぎ

 

「これ起きるまではいるからな」

 

「仕方ないわね。ついでに模擬戦も手伝いなさいせっかくだから」

 

九桜が作り出したセカイも意識がなくなると同時に上部から消えていっている。このままいけばすぐに消えるだろう。そう思いながら、おいよーと娘に返しつつ歩いていく黒厳の背中を虚が追っていく

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日

 

「ぐぉ、なんだこれ体中が痛いんだけど」

 

涙目になりながら上半身を起こした九桜は自分の記憶を辿っていく

 

「えっと、帰ってきて霊華母さんと話しながら歩いて母様と爺様出てきて手を引かれながら穴の上歩いてたら……そっから記憶ないな」

 

周囲を見渡し顎に手を当て考える。見渡した限りここは自室で布団に寝かされていた。布団の傍らにオウルが寝ている、カワイイ。庭園側の襖は開けられていて穴は埋まっている。つまり記憶がないときに何かあったのは確か

 

「いったい何があったんだ」

 

「あ、九桜起きてる」

 

ひょこりと襖から虚の顔が部屋をのぞき込んでいた。彼女はスタスタと部屋に入り込んでくると眠っているオウルの隣に腰を下ろし、昨日起こったことをかいつまんで説明する。その間九桜はオウルの頭を撫ぜつつ相槌を打ち聞いている。

 

「まぁ詰まること大体母様のせいと」

 

「まぁそうなるかなぁ?あの後散々馬鹿親父に説教されたし」

 

「そうですかい……で、これが件の力と」

 

左手に星空が浮かぶ球体が生成される。だが完全な球体というわけではなく角ばっていたり潰れているようなところもあったりする

 

「あ、だめだこりゃ完全制御できねぇなまだ」

 

そうつぶやいた瞬間気づいてしまった。失言したと。

 

「それじゃ訓練しようか。大丈夫大丈夫まだ火力馬鹿もいるからいろんなパターンの練習できるよ」

 

高速で首根っこを握られ引きずられていく。ついでとばかりに回復魔法を大量にかけていく

 

「アフターケアも万全っすね」

 

「ほら行くよー、今回はオウルが入ってる必要性もないしもうちょっと寝かせといてあげようね~」

 

「はは、死にてぇ」

 

なおこの後の夏休み期間は全て模擬戦に充てられたもよう。

 




この爺、虚とやっても勝率6割5分ぐらいあるとか言うクソチートですので細かいことを気にしたら負けです

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