その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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ようやく帰ります。


第57話後編:帰還

デュノア社保有のIS用訓練アリーナ、転移してきた屋敷からそこそこ時間のかかる位置にあるがそこに一行は集合していた。

 

墓地から直接くるのではなく、一度屋敷に戻り、そこから用意しておいてもらったマイクロバスで移動してきた。

 

アリーナの中でも最大の50m×100mの大アリーナを貸切にしてくれた社長に内心礼を言い

 

「あー聞きたいことはあるだろうが、デュノア以外はちょっと体動かしとけーコイツに魔力運用の基礎教えたら模擬戦やるからなー、母さんは座ってろマジで腰を浮かすな」

 

彼はテキトーに指示を出し、デュノアを手招きして広いアリーナの中央付近に立つと位相倉庫から刀の柄を取り出す。柄を逆手に持ちそれに魔力を注ぎ、刀身を形成する。それで地面に陣を刻んでいく。その時ふと

 

「あれ?驚きとか突っ込み無し?」

 

こういった行動をすれば何かしら突っ込みがあるものだと思っている彼は拍子抜けといったように背後にいるデュノアに話しかける

 

「何それとか何やってるのとかいう突っ込みは?」

 

「いや、もう大十字君のやることなすことに突っ込むだけ無駄だと思っるから」

 

「うっわ酷い、もうそこまで行ったか」

 

左手でこめかみを押さえ苦虫をかみつぶしたような顔をする

 

「っと完成上乗ってくれ~……てか何があったら一気にそこまでいくかね」

 

デュノアの立つ位置を調整しつつ苦笑交じりにそう話す。これまで確かに表の世界では考えられないようなことを連続してやってきた気はするがまだそこまで達観されるようなことはやっていなかったはずなのだが……そう考えると以外と結構なことをしてきたのか?そのような考えが脳内で渦巻くが

 

「お義母さんがいちいち突っ込み入れてると時間の無駄だからあるがままを受け入れた方がいいって言ってた」

 

「なに言ってくれてんだかあの人は……そこでストップ」

 

陣のちょうど中心にデュノアを立たせる。そして刀を持った腕を肩の位置まで上げ、

 

「少し気分が悪くなるとは思うがそこは勘弁な。なんせ一括で魔力運用の基礎とか基本的な術を一通り入れるからなっと」

 

腕を下げ、刀身をほんの少し地面に刺す。

 

[g6hiwyd7]

 

神言(しんごん)詠唱により陣を起動させる。刻み込んだ記号や円が光を放ち回転していく。しだいに光が中央に収束、デュノアに吸い込まれるように消えていく。完全に光が消え

 

「調子はどうだ?どこか痛むところとかあるか?」

 

「大丈夫、ちょっと頭が痛いぐらい」

 

「ならよし、使えるか?」

 

「これがそうなのかな?」

 

右手の手のひらを上に向けると橙色の球体がゆっくりと出現する。

 

「やっぱ似るもんだな」

 

何かを思い出すようにそう吐き出された小さな言葉、彼が思い出していたのは目の前の少女の母親だった。アイツも橙色の魔力で、電気代を少しでも減らすために自分の魔力光を照明にしていた時があったと。そう思い出に浸っていると自然と左手が動き

 

「ちょ、どうしたの大十字君!?」

 

デュノアの頭に手をのせ撫ぜていた。自分でもずいぶん感傷的な行動だと感じているが

 

「いんや、お前がアイツの子だってはっきりわかってな。まぁなんだ、その色の魔力光を見るといろいろと思い出すもんなんだよ」

 

最後にポンポンと頭をたたきクルリと後ろを向く

 

「はい、集合。いまから模擬戦って名目でデュノアの魔力運用とかそのほかもろもろと慣らしていこうと思う。ルールは簡単、そっちは何を使ってもよし、こっちは……そうだなぁ刀2本まで使うかね。そんで」

 

刀を地面に刺し一回転

 

「この円から少しでも俺の足をはみ出させたらお前らの勝ち、ばてて戦えなくなったら俺の勝ち。だけどこれがデュノアのためってことを忘れないように。俺にしたい質問は打ち合ってる時にでも聞いてこい。はいスタート、デュノアはIS展開しろー」

 

そう彼が言っても誰一人として動けなかった。確かに九桜は世界を敵に回しても俺が勝つと言っていたが表の常識に縛られている彼らは模擬戦なのにISで生身の人間を攻撃してもいいのかと、そんな考えが脳内を巡っていた。それに気づいたのか

 

「そっちから来ないならこっちから行くかねぇ」

 

そう言い切らないうちに攻撃していたのだろう。逆手に持っていたはずの刀がいつの間にはしっかりと握りこまれ、もう1本の刀――短刀ほどの長さに調節されたものが左手に握られていた

 

そしてその攻撃の影響はすぐに出た。

 

「なっ!?」

 

驚愕の声と、続いて聞こえる爆発音。白式の背部スラスターの右半分が裁断され、爆発を起こしたのだ。

 

「なにをしたか?簡単なことだよ。高速で振って鎌鼬で切ったそれだけだ。魔力を飛ばすだの魔術で切っただのそんな技は使ってない」

 

つかよ、と彼はつづけ

 

「今の俺の身体能力だけでも簡単にこれぐらいできんだよ。なに遠慮してやがるさっさとかかって来いよ阿呆共なにぼけっと突っ立ってる。殺す気で来ないとこっちがやっちまうぞ」

 

底冷えする笑顔だった。今彼が言ったことは事実だろう。殺す気で行かなければ彼らが全滅して終わり、殺す気で行ってもわずかでも隙を見せたら簡単に斬られる。そういったものだろう

 

「あ、そうそうここに入るときにうちでよく使ってる結界を貼っておいたんだが……これがなかなか面白くてなぁ」

 

九桜は白式を指さす。先ほど切られ爆散した背部スラスターが何事もなくついている白式を。それにつられ視線を動かし、息をのむ彼らに

 

「この結界内では人も物も入った状態のデータが保存されていてな。簡単に言うとこの中じゃ死なないし壊れない。痛みはあるけどな」

 

先程の笑顔が張り付いたままの彼は

 

「そんじゃ、改めてスタートと行こうか」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一番最初に動いたのはボーデヴィッヒだった。軍人としての訓練を積んできた彼女は意識をすぐさま切り替えレールガンをぶち込んでいく。だがどれもこれも九桜に到達する前にすべて斬られ彼には当たらない。

 

だがそれは

 

『箒、鈴!!』

 

左右、斬られ別れるレールガンの弾丸に当たらない距離から瞬時加速(イグニッション・ブースト)で切り込んでくる2つの影、左からは凰が、右からは篠ノ之が。

 

「いいタイミングだが狙いがバレバレだな、誤射を恐れてレールガンの連射を止めたのも×だ」

 

左右に握った刀の長さが入れ替わる。もともとが魔力によって形成された刀身だ、魔力量を変えれば簡単に長さが変わる。

 

ほんの少し早くこちらに刃が届く凰の連結青龍刀の側面に刀身の側面を当て後ろ側に押し、篠ノ之の2刀も同じように前側に押してやる。ISの速度と相まって彼の髪を風圧で揺らすのみで当たらない。

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

間髪入れずに背後から突っ込むのは織斑、零落白夜の白刃はすでに展開されている。

 

「奇襲なんだから叫ぶなよいちいち」

 

第二次移行が済み、速度が飛躍的に上がった白式だがその一撃すら、後ろすら向かずに防がれる。右手の刀を肩越しに後ろに回すという不自由な状態で

 

「軽いんだよ、もっと速度上げて全身でぶち当てる気でこい、例えば……こんな風になぁ!」

 

一度身体を右に捻り、溜めをつけ高速で体を左に捻じる。その勢いそのままに左手の刀を振るう。斬るのではなく柄による打撃が目的の一撃だ。ISですら知覚できない一撃が織斑の腹に刺さり

 

「ふむ、内臓数個か……案外硬いもんなんだな絶対防御って。上半身吹っ飛ばすぐらいの速度はで出たんが」

 

織斑が口から血を吐き吹っ飛んでいき結界にぶつかって止まる。だがすぐに結界の効果が表れ損傷個所を修復していく。

 

そんな織斑を横目でわずかに見て、九桜は視線を正面に向ける。眼前にまで迫ったビーム……オルコットの放ったものだろう。だがそれは彼の数センチ前で完全に止まっていた

 

「BT兵器だったか?脳波によってビームの軌道をコントロールすることができるようになるって話だが……他人にコントロール奪われちゃ駄作だろ」

 

なにも特別なことはしていない。通常、撃った側しかコントロールできないBT兵器をそれ以上の素質でコントロール権を奪っただけだ。このまま止めておいても邪魔なだけなので返しておく。

 

「ふむ、まぁまぁ使えるか」

 

次の瞬間目に飛び込んできたのは火球だった。デュノアが行動してるようには見えなかったのはこれを練るためか。はたまた

 

「これをおとりとし、次の一手をうつかのどちらか」

 

右手で切り伏せ左手をいつでも動かせるようにしておく

 

「次はアンタか」

 

殺気、九桜が思わず本気で殺しそう(・・・・・・・)になるほどのもの。そんなもの出せるのはついてきたメンバーでは2人、1人は先程から観戦しているから

 

「おいおい、教え子にそんな殺気向けるなよ」

 

織斑先生しかいるはずもなく、その一撃、その速度、どれも織斑のものと違う。

 

「さすがブリュンヒルデ、世界最強は違うねぇ」

 

だがそれでも飄々としたした態度を崩さずさして力が入っている感じはない。

 

(オウルーこの殺気浴びてたらマジで切り殺しそうなんだけどこれー)

 

(我慢)

 

本人は本気で切り殺しそうになっているのだがそれを理性で押さえコントロール。拮抗している状態に持っていったのだが……

 

「はぁぁぁ!!」

 

正面から1人、突っ込んでくる者がいた。橙色の機体、デュノアのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡだ。背後に橙色の軌跡を残し、音速をはるかに超えた速度で迫っている。さすがにこれは今のままでは防げんなと内心考え、だが別に

 

(身体強化と物質強化、そんなところかね?まぁアイツとは真逆だな。アレにはそういった戦闘系はからきし駄目だったし)

 

(いいペアに慣れた)

 

(親子で活動してますってのも珍しくないしなぁ……ま、ここは先輩らしく見せつけてやりますかね)

 

強化、強化強化強化強化強化。そちらは物質強化と身体強化で音を超えるがこちらは身体強化単体で十分だ。それを見せつけるために強化呪文を多重展開する。十分な量が発動でき、あとは迎撃するだけというタイミングで

 

「あ、だめだねこれは、無理無理」

 

物理法則を無視したかのように左に直角に曲がる。虚をつかれ、一瞬できた隙に織斑先生も各自が持つ射撃武器を放つ。

 

(レールガンに、ビームに、荷電粒子砲にレーザー、どこから持ち込んだと言いたくなる大口径砲、しかも榴弾という念の入れようで涙が出そうになるな。やべぇマジで涙出てきた)

 

(目に塵)

 

斬る、それだけを実行しすべてを弾いていく。だが刀2本のみという縛りのせいでだんだんと押し込まれていく。

 

(あー母様が言ってたっけ、究極の一でも完璧な多には勝てないって)

 

(どうしたの?)

 

(なぁオウル、こいつらが完璧な多に見えるか?それと、俺が負けると思うか?)

 

(家族以外あり得ない)

 

そしてとつづけ

 

(それ以外に負けることは許さない)

 

「クハハッ!」

 

しょうがない、全くなんだ、そういった感情が九桜の口から笑いとして漏れた。全くこいつは人が一番言ってほしいことを即座に言ってくる。だから

 

「悪いなお前ら、俺はこれで負けても別にいいかなと思ったんだけどよ。どうやら俺の女神様は許してくれんらしい」

 

だから

 

「すまんがちょっと本気出すわ、てめぇら全員へばるまで叩き潰してやるからかかって来いよ!!」

 

ほんの少し、生身で音速の10倍ぐらいの速度出す程度だ。問題ない問題ない。底冷えする笑顔から心の底から嬉しさが伝わってくる笑顔に変わった九桜は

 

「仕切り直しだっ!!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ま、補給有とはいえ2時間もたれた自分の不甲斐なさを笑うべきか、あいつらを褒めてやるべきか……悩むねぇ」

 

夜、皆が寝静まった客室の窓枠に腰かけ月を見ながら煙草を吸っていた。

 

あのあと、弾薬やエネルギーの補給を除き2時間戦闘を続けた一同は九桜を除き皆歩くことがやっとといった感じで、見た感じを表すならゾンビのような感じになっていた。

 

屋敷まで戻るマイクロバスの中で爆睡していた彼らをしり目に晩飯何つくろうと主婦のようなことを考えたり、屋敷についてもなかなか起きない彼らに目覚まし呪文使って強制的におこしたり、晩飯作りすぎたかと思えば全部消費しきったりとなかなか楽しかったと思う。

 

「九桜気づいた?」

 

「ああ、ようやく終わったか……母さん、上の時間差は何倍速にしてきた?」

 

「6倍速ぐらい。今回はだいぶ長かったかな」

 

1時間が6時間霊華がこちらに来たのは11時ごろでそこから半日経っている。彼がこちらに来るまで三日、そこからさらに三日なので

 

「合計六日か……なにやってんだかあの人たちは」

 

「普段に比べてもずいぶん長いね~……帰る?」

 

「ああ、元からそのつもりだったしな。制御術式もしっかり動作してるみたいだしホームに帰って修行だな。今回のアレでまだまだ未熟だってよくわかった」

 

思い出せば何度ヒヤリとしたことがあったか

 

「んじゃ三日に1度くらいのペースでやろっか。私と虚と時雨のローテーションで鍛えてあげるよ」

 

「なんでそんなニコニコしてるんですか全く……」

 

空港や国相手の交渉はもう終わり、彼らも帰ろうと思えばいつでも帰れる状態にはしておいた。だからやり残したことは何もなく

 

「戻りますか」

 

「うん、帰ろっか」

 

(帰宅―)

 

門を開く

 

ホームはどこの界にも属しておらず、絶えず場所を変える特例の場所

 

本来世界糸に1つは用意されている帰還用の門を通らないと帰れない場所

 

だが彼ら、無形の面々は各世界に用意されている帰還用の門ではなく各自で門を作り出すことができる

 

ただ、莫大な魔力を消費するのでリミットを解除するまえの九桜には開けなかっただけで本来は無形というだけで体が覚えているものだから作り、開くことができる

 

形成す

 

門をくぐりホームに帰る

 

おそらく夏休みが終わるまで帰らないだろうが

 

「もう一度這いよる混沌が来るまではいてやるかね」

 

ぼそりとそう言い残し、九桜、霊華の2人はホームに帰っていった。

 




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