その無限なる時の旅路~無限の空~   作:黒水 晶

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驚きの分量(ここでは)


第57話中編:激怒

それからしばらくしたのち、食堂の長テーブルに座り食事を済ませその最中に聞けなかったことへの質問会のようなもの(無論話せることのみ)が開かれていた。その中で誰もが疑問に思ったこと、というよりそれが強烈過ぎてそれしか質問が出なかったことは、なぜ霊華がここにいるのかだった。九桜は自分の親のことを話しているときどこか禁忌に触れたような感じで話した覚えがある。そんな存在がなぜ?という疑問は当然のように出てくるだろう。まぁその答えもいたって単純なものだったのだが

 

「いまあっちの方ドカドカボンボンうるさくて寝れないだよね~。だから九桜がいるここにきて時間圧縮空間内で寝させてもらいにきたの」

 

「1秒当たり10分で圧縮してやったけどそれでも4分は寝てたから丸々1日寝たのと変わらん睡眠時間だったから、上での騒音は凄まじいことになってるんじゃねーの?」

 

「ホームの防音突き破って常に爆音と振動が襲ってる感じだったからね~……今回のは特にひどいよ」

 

あちゃ~と苦笑する九桜やその姿を見て微笑している霊華、そんな2人に向かって手を挙げた人物がいた。織斑千冬、先ほどまで気絶していて割と大半の人間から放置されていたが今はこうして復帰している。彼女と弟は5人娘が着せ替え人形になっているときにデュノア社長と今回の一件のあらましを聞いていたのだがそれはまた別のお話。ついでに言うと篠ノ之博士は気づいたら逃げ出していた。

 

「ん?織斑先生なにか追加であるのか?」

 

「ああ、話を聞いている限り戦闘が行われているようだがそれは……」

 

「ああ、問題ないんじゃない?だって今回のうちの母様と爺様の親子喧嘩だし」

 

「は?」

 

織斑先生が思わず漏らした一言は皆の心情をよくあらわしていた。親子喧嘩?そんなもので寝れないほどの爆音や振動が起こるものなのかと。九桜と霊華は顔を見合わせ非常に微妙な顔をこちらに向けた

 

「あー、お前らうちの母親をなんだと思ってる?まさかあの時見せた俺に毛が生えたみたいなの思い浮かべてるわけじゃないだろうが……あ、口に出さなくていい、こっちから読み取る」

 

手のひらを質問者側に向けあえて言う必要もないと、直接思考を読み取るという旨を伝える。大抵のことにはもう驚かない彼らは思い思いのことを思い浮かべる。その一つ一つを読み取っている九桜は笑いをこらえきれなかった……否、こらえる気もあったのかどうかわからない。笑い声の中彼は

 

「なんでお前らそろいもそろって三角帽かぶった童話のイメージの魔女想像してるんだよ」

 

こらえきれないといったようにあふれてくる笑いを止めようとせず、彼は続ける

 

「言っとくがうちの母親はどっちもそろって超絶美人だよ。てか母様に限ってはあれより綺麗な人は見たことがないぐらいには……ああ、そいえば爺様も同じぐらい美形だったな」

 

ぶつぶつと親の美形について考えを呟くになった彼の背後にいつの間にか霊華が回りこみ、彼の頭を抱き寄せて

 

「いやん九桜、そんなに褒めたら私すっごくうれしくなっちゃう」

 

ブンブンと9本の尻尾が左右に振られる。実際、彼が母親を褒めているところなど数えるぐらいしかなかったから仕方ないことだろう。だがそれは本来の目的ではなく、念話が極端に苦手な霊華が接触式の安定性が高い念話をするためだった。

 

『どこまで言っていいの?』

 

『話仲間みたいなもんだよ。そこまでいろいろとは話せんが……まぁあの2人についてぐらいは話すか』

 

コクンと母親がうなずいたのを見て彼が口を開こうと思ったその時

 

「それじゃ話すね」

 

母親の方が先に話し始めていた。一瞬虚を突かれた彼だったが、何事もないように黙って霊華の話に耳を傾ける

 

「まず今うちでドンパチやってるバカ2人について話さないとどうしよもないと思うからざっくりとだけど教えるね」

 

彼女は尻尾をゆらゆらと左右に揺らしながら

 

「まず私の伴侶、全てにおいて優れ万能。それに加えて最硬の障壁技術を持っている私の知る限り最も多芸な魔術師」

 

続け

 

「次に私の御義父様、うつ……私の伴侶が今の地位に至るまでは魔術師としての名誉を称号として全部持ってた人。今は大半の称号はあの人に移っちゃったけど、たった一つ、絶対に移らないと確信をもって言えるものを持ってる人」

 

少しためてから言った方が雰囲気出るかな~と思いちょっとためる。そして言おうとしたとき

 

「破壊力がすごいんだよあの人は」

 

自分が抱きしめているとこから声がした。ちょっと落ち込むがそんなことはお構いなしで

 

「発動に必要最低限の魔力しか込めてない最低位の魔術でもかすれば半身持ってかれる。ほんの少しでも魔力込めればそれで全身跡形もなくなる。とにかく破壊力が狂ってるレベルで高いだから」

 

「最強、最も強いという称号だけは絶対に未来永劫御義父様から移ることはない。ここまで断言できる理由もあるけどそれは教えられないかな~。九桜はそれを話ほどの間柄じゃないって言ってるし」

 

少し意地悪く視線を下に向ける霊華に九桜はただただ肩を落とすだけ、それは暗にそれが真実だというようだとしめし

 

「ま、そんなわけだ。この2人が親子喧嘩すればセカイが揺れる。どこにいたってやってるとわかるし、それが終わったかもわかる。無論戦場とするとこに結界は貼ってあるもののそれは魔術を逃がさなくするものであって振動もすれば音もダダ漏れだ。正直あの場で寝ようとは思わんね」

 

彼は回りを見渡し、一つうなずくと

 

「ま、この人が来たのはそんな感じの理由だよ。さて、そんじゃま墓参りでも行くかね」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パリ郊外、墓地

 

「結局大勢で行くことになったなぁ」

 

ぼそりと九桜が呟く。彼はたった今、墓参りについてくるといった食堂にいたほぼ全員を転移させたところだ。来なかったのは霊華とデュノア社長の2人、他の者たちは全員ついてきていた。

 

デュノア社長は仕事を途中で抜け出してきたらしく、質問の答えを聞いたら飛び出すように会社の方へ帰って行った。霊華の方はというとごはん食べたら眠くなってきたということなので九桜が泊まる予定の部屋で熟睡している。

 

九桜はデュノア社長からもらった墓地のどこに墓があるのかというメモを見ながら歩いていく。その中でふと気になったのが彼女の死因だった。自分が面倒を見なくなって数年、ずいぶんと腕の立つ占術師になっていたはずの彼女が自分の未来を見れないはずもなく、なんで死んだのかが気になった。

 

「この列を右にっと……なぁデュノア、アイツなんで死んだんだ?」

 

「え?お母さんのこと?」

 

「っとここか……ああ、良い占術師になってるはずのアイツがなんで一番身近な自分の死を回避できなかったのかと思ってな。はい、合掌」

 

質問の途中だがたどり着いたのだからしっかりと手を合わせておく。そして願うのは彼女の来世に幸多からんことをという願い。合掌をやめ、デュノアに向き合う九桜は

 

「なぁなぜアイツが死んだ。俺が教えたアイツはなんで死んだんだ」

 

「えっと僕は事故死だって聞いてるけど……大十字君?どうしたの震えてるけど」

 

デュノアがそういった次の瞬間であった。彼を中心に立ってはいられないほどの重圧が放たれた。その発生源は顔を俯かせ

 

「じ……こ……?ハ、ハハハ……事故だとふざけるなよ俺が直接指導し才能も開花させていたアイツが事後?ふざけるのも大概にしろよアイツがその程度の未来(・・・・・・・)を見れないとでも思っているのか」

 

そこまで一息で言ってゆっくりとあげられた顔から読み取れる感情は狂気。一体どこの馬鹿が俺の(・・・・・・・・・・)生徒に手を出しやがった(・・・・・・・・・・・)

 

『九桜冷静に』

 

「冷静に?オウル、俺は十分冷静なつもりだぜ?並列思考の半分ぐらいはな」

 

『なら圧を押さえて、彼ら潰れちゃうよ?』

 

「おっとそれはいけねぇな」

 

少し圧が緩み立てないほどではなくなったものの皆が皆目の前の存在に圧倒されて立ち上がるができない

 

今にも爆発させてしまいたくなる気持ちを抑え彼は腕を振るう。すると莫大量の空間投射型のモニタが墓地を埋め尽くさんばかりに現われていく。それはEU全土の国民データであり、彼がやすやすと見れるはずの物ではないが、それは一般常識的にだ(・・・・・・・・・・)

 

彼は自身を直接アカシックレコードにつなぎ膨大量のデータ1つずつを見分して探すよりもこのようにある程度分類分けされたデータの中からさらに細かく分け目的のデータを探すことの方が得意であるからこのような方法をとっている。

 

「この中より占術師のみを選択」

 

データの取捨選択を行い絞り上げていく。アイツを事故死にでも見せかけれるのは同じ占術師ぐらいなものだろう。しかもアイツよりも少し上の実力をもつ。そんな風に彼は検討をつけていた。

 

「続いて国家機関内の人間を選択」

 

はじめは莫大量だったデータが今は100件ほどのデータになっている。そして

 

「この程度の量に絞れたならあとは資料を吸うだけか(・・・・・)

 

彼はそのモニタを自分の周囲に配置し、髪を縛っていたリボンをほどく。その髪が地面に触れる

前にふわりと浮きあがりモニタに触れていく。

 

そのモニタ1つ1つがレコードの情報の索引のようなものだ。今の残っている情報すべてを一度に

読んでいく。彼はこの作業のことを吸うと個人的に読んでいた。それは知識をスポンジが水を吸うように触れた瞬間から読み取ることからだ。

 

読み取り終わったものから消されていくモニタ。だがその中で1つだけ残ったものがある。フランスの国会議員という名目で登録されている国家お抱えの占術師の女性だった。彼はそのモニタを見て、口角を吊り上げすさまじい形相になり

 

「みぃつけたぁ」

 

背筋が凍るとはこのことだろう。その場にいた皆がこう願った。早く終わってくれと。

 

そのようなこと露知らず、彼は頭の中で、20億の並列思考をすべて走らせ考えていた。ああ、この女をどんな風にしてやろうか。俺の弟子の幸せを奪いやがって。そんな思考が収束し出た結果を式にしていく。

 

一生消えぬ呪い……否、それよりもさらに深く何度生まれ変わっても魂に刻み込まれ消えぬ呪い。不幸であるが一生を不幸のまま終わり、誰にも看取られることなく、誰の記憶にも残らず死んでいく。死んだら罰にならぬからどんな不幸に襲われても必ず九死に一生を得る体質にしておこう。ああ、だけどそうするとTVが集まってきて悲劇のヒロイン扱いされそうだな。ならばそういった記録が人の目につかないようにしておこう。それから……それから……それから……

 

「せいぜい苦しめ、塵虫が。貴様の魂まで汚染する呪いだ。どんな目にあっても発狂もせず、生き残るようにしておいてやった。嬉し涙を流しながら、俺の罰を受け入れろ」

 

式は完成した、あとは式を元に陣を描きそれをこの塵に飛ばすだけ。彼はそれを1秒とかからず実行した。彼にはこれからどうなるかなぞ関係ないし思い知られるだけ。無形の身内に手を出したなと。そうした後ようやく圧が完全になくなった。彼から発せられていた威圧感もなくなり、1人、また1人と立ち始める

 

「おい大十字、今のは」

 

「なんだ織斑、興味があるのか?仕方ない奴だ答えてやろう。魂までを汚染し、未来永劫消えることのない呪いだよ」

 

すがすがしい、大仕事終えた後に見せる職人の顔のようにすがすがしい顔で

 

「俺の弟子を殺しやがった塵虫を何度輪廻を超えようとギリギリ生き残る不幸体質にし、そのくせ誰にもその記憶が目に留まらなく、死ぬときは1人で誰にも看取られず誰の記憶にも残らない。ああ、ついでで発狂もできないようにしといてやった。どうして、なぜ?私だけがこんなにひどい目に合うの?発狂できたらどんなに楽でしょうか……ばぁか、俺の身内に手ぇだした手前が悪いんだよ苦しみもがき続けろ虫けらが。そんな呪いだ」

 

その場にいた全員が凍りついた。コイツは何を言っている。確かに友人の母親が殺されたという事実はあるだろう。だがなにもそこまでやる必要があるのか?なんでお前は平然とそんなことができる

 

「ああ?言っただろ身内に手ぇ出したってな。これは罰だ、いくら末席とはいえ無形に手を出したらどうなるかってな。まぁ、来世では魔術とかそんなしがらみもないのに苦しみ続けることになるがなぁ」

 

彼は嗤っている。クツクツと喉をならして、愉快そうに。そんな彼の姿に皆恐怖した。怖い怖い怖い、なんなのだこれは。これが大十字九桜の本質とでもいうのかと。恐怖し、立ち竦む彼らと、クツクツと嗤っている九桜の頭に一つの声が響いた

 

『落ち着いて』

 

幼さはあるが鈴を転がしたような美しい声だった。その一言で終わらず、姿の見えない声の主が

『つらいのはわかる』

 

続ける

 

『悲しいのもわかる』

 

短い言葉が続いていく

 

『だけどこれは無いよ』

 

次々と

 

『貴方は化物じゃない』

 

その一言に真顔になっていた九桜は眉をピクリと上げ

 

「やりすぎだってかオウル、これは人が行うもんじゃないって」

 

『そう』

 

「だったらいつも言ってるだろ、俺は……」

 

『貴方は人』

 

断言する

 

『人の心を持ってるから選んだ』

 

「っ……」

 

彼にしてみれば頭をぶんなぐられた衝撃だっただろう。ずいぶん昔、管理世界での訓練も折り返しを過ぎ、まともに彼女と会話できるようになったとき言われたことだ

 

確かに一目惚れだったのもある。だけど見ているうちに気づいた。あなたは魔術師らしくない人の心を持っている、と。彼女にしてみれば長くしゃべったものだし、確かに素質を持っていて作り手が選んだからと言ってなぜ自分なのかという疑問が解けた時のことなのでよく覚えている

 

『だから』

 

「へいへい、次からは今生限りで許すようにするよ……これでいいか?」

 

『むっ……むぅ、仕方ない』

 

さよで、と軽口をたたきその場の皆に

 

「さて、帰るか。帰ったらデュノアに簡単な魔力制御と使い方を教えるついでに模擬戦やるぞ。そのあとにうまいもんたらふく食わしてやるよ」

 

にかり、と口角をあげ出口の方を指さし、歩き始める。そんな彼に追従するように動き始め

 

「ねぇ、さっきの声一体何だったの?」

 

「ああ、コイツだよっと」

 

耳に手を伸ばし鎖を解き、重力に従って落ちた無限光の魔道書をつかみ、本来の大きさに変える。ここまでは夏休みに入る前に見ていたから驚かなかったが、それとこれとどういう関係があるのか?

 

「いいか、高位であり長い時間を生きた魔道書は意思を持つ。そしてさらに長い時間を生きるとヒトガタをとれるようにもなる。まぁあまりに高位すぎると誕生した時からヒトガタをとれるやつもいるが……コイツみたいにな」

 

そういい彼女を持った腕を振って見せる。彼らはポカンとしているがこればかりがどうしようもないだろう。

 

「まぁコイツは凄まじく臆病で人見知りで無口でね。俺を含めた無形メンバーとそれと深くかかわってる人達ぐらいしかまともに姿をださんし言葉も発さない。喜べよ。俺が知る限り最もレアな現象に立ち会えたんだからな」

 

とそれ以後彼は鼻歌を歌いながら歩き続けもうここで話すことは何もないとでもいうように転移してきた場所から屋敷に戻り、準備を整えてからデュノア社所有のIS用訓練場につくまで何も語らなかった

 


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