翡翠の如き光を淡く放つ魔法陣を眺めつつ彼はボソリと
「これ本当に発動出来てるかわかんねぇな」
ホーム内ではリミッターを掛けたとしても
(戻る?)
オウルの澄んだ声が脳内に響く。確かにあの世界に戻れば実感できるであろうがおそらく大変面倒くさい事になるだろう。だがしっかりと発動確認できないことには作った意味も無く、そこら辺を考えると
「まぁ行くかね……エインお前は留守番なー」
ほいほいと返事を返す娘の声を聴きつつ倉庫からISを取り出し魔導書形態のオウルに巻きつけていく。そしてあの世界で掛けていたリミッターと同等の倍率のものを掛け転移魔導陣を作っていく。(正面玄関から出ていくのは今現在大変危険となっている)その際霊華に下へ向かうという連絡を忘れずに行っておく。
「んじゃ行ってくるわー」
(行ってきます)
「行ってらっっしゃーい」
転移魔導陣が発動し彼の体を包み込み転移が発動する。そんな様子を見つつ
「んー下のドッグで寝てたいけどこれじゃいけないからな~……まぁここで寝てるかな」
と勝手に布団を敷き始める。外は未だに爆音鳴り止まない
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寮自室
「よっと」
(到着)
久しぶりに戻ってきた寮の部屋で背伸びを一つ。ぐるりと部屋を見回すと何やら円筒状の機械が置かれていた。謎の機械を見ていると頂点の5センチほど上にウインドウが1つ映し出された。
「あ?篠ノ之博士?」
「あ、見えてるみたいだね。こんにちは大十字君」
「こんにちは篠ノ之博士、で?なんでこんなもん俺の部屋に置いてあるんだ」
「あーいっくん達が帰ってきたらすぐ分かるように置いてくれって頼まれちゃってね~……束さんは反対だったからまず束さんの所に情報がやってくるようにしてその後いっくん達のとこに連絡が行くようにしたんだよ」
「ほうほう織斑達がそんなことを……ちょっとお仕置きってかドッキリでも仕掛けてやるかな。篠ノ之博士、信号ってのはいつでも出せるんだよな?」
「いつでも可能だよ~。でもいいの?」
「ああ、とびっきりのドッキリネタがあるからな。ちょっとそれに関して準備するから良いって言ったら信号出してくれ」
「はーい」
その声を聴き彼は紙を取り出すとそこに魔力を込めていく。基礎的な意思投影の魔術だ。魔力の注入が終わるとそこには達筆な字が並んでおり、それを鳥型の式として放つ。今回は届ける相手が遠いので転送門をくぐらせ時間を短縮する。遠見の魔術でしっかりと転移したか確認する。白い鳥が目的の相手に向かって飛んでいることが確認できたので2,3度肯くと転移門を閉じ篠ノ之博士に
「よし、もう良いぞ。ドッキリの仕込みも完了したしな」
「ほいほいちょっと待ってね~」
画面の向こう、篠ノ之博士がなにやら機械をいじっている姿を横目に見つつ転移魔法陣をステルス状態で展開しておく。こうすれば織斑達が突入してきた時にばれずに全員が陣の中に入ってくれるだろう。そんな予想をたて陣の大きさを拡大しているとこんな言葉が耳に入ってきた
「あー窓から逃げる可能性もあるから誰か窓から侵入した方が良いんじゃないかな?」
(もう1名様追加でーす)
(たいりょ~)
生贄にウサギさんが追加され彼女のいる座標の半径5m程に生体限定型転移魔術の陣を仕込んでおく。
「それじゃ束さんはここらで退散させてもらうよ。いっくんや箒ちゃんに嫌われたくないしね」
「そうか、それでは“また会いましょう”」
そう返した彼の言葉に篠ノ之博士は苦笑し
「もう出来れば会いたくないんだけどね~それじゃ」
手を大きく振る篠ノ之博士の姿を最後にウインドウが閉じられた。
それから数分の後に彼が常時展開で発動させている探知術(ホーム内では使っていても自身にステルス掛けている連中ばかりなので使っていても意味は無いが発動維持していた)に反応があり
(廊下側にヤバい人いるんだけどマジで)
そんな廊下側からは来るのは織斑、篠ノ之妹、オルコット、凰、織斑先生の5人残りのデュノアとボーデヴィッヒは反応が上の階からなので窓から突入してくるのだろう。いつでも発動できるように発動しないギリギリのラインまで魔力を注ぎ込んでおく。廊下側の反応が部屋の前で止まった。恐らくは窓からの侵入組とタイミングを合わせるためだろう。探知術にある程度の動作を再現できるような組み合わせをした複合魔術を組み合わせ廊下の外を確認する。
(やり終わって思ったんだが、これ普通に透視つかっておきゃ済んだんじゃね?この術式だと影みたいな感じでしか見れないし……)
(ロマンは大事)
(そう言うもんかねぇ……お、そろそろ来るな)
(ドッキリスタート)
ドアノブをゆっくり回しているのはおそらく凰だろう。魂魄反応が今見えている誰よりも明るい女性型の反応だ。口の辺りが動いているのはカウントであろう。金属が擦れる音が小さく聞こえ、その音が聞こえなくなった瞬間、一瞬にしてドアが大きく開かれ廊下組の5人がなだれ込んでくる。窓側ではISを展開した2人が窓を塞いでいる。だがそれは意味をなさず
「はーい7名様ご案内でーす」
瞬時に魔力を注ぎ込み転移魔術を発動させる。陣が一瞬だけ光を放ち転移が完了する。光が収まった後残ったのは円筒状の機械だけだった。
束さんがなぜ彼と極々普通に話しているかというと、一度でも魔術に足を踏み入れ無形という組織を知ると覚える畏怖と尊敬の念があるからです。