虚が模擬戦の話を持ってきた数分後、結界を張った庭の真ん中に彼らは立っていた。
虚は九桜が着ているコートと似たものを羽織り、九桜はいつものコートを着て魔導書状態のオウルを左手に持ち今回の模擬戦の確認をしていた
「まぁ今回は九桜の速度を上げていく事を目的でやるけど、基本的にいつもの模擬戦と変わりないルールで行くからね」
「とすると……2~3日ぐらい戦いっぱなしになるのか」
「速度もすぐには慣れないから大体それぐらいにはなるんじゃないかな?」
速度に慣れるのは1~2時間もあれば慣れるのだが、その速度に物理、フェイント、術式を組み込んでいくのに時間が掛るので、あくまで予定の時間が2~3日である。早く速度に慣れれば後はどちらかが倒れるまで(まぁ虚が倒れることなど虚の両親のどちらかとやる時ぐらいだろう)戦い続けるだけだ。遅ければ、慣れるまで速度に慣れるまでやってその後倒れるまで戦闘するだけだ
「さぁて、やろうか九桜」
「お手柔らかにお願いしますよ。まったく」
彼らは右手を位相空間に製作してある倉庫に手を突っ込み、ある物を取り出した。
それは刀の柄だった。九桜の物は鍔も付いているオーソドックスな物で、虚が取り出したのは鍔が無い唯々柄だけのものだった。彼らはそれに魔力を流し込み刃を作り上げる。それは極薄の刃だった。薄さは単分子以下の薄さであろうその刃は、九桜の物が黒色、虚の物は若干銀色混じりの白色だ。
そして刃が完成すると刀を持った腕をだらんと垂らす。そして全身の魔力道に多量の魔力を流し、平行思考の内5億列を速度上昇の魔法用に回し、残りをいつでも使えるように複数の術式を使えるようにしておくことを忘れない。そして彼は
「オウルやるぞ」
彼はそういい左手に持った
虚がかつて行った世界では魔導書は1頁1頁に分かれ契約者と同化していたが、そのタイムロスを無くすため虚は使用者と魔導書を同化させることを選んだ。
彼は黒く染まったコートや髪の毛を見て、ため息を一つつき
「マジで
その言葉に対し、虚何を当たり前のことを言っているのかと言った口調で
「何言ってるの九桜……こういう素敵仕様はやってなんぼなんだよ」
またしてもため息をつき、彼は顔を引き締め
「いくぞ」
「いつでも」
そんな短いやり取りが交わされ、一瞬にして彼らの周りに結界が展開される。そして彼らの姿が消えると同時に結界内の地面が数十m消え去った。彼らの速度は今、光速を乗算単位の速度を瞬時に得て、未だに上がり続けている。その速度の中、剣戟を交わし、魔法を乱射しているのだ。
彼が40億年の修行の最後に計測した時の最高速は光速の154乗と光速の90倍。
その速度に至るまでおよそ-10^26秒ほど。彼らの体感速度では長い時間であろう。
そして今、彼の速度が過去の最高速になり、ここからは戦闘行為は散発的なものになり彼は速度を上げることを、虚は彼を速度に慣らすことを目的にするだけだ。
彼は身体強化の魔法に流す魔力を少しずつ多くしていき速度を上げていく。目の方は母と祖父、祖父の側近の模擬戦をしているのを見ていて強化さえしてしまえば神速に対応できる為、強化していくのは速度だけで、目の方は適正の魔力さえ流しておけばどうにでもなる
乗算の数が1つ上がるのに大体30分と言った所だろうか。気を抜けば制御が崩れ結界にぶち当たり想像も絶することになるのは目に見えているのに、彼らは笑っていた。
九桜は自分の速度がまだまだ上がることに楽しくなり、虚は息子の成長を喜び、2人とも笑っている。
彼と同化しているオウルは、そんな彼の速度強化の呪文に流し込む魔力の調整を行いながらも、小さく笑みを浮かべている。彼女もまた彼の成長が嬉しいのだ。
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三日後
彼らは未だ戦っていた。乗算が1つ上がるごとに1時間程慣らす時間を取り、そしてまた速度を上げていく。その繰り返しでついに神速――
いままで以上に体のコントロールが難しく、速度に振り回される彼の近くで滑らかに虚が疾走している。彼がバランスを崩しかけると即座に矯正するためだ。しだいに彼のバランスが取れてくると虚は彼の前を疾走し、彼はそれに追従していく。難しい軌道だとまだ軌道が逸れるがそれもしだいに追従できるようになってきた。そして虚は彼の前から離れ、彼は自由に体を振り回していく。
速度に慣れる為に使った時間は今までの3倍の3時間程だが、彼らにとっては膨大な時間を使ったことになる。
(それじゃぁ、本番いくよ)
虚の念話が戦闘の本番開始を告げた
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