時刻16:45
彼と彼女は旅館内の一室、一夏が寝かされている部屋の前にいた。彼は、うとうととしている彼女の頭を一撫でするとズボンのポケットの中から懐中時計を取り出し、時刻を確認する
「そろそろかね」
福音の攻撃によって大火傷を負った一夏は未だ目を覚まさない。だが、彼らはそろそろ何かが起きるであろうと思い部屋の前に待機をしていた。
「大気中の魔力が室内に吸い寄せられてる」
うとうととしていた彼女が眠たげな声でそう言った。
「ああ、機械制御式魔術かね。今白式の内部データを外部ハッキングしてるけど製作者は面白い仕掛けを積んだな」
彼は、彼女が見やすいように空中投影ディスプレイを見せる
「形態移行時に操縦者が怪我をしていた場合、大気中の魔力を使って全快させる仕掛け?」
「ああ、そうだ。まったくどこで魔導の知識を仕入れたんだろうな製作者は」
質問に答え、彼は部屋の方を見た。室内ではごそごそと音がしており、一夏がそろそろ出てくるだろう。彼は準備しておいた福音の現在地の情報入りのデータチップを取り出す。
取り出したタイミングで一夏が扉を開けて出てきた。一夏は彼らが居たことに驚いた表情を浮かべる。そんな一夏に、彼は
「福音の現在地の情報が入っています。早く行ってあげてください」
そう言い、データチップを投げ渡す。
「ありがとう、行ってくる」
一夏はデータチップをキャッチし、礼を言い走り出す。その後ろ姿を見つつ
「さて、じゃあこっちの用事も済ましますかね」
「準備は?」
「万全」
彼が走って行った方向とは逆の方向に歩き出す。彼の手にはISの
「
「発動される術式の精密さは最高峰だからね」
無の書――最高にして最硬の魔術師が書き上げた1冊。術式の精度を極限まで高め、攻撃魔術も多数まとめられているが、精査術式や状態異常術式、呪いといった術式を使用するときに真価を発揮する。
「じゃ、行きますかね。篠ノ之博士の精査及び、憑いているモノの退魔に……」
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16:50
「なかなか見つからんな。しかも探査術式に引っ掛かりもしない」
「もしかしてバレた?」
「可能性はあるな」
2人そろってため息をつき旅館から出る旅館内は粗方探し終えたので外の探索するためだ。海岸の方に歩いていくと
「居たな」
「居たね」
織斑先生と共に海岸に立っていた。彼らは顔を見合わせると
「織斑先生の方任せた」
「任された。押さえとくからきっちり決めてね」
頷き合う2人。そして
「ムーアの印において力を与えよ、力を与えよ、力を与えよ」
詠唱――そして彼の目の前に炎が表れた。彼はその中に手を入れる
「バルザイの偃月刀」
彼の手には細身の浅黒い剣が握られていた。彼はそれを背中に背負うと
「行くぞ」
「うん」
走り出した。だが、その速度は生物に出せる領域を超えており、彼らの居た場所には残像すら残る程の物であった。第1手で博士を掴み、精査術式を発動させる。彼はしくじるとは思いもしなかったが……
「読めてるんだなぁ、これが」
触れようとした瞬間、博士の体から.1mm程の位置に障壁が展開された。彼にとっては濡れた障子紙よりも破きやすいであろうその障壁だが、彼は
「あぶねッ」
なんと強引に体の向きを変え回避したのだ。奇襲がバレテいたのはさして驚くべき事でも無い。だがしかし、この行動は彼らしくもない。そして、止まった事により織斑先生の目にも彼の姿が映り
「大十字、貴様一体何を…」
「オウルッ」
織斑先生の声を遮り、彼は彼女の名を呼ぶ。彼女も、彼と同等の速度で走り、織斑先生を
「縛」
織斑先生の背中に揃えた人差し指と中指をあて、緊縛術式を発動。織斑先生の行動を封じる。
「一体……何を…した」
痛みに耐えるくぐもった声で織斑先生は彼女に聞いた
「動こうとしない方が良い。痛みが走るから。大丈夫、くおーが気でもおかしくならないかぎり、これから、彼がすることは忘れてしまうから」
それから、と彼女は付け加え
「少し黙ってて」
言葉とは短い呪である。力ある者が言葉を発すればそれは呪となる。彼女がしたことはそれだ。つまり、織斑先生は彼女が良いと言うまで喋れなくなった。
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16:55
「束さんの命を狙う輩なんてごまんと居るけど、君はずいぶんアグレッシブだね」
「言ってろ邪悪」
彼が戦闘を始めてから5分が経過した。近づこうとすると何処からともなくミサイルが出て回避しなければならなかったり、避けた方向から機関銃がでてきたりなど、なかなか博士に近づけずにいる彼は、もう博士の体ごとスッパリやっちゃってよくね?などと言う短絡的な考えになっていた
「いい加減捕まれよ、邪悪」
「束さんのこと邪悪って呼ぶ人も君が初めてだね」
アハハハ、と笑い声が聞こえる中彼は
(障壁は最高位の呪殺効果が付与されている。ぶち抜こうと近づくとミサイル、避けると機関銃……やっぱこれスパッと
(そうか……あ、一夏君達)
(嘘だろッ、もう少し遅いはずなのに)
彼の一瞬の動揺が隙となり
「おーわりっ」
博士の無邪気な声が聞こえ、彼のその体にミサイルが撃ち込まれた
無から無限が生まれた
無限から無限光が生まれた