現在16:50
織斑をマス・ブレードでホームランした後ピットに戻ってISを待機状態にした彼に織斑先生が
「私の弟はどうだった」
と、聞いてきた。彼は少し困ったような顔をし
「すこし苛立ちを覚えるくらいに凄まじい成長速度ですね、一夏君は。なんなんですか剣を交える度に洗練されていくというのは……」
「ほぅ大十字、貴様にそこまで言わせるか」
「ええ、オルコットさんの時はそこまで凄まじい成長速度は無かったので時間をかけて見極めようと思ったのですが……まさか私との戦いでは1合ごとに剣筋が鋭くなっていきましてね。予備パーツが少ないので破損すると修理が面倒なのともう1つ理由があって早めに終わらせました」
彼にしてはかなりの高評価であった…否、常人にこのような評価を出すのは初めてだったのかもしれない。彼の周辺には変態(技術面で)とキ○ガイ(発想と技術力が)が大変多くあまりいなかったのだ。
彼の試合を早く終わらせたかった理由は
「たしか今日、向こうから私の荷物が届く予定でしてね。それの受け取り待ちをしなければいけませんでしたので」
なんとも単純であった。だがそれが理由になるのだから向こうから送られてくる荷物の中に大事な物があるのだろう
「まぁそう言う訳でして、私はここで失礼します。では」
そう早口で付け加え彼は足早にピット内から出て行った。その場にいた人達は反応できずその後ろ姿を見送るしかなかった。
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時間は経ち17:10
彼は寮の自室で荷物が届くのを今か今かと心待ちにしていた。
『そろそろ届く時刻かな?いやはや私服と大半の術具を持ってくるのを忘れたのはちょいときつかったな。式さえ書けば何でも出来るけど正直言ってめんどくさいし、服も服でこの制服で外出はちょっとなー』
『イナゴの群れの如く群がってくるだろうね』
と相も変わらずAIと会話しながらだが……
[1年1組の大十字九桜さん、お荷物が届いておりますので正面ゲート受付まで来てください。]
放送が聞こえたと同時に彼はドアを開き、部屋から出る、ドアを閉めるという一連の動作を2秒で終わらせ苦労して見つけたあまり人が居ない道を通り寮を駆け抜け正面ゲートまでの道のりを全力で走り抜け正面ゲートまでたどり着き受付に
「大十字です。荷物を受け取りに来ました」
と笑顔でしかも息切れもせずにいった。
「ほ、本人確認のために生徒証の提示をお願いします」
若干引いたような声で受付にいた事務員がそう言った。
「どうぞ」
彼は自身の生徒証を提示し
「はい、確認できましたこちらがお荷物になります」
差し出された荷物を受け取り確認すると事務員にお礼を言いまたしても寮への道を全力で走り抜けていった。
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寮の自室に無事にたどり着きさっそく送られてきた荷物をひろげていく。私服である白いYシャツやロングコート、スラックスや何に使うのかさえ想像できないような変わった術具。それを衣類はたたみ、術具は机の上に置くなどしていた彼は、まだ何か入っている事に気付く。
「あ?郵送の荷物はこれだけだったはずだが……なんか他にも入れてたっけな俺」
荷物がしっかりとあるかどうか
「……ッ」
荷物入れの底に何度も読み返したのであろう。擦り切れタイトルが無 の 書と歯抜けになっていた黒い表紙の本が1冊入っていた。
「あの人だ、絶対あの人がやった」
その本を手に取り、茫然とした様子の彼の口からそのような言葉が漏れた。これは確かに、こっちに来る前にアメリカの家に厳重に封印術式を幾重にもかけ、次元断層結界の中で保管していたはずの物だからだ。
あの中からこれを取り出そうとする際にも正しい手順を踏まなければ即死級の呪いや攻撃呪文がぶち込まれ、間違いなく消滅する。そんなトラップまで仕込んでおいてあるものを九桜以外で取り出せるのはオウルと彼の家族ぐらいなものだが、こんなことをする人を九桜は一人しかしらず
「なにやってんだよ母様……ここに爆弾持ち込む気なんぞさらさらないからオウルもおいてきたのに」
『母様?』
「ああ、俺の知ってる中で最高で最硬の魔術師だよ。オウルはこれの危険性はわかってるから絶対にやらない。爺様もできるだろうが基本的にこっちにいる間はちょっかいをかけてこない。だからこんなことができるのは母様ぐらいなもんだ」
舌打ち一つ
「だけどあの人のことだから絶対なんか裏があってこんなことしてるに違いない。無意味なことなんぞ親子喧嘩以外やらない人だし」
『何か起こる?』
「絶対な。正直勘弁してほしいもんだぜ全く」
はぁ、とため息をつき机の上の術具の一つを手に取る
「まぁ今後でも占ってみるかねぇ……自分の未来占うの苦手だから織斑あたり占えばなんか出るだろ」
それにと続け
「最悪これ使えば大抵のことはどうにでもできるしなぁ」
術具を持っていない方の手で黒い本を触る。
「あ、やっべ卜占キット火使うじゃん、ここ火災警報器ついてんじゃん……どうしよ?報知器のとこ結界で囲めば問題ないよね」
まずは、未来。それからこれからのことを処理しようと、報知器の周囲に結界を展開していく九桜であった。