ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第7話 最初の犠牲者

 ホグワーツに入学したのなら、どれだけ平和に生きていても、最低十回くらいは不思議で神秘的な光景を目にするだろう。

 その中から一つ最高の景色を選べと言われたら、ショーンとしては毎朝来るフクロウ便の光景を推したい。

 最初の一羽を皮切りに、色とりどりのフクロウ達が雪崩の様に入り込んで来る。彼らは迷う事なく手紙の受け取り人を探し当て、彼――あるいは彼女――の元に手紙を綺麗に落とすと、あっという間に飛び去っていくのだった。

 そして最後にウィーズリー家の老フクロウであるエロールが、ジニーが食べようとしているマッシュポテトの皿に見事な胴体着陸を決め、大団円を迎える。

 そう、そんな光景――つまり、今だ。

 

「わあ、凄い! これで二十日連続だ! 写真を撮らせてよ!」

 

 ジニーの了承を得る前に、コリンは光の速さで写真を撮った。

 

「……笑ったら蝙蝠鼻クソの呪いをかけるわよ」

「それは大変だな。笑ってるやつがいないか、よく見ておくよ」

 

 ジニーの目があまりに本気だったので――実際杖を取り出しかけていた――ショーンは寸前まで飛び出しかけていた笑顔を、胸の奥の方へと大事にしまい込んだ。寝る前にでも開けることにしよう。つまり、思い出し笑いだ。

 ショーンがなんとか心を落ち着かせ、朝のステーキにかぶりつこうとしたその時である。

 フクロウの群れに紛れて、箒が飛んできた。

 奴はショーンの元へと迷いなく飛来し――額にぶつかった!

 飛行術の授業でケンカして以来、あの箒はあの手この手でショーンの額を叩こうとした。そしてその企みは大体上手くいった。

 

「やった、これで三十日連続だ! ハイ、チーズ!」

 

 了承を得るそぶりさえみせず、コリンが写真を撮った。

 

「……笑ったら浮遊呪文でシャンデリアに吊るす」

「勿論笑ったりなんかしないわ。友達の不幸を笑うほど、落ちぶれてないつもりよ」

 

 ショーンの目があまりに本気だったので――実際杖を取り出しかけていた――ジニーは寸前まで飛び出しかけていた笑顔を、胸の内のどっかその辺に乱雑にしまった。ショーンがいなくなった瞬間開けよう。つまり、言いふらすつもりだった。

 

 二人は恐ろしいほどの真顔で、揃って大広間を出た。

 ジニーの手にはマッシュポテト塗れのエロールが、ショーンの手には狂った様に暴れまわる箒が握られている。

 二人がいなくなった大広間では、コリンが鼻から蝙蝠のフンの様な鼻くそを吹き出しながら、シャンデリアに吊るされていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ジニーはエロールを戻してくると言って、フクロウ小屋の方へ行ってしまった。

 ルーナにでも会いに行こうか。レイブンクローの授業はなんだったか……ショーンがそう考えていると、サッと行く手を遮ってくる者が居た。

 

「おや、おや。これは大変だ」

 

 病的なまでに青白い肌、輝く様なプラチナ・ブロンド。パーツだけ見ればヘルガに近いが、受ける印象は全くの別だ。

 何処かで見た事ある様な……そう思ったが、結局思い出す事は出来なかった。

 その男の子はニタニタと笑いながら、ショーンの方へと近づいて来る。いやらしい目つきで、ショーンが手にしている箒を見ていた。

 

「一年生が箒を持ってる。非常に悲しいことに、校則違反だ」

「これは俺のじゃない。ホグワーツの備品だ」

「備品を持ち出すことも、立派な校則違反だという事をご存知ないのかな?」

「勿論知ってる。そして、知ってるかな? この箒は俺が持ち出したんじゃない、勝手に俺の所に来たという事を」

「へえ……。あのグリフィンドールの剣みたいにってことかい?」

 

 男の子はせせら笑った。

 

「僕なら――僕なら、真のグリフィンドール生なんかに選ばれた日には、恥ずかしくて外にも出れなくなるけどね。それってつまり、真の間抜けって事だろう」

「……何が言いたいんだ、あんたは」

「おや、気分を悪くさせたかい? ごめんよ」

 

 その男の子が少しも悪いと思ってないことは、誰の目から見ても明らかだった。

 ショーンはグリフィンドールの剣を抜いたことで、グリフィンドール生に良くされる事が多かったが、同じくらいスリザリン生に目の敵にされる事が多かった。

 今のように突っかかられた事も、一度や二度ではない。

 

「あー、手札の左から二番目のカードはなんだったっけっかな……」

「ハートのキング」

「スペードの6」

「クローバーのエース」

「やめてくれ! ホントに! どうか頼むよ、嘘を言わないでくれ。えーっと、それで……」

 

 上級生に少し厭味を言われた程度で保護者が出張らなければならない程、ショーンは子供ではないし、創設者達も子供の批判に一々腹をたてるほど子供ではない。

 

 四人の幽霊達は御構い無しに『空想トランプ』というゲームをしていた。そこにトランプがあるという仮定で、トランプゲーム――今やっているのはOld Maid(ババ抜き)――をする遊びだ。実際には何もないので、全てのカードを記憶していなければならない。

 ゲームの様子を見ると、珍しくサラザールが劣勢の様だった。

 

「それより、気をつけたほうがいい。もし僕がスリザリンの後継者だったら、真っ先に狙うのは君にするよ。ハリー・ポッターでもいいけど、あいつは残念ながら、本当に残念ながら……純血だからね」

 

 スリザリンの後継者。

 現在、ホグワーツ校内はその話題で持ちきりだった。

 サラザール・スリザリンが遺したとされる秘密の部屋を開き、隠されていた怪物を使役する存在。継承者の敵――つまりはマグル生まれを皆殺しにするのが目的だと言われている。

 

 しかし、ショーンは当の本人であるサラザールから、直接話を聞いていた。

 確かに他の創設者達に内緒で部屋を作ったし、その中に怪物も隠した。しかしその怪物は非常に高い殺傷能力を有しているが……猫を石に変える力はない。大方、継承者を騙った偽物だろう、と。

 継承者の偽物――行き過ぎた純血主義を掲げる、スリザリン生の誰かだろうとショーンは睨んでいた。

 

 余談だが、その話を聞いてヘルガは勝手にホグワーツの内装を変えたことと、危険な生物を学校に持ち込んだ事を怒っていたが、ゴドリックとロウェナは自分も同じ様な事をしていたので怒らなかった。

 むしろ、自分のちょっとしたイタズラがバレた時の事を考えて、サラザールを弁護したくらいだ。

 

「せいぜい気をつける事だ」

 

 プラチナ・ブロンドはそう言うと、マントを翻して去って行く。

 そして振り返りざま……チラリとショーンの方を見た。

 ショーンは背筋に寒い物が走るのを感じた。あの眼……普通ではない。

 スリザリン生は「真のグリフィンドール生」を目の敵にしてるのであって、「ショーン・ハーツ」を目の敵にしているのではなかった。しかし、あのプラチナ・ブロンドの少年は……。

 

 後に合流したジニーによると、あのプラチナ・ブロンドの男は「ドラコ・マルフォイ」というらしい。

 ショーンはようやく思い出した。

 『……これは、これは。どうやら、私の本が誤って紛れ込んでしまったらしい。ドラコ! 帰るぞ、急げ』

 本屋でジニーを助けた時、少しだけ見かけたあの少年だ。

 あの時、俺が奴の父親の邪魔をするのを見ていたんだ! ショーンは再び背筋に寒いモノが走るのを感じた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 大広間で、ショーンはルーナと魔法界のチェスをしていた。

 実を言うと、ショーンは中々にチェスが上手い。というのも、チェスが好きなサラザールに、手解きを受けていたからだ。

 幽霊達の中でチェスのルールを理解しているのはサラザールとロウェナしかおらず、しかもそのロウェナも強過ぎて相手にならない――チェスの盤面パターンを全て暗記している――ので、相手としてショーンを育成することにしたのである。あるいは、単にショーンと遊びたかっただけかもしれない。

 故にチェスにはちょっとした自信があったのだが、その自信は魔法界のチェスに容易く蹴散らされた。

 

 ショーンは白陣営なのだが、大革命が起き、キングは自陣のナイトに討ち取られてしまった。

 今はナイトが王様を勤めている。しかし王に就任した最初の頃は誠実だったナイトなのだが、クィーンに唆され、今は悪政を敷いていた。

 その現状を嘆き、再び革命を起こそうとしたビショップだったが、ポーンの一人が裏切り密告。今は敵国(黒陣営)に亡命している。

 ショーンはその現状をどうにかしようと、クィーンに賄賂を渡してみたのだが、すげなく突き返されてしまった。どうやらクィーンは嘘の恋愛を演じている内にナイトを本当に愛してしまい、もうどうしていいのか自分でも分からなくなってしまっている様だった。

 

 ルーナの黒陣営では文明開化が起きていた。武力は放棄している。その上王政ではなく、民主政治になり、王ではなくポーンが取り仕切っていた。

 仕事を無くしたキングとクィーン、ナイトは隅の方で無職暮らしをしていた。

 上流階級の駒達が職を無くしてしまった事を嘆いたルーナは、ルークと一緒にハローワークを開設しようとしているようだ。

 

「クィーンはfの2へ」

「ダメ! 今の私に、あの人の近くに行く資格はない!」

「キングはhの8へ」

「ワシは働きとうないッ!」

 

 ショーンのクィーンはオイオイと泣き崩れ、ルーナのキングは寝っ転がって尻をかいた。

 二人が呆れ返っていると、待ち人来たり、ジニーがやって来て。

 

「お待たせ! ……チェスをやってたの?」

「やってたというか、やらされていたというか」

「でも、とっても面白かったよ」

「そう。それじゃあ、今度ロンとやるといいわ。あいつの数少ない特技よ」

 

 こんな訳のわからない遊びが得意なんて、なんて凄い人なんだろう!

 ショーンの中でまた一つロンに対する評価が上がった。

 

 合流した三人は、競技場に向けて歩き出した。

 今日はクィディッチの試合、それも宿敵スリザリンとの試合だ。グリフィンドール生として応援しないわけにはいかなかったし、そもそもジニーに少しでも関わった人間なら、ハリーを応援しなければならなかった。でなければ、ハリー・ポッター教の最も敬虔な信者であるジニー――二番手はコリン――が、躊躇なく呪いをかけにくるからだ。

 

「コリンはどうしたの?」

「あーなんか、ハリーをベストアングルで撮るって言って、何処かに行ったわね。多分、競技場に忍び込んだんじゃないかしら……」

 

 ジニーの予想は正しかった。

 競技場に着くと「ほら、あそこだよ」と言ってゴドリックが指差した先、ピッチの端の方でカメラを構えていた。

 

 拍子抜けするほどアッサリ、グリフィンドールはスリザリンに勝利した。

 序盤こそブラッジャーがハリーに襲いかかり続けるというアクシンデントがあったが、ハリーはグリフィンドール生らしい勇気を見せた。ウィーズリーの双子の加護から抜け、一人果敢に戦ったのだ。

 それまでにグリフィンドールは40対0という屈辱的なスコアをつけられていたが、そこからは順調に盛り返し、直ぐに追い抜いた。

 そしてニンバス2000に乗ったハリー・ポッターを止められる選手は、喜ばしいことにスリザリンにはいなかったのである。

 

 その後ハリー・ポッターの右腕の骨が無くなるという些細なアクシンデントが起きたが、試合の後だったので特に問題はない。

 

 試合が終わった後、大雨の中を三人が走っていると、マクゴナガル教授に呼び止められた。

 応援のしすぎで喉がカラカラだったので、出来れば勘弁してもらいたかったが、マクゴナガル教授は交渉の席にはついてくれなかった。

 通された先は、意外なことに保健室だった。

 もしかしたら今から体罰を受けることになるのかもしれない。その後直ぐに治療出来るようにここに……? ショーンはそんな事を考えていた。

 

「少しショックを受けるかもしれませんが……」

 

 すっかり怒られると思っていた三人は、マクゴナガル教授が出した優しい声に面食らった。

 

「最初の犠牲者です。恐らく……あなた方に合流しようとしたところを襲われたのでしょう」

 

 保健室の中では、マダム・ポンフリーがベッドの脇に立ち“誰か”を甲斐甲斐しく世話していた。

 その“誰か”とは、ハリー・ポッター教の二番目に熱心な信者であり、ショーンを寝不足にしている原因の人物だった。

 つまり、襲われたのはコリン・クリービーだったのだ。












今世紀最高の魔法使いであるダンブルドアが恐れるショーンが恐れるドラコ・マルフォイ。
やっぱりマルフォイなんだよなぁ……。

次回から少しシリアスです。


オマケ、不死鳥の騎士団編のドローレスが様々な条例を作るのをを見て、こんなのあったらいいなと思って書きました。
【フレッド&ジョージ・ウィーズリーの禁止されたイタズラリスト】
第1条 イタズラグッズを持ち込んではならない。
第2条 イタズラグッズを校内で作ってはならない。
第3条 森と庭でも禁止。
第4条 トイレの便座をネックレスの代わりにしてはならない。
第5条 フィルチ管理人を痩せたトロールと言ってはならない。
第6条 トロールを太ったフィルチと言ってはならない。
第7条 魔法生物に〇〇のフィルチというアダ名をつけてはならない。
第8条 アルバス・ダンブルドアの名を語りフィルチ管理人に解雇通知を送ってはならない。
第9条 アルバス・ダンブルドアの名を語りフィルチ管理人に恋文を送ってはならない。
第10条 フィルチ管理人の靴に歩くとブタの鳴き声がする様魔法をかけてはならない。
第11条 馬の鳴き声も同様である。
第12条 新入生にスネイプ教授は実は吸血鬼だという嘘を刷り込んではならない。
第13条 新入生にグリフィンドールの遺産だと言ってクソ爆弾を渡してはならない。
第14条 禁止とは紛れもなく禁じられ止められているという意味であり、隠れてやれという意味ではない。
第15条 特定の生徒の臀部にヒッポグリフの刺青があるという嘘をついてはならない。
第16条 教室にたどり着けず困ってる新入生に「この廊下は全裸にならなきゃ通らないんだぜ」と嘘をついてはならない。
第17条 マグゴナガル教授の名を語り弟に恋文を書いてはならない。
第18条 マグゴナガル教授の名を語り弟に交際を申し込んではならない。
第19条 マグゴナガル教授の名を語り弟に婚姻届を送ってはならない。
第20条 マグゴナガル教授の名を騙ってはならない。
第21条 マグゴナガル教授が猫に向かってにゃーと言っていた事を言いふらしてはならない。
第22条 第21条を言いふらしてはならない。
第23条 新入生にスリザリン生は純潔主義の潔癖症だと教えてはならない。
第24条 クソ爆弾をフィルチ管理人に向かって投げてはならない。
第25条 フィルチ管理人をクソ爆弾に向かって投げてははならない。
第26条 監督性と書かれたバッジを生産してはならない。
第27条 スネイプ教授の黒いローブを巨大な虫眼鏡で観察してはならない。
第28条 クィディッチのプレー中に偶然を装ってスリザリの観覧席に向かってブラッジャーを叩きつけてはならない。
第29条 ハグリッドにドラゴンの卵を買わせようとしてはならない。
第30条 ホグワーツで働く屋敷しもべ妖精達に「卵と鶏どっちが先に産まれたと思う?」などの哲学的質問を投げかけてはならない。



【アーガス・フィルチ管理人事務所前掲示板より抜粋】


※破るとセドリックの成績が下げられます。

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