「(なにか、何かあるはずだ!)」
ショーンは思考を加速させていた。
いくら世界最高の選手だと言っても、相手は人間なのだ。
例え分が悪い戦いだとしてもひとつくらいは欠点があるはずだし、一〇点くらいは点が入れられるはずなのだ。
「さあ続いてもコノリー・チームの攻撃です! ケイティ選手を難なく突破したコノリー選手、対するはまたしてもショーン選手です! 今度こそ止められるのでしょうか!」
コノリーの前に躍り出る。
しかし、分かっていた。
こんなのは無駄だ。
「おっとコノリー選手、パスを選択! サイドから駆け上がってまたしてもゴール――ならず!? なんと、ジニー選手です! 今まで一切ディフェンスに回らなかったジニー選手がディフェンスしています!」
ゴールの側でジニーが、相手の選手からクアッフルを奪い取った。
――チャンスだ!
ドリブル能力の低いジニーでは、クアッフルをゴールまで運べない。ここは一旦パスを受け取り、ジニーがゴールまで行ってから、もう一度パス。これが安全策だ。
一瞬でルートを考え出したショーンは、ジニーにパスを要求した。
しかしジニーはそれを無視して、ひとりで突っ込む。
一人、二人とショーンのマークに付いているコノリー以外の全てをかわし切った。
最後に駆け上がって来たケイティにパス――することなく、ひとりでシュート。
強引に叩き込まれたクアッフルは、キーパーを押しのけて吸い込まれていった。
「私はッ!」
そして、ジニーが吠える。
得点した後だというのに、彼女らしくもない様子で。
「あんたの――――いいえ、ショーンのおかげで今までスーパー・エースだった。ディフェンスとゴール・キーパーを蹴散らして、最高のゴールを決めてきた。でもね、セドリックやデメルザをみて気がついたの。私は独りよがりで、一人じゃ何も出来なかった。ダサい女だったわ」
ショーンは息を呑んだ。
普段のジニーからは想像もつかないほど穏やかな顔をしていたからだ。どこか悟った様な、それでいて美しい表情だった。
「スーパー・エースはもうやめにするわ。これからはあなたにパスを貰わなくたって点を入れるし、ディフェンスもする」
今、見せた様に。
「ただチームの――いいえ、ショーンがどうしようも出来ない時に助けられる。私は、普通のエースでいたい」
ジニーは近づいてきて、手を差し伸べた。
「対等でいきましょう」
「私とあなたはいつだって対等。助けられるだけの存在でいたくない。これまでだって、ずっとそうだったじゃない」
「だからもっと私を頼って」
「ショーンも負ける。けれど、私達は負けない」
「私達が組めば最強よ。そうでしょ、相棒」
差し伸べられた手に、握手で返す。
ジニーはいつものようにショーンの手を握り潰そうとせず、ただにっこり笑った。
吊られてショーンも笑う。
「準備はいい? 司令官」
「もちろんだ、エース。……待たせたな」
「あんたが寝坊するのはいつもことよ」
「違いない」
話しながら、ふと思う。
いつからか変なプライドが出来ていた。後輩が出来たからか、注目されるようになったからか。クールでいようとしていた。結局の所、昔も今も変わらない。自分は泥臭く戦って、失敗することを恐れていた。
ジニーがそうしたように、自分もプライドを捨てよう。ショーンはそう思った。
「次、俺は必ずコノリーを抜く。信じてくれるか?」
「疑ったことなんかないわ。思う存分やりなさい。どうなろうと、必ず私が助けるから」
「……ありがとう」
「お礼は終わった後に言いなさい。私もそうするわ」
「そうだな。勝って、終わろう」
「ええ。約束よ」
「約束だ」
ジニーと別れて、ピッチの中央に立つ。
不思議なほど会場は静かだった。
普段のショーン達からは想像もつかない会話をしていたのに、噂話どころか実況の声さえ聞こえない。
そんな中で、目の前のコノリーだけが話しかけてくる。
「いいものを見せてもらったよ。若い頃はなりふり構わずキャリアだけを追い求めていたけど、最近はこういうのも悪くないかな、と思うんだ。その方が思い出になる」
「余裕そうだな」
「ああ。大見得を切っていても、僕にはわかるよ。君は戦術を全て出し切った。ここから僕を出し抜く方法はない」
「出し抜きなんかしないさ。正面から堂々と行く」
クアッフルを手の中で転がす。
コノリーの言う通り、ショーンにはもう新しい戦術はない。しかし戦術でないところでなら、まだ見せてないものはある。
棚の奥に仕舞い込んだ、最初からあったけど、誰にも見せたことがないモノ。
ヘルガが作り出した仮想空間の中で、ショーンはしばしばゴドリックと練習していた。
結果は196敗、1勝。
そう、一度勝ったのだ。その時に編み出した技を使う時がきた。
――ショーンは正面からクアッフルを投げた。
コノリーの手の中に収まる。
そのクアッフルを叩いて落として拾い上げて。
ショーンはコノリーを抜いた。
◇◇◇◇◇
ハーマイオニーが杖を振ると選手達の動きが止まった。
少し前に巻き戻り、同じプレイをスローでやり直す。そうしてもやはり、ショーンが何をしたのかハーマイオニーには分からなかった。
「ここです。ショーンは何をしたんですか?」
「何もしてないよ。ただクアッフルを投げただけだ。ハーマイオニーちゃんでも出来る、簡単な基礎プレイだよ」
ただし、とチョウは付け足した。
「その完成度があり得ないくらい高い。クィディッチに教科書はないけど、作るとしたら『パス』の項目にはこのパスが挿絵で載るだろうね。指の力のかかり具合、回転とパスの勢い、精確さ、全てが完璧だよ。私でもこういうパスは出来る時があるけど……毎日練習して一月に一回出来るかどうか、ってくらいだよ」
「それをショーンは狙って出した、と」
「そうだろうね。そして上手い人ほど、このパスに“ハマる”。観てた私もそうだった。無限に飛んで行けばいいのに、って思ったくらい見惚れたよ。コノリーさんがパスを受けて皮の音が聞こえたときなんか、自分が受けたと錯覚したくらい」
「つまり、コノリーさんが抜かれたのは、パスに見惚れてたから?」
「そうだよ。奇策を張り巡らせたショーンくんの必殺技は、実は凄く基礎的なものだったってわけだ」
「でも、なんでずっと使わなかったんですか? ショーンの性格なら、負けそうになったらすぐ使いそうなものですけれど」
「それはね、ハーマイオニーちゃん。恥ずかしかったからだよ」
「恥ずかしい?」
「練習にもあんまり参加しないで、でも強い。そんなキャラ付をしてたからね。けれど、あんなパスをしたら直ぐに分かっちゃうよ」
結論。
「裏で誰よりも、ショーンくんは基礎練習をしてたんだ。完璧なパスをいつでも出せるくらい。毎日毎日、何千回何万回と」
◇◇◇◇◇
「ショーン!」
「ジニー!」
阿吽の呼吸でパスを出す。
その動きに誰も着いて来れない。かつてダームストラングと戦った時も、二人のコンビネーションは破られなかった。
最後に、ジニーがシュートを決めるフリをして、ショーンにパスを出した。
受け取ったパスはジニーのものとは思えないほど丁寧で、取りやすい。
この一〇はあんたが決めなさい。
そんな言葉がパスから聞こえて来そうだった。
シュート。
タネも仕掛けもない、ただのシュート。
綺麗な真っ直ぐ飛んでゴールの中に吸い込まれていった。
その瞬間、身体の中をあり得ないくらいの喜びが溢れてくる。
初めてクィディッチをした時や、チョウに勝った時よりも。どんな時よりも嬉しかった。
あまりの歓喜に震える身体を動かしてジニーを見ると、彼女も泣きそうな顔で笑っている。
どちらともなく近づいて、両手を挙げた。
「「しゃあ!!!」」
バッチリ息の合ったハイタッチが決まった。
会場からも爆発的な歓声が飛んだ。例え空が落っこちて来ても逆に吹き飛ばしてしまいそうなくらいの勢いだ。
その中央で、ショーンは誰よりも声を張り上げた。
ジニーと二人で、肩を叩いてお互いを讃え合う。
「――ッ!」
まるでシャワーを浴びている最中に冷たい氷を首筋に当てられたような、鋭い冷気が差し込まれた。相手が誰かなど、言うまでもない。
一瞬の、されど無視できない寒気。
次のプレイで確実に何か良くないことが起こる。ショーンはそう予感し、グッと身体に力を込めた。
「初め!」
審判の合図と共に、コノリーは――ジニーにパスを送った。
「ジニー!」
「狙いは私ってわけね。受けて立つわ!」
クアッフルを取ったジニーが構える。コノリーはそれを奪うフリをして……額を箒の柄で切り裂いた。
鮮血が舞い、おびただしい血が流れる。
ジニーは方向感覚が分からなくなり、箒から落ちて地面に落ちた。
「タイム!」
審判が試合を止める。
選手はもちろん、控えの選手達もジニーの元に駆けつける。しかしショーンだけはその場に残り、コノリーをにらめつけた。
「てめえ、わざとだろ」
「いいや、不幸な事故だ。それより君も早く行ってあげたほうがいい。箒は魔力の塊だ、傷口に何か良くないことが起きても不思議じゃない」
「チッ!」
いくら噛み付いても、故意か無過失か判断するのは審判だ。ショーンは舌打ちしてジニーの方へと飛んだ。
「大丈夫か!?」
「平気よ。見た目ほど切れてはないわ。ただ、血が止まらないのよ」
クィディッチのルール上、出血が止まるまでは試合に出れない。
いや仮に出れたとしても、傷口はちょうど右眼のやや上だ。これでは視界が塞がって空を飛ぶことすら難しい。
「マダム・ポンフリー、どうにかなりませんか?」
「……難しいです。そもそも額は血が出やすい場所ですが、箒の魔力が傷口に残って……、しばらく時間が経たないと………」
マダム・ポンフリーはホグワーツで最高の医者だ。彼女でどうにもならないと言うことは、誰にも不可能だ。
「待って、待ってください!」
「コリン?」
「ああ。なんだよ、君達だけで盛り上がって! 僕とルーナだっているんだぞ! 試合じゃ何にも役にも立たないけど、それ以外ならなんだってやってやるさ!」
駆けつけたのは、コリンとルーナだった。
ルーナは自分のローブが血まみれになることなんか無視して、ジニーの傷口を押さえていた。
「ジニー。覚悟はあるかい?」
「この血が止まるなら、死んだっていいわ」
「そう言うと思ったよ」
コリンが取り出したのは小型のナイフだ。
「君の額を切り取る。そうすれば魔力が染み込んだ場所はなくなって、マダム・ポンフリーが治せるはずだ」
「く、クリービー!?」
「出来ますよね、マダム・ポンフリー!」
「出来ないか出来るかで言えば可能ですが、しかし! いえ、仮にやったとしても、間違いなく痛みで気絶します! 額を切り取ると言うことがどれだけの痛みを伴うか分かっているのですか!?」
「私、やるわ」
「う、ウィーズリーまで!」
「ルーナ、あれを出して」
「はーい」
ルーナがポーチから取り出したのは、沢山の気つけ薬だ。
「気が利いてるじゃない」
「うん。私が支えてるから、頑張ってジニー」
ルーナはジニーの手を握った。
「ショーン。私は必ず戻って来るわ。それまで耐えなさい」
「はっ! 出番がなくなるくらい点差付けといてやるよ」
そして、控えの選手――彼女の肩を叩く。
「つーわけで、出番だデメルザ」
「は、はいっ!」
「あんた、私の代わりに入るんだからね。ヘマしたら承知しないわよ!」
「任せてください! 先輩達の想いは無駄にしません!」
デメルザと、ケイティ。
二人を連れて空へと上がる。
ケイティは前と同じように目一杯サイドに広がった。
デメルザは……ジニーよりもやや後ろのポジションを取った。ショーンと並ぶというより、サポートをする体制だ。
「お友達は大丈夫かい?」
「お陰様でな」
「それは良かった」
笑みを見せたコノリーに対して、自分の中で何かがキレた。
……いい加減、頭に来ていたのだ。
最初から続いたラフプレーの連続と、点を取られたストレス。そして、親友を傷つけられたこと。
いくつもの要因が、ショーンの頭から一切の余分を取り払った。
「始め!」
審判の開始の合図さえ遠い。
口の端からヨダレが垂れたが、ショーンは気がつかない。頬を掠めた虫も、風に舞い上がった草が目を撫でたことにさえ。
それほどまでにショーンは、ひとつのことに集中していた。
「ふっ!」
一息。
一瞬にして距離を縮めたショーンは、ひとつフェイントを入れた。
それを皮切りにフェイントの数を増やす――たしかにショーンの戦術は全て通用しなかった。
しかしそれが単発ではなく、一度に全て来たらどうか。
コノリーの前には、ショーンの無数の可能性が広がっていた。
この中からひとつだけを読み解くのは不可能。
必然。
コノリーは抜かれた。
しかしそれで良いと思った。
ファイア・ボルトがあれば直ぐに追いつくことが出来る。今の集中状態にあるショーンのパスを取れるのは、ジニーだけだと考えたのだ。
だが、パスは通った。
デメルザだ。
彼女にはチョウから叩き込まれた論理がある。そして今のショーンは、奇抜な技よりもむしろ、基礎的な動きの応用が多い。こうなれば全てを読めなくても、パスを受けるくらいは出来る。
パスを受けたとき、デメルザは背筋がゾクゾクした。
普段ショーンから受けているパスよりも、今日のはずっと強かった。受けただけで手の皮が剥けてしまったくらいだ。
しかし、そんなことは気にならなかった。
「(私は、なれたんだ。先輩が信頼してパスを出せる選手に!)」
喜びと、次のプレイへの楽しみ。
痛みを気にしてる余裕なんかない。
「まだだ!」
しかし彼女の前では既に、スリザリンの選手がディフェンスの構えを取っていた。
ここで時間を稼がれては不味い。
コノリーが追いついてくれば、デメルザでは対処のしようがないからだ。
「先輩!」
ショーンに向かってパスを出す。
しかしそれを読んでいたのか、コノリーがショーンの目の前に躍り出た。もう一度、一対一に持ち込む気なのだろう。
「なにっ!?」
しかしショーンはパスを取らず、身をかがめてクアッフルを避けた。
受け手のいないクアッフルはサイドの方へと駆け抜けていく。
――最初から、ただ一人。
ショーンやジニーが進化する中で、取り残された選手がいた。しかし彼女は腐らず、ただ自分の仕事をこなし続けていた。
無論、今、この瞬間も。
ファイア・ボルトを持つ選手に対して、サイドでのスピード勝負を仕掛けるという気の遠くなる作業を淡々とこなしていたのだ。
コノリーの教育もあり、スリザリンの選手達の動きは悪くない。しかし付け焼き刃では身につかないものがある。
それはスタミナだ。
「君達の代は凄いよ。みんな天才で、目を離せば進歩してる。情けない先輩でごめんね。だけど、基礎練や走り込みなら、私だって負けてない!」
場外ラインギリギリの所で、ケイティ・ベルはクアッフルを取った。
スリザリンの選手も追いかけてはいるが、済んでの所で追いつけない。頑張れない。毎日の練習というバックボーンがないから。
対してケイティのバックボーンは濃い。チョウという同世代のライバルと、追い上げてくる後輩に抜かれまいと、毎日血反吐を吐くような練習をして来た。
それに何より……。
ケイティの頭の中にいる、最高のクィディッチ馬鹿のウッドが笑った。
「やっと私も、先輩らしい所が見せられたかな」
「バカ言え。いつも頼りにさせてもらってるよ」
ケイティのシュートがゴールに叩き込まれた。
「グリフィンドール追加てーーーーーんッ! ショーン選手・デメルザ選手・ケイティ選手! 各世代の選手による息の合ったチームプレイで得点! グリフィンドール・チームがここまで息を合わせてたことがあったでしょうか!? いや、なかった。今日は一味違うぞグリフィンドール!」
実況が吠える。
観客も歓声をあげ、紅い旗を力の限り振った。
「ちっ! 見せつけてくれんじゃないの。コリン、早くしなさい! 私もプレイしたくなって来たわ!」
「待って待って! てか君、よくそんな喋れる余裕あるなあ!」
「余裕よ、余裕」
コートの脇ではコリンがジニーの額を切り取っている真っ最中だった。
ジニーの言葉が強がりであることを、コリンは見抜いていた。いや、コリンでなくとも気づいただろう。ジニーの顔は今や、寝起きのスネイプよりも青白かった。ルーナを握る手もぐっと力がこもっている。
しかしコリンはそれを言わない。ルーナも、少しも痛いそぶりを見せなかった。
「くそっ!」
反対にスリザリン側では、ひとりの選手がベンチを蹴っていた。
グリフィンドールが勢いづいたから――ではない。
「なんで俺はこんな所にいるんだ!」
試合に出れない無力感でいっぱいだった。
ピッチにいる選手は今この瞬間も成長しながら、間違いなくホグワーツの歴史に残る試合をしてる。
そんな状況なのに、本来正選手であるはずの自分がどうしてベンチに座っているのか。
偏に、コノリーの戦術と合わなかったからだ。
グリフィンドール・チームなら……ショーンならば、きっと彼を出場させたことだろう。
試合への渇望という気持ちの強さを知っているからだ。
しかしコノリーはそんなことはしない。ここに来て日が浅い彼は、選手達の個性を知らないのだ。
「行くぜ!」
喜び、期待、飢え。
様々な感情が渦巻くピッチの中央で、ショーンは駆け出す。選手達にとって周りの想いは関係ない。
あるのはただ純粋な勝ちへの欲望だけだ。
「結局、そういうことなんだよね」
「どういうことです?」
今まで黙って見ていたゴドリックが口を開く。
スポーツなどちっとも分からないロウェナはこてんと首を傾げた。
「コノリーはかなりのキャリアを積み上げて来た。今のショーンじゃあ勝ち目はほとんどない」
「そ、そんなことないです! 私のショーンは負けたりなんかしませんよ! 少なくとも私は、絶対に勝つって信じてます!」
「だから、そういうことだよ。コノリーが積み上げてなくて、ショーンが積み上げて来たものがある」
「はい、分かりました! 私への愛!」
ショーンがこの会話を聞いていたら「そんなものはロウェナの胸ほども積んでない」と言っていただろう。
「ホグワーツで、ショーンは色んなことをして来た。それが回り回って帰って来てるんだ。だけどコノリーにはそれがない」
試合が止まった。
審判が止めたのだ。
「だからああやって、無理をしてでも友達が駆けつけてくれる」
それはつまり、選手交代を意味する。
デメルザがピッチを出て、代わりに――ジニー・ウィーズリーが帰って来た。
すれ違いざま、ジニーはデメルザの肩を叩いた。
それはジニーなりの、デメルザを認めた証だ。
「……まあ、ショーンは世界一カッコイイですから。人が集まるのは当然です。そんなショーンの隣にいるのは私なんですけどね、ええ。隣というか、寄り添ってる的な?」
「そんなマヌケな妄言いってる暇があったら試合を観てなよ。そろそろ終わるよ」
「そうなんですか? ゴドリック、あなたの読みではこの後どういう風に?」
ジニーの帰還で更に勢いを増したグリフィンドールは止まらない。
中央でショーンが鮮やかに周りを活かして、選手達はそれに応える。そこにはプライドから本気を隠していたショーンも、自分が好きなオフェンスだけしていたジニーも、才能ある後輩に卑屈になっていたケイティもいない。
完璧にひとつのチームだった。
「負け、かな。団結するまでに時間がかかり過ぎたよ」
またひとつ、グリフィンドール・チームが得点を挙げた。
これで更に勢いを上げるかと思われたが、しかしそうはならなかった。
怪我の治療をしたせいでジニーは明らかに疲弊していた。更にショーンも、常に中心でクアッフルを触り続けていた為に指先の力が弱くなり、コントロールがおぼつかない。
そしてケイティにも疲れが見える。
これを見てコノリーは時間稼ぎに重点を置くプレイをし始めた。
グリフィンドール・チームは攻撃の手を激しくしたが、時間稼ぎに徹するコノリーを破るのは容易ではない。焦ったところ、裏を突かれて逆に決められてしまうこともあった。
それでもグリフィンドール・チームはなんか追い上げたが、やはりゴドリックの言った通り、追いつくよりも時間が来てしまった。
結果は一一〇対八〇。
少し、及ばなかった。
「整列!」
最後にピッチの真ん中で、握手を交わす。
負けたショーンの方から手を差し出して、コノリーが取った。
「負けたぜ」
「勝ったよ」
ニヤリとコノリーが笑った。
「確かに試合には勝った。だけど、勝負に負けた。最後は君の方が格上だった」
「仲間のおかげだ」
「そういうことも含めてさ。君はいい司令官だ。そんな所も含めて、申し込みたい。将来はプロを目指してるんだろう? 僕のチームに来ないか?」
強敵を讃えるとびきりの笑顔をしたコノリーの提案を、ショーンは普通に断った。
「いや、目指してないけど」
「えっ!? あ、あんなに上手いのにかい!? じゃあなんでクィディッチをやってるんだ!」
「友達に誘われたから。その後は成り行きだな」
「えぇ……。そっちのお嬢さんは?」
「好きな人がやってるからよ!」
「そんな女子みたいな……」
「失礼ね、正真正銘の乙女よ」
「いや、でも、そんなふわっとした理由でよくあんなに頑張れるな」
「俺たちは勝負となったらいつだって全力だ。ホグワーツじゃ常識だぜ?」
「そうなのか……いや、いい学校だね。僕もホグワーツにすればよかったかな」
「この学校はいいわよ。クィディッチの名手も揃ってるもの」
「ああ」
「今日は出てないけど、チョウとかこいつよりいい司令官だし」
「卒業しちまったけど、セドリックはこいつより上手いぜ」
「「ああん!?」」
ゴン!
バコッッッ!
ショーンの蹴りとジニーの拳が、お互い綺麗に入った。
「は、はは……やっぱりホグワーツはいいかな」
◇◇◇◇◇
ある日の朝。
大広間の前に生徒達が集まっていた。その中にはショーンやジニーの姿もある。
「ほら、ちょっと退きなさい。邪魔よ、邪魔」
「はーい、ちょっと通してねー」
人混みを掛け分けて、最前列に躍り出る。
壁には一枚の羊皮紙が掛けてあった。
「ちっ! 今回は負けたわ」
「はっはー。ホグワーツにもちったあわかってる奴がいるじゃねえか」
『【ホグワーツ・クィディッチ杯】
優勝:グリフィンドール 4勝1敗(エキシビション含む)
準優勝:レイブンクロー 2勝1敗
最高司令官賞:チョウ・チャン(レイブンクロー)
最多得点賞:ジネブラ・ウィーズリー(グリフィンドール)
最優秀選手ゴールキーパー:ロナルド・ウィーズリー(ショーン・ハーツの先輩)
最多パス賞:ブレーズ・ザビニ(スリザリン)
撃墜王:ビンセント・クラップ(スリザリン)
新人賞:デメルザ・ロビンズ(グリフィンドール)
ベスト・シーカー賞:ハリー・ポッター(グリフィンドール)
今期最優秀選手賞:ショーン・ハーツ(ロナルド・ウィーズリーの後輩)』