ショーン・ハーツと偉大なる創設者達   作: junk

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第9話 史上最高に大人気ない大人達

 クリスマス・パーティー。

 とは言っても、本当にクリスマスに行うわけではない。

 クリスマスは家族で過ごす物だからだ。

 それに冬休みに入ると、ホグワーツから人がいなくなってしまう。人が集まらないとパーティーは盛り上がらないし、そもそもショーンだってクリスマスには実家に戻る。

 よって開催日はクリスマス休暇前の最後の土日。

 二日間続けて行う。

 

「こんにちは、ショーン」

「やあルーナ」

 

 大広間にいるとルーナに出くわした。

 今日のルーナは普通の服装をしていた。もっとも今は放課後で、学校指定のローブ姿だから当たり前と言ったら当たり前なのだが。

 

「ほれ」

「わっとと。これなに?」

「開けてみれば分かる」

「それもそっか。ごそごそー、ごそごそー」

 

 ショーンはポケットから封筒を取り出してルーナに渡した。ルーナは目をパチクリさせた後、まさかという顔をして、封筒を開けるとそれは満開の笑みに変わった。

 

「わあ! すごい、すごい! こんなに早く探してくれるなんて、私、思ってもみなかったな! ありがとうショーン、大好き!」

 

 ルーナが抱きついて来た。

 ショーンの予想ではルーナからは牧場や家庭用食洗機の様な臭いがするはずだった。しかしふんわりと香って来たのは確かに女の子の香りで、甘い物だった。

 

「どうやって見つけたの?」

「それを語るには、先ずホグワーツの成り立ちから語らなければなるまい」

「なるまい、じゃないと思うな。なるまいじゃ」

「まあなんでもいいだろう、方法は。他にもルーナの無くし物はたぶん全部見つけた。流石に多いから後でジニーに運ばせとく」

「ジニーなら運べるんだね」

「ジニーはチェイサーやってるからな」

「それってすごく関係ないと思うな。あれ、ちょっと関係あるのかな……それより、クリスマス・パーティーを開くんだって?」

「ルーナ」

「なに?」

「サンタさんをいつまで信じてた?」

「五歳の時までだよ」

「そうか」

「それがどうしたの?」

「聞いただけだ、意味はない」

「うわあ。どうしよう、すっごく意味のない会話だったね」

「無駄な物こそ人生を色付けるって言うだろ」

「その理屈でいくと、私達はすっごくカラフルだね」

「無駄なことしかしてねえからな」

 

 ルーナと話していると、ボウリングの球が飛んで来た。

 もう一度言おう。

 ボウリングの球が飛んで来た! 16ポンドのボウリング球が!

 

「危ねえ!」

 

 一旦蹴り上げ、浮かせてからリフティングする。

 

「ジニー! お前、バカ! ボウリング球は人に投げちゃいけません!」

「はあ? ルールブック読んだら、投げてぶっ倒すって書いてあったわよ」

「ピンな! 倒すのはピン!」

「誰よピンて。あんた?」

「俺はショーンだ。自己紹介が必要か?」

「ショーン・ピン・ハーツ」

「俺のミドルネームを勝手に変えるな」

「なに、ボウリングって人に当てるゲームじゃないわけ? つっかえないわねー、あのルールブック」

「使えねえのはテメエの頭だろ――っと」

 

 ジニーに向かってボウリング球を蹴り上げる。ジニーはそれをヘディングで返して来た。そして得意顔。

 

「ほらね」

 

 呆れた顔でトラップして、再び足の上でボウリング球を跳ねさせる。

 

「気がついてるか? お前いま、世界一マヌケな頭の使い方したぞ」

「ボウリングでリフティングしてるのも大概だって思うな……」

「つーかそれより、ボウリングは今すぐに出来ないわけ?」

「ピンもだが、レーンとかも必要だろうからな」

「ふぅーん……」

 

 ボウリングを前方に蹴る。

 ジニーは肩でトラップした後、頭の上を滑らせて背中に置いた。

 

「つかなんでいきなりボウリングだ?」

「昨日の夜のことなんだけど。寝る前にふと『うわっ、遊びたっ!』って思ったのよ」

「思っちゃったか」

「んで、校長室に行ったのよ」

「なにしてんのお前」

「そしたら校長の奴がボウリングが面白いって言うのよ」

「ダンブルドア先生、ボウリング好きなんだね」

「だから今日みんなでやろうと思って、あんたに向かってボウリング球投げたのよ」

「ふーん、お前バカだな」

「は? ケンカ売ってんの?」

「あ? むしろこっちが売られてんだけど」

「お? お? お?」

「あ゛あ゛ぁン?」

「……ふっ、やめましょう。こんな不毛なことは」

「そうだな、俺たちも大人になるべきだ」

「仲直りの握手を」

「ああ、喜んで」

 

 にこやかな笑顔で握手する。

 ジニーは最高の笑顔のままショーンの手を握りつぶそうとした。

 ショーンは最高に楽しそうな顔しながらジニーの足が床と同化するくらい踏み潰した。

 

「「なにすんだよ(のよ)、痛えな(いわね)!」」

「はあ!?」

「オォン!?」

「ルーナ、どっちの勝ちだと思う!?」

「俺だよなあ?」

「うーん、二人とも負けかな。人として」

 

 そ、そんなに言う?

 ショーンはすっかり毒気を抜かれた。いまドラゴンがショーンを食べたとしても、食中毒を起こす心配はないだろう。

 

「そういえばあんた、面白そうなことやってるじゃない」

「あっ、そうそう。その話をね、ちょうど今してたんだ。クリスマス・パーティーのお話」

「話つっても、特に詳しく話せることはないぜ。詳しいところはまだ全然決まってないからな」

「そうなの? だったら音楽は私に決めさせなさいよ」

「嫌だよ。お前のセンスだとクリスマス・パーティーってよりストリップ・パーティーになるだろ」

「クールじゃない」

「いいや、ヌードだ」

「私はケーキが食べたいな。大きくて、ふわふわで、甘いやつ」

「ほらみろジニー。これが普通の女の子の反応だ。お前も服を脱ぐのと人を叩きのめす以外の娯楽を覚えろ」

「ふわっふわのケーキさん! わあ、美味しそっ! ……オウェ」

「自分のキャラに吐き気催すの早すぎだろ」

「は、はわわわ。違うの! ただ可愛い系のキャラは私にはちょっとキツイっていうか……自分でやっててムカつくっていうか………うっぷ」

「いいじゃん、すげえ媚びたキャラなのにめちゃくちゃ吐くとか新しいと思うぜ」

「ピンク色のゲロを吐くわ」

「吐いた後の決め台詞は?」

「今日も出ちゃったマジカル・シャワー!」

「マジカル・シャワー(酸性)」

「もう、二人とも! クリスマス・パーティーの話をしてよ!」

「なによルーナ。あなた随分やる気じゃない」

「うん。だってクリスマスは楽しい日だから」

 

 ジニーはよくわかっていない様だが、ショーンにはなんとなくルーナの言いたいことが分かった。

 ルーナには母親がいない。

 家も決して裕福な方ではないだろう。

 もしかするとホグワーツに来る前のクリスマスは、ルーナにとってあまり楽しい物ではなかったのかもしれない。

 ショーンにもそういう時期があった。

 

「やあ三人とも! なんの話をしてるの?」

 

 と、コリンがやって来た。

 これでいつもの四人が揃った。

 

「ジニーのゲロがピンク色だって話だよ」

「本当に何の話してるんだよ……」

「なによ、文句あるわけ? 見せてあげましょうか、私のゲロ」

「嫌だよ! 文句はないけど、見るのは嫌だよ! 誰のゲロでも!」

「まあ別にあんたのことはどうでもいいわ。ハリーなら受け止めてくれるだろうしね。私はそれでいいのよ」

「ぽ、ポッターさんでもゲロは受け止めてくれないんじゃないかな」

「ちっ、うっさいわねー。屁理屈をごちゃごちゃと。あんたに吐かせるわよ、血反吐を」

「さらっと怖いこと言うよね、最近!」

 

 コリンは慌ててショーンの後ろに隠れた。

 

「もうっ! 話が脱線しすぎ! 今日はクリスマス・パーティーを話す日なのに!」

「わーった、わーったから叩くな。クリスマス・パーティーね、はいはい」

 

 肩をポカポカ叩いて来たルーナを宥める。

 バジリスクさえ相手にしたショーンにとって、ルーナを落ち着かせるのはそう難しいことではなかった。

 

「あっ、そうだジニー。お前トーナメントの方に出場するならエントリー・シート書いとけよ」

「なによ、めんどっちいわね。んなもんあんたが書いといてよ」

「ほぉー……トーナメントは二人一組、エントリー・シートも二人で書くんだけどな」

「それがなによ」

「ハリーと一緒に書けるぞ」

「それを早く言いなさい!」

 

 ジニーはファイア・ボルトもかくやという速度でエントリー・シートをひったくった。

 

「ん、んん……なんか色々書いてあるわね。これどういう意味?」

「そんくらい自分で読めよ」

「嫌よめんどくさい。とっとと解説しなさい。じゃないとあんたを私の寝室に招待するわよ!」

「どういう脅し文句だ……まあいいけどよ」

 

 エントリー・シートを机の上に置く。

 三人が顔を出してまじまじと見た。

 

「基本的には二人一組で戦ってもらう。だけど、エントリーするのは一人だ」

「どういうこと?」

「そうだな……例えばジニーとハリーが出場したとする。メインでエントリーしてるのがハリーだとしよう。

 第一回戦で勝ったとして、もしジニーが怪我をした場合、ハリーはパートナーを変えて第二回戦に出場出来る。

 一方ジニーがいくら無事でもハリーが怪我してたら、第二回戦には出れない」

 

 これはなるべく不戦勝・不戦敗を出さない為の処置だ。

 魔法使いの決闘となると、数時間では治らない厄介な呪いをかけられる可能性もある。

 そこでパートナーの入れ替え制度を導入した。

 しかし無制限に入れ替えていい、としてしまうと第一回と決勝戦でまったく別人が――ということになりかねないので、こうなったわけだ。

 

 ……表向きには。

 実際の意図はもうちょっと別のところにある。

 

「私とハリー、どっちをメインにしましょうか。私がハリーを守るか、ハリーに守られるか……どっちも捨て難いわね」

「ジニー……守られる………?」

「なによ、なんか言いたいことあるわけ?」

「別に。でもあれだ、ライオンって雌の方が強いらしいぜ」

「私はライオンよりも強いわよ」

「そういう話じゃねえよ」

「パーティーのご馳走はどうするの?」

「ダイアゴン横丁にいくつか馴染みの店があるから、そこから頼む予定」

「ふーん、なんだあ。私、ショーンの手料理も食べたいな」

「俺は運営だからな……まあ、時間があれば。つーか別に、言ってくれればいつでも作るぞ」

「本当!?」

「あんたその、ルーナにだけ甘いのやめなさいよ。引っ叩くわよ」

「なんでだよ。俺は大体優しいだろ、全人類に。もちろん、コリンにもだ」

「どうして僕だけ素直に全人類の括りに入れないの!? しかも僕に優しかったことあったかなあ!」

「生かしておいてやってるだろ」

「こいつぁたまげたよ! その程度で優しくされてる扱い!」

「まあその点は認めざるを得ないわね」

「おっと。同意されちゃったよ」

「ショーンは優しいね」

「ルーナ、そのセリフは違うよね。そういう感じのセリフはもっとこう、卒業間近になって然るべきイベントのピークで言うセリフだよね。少なくとも僕を殺さないだけで言うセリフじゃないよね」

 

 ヒョイっと、背中に預けていたボウリング球をジニーが上に放った。

 それを下から膝、上から肘で挟み撃ち。

 ボウリング球は粉々になった。天然のコンフリンゴである。

 

 手ぶらになったジニーは机の上に足を乗せて、踏ん反り返って座った。

 

「じ、ジニー」

「あん?」

「その体制で座ると、その、ショーツが見えちゃうよ?」

「ハッ! 別にそんなもん減るもんじゃあるまいし、好きに見ていいわよ。なんならくれてやるわ」

「お、男らしすぎる!」

「まあ流石の私も、ハリーの前じゃ恥ずかしいけどね」

「妙なところで乙女だ!?」

 

 果たしてジニーとアンブリッジ、どっちの方が女子力があるのか。ショーンには魔法薬学のテストと同じくらい答えが分かりそうもなかった。

 とりあえず教育上よろしくないので、ルーナは二人に近づかない方が良さそうだ。

 

「ルーナはああなっちゃダメだぞ」

「私は頼まれても下着をあげたりしないよ。物持ちはいい方なんだ」

「そういう問題じゃないんだけどな」

 

 もう手遅れかもしれない。

 

「そうだ、コリン。トーナメント出場者が出揃ったら全員分の写真撮ってくれ。飾り付けと食べ物も。ホグワーツ中に貼って宣伝するから」

「いいけど、フィルチさんに剥がされたりしない? こないだ二人が作った、あの訳の分からない、反社会団体の塊みたいなジャケット写真みたいに」

「今回はちゃんとダンブルドア校長の許可を取ってある」

「訳の分からないってなによ。超クールだったじゃない」

「僕は二人のこと友達だと思ってるけど、たまにすっごく高い価値観の壁を感じるよ」

 

 

 

 後日。

 ショーンの手元にエントリーした選手達の名簿が揃った。

 基本的にエントリーした生徒は上級生だけだ。先生方が参加するというのもあって、みんな萎縮しているのだろう。

 しかし先生方はもちろんのこと、ハーマイオニーとチョウ、それからハリー辺りも注目株だ。

 また先生方も気を使っているのか、特に制限はないはずなのだが、先生同士でペアを組まず生徒と組んでいる。

 

 ――ダンブルドア校長以外。

 

「……マジで言ってんの?」

 

 そして、なにより。

 ダンブルドア校長のペア相手。

 

 ――ゲラート・グリンデルバルド。

 

 エントリー・シートにはしっかりそう書かれていた。

 ショーンの頭の中であのお茶目な老人がウィンクした気がした。

 

 いやいや、本当になにしてるんだあの老人は!?

 ゲラート・グリンデルバルドと言えば、第二次世界大戦を引き起こした張本人であり、ヴォルデモートが有名なイギリス以外では彼こそ史上最悪の魔法使いだと謳われている程の世紀の大悪党である。

 死んでこそいないが、アズカバンに並ぶ難攻不落の刑務所ヌルメンガードに厳重に収容されており、いかにダンブルドア校長といえどそう簡単には連れてこれないはずだが……。

 

 ショーンの頭の中であのほがらかな老人がフォークスを撫でた。

 

 不死鳥の転移魔法は何人も防ぎようがない。

 ヌルメンガードに侵入するのも訳ないだろう。

 それにダンブルドア校長程の力量があれば、本物そっくりのダミーを作れても不思議ではない。

 あの無表情は地雷を踏んだ顔ではなく、愉快な提案をしてしまった合図だったのだろうか。

 

 マジで来るんだろうか、ゲラート・グリンデルバルド。

 

 ……とはいえ。

 優勝はルーナだ。

 それだけは動かない。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ――――――雨が降っていた。

 

 窓硝子を水滴が伝わり、外から雨音が聞こえる。

 正しく雨が降っている証拠だった。

 

 今日はクリスマス・パーティー当日だというのに生憎の天気だ。

 とはいえ、それを気にしている者は少ない。

 パーティー会場は室内で、大体の人間がこれから始まるメイン・イベントに気を取られているからだ。

 しかし間違い無く、雨が降っていた。

 

「はあいショーン」

「やあジニー」

 

 運営席に座っているショーンに、ジニーがにこやかに話しかける。

 ショーンもまた笑って応えた。

 

「選手用の名札を取りに来たわ」

「はいよ」

 

 『ジネブラ』と書かれた名札。

 油性のペンで二本線を引き、上から『アバズレ』と書いて渡す。

 

「ありがとう」

 

 ジニーはその上に無理矢理『ヒロイン』と書いた。

 

「それでいいのあなた達……」

 

 横でハーマイオニーが額に手を当てた。

 彼女も選手なのだが、一人で運営は大変だろうと手伝ってくれてる。天使かな?

 そう思って名札の所に『天使』と書いたら、目が引っ込むくらい強く顔面を引っ叩かれた。この世に天使などいない。

 

 パーティーはまあ、盛り上がっていた。

 参加している生徒は全体の三分の一くらいだろうか。

 普段はいがみ合っている各寮だが、それぞれ自分の寮から選手が出るだけあって満遍なく参加しているように見える。

 スラグホーン教授の周りにも沢山の生徒が集まっているようだ。とりあえず当初の目的はこれでクリアした。

 

(この中にルーナにケチつけたクソがいんのかね……)

 

 まあいてもいなくても関係ないが。

 どちらにせよ、やることは変わらない。

 

「ど、どうしたの? 随分怖い顔してるけど……」

「ん、そうか。いやなんでもない。ちょっと緊張してるのかもな」

 

 ハーマイオニーは納得がいっていない顔をしていたが、それ以上何も言わなかった。

 ……外ではまだ雨が降っている。

 

「そろそろ時間だな。ハーマイオニー、お前も選手なんだし、もう行っていいぞ」

「分かったわ。何かよく分からないけど、無茶はしないように。いい?」

「選手でもない俺がなんの無茶するんだよ」

 

 ハーマイオニーが去っていくのを見届けた後で、ショーンも動く。

 パーティー会場を抜け出して外へ。

 

「ロウェナ、頼む」

「はい。では、かけますよ」

 

 ショーンの手をロウェナが操り、変身呪文を自分にかける。

 己の姿が変わったのを見届けてから、仕上げに自分の意識を手放す。

 次の瞬間にはショーンは消え、そこにはルーナ・ラブグッドのペアが立っていた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 第一回戦。

 ハリーとジニーのペアは対戦相手――ルーナ・ラブグッドの前に立っていた。

 

「ルーナ、あなた参加してたのね。ペアはだれよ?」

「まだ来てないんだ。そろそろだと思うんだけど……」

「ふぅん。女を待たせるなんて、なってないわねそいつ。誰なの?」

「さあ、分かんない」

「ええぇ……」

 

 微笑ましい会話。

 今から決闘をするとはとても思えない。

 そんな二人を見ながら、ハリーは違和感を感じた。

 強烈に身体が冷たくなったのだ。

 

 ハリーは今まで、危機を前にするとこうした感覚に陥ることがあった。

 例えば賢者の石を守ってヴォルデモートと戦った時。

 例えばバジリスクと若かりし頃のヴォルデモートと戦った時。

 例えば吸魂鬼に襲われ、両親が死んだ時のことを思い出した時。

 そして、復活したヴォルデモートを実際に目の当たりにした時。

 色々なピンチをハリーは経験して来た。

 

 それでも。

 ここまで嫌な感じはしなかった。

 

 今までの冒険、危険が比較にすらならない。

 例えばロケットの速さの説明をするのに三輪車を使って説明している様な感じだ。

 今、危険だということは分かる。

 ただどのくらい危険か分からない、比較できない。

 ヴォルデモートやバジリスクは三輪車以下。

 まるで話になっていなかった。

 

「じ、ジニー……」

 

 己のペアであるジニー。

 彼女に話しかける。

 

「ハリー、雨が止んだわ」

 

 いつのまにか雨が止んでいた。

 先程まではあんなに降っていたのに。

 

 これは魔法的な効果ではない。

 言ってみれば偶然だ。

 しかしハリーには偶然とは思えなかった。

 まるで世界が意思を持って雨を止ませた様な、そんな感覚を覚えた。

 

 雲が途切れ、一筋の光が窓を照らす。

 それはまるでスポットライトのよう。

 

 世界全てが“彼”を目立たせるために動いている。

 生まれついての勝者である“彼”を。

 

 窓が開かれる。

 入って来たのは――絶世の美青年だ。

 シリウスや若かりし頃のトム・リドルも十分にハンサムと言えたが、彼はそれを軽々と超えていた。

 まるでこの世界の主人公のような、彼には別格の存在感がある。

 

「お待たせ致しました、我が姫」

 

 彼の姿が一瞬で消える。

 同時に窓を照らしていた光も消え失せた。

 彼はいつのまにかルーナの前に立ち、そして跪いた。

 

「あなただけの騎士、ゴドリック・グリフィンドール。ただ今参上致しました。何なりとご命令を。あなた様のご命令さえあれば、僕はいかなる敵も斬り伏せてみせましょう」

 

 手を取り、甲に口づけをする。

 それはまるでおとぎ話の一節の様な美しさだった。

 

 第一回戦。

 ハリー・ポッター&ジニー・ウィーズリー

 対。

 ルーナ・ラブグッド&ゴドリック・グリフィンドール。







【オマケ・ショーンとジニーが絶対にやってはいけないことリスト】
第161条 今後の長い学生生活において修復不可能な精神的問題が発生する可能性があるため、トイレの入り口に『妨害呪文』を付与することを禁止します。
第162条 ジニー・ウィーズリーの右拳は「アロホモーラ」ではありません。
第162条 スネイプ教授の私室で行われている「ホグワーツ・スーパー・セクシー・パラダイス・タイム」を即刻中止して下さい
第163条 新入生に「闇の陣営と戦うと記念品がもらえる」と唆してはいけません。また、実際に記念品を作り贈与することも禁止します。
第164条 まさか言わなくても分かるとは思いますが、他人の乳首を切り落としてはいけません。
第165条 一体何処から手に入れて来たのか本当に分かりませんが、ハグリッドにマンティコア・ドラゴン・コカリトスの卵を渡してはいけません。また「巨大な卵焼きを食べたくないか?」は言い訳としての要件を何一つ満たしていません。
第166条 マグル生まれの新入生に「お前も頭がおかしいって認められてここに来たのか?」と言ってはならない。
第167条 また「僕は頭がおかしくなんてない!」という反論に対して「俺もだ。二人でこのイカれた場所を脱出しよう」と持ちかけてはいけません。
第168条 「我々がどれくらい魔法歴史学のせいで時間を無駄にしているか」は魔法歴史学のレポートの内容として相応しくありません。
第169条 例え自分に掛けられている同性愛者の噂を払拭する為であったとしても、スリザリンの女子生徒を二週間保健室送りにしたことは正当化されません。
第170条 特定の生徒にトラウマを発症させる疑いがあるため、ホグワーツの壁に『秘密の部屋は再び開かれたり』と書くことはやめて下さい。
第171条 大量の宿題が出された時にやるべきことは、少なくとも「羊皮紙と羽根ペンを机の上に置いて後は妖精さんに任せてぐっすり眠る」ではありません。
第172条 『例のあの人』は「同性愛者を表す隠語」ではありません。
第173条 例えどれだけ餓死寸前だったのだとしても、スネイプ教授に噛み付いてはいけません。
第174条 ショーン・ハーツはスーパー・ヒーローではありません。
第175条 かといってスーパー・ヴィランになってもいけません。
第176条 「誰もダンブルドア校長が死喰い人だとは思わなかっただろう!」というご指摘はその通りです。そんな事実は一切ありません。
第177条 あなた方がどれだけ正当な理由で禁書の棚の閲覧許可を申請したとしても、最終目的が「立派な死喰い人になろう!」な限り私は一切取り合う気はありません。
第178条 今後一切、ホグワーツ校内で直径五メートルにも及ぶ超巨大クソ爆弾を使ってはいけません。ですが、はい。もちろんあの一度は除いてです。あれは素晴らしかった。
第179条 『例のあの人』を倒すに当たって「特別背の低い生徒に指輪を渡して溶岩に放り込まさせる」必要はありません。
第180条 「旅の仲間」を募ってはならない。


※破るとセドリックがホグワーツに戻って来ます。

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