アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

27 / 32
この世界では春大会もクリスマスボウルじゃないけど東西の日本一決定戦はある。



27th down そうだ大阪へ行こう

春の関東大会が神龍寺の優勝で幕を閉じ、西の優勝チーム帝黒との東西対決が決まっていた。

 

セナが医者から全力で走ってもよいと許可が出てから数日経過したある日の夜。

 

自室で寝ていたセナは真夜中に何か気配のようなものを感じてふと目が覚めた。

目を開けると、枕元に悪魔が立っていた。

 

「い”っ!」

 

声を上げる前に悪魔に口を塞がれた。

 

(…って、ヒル魔さんじゃないか!)

 

ヒル魔の容姿は尖った髪に裂けた口、薄明かりの室内で悪魔と間違えても無理は無い。

ヒル魔はセナが自分を認識したのを察すると手を放した。

 

「おはようセナクン、目が覚めたかい?」

 

ヒル魔はいつものようにケケケと笑っている。

釣り上がった口角は正に悪魔のようだった。

 

「お、おはようございますヒル魔さん」

 

とりあえずなんとか挨拶した。

何故こんな時間にセナの部屋にいるのか?

セナが疑問を口にする前にヒル魔は、

 

「じゃあ……行こうか」

 

とだけ言った。

 

「へっ?」

 

と言うしかセナには出来なかった。

 

 

車は西へ時速180キロで走っていた。

運転しているのは阿含さんの知り合いらしい女性。

乗っているのは僕と、僕を問答無用で連れ出したヒル魔さん、何故か阿含さん、まもり姉ちゃん、鈴音の計6人。

何の説明もないまま、あれよという間にこうなっていた。

 

最初はヒル魔さんは僕と二人で行く予定だったらしいが、どこからか知った阿含さんが強引に参加し、その阿含さんからのメールでまもり姉ちゃんが知って急遽乗り込み、そのまもり姉ちゃんが今日の練習休むことを伝えておいてという意味でしたメールを受け取った鈴音が速攻でやってきて参加してこの面子。

 

小型のバスのような車で座席が3列あり、2列目を後ろ向きにして3列目と向かい合うようにして運転手以外の5人が座っている。

 

どうやら大阪へ向かっているらしい。

 

「で、そろそろ教えてくれませんかヒル魔さん?」

 

と、まもり姉ちゃんが聞いた。一応笑顔だが声が硬いしコメカミに青筋がビキビキ立っている。

僕が誘拐同然に連れ出されたことに半端なく怒っているようだ。

今はなんとか抑えてはいるようだけど。

 

「あ?」

 

「どうしてこんな暴挙を?」

 

「別にテメーなんざ呼んじゃいねーよ」

 

「私じゃありません、セナのことに決まってるでしょ!」

 

まもり姉ちゃん、抑えきれず叫んだ。

ヒル魔さんとは相性悪いのかな?

 

「ちょ~っとやってほしいことがあってな」

 

そう言ったヒル魔さんは僕を見てビシッと指差し言った。

 

「セナ、オマエちょっと帝黒のエースである大和猛にケンカ売って来い!」

 

「「……は?」」

 

僕とまもり姉ちゃんの声がハモった。

 

ちなみに鈴音はこういった旅行が大好きなのか、何かやーやー歌いながら超ハイテンションで外の景色を見ている。

阿含さんは運転手の女性と何やら話をしている。

どうやらこの車の持ち主らしき女性、大阪へ行くから東京まで来いと長野から呼び出されたらしい。

これを知ったまもり姉ちゃんはすごく恐縮して礼を言っていたが、この女性本人は「ワハハ」と笑って気にもしていないようだった。

 

意味がわからず声も出ない僕とまもり姉ちゃんを尻目にヒル魔さんは続ける。

 

「もーすぐウチと帝黒の試合があるだろ?データは集めるだけ集めたんだけど、エースの大和猛だけは関西大会でもただの一度も本気を出してねーんだよな。

 

だから、奴の本気を見てみたい、それも生で…となると本気を出させる奴が必要になる、関西にはどうやらいねえ、ウチの阿含をぶつけてみすみす敵にこっちの情報をやるのは嫌だ…

…ってことになるとよ、消去法でセナをぶつけるしかないってわけだ、お解かり?」

 

言い終わるとヒル魔さんは足を組みなおして座席に深く座り、ガムを噛みはじめた。

 

まあ、理屈は分かるけど納得できるかと言われれば無理っぽい、でもなんか…ヒル魔さんらしい自分勝手な理由だなあと思い、それほど腹も立たなかった。

 

まもり姉ちゃんを見るとそうは思わなかったようで、拳をひざの上で握り締め、下を向いてブルブル震えている。

自分勝手で他人に迷惑をかけることを屁とも思わない。

これはまもり姉ちゃんが最も嫌うタイプの人間だ。

案の定、まもり姉ちゃんは鋭い目でギリっとヒル魔さんを睨みつけると叫んだ。

 

「あ、あなたねえ…私のセナを何だと思ってるの!」

 

「は?」

 

私のって…まもり姉ちゃん。

 

「はっ!…私ったらつい…え、えと…じゃなくて、ウチのエースを何だと思っているんですか!」

 

まもり姉ちゃんは慌てて言い直した。うん、ただのいい間違いだよね、驚いた。

 

「ほれ」

 

と、激昂するまもり姉ちゃんにヒル魔さんがしれっと一枚の紙を出して見せた。

 

「え、何これ…誓約書?」

 

目の前に出された紙を読んでまもり姉ちゃんが驚く。

僕も見てみる。

 

「えーと…『どのチームが関東を制しても他のチームは全国制覇に協力する』ってか、あ、高見さんのサインがしてある」

 

そういえば泥門時代は秋大会後に皆が練習に協力してくれてたけど、ここのヒル魔さんは春大会からこれやってたんだ。

 

「…だ、だからと言って、セナの人権は?」

 

「知らん、ケケケ」

 

なんとか抵抗しようとするまもり姉ちゃんにヒル魔さんは誓約書をヒラヒラとかざしながら言う。

 

「むぅ~~~」

 

ほっぺたをふくらませて誓約書を睨んでいたまもり姉ちゃんに、

 

「まーまー」

 

と阿含さんがナンパ用の白阿含笑顔で宥めていた。

 

「エガオキモチワルイ!・・・あたた」

 

それを見たハイテンションの鈴音が阿含さんを指差して言ったが、言い終わる前に阿含さんに顔面をアイアンクローされていた。あたたで済むということは阿含さんは本気で掴んではいないのだろう。

 

「えい」

 

と、その隙にまもり姉ちゃんが目の前のヒル魔さんの手にある誓約書を奪い、ビリビリに破いてしまった。

まもり姉ちゃん、曲がったことが嫌いなのにずいぶん子供染みたことするなあ。

 

「ほほほほほ、これで証拠はないわ」

 

高笑いするまもり姉ちゃんに、ほんの一瞬も驚かなかったヒル魔さんは次の瞬間、両手から10枚近い誓約書を手品のように一瞬で出して見せた。

 

「ケケケ、どーした?まだ何百枚もあるぜ」

 

「むむ~、もう!」

 

してやったりのヒル魔さんと、地団駄を踏むまもり姉ちゃん、二人を見て僕は思った。

 

「う~ん、やっぱりこの二人って相性悪いよね」

 

この呟きに鈴音が答えた。

 

「だね、まも姉えが許せないタイプを具現化したような人だもんねあの人」

 

セナと鈴音がそう納得している隣で、全く別の感想を持った男がいた。

 

金剛阿含である。

阿含は思った。

 

(アレ?コイツらひょっとして…相性よくね?)

 

喧嘩している様にしか見えない二人だが、ナンパ経験の多い阿含にはその裏というか先が見えていた。

 

(確かにセナとこのフシギ生物の言うように相性はよくねえだろう、オレの集めてきた情報でも姉崎は不良を嫌う、ヒル魔は正にそれに合致する。

だが俺は知っている、ヒル魔はアメフトにだけは誠実な男なのだと、その誠実な部分を姉崎が見てしまったら……

裏返る!嫌悪が好意に裏返っちまう。

不良だと思っていた奴が実は誠実な人だった…こう思わせることが出来ればそのギャップでほぼその女は落ちる。俺がよくナンパで使ってきた手口だから間違いねえ。

これはオレの「思いがけない一面作戦」そのものだ。

普段は素行の悪い乱暴者だが、誰も見ていない所…標的の女が見ているのは確認済…で捨て犬に傘を差してやったり、ごみを拾ったりしてあの人は不良みたいだけど実は優しい心を持っているのねと思わせる俺の得意作戦。ヒル魔はそれを意識しないでやってやがるんだ。

…マズイ、マズイぞ、ほんのちょっとの切っ掛けで姉崎はヒル魔に転ぶ!)

 

まもりとヒル魔がカップルになる可能性に気付き、阿含は本気で焦っていた。

 

(なら潰してやるぜ、そんな可能性、これ以上一歩も進展なんかさせねえ)

 

阿含は決意も新たにニヤリと笑った。

そもそも阿含が来たのはまもりをナンパするのが目的だ。

ヒル魔がセナを連れて大阪へ行くという情報を得ると、雲水から強引に聞き出していたまもりの携帯番号へ掛け、それを知らせてまんまとまもりを今回の旅に参加させることに成功した。

 

(ここは俺も大和猛と勝負した方がいいのか?セナを庇うという点で間違いなく感謝されるだろう…それをありがとうで終わらせない為にももう一押し何か…)

 

こちらの情報は出したくないというヒル魔の思惑なんぞ知ったこっちゃない阿含はこれからの予定を考えていた。

 

そんな阿含を見て鈴音が一言。

 

「酷く悪い顔してるね」

 

それに対しヒル魔が、

 

「ああ、よくこうなるんだ、ほっといてやれ」

 

と、フォローにもならないことを言っていた。

 

 

パーキングエリアで休憩中、まもりは車を離れ、事情を説明するために庄司監督に電話していた。

 

車に戻ってきたまもり姉ちゃんに声をかける。

 

「どうだったまもり姉ちゃん、庄司監督は何て言ってたの?」

 

「うん、それがね、ちょうどいいから帝黒を偵察してデータ取ってこいって言われたわ」

 

「じゃあサボったことにはならないね、よかった」

 

「そうね、セナもレベルの高い西側のプレイを勉強してくるといいって監督がおっしゃってたわ、後くれぐれも無理はするなって」

 

「うん、わかってる」

 

その会話を聞いていたヒル魔さんがからかう様に口を挟んだ。

 

「へぇ~、何でいるのそんなデータ、キミたちには関係ないよね」

 

からかわれていることを瞬時に察したまもり姉ちゃんは、キッとヒル魔さんを睨んで言い返した。

 

「秋に必要になりますので」

 

睨み合う二人。

といっても片方は笑っているが。

 

(だから喧嘩すんじゃねえよテメーらわよ、後で裏返った時の反動がでかくなるじゃねーか!)

 

阿含は一人焦っていた。

 

セナはそんな皆を見ながら一人考えていた。

 

(大和くんか…久しぶりだな、進さんに相手してもらおうかと思ってたけど、ちょうどいいや、試してみたい技があったんだ…もう決めたんだ、出し惜しみはしないって、確かに技を見せてしまうと相手に対抗策を取られてしまう、でもいずれ見られてしまうものだ、それに相手に選択肢を増やすことで駆け引きに使うことも出来る、デメリットばかりを見ていては進めない、まあそもそも大和くんは初めて見た技でもその試合中に対抗策を考えて即実行出来るとんでもない人だから出し惜しみしても関係ないんだけどね…それにしても)

 

セナは走り出した車の座席に深く座ると、「んふ」っと堪えきれずに少し笑った。

 

(大和くんと戦える…面白くなってきたなあ)

 

車は帝黒学園へ向かう。




久しぶりの更新となります。
ガッツが足りなくて書いてないとその状態に慣れてしまい気力が回復しないことがわかった。いっそのこと他に何か並行して書いてみようかとも思っている。

感想は全て読んでいますが返事を書かない自分に自己嫌悪してたら、ネットでそんな状態をLINE恐怖症というそうな。
心当たりがある。
何で既読になったのに返事がないの?
いつ開くの?毎日チェックしてるよね?
てなやりとりで超ヘコんで携帯買い換えて新しいのにはLINEはインストールしてない。
愚痴になってしまいました。



出番はほぼないが今回出てきた車と運転手の紹介。

名前:蒲原智美
登場漫画:咲 Saki
詳細:麻雀漫画だが主人公達の使う能力は頭のネジがぶっ飛んでいる。
その主人公が団体戦の県予選で戦う相手チームの選手。異能を持たない一般人だが濃いキャラ。
車:フォルクスワーゲン タイプ2
ここでの設定:蒲原と友人が東京に来た時にタチの悪いヤンキーに絡まれているところをヒル魔の監視網に引っ掛かり、連絡を受けた阿含が神速のインパルスで現れてぶちのめしたのが出会い。
阿含が助けたのは友人の方だったが恩義を感じている蒲原をこれ幸いとアッシーとして使っている。

運転手を誰にしようかと考えて、5人乗れる車を持っているマンガのキャラで彼女が真っ先に浮かんだ。ってゆーか他に浮かばなかった。

2列目と3列目と向かい合わせにするなんて改造しないと出来ないハズ。

製造中止のニュースを知ってまだ作ってたんかいと驚いた。



なんとか今年中に更新できました。

それではよいお年を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。