アイシールド21 強くてニューゲーム   作:ちあっさ

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12th down 金剛兄弟

少し時間を遡り、ヒル魔とセナが会話していた頃。

 

阿含は雲水に声を掛けられて話をしていた。

 

「がんばっちゃってるのか、雲子ちゃんよ」

 

「ああ、お前に勝ちたいからな」

 

見下した顔で接する阿含に、いつも通りのクールさで対応する雲水。

それを見て、阿含はニヤリと、意地悪な笑みを浮かべた。

 

「ククク、そーかいそーかい、それじゃあ、お望み通り遠慮なく、プチっと潰してやるよ」

 

指で虫を潰すような仕草を目の前で見せる阿含に、雲水はフッと笑うと。

 

「望むところだ!」

 

と、言い切った。

 

「・・・あ"?」

 

間違った、しかも雲水らしからぬリアクションに、阿含は一瞬、言葉を失った。

 

「・・・・・・・・・・・お前・・・・・変わったな」

 

阿含は馬鹿にするでもなく、静かに聞いた。

 

一瞬でも阿含を唖然とさせたことに満足したのか、雲水は今まで見せたことのないような、

少しいたずらっぽい笑顔で話し出した。

 

「ああ・・・・俺はな、楽しむことにしたんだ・・・アメフトとか、人生とか、色々な・・・・

・・・で、そのついでに、お前を倒してやろうと思ってな」

 

「・・・・・・・倒す・・・・・この俺を・・・・・ついでに・・・・」

 

クワッと目を見開いて雲水を睨み、歯の間から掠れるように声を漏らす阿含。

知らない人が見れば、人を殺しそうな阿含の様子にも雲水は毛ほども動揺せず、見つめ返していた。

 

阿含は少しの間、そうしていたが、段々と獰猛な笑顔になっていった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・ククククク、なかなか言うようになったがな、雲子ちゃんよ、

俺はそんなもんじゃ認めてなんかやれねーよ、むしろ、思い知らせてやるよ、

お前が今まで培ってきたもの、積み上げてきたもの、信じてきたものが・・・・・・・

才能の前には、何の意味も無かったってことをな」

 

雲水の数センチ前まで顔を近づけて擦り込むように言う阿含。

しかし、それに対して雲水はクールだった。

 

「・・・例え、思い知らされたところで、俺は折れんよ・・・・もう二度と」

 

そう言うと、雲水はくるりと阿含に背を向けた。

 

「じゃあな・・・・次はフィールドで会おう」

 

そう言い、去っていった。

 

いや、行こうとしたら、阿含が後ろから雲水の肩をがっちり掴んで止めた。

 

「待て、雲水」

 

「え、な・・・・何だ?」

 

話はこれで終わりっぽい雰囲気だったので、まさか呼び止められるとは思わず、少しどもる雲水。

 

阿含はさっきとはまた違った鋭い眼光で雲水を睨み、こう言った。

 

「お前のとこの、姉崎とかいうマネージャーのメルアド教えろ」

 

阿含は当初の目的を忘れていなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ"?」

 

予想外の内容に、つい阿含みたいな「あ」に濁点をつける返事をしてしまう雲水。

 

「あの女をナンパしに来たってのに、いねぇじゃねえかよ」

 

まるでいないのは雲水の責任であるかのようになじる阿含。

先程までのピリピリした空気はもうなく、ただの兄弟の会話になっていた。

 

「マネージャーは荷物の整理とかで別行動だ、もうバスに着いてるだろう」

 

ここにいないのだから諦めろと言外に言う雲水だが、

阿含がそれで納得するわけもなく。

 

「だったらお前に聞くしかねーだろ、ハーフだろ、あの姉崎ってのは?」

 

「いや、アメリカ人とのクォーターだと言っていたな」

 

律儀に答える雲水。

 

「ほぅ・・・聞いたのか、話をしたのか」

 

「まあ・・・クラスメートだしな、メールアドレスや携帯番号の交換もしている」

 

さらりとのたまう雲水に、阿含は激昂した。

 

「なっ・・・・・なんだと!貴様、何故それを言わない?」

 

「何故言わなきゃならないんだ」

 

 

雲水とまもりはクラスメートだった。

王城高校で1、2を争う美少女の姉崎まもりと仲良くなりたい、ケータイ番号を知りたい男子は大勢いた。

 

しかし、アメフト部員を含めた王城の男子生徒で、まもりのメルアドをしっているのは、

セナを別にすれば、立場上知っているキャプテンの高見と、偶々ラッキーで知ることのできた猫山君、そして、雲水くらいのものだった。

 

雲水が知ることになった理由は、まず彼が生真面目な性格であったことによる。

キャプテンの目の届かないレギュラー以外の選手を取りまとめたり、選手の相談にのってあげていた雲水は、いわゆる選手内部のバランサーのような立場でもあったため、マネージャーとの連携で、練習以外にも、学校で休み時間に打ち合わせをしているうちに、連絡先をとりあうことになったというのが真相である。

 

周りから羨ましがられたが、

雲水にすれば、便利だから連絡先を教えあったにすぎず、

姉崎まもりに対して恋愛感情は持っていなかった。

綺麗な女性だな、くらいの認識はしていたが。

というより、それ以上踏み込む気もなかったし、踏み込まないようにしていた。

先ほど阿含には人生とか色々楽しんでるとか言ったが、あれは見栄と意地で言っただけで、

実際の所は天才阿含を相手にそんな余裕は一切なかった。

そんな時に、恋愛などにうつつを抜かす暇などあろうはずもなく、寧ろ害であると思っていた。

強くなる為の不純物であると断定し、忌避してさえいた。

 

 

 

ギリギリと自分を肩を掴んで締め上げてくる阿含に、雲水は諭す様に言った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・阿含・・・姉崎は諦めろ・・・・

何故なら、俺の知る限り、彼女はルールを破る、いわゆる不良という輩が大嫌いだからだ、

つまり、お前みたいな奴だ」

 

雲水は阿含を傷つけないように、などとはこれっぽっちも考えず、ストレートに言った。

言いつつ、手に力の入っている阿含に手を離すようゼスチャーで伝える。

 

「・・・・・・ふん、わかってねえな、雲子ちゃん、嫌よ嫌よも好きのうちってな、

人間ってのは自分の無い部分に惹かれちまうもんなんだよ、嫌ってるってのは意識してるってことだ、感情の裏返しなんだよ、ま、お前みたいな朴念仁にゃあわかんねえだろうがな」

 

雲水の肩から手を離しながら、ヤレヤレと呆れたように声をあげる阿含だった。

 

「いや、嫌なものは嫌なのだろう」

 

雲水がまっとうな意見を言う。

 

 

セナとの話も終わり、帰ろうとしていたヒル魔達三人は、未だ終わらない金剛兄弟の会話を見ていた。

 

「仲いいんだねえ、阿含君と雲水君」

 

栗田が今日何本目かのフランスパンを頬張りながら言った。

 

「ケケケ、いいっていやあ、いいよな、人間ってのは自分の無い部分に惹かれちまうもんだからな」

 

そう言うヒル魔の言葉に武蔵が疑問を投げた。

 

「無い部分ったって、才能で見れば阿含が皆持ってて、雲水は何も無いじゃ成立しないんじゃねえか?」

 

「そう見えるかもしれねえけどな、確かに雲水にとって阿含は自分に無い才能を持っている、

憧れるだろう、しかし阿含にとって雲水はそんな対象になり得ない、はずなんだが、

そこが人間のオモシレエとこでな、何でも持っている阿含はな、

何も持っていない雲水の気持ちを理解できねえんだよ、

山の頂上からじゃあ麓からみた景色が見えないように、持っているからわからねえことがあるんだよ、これで雲水が年下で女で妹なら庇護の対象としてみれるんだろうけど、この兄弟は複雑なんだ」

 

「・・・そんなものか」

 

「ああ、見てて飽きねえ兄弟だぜ」

 

そう言うとヒル魔は、大声でその兄弟を呼んだ。

 

「おい、そこの糞仲良し兄弟の弟、もう行くぞ!」

 

ヒル魔がからかい気味に声をかける。

 

「あ"あ"っ、誰が仲良し兄弟だゴルァ!!!」

 

阿含が怒鳴り返してきた。

 

「いいか、今度教えろよ」

 

雲水をビシっと指差して去っていく阿含。

 

「だから、本人に聞け、無駄だろうけど」

 

そんな阿含にしれっと返す雲水。

 

 

言い争いながら金剛兄弟は別れた。

 

 

 

 

おまけ ~また名前をつけよう~

 

「よし、名前をつけよう」

 

「またですか、高見さん」

 

「ああ、小早川がまた沢山技を出したからね、お兄さん考えてきたよ」

 

(お兄さん?)

 

「皆で名前を考えようじゃなくて、高見さんの発表会だよね、これ」

 

「いい名前なら採用するよ、王城に相応しい優雅な名前ならね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「今回は、腕で相手を叩き伏せたやつと、

ステップにスピンを加えた走法と、

縦のスピンと、

ロデオドライブと、

スティフアームの5つだな」

 

「・・・・・・最後の2つはもう名前ついてるんじゃ?」

 

(上の2つは、デビルスタンガンとデビルバットハリケーンだな)

 

「最初の手刀だが、相手に対して反応速度の限界を超えたような、まるで雷のような一撃だった、

なので、この技を「ナイトオブサンダー」と名付けよう・・・・え~次に・・・」

 

「我々の判定とか意見とか無視っすか」

 

「・・・・・・・・・ステップにスピンを加えた技だが・・・台風のような回転だったので、

この技を「ホワイトトルネード」と名付けよう・・・・・うむ、いい名前だ、で、次だが・・・」

 

「はい、高見さん」

部員の一人が挙手した。

 

「ん、なんだい」

 

「次のロデオドライブとかスティフアームは、もう名前があるのだからそれでいいと思います」

 

その部員の意見に、大多数の部員がうんうんと賛同を示した。ぶっちゃけ、もう彼らは帰りたかった。

 

「・・・・・・・・・・ふ、違うよ、敢えて名前を変えるべきなんだよ、プロレスを見てごらん、

ラリアートと言う技だって、ハンセンが使うとウエスタンラリアート、鶴田が使うとジャンボラリアート、

長州が使うとリキラリート、と皆違うだろう・・・・そういうことさ」

 

「・・・・・・・・・・はぁ・・・よくわからないような、全然理解できないような・・・・」

 

「つまり、ちょっと変えればオリジナルと言い張ってもいいんだよ、つまり・・・・・・

 

・・・・「ホワイトロデオドライブ」と「ホワイトスティフアーム」で決まりだ」

 

「・・・・・・・ホワイト付けただけじゃん!」

 

「それが何か?・・・・え~と次で最後だね、ホワイトトルネードの縦回転か・・・どれがいいかなあ」

 

「高見さん、最後くらいは多数決で決めませんか?」

また部員の一人が発言した。

 

「ん~~~、まあいいか、ここまでやれば、名付けの方向性もわかったろうしね」

 

 

で、早く帰りたかった部員達は、猫山君が適当に付けた、

 

「ホワイト廬山昇竜破」

 

に満場一致の採択をし、会議を終えた。

 

会議終了後、意気揚々と引き上げる高見に対して、残りの部員達は同じことを思っていた。

 

(・・・・・・絶対、次の試合までに忘れてると思う、

高見さんのネーミングって妙に凝ってて覚えにくいんだよなー、

さらに最後のとか使いたくねーし)

 

 

セナは思った。

 

(ホワイト廬山昇竜破はないだろ、なんて名前つけてくれるんだ猫山くんは・・・・・

・・・・まあ、監督からは、あれは怪我するのでもう使うなって言われてるし、封印だね)

 




金剛兄弟は二人とも自宅通いぽいので家で会うだろとかいうツッコみはなしで。

さて、ここまで読んで、阿含の性格が丸くなってるような気がしている方はおられると思う。
原作の阿含はもっと「悪」であったと、印象が違って見えるかと思われるかもしれないが、
そう書いています、阿含の性格は原作よりマシになっています。
私がそう解釈した理由は活動報告「雲水の呪(しゅ)」に書きました。

ホワイト廬山昇竜破:もう二度と出てきません。

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