ぺディグリーすかーれっと   作:葉虎

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第3話

そよそよと風が前髪を揺らす…。

 

心を一転に集中する。意識は内面に……

 

自分の周りに膜があるようなこの感じだ……

 

「見えた!」

 

そこでカッと目を見開く。

 

右手の平を見れば、ゆらゆらと揺れる青白い液体のような物が包み込んでいる。

 

オーラ。念の源となるエネルギー。

 

「ふふ…ふははは。あっはっはっは!!キターーーーー!!」

 

ついにやった。

 

苦節二年…。毎日、毎日…瞑想と妄想の狭間で…

 

睡魔という大群との攻防を経て…

 

ついに会得した。

 

纏…念の基本中の基本である始まりの第一歩。

 

俺はとうとうその第一歩を踏み出す事が出来たのだ。

 

「らんらんらー♪らんらんらー♪」

 

あまりの嬉しさにアルプスのとある少女に勝るとも劣らないスキップで家路に着く……

 

しかし、俺の浮かれ気分も此処までだった。

 

「お、お母様?」

 

何故なら、素敵な笑顔を浮かべながら目元は一切笑っていないお母様が、玄関先で出迎えてくれたからだ…

 

「クラン…少々大事なお話があります。いいですね?」

 

問いかけておいて、否定を許さないその眼差し。

 

返答を聞かないまま、お母様は去っていく。

 

そして、纏を覚えたから分かる。何故、あの見目麗しいお母様にあれほど恐怖を感じていたのか…

 

それはお母様が纏っているオーラだ。

 

別に禍々しさは感じないのだが、何と言うか……オーラが黒いのだ。

 

…さらには突き刺すような威圧感を感じさせる。

 

そして、お母様が纏うオーラが垂れ流しになっておらず、ちゃんと体に留まっている……間違いなく俺と同じ纏。

 

そう、お母様も念能力者だったのだ!

 

っと、云う事は俺のオーラを見えているわけでして…

 

現在の俺は、纏を使用したままの状態で居る訳で…

 

つまりは……

 

ガタガタと身体が震える。どうしよう!?やっぱ怒れるのかな?勝手に念なんか覚えちゃったし…

 

今の状態ならお母様のオーラに対して前よりは恐怖を感じなくなっているはずだから、そんなにお説教は堪えないのだろうけども……これまでの経験からトラウマ化している訳でして…

 

既に条件反射的に怖い!

 

もし、もしもだよ!?お母様がお説教モードで練、何ぞ使った日には…

 

「に、逃げ!「クラン!!早く来なさい!!」…ひゃぃ!!」

 

あの外面菩薩内面夜叉のお母様が声を荒げるなんて……

 

うぅ、幻影旅団なんぞよりよっぽど怖ぇよ。

 

だが、これ以上待たせてなお怒りを増加させるわけにはいかない。

 

俺は震える手足を、鋼の意思で動かしお母様の待つ居間へと向かった。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

居間にやってきた俺は、座りなさいとのお母様の言葉に無意識に正座をする。

 

が、一向にお母様は口を開かず、時計の秒針の刻む音だけが部屋に響く。

 

その長い沈黙の中で、俺はひたすら考えていた。

 

この時点で俺が念を知っていると言う事がお母様にバレては不味いのでは無いだろうか?と言う事を

 

お母様は念を知っていたが、今までお母様から念についての話題が出たことがない。

 

必然的に誰から念を聞いたという話になるだろう……。

 

この世界に来てから出会った人間はお母様だけだし……そのお母様からは何も聞いていない。

 

正直に転生の事を話して真実を告げるという手もあるが、信じては貰えないだろう。

 

嘘の人間をでっちあげるにしても、此処は閉鎖的な空間で、人が少ない独特な集団であるクルタ族。

 

適当な名前を言っても直ぐに嘘だとバレるだろう。

 

かといって、クルタ族で知っている人といえば、お母様以外ではクラピカしか知らない。

そのクラピカが仮に生まれており、俺がその名を出したとしても、原作ではハンター試験終了まで念の存在を知らなかった訳だし、結局嘘だとバレる。

 

……うん、お母様に俺が念の存在を知っているということはバレてはいけない!

 

俺が考えを纏めた処で、ようやくお母様がその思い口を開いた。

 

「クラン……あなたは聡明な子です」

 

「……へっ!?」

 

のっけから驚いた。てっきり、怒られると思ったのにそんな事を言うなんて……

 

どう反応すればいいのだろうか?素直に褒められた事を喜べばいいのだろうか?

 

「言葉遣いといい、振る舞いといい。とても五つになったばかりの子とは思えません」

 

まぁ、精神年齢は立派な大人ですしね。

 

お母様は其処で一息つくと…

 

「ですが…纏までその年で覚えるとは思いませんでした。母はまだあなたの才を過少評価していたようですね…」

 

いやいや過大評価も言いところですよ。ただ単に俺には原作の知識があり、念の存在を知っていただけで……つか、むしろ纏を覚えるのに二年もかかったし、才能は無いんじゃないかと思うけど…っと、ヤバ!誤魔化さないと…

 

「お母様?纏とはなんですか?」

 

「そうでしたね…まずはそこから…念について説明しなければいけませんね」

 

と、お母様は念についての説明を始める。大体は原作通りで、俺も知っている知識なので今、初めて聞いたというばかりの演技をする。

 

「それは……念とはすごいものですね……」

 

お母様が四大行の説明を一通り終えた処でそう返す。ふふん、どうだ、助演男優賞ものの演技力だろ。

 

ん?待てよ。お母様は念を使える。ということはなんらかの発があるはずで…

 

まさか…

 

「お母様、ちなみに聞きますが、お母様の発はなんなのですか?」

 

頼む、俺の予測よ外れててくれ

 

「私の能力ですか…。私の能力は【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】…周囲に球状の不可視の結界を張る事ができる能力です」

 

やっぱり!?あの見えない壁はあんたの仕業だったのかーーー!!

 

理由を尋ねたところ、子供の俺が遠くに行かないようにするための処置だとか…くっ、そんな風に言われたら怒るに怒れないじゃないか…

 

あぁ、何と言うお母様の愛。心配してくれるのはありがたいが、俺的希望をするならもうちょっと、放任しておいてほしい、まぁまだ俺はガキだし…親からすればそんなこと出来よう筈もないんだけどな…

 

「クラン、あなたの疑問にも答えたことですし、本題に入りたいと思います」

 

お母様の言葉に俺も背筋を伸ばす。そうだ、今までは基本的に俺の問いにお母様が答えていただけで、まだ俺が呼ばれた理由を聞いていない。

 

「クルタ族では15になるまでは念については秘匿するという決まりになっています。これは心が成長しきる前に念という巨大な力を与えてしまうことで起こる事件、事故などを避ける為の処置です。」

 

ほぅほぅ、なるほど、だからクラピカは念の存在を知らなかった訳ですね。

 

「ですが、生まれながらに念が使用できるもの……また誰にも教わらずに念を習得してしまう者などがごく稀に出てくることがあります」

 

俺は後者に当たる訳ですか……まぁ、俺は念の事を知っていたので完全に該当するという訳ではないが…

 

「そういった者が出てきた場合は、念に着いて正しく指導しなければなりません。放置すればそれこそ事件、事故に繋がってしまいますからね。ですから、纏を習得したあなたには正しく念の使い方を指導します。いいですね?」

 

それが、俺が呼ばれた理由ですか……

 

正直、その話はありがたい。俺としては独学をするのも限度があると思っていたからだ。

俺の知識は原作を読んだことで経たものだ。解釈が間違っているという事もあるだろうし、知らない事もあるだろう。そういった点から正しく念を理解している人に指導してもらうのは悪いことじゃない。

 

俺は姿勢を正し、まっ直ぐお母様の目を見て…

 

「はい、よろしくご指導の程お願いします」

 

深々と頭を下げた。

 

そしてこの日、親と子という関係とは別に師と弟子という新たな関係が誕生した。

 

 

 

 

お母様を師と仰ぐようになってからの俺は、午前中は基礎体力向上の為の筋トレや持久走、体術の特訓。午後には練の修行をするというスケジュールの下生活をしていた。

 

お母様の教えは厳しかった。修行には一切の私情を挟まず、甘えを許さなかった。

 

まず、始まりは早朝の体力作りからだ。俺が瞑想をしていた草原までやってくると…

 

「朝食まで後1時間です。その間にクランは30週走りなさい。出来なかったときは朝食は抜きとします」

 

そう言ってお母様は【幸福の青い鳥の鳥籠(ハピネスアレスト)】を発動させる。

 

人、二人が通れるくらいのスペースを残して、内と外にそれぞれ異なる大きさの球状の結界を張ることで、トラックが完成。

 

しかもこの結界、俺が30週走ると消滅するという条件が付加されている。

 

っと言う事はだ、ズルは出来ないと言うことだ。

 

「ちょっ、お母様!」

 

俺の非難の声にも耳を貸さず、お母様は朝食を作りに家へと帰っていった。

 

「……やるしかないか…」

 

走りながら俺は後悔をしていた。何故、こうなったのだろうと…。

 

お母様曰く、念が使えてもその元となる身体能力が劣っていたら何の意味もないと言う。

そりゃ、確かに戦闘をするんだったらそうだろうよ。

 

だけど、俺が念を覚えようと思った目的はあの不可視の壁を突破したかったからだ。

 

んで、壁を突破しなきゃいけないのは幻影旅団によるクルタ滅亡フラグから逃れるための対策を練るために旅団が襲撃してくる、時期を予測するため。クラピカの情報を得ようと思ったからだ。

 

……考えてみたんだが、別に俺は身体を鍛える必要はないのではないだろうか?

 

あんな反則的な力の持ち主である戦闘集団から、まっとうな手段で生き残れるわけがない。

 

よって、一番理想的なのは隠れて遣り過ごすことやとっとと逃げるなど、奴らと遭遇しないというのが良いと思う。

 

とか、愚痴愚痴思ったが…

 

「結局は、お母様に見つかった時点でやらざるを得ないのだろうけども…」

 

確かに、戦闘能力があった方が万が一の時の逃げる手段となるし、俺が取る行動の選択肢も増えるだろう。また、この世界で生き抜きやすいしね。

 

そう考えると悪いことじゃないな!

 

無理にでもポジティブに思考を持って行き、余計な体力を使わないためにも喋るのをやめて走る速度を上げる。

 

 

その結果、朝食までにノルマは達成できたが、疲労から朝食は喉を通らなかった。

 

 

その後、午前中は筋トレや反射神経を鍛えるための訓練をし、昼食を経て…

 

「では、これより練の修行に入ります」

 

午後からは念の修行である。現在、纏をマスターしているので次のステップである練の習得に入った。

 

「練は体内でオーラを練って精孔を一気に開き、通常以上にオーラを生み出す技術です。よって、まず最初は体内でオーラを練り、次にその練ったオーラを開放、制御し纏として身体に留めなければなりません」

 

お母様はひとしきり練について説明すると、実際に練を見せてくれる。

 

「では、やってみなさい」

 

俺の今までの知識、お母様の説明、そして実際に実物を見たことで俺はとある事に気がついた。

 

イメージとしてはあの超有名漫画のあれだよな……

 

スッと腕を胸の前でクロスさせる。怪訝そうにこちらを窺うお母様の視線を感じるが…今は気にするな。イメージしろ。

 

某宇宙人に親友を殺されたあの名シーン。続いて名台詞を……

 

体内のオーラがどんどん増幅していくのを感じる。

 

後はそれを一気に外へ!!

 

俺はカッと目を見開き…

 

「クリ○ンの事かーー!!」

 

クロスさせた腕を広げて、その言葉を叫ぶ。

 

その瞬間、練られていた全てのオーラが爆発するように体外に開放した。

 

そして其のままイメージする。宇宙最強と言われた黄金の戦士の姿を…

 

「うわぁ…」

 

スゲェ、纏よりはるかに巨大なオーラが俺を包んでる。

 

「……驚きました…。クラン、それが練です。まさかこうも早く練を…」

 

……えっ!?マジっすか?

 

此処まで上手くいくとは…読んどいてよかったぜあの漫画。

 

「では、続いて凝の習得に入ります。クラン、そのままオーラを目に集中させてみなさい」

 

「はい」

 

よっしゃ…この流れで一気に凝までマスターだ。

 

意識を目に…オーラを集中させる…

 

「……クラン、私の人差し指の先に何が見えますか?」

 

お母様がピッと人差し指を立てながら問いかける。

 

「…す、数字の……5?」

 

俺の言葉に、お母様は微笑みを浮かべながら、近づくと。

 

「正解です。よくやりましたね」

 

と、頭を撫でてくれる。

 

あぁ、白くて長い指がとても心地いい。

 

「若干、発動までの時間が遅いですが…反復練習を重ねれば解決するでしょう。とりあえずは練と凝は習得とします」

 

おぉ、マジかよ!!

 

ゴンとキルアでさえ1日では習得出来なかったのに…

 

やば、俺って天才!?

 

お母様に褒められ、調子に乗る俺だったが、次の日……その考えは木端微塵に打ち砕かれた。

 

 

次の日の午後は絶の修行。

 

全身の精孔を閉じ、自分の体から発散されるオーラを絶つ。気配を絶ったりする時に使われる技術だ。

 

幻影旅団から逃げるなら是非とも覚えなくてはいけない技術だろう。

 

だが…

 

気配を…絶つ!!

 

 

……

 

………っ!?

 

「っぷはぁーー!!はぁ、はぁ…」

 

こ、呼吸が…

 

「……クラン、私は呼吸を止めろとは言っていませんよ」

 

若干、戸惑うようなお母様の声。

 

いや、だってさぁ……気配を絶つって言ってもパッとしないんだもん。

 

よく、何かから隠れるとき息を潜めるっていうじゃん。だから、止めれば気配を絶てるかなと…

 

はぁ~参ったなぁ。

 

練の時みたいにイメージじゃどうにもならなそうだ。

 

通常状態で精孔は開いてる訳で、纏も練もその状態からオーラを留めたり、増やしたりしてたのに対し、絶は完全に対極する技術。

 

原作の知識を漁っても、ゴンは森で遊ぶうちに野生の獣並みの気配を絶つ技術を身につけた。

 

キルアも尾行の訓練をすることにより気配を絶つ技術を身につけ、それらは結果的には絶に繋がった。

 

こりゃ、思ったより時間が掛かりそうだ。


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