ぺディグリーすかーれっと   作:葉虎

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第23話

 

私クランは今現在、零距離で女の子と接触しております。

 

押し倒されております。

 

アイアイで同じような状況になったが…。

 

なんだろう。

 

トキメキの度合いが違う。

 

お互いの吐息が掛る距離。

 

吸い込まれるような瞳……

 

俺達はその距離をさらに縮め…

 

「で、何時までやっているつもりですか?」

 

そんな俺の妄想は実現しなかった。

 

そう、此処にはもう一人居たのだ。

 

スルーされ続けていたこともあり、かなり不機嫌そうなオウカ嬢である。

 

だから、柄に掛りそうなその手を止めろ。

 

その言葉に、現在の姿勢を自覚したのだろう。

 

恥ずかしくなったのかバッとリエルが距離を取る。

 

「ご、ごめん。う、嬉しかったから……」

 

ゴシゴシと目元を擦るリエル。

 

なんだ?リエルが…可愛く見えるだと?

 

「でも…よかった……生きていてくれて……急に居なくなっちゃったから」

 

うっ…

 

「ねぇ、どうして居なくなっちゃったの?」

 

……言えない。

 

クルタ族滅亡の未来を知っていた為、逃げました。

 

だらだらと背中に汗を掻く。

 

……言えない。

 

しかも逃げた後は、天空闘技場で稼いだ金を使い美味い物を食べたりしてた。

 

「い、色々あって…ちょ、ちょっと旅に…」

 

く、苦しい。

 

「そうだったの…でもよかった。そのおかげであなたは助かったのだもの…」

 

やめてー。

 

その微笑みやめてーー。

 

どんどん削られていく。

 

ごめんなさい。ごめんなさい。

 

罪悪感が半端ない。

 

そこに…

 

「何やら色々と訳ありだそうですが。まぁいいです。取りあえず私の要件を果たさせてもらいます。」

 

割って入るオウカ…助かったーーー。

 

「…あなたは?」

 

「私の名はオウカ。オウカ・シラヌイと言います。」

 

「そう。私はリエル。それであなたはこいつとどういう関係なのかしら?本名を知っていたみたいだけど、知り合い?」

 

そう言われてオウカが俺を見る。

 

「……考えてみれば、私とあなたはどのような関係なのでしょう?」

 

ふむ…

 

「いちおう師匠ってことになるのか?」

 

「確かに…念はあなたに教わったので一概にはそう言えるかもしれませんが…私もあなたに剣を教えましたよ?あぁ、そういえば、あれからちゃんと鍛練は行っていたのですよね?」

 

にっこりと微笑むオウカから視線を逸らす。

 

念の修行の代わりに頼んでも居ないのに剣を強引にオウカから教わることになったのだが…。

 

この天才様は教える事にとことん向いていない。

 

感覚派なのだ。

 

バッと踏み込んで…スバッとやればよいのです。

 

……訳が分からねぇよ。それじゃ。

 

あれだよ?一応、天空闘技場で稼いだお金で刀を購入して、購入当初は俺もやる気満々だったんだ。

 

元日本人。刀に対する一種の憧れのようなものは転生した俺の中にもあったし。

 

でも、オウカに支持し殆ど上達しなかったこともあり…

 

今では巾着袋の奥底に封印されている。

 

俺の態度から悟ったのだろう…

 

「……分かりました。試験が終わったらまたみっちり仕込みます。逃げたら…」

 

「…逃げたら?」

 

チャっと刀を軽く揺するオウカ。

 

どうやら、命は無いらしい。

 

そんなやり取りをしていると…

 

「ふ、ふふ。」

 

「あ、あのリエルさん?」

 

錯覚かと思うが禍々しいオーラを醸し出すリエルさん。

 

体感的にヒソカの非じゃねーんだが…この禍々しさ。

 

だが、それは俺の錯覚だったようだ。実際には一瞬の事だった。

 

今見ても禍々しさは殆どない。何故か、殺気立ってはいるが…

 

「あの時…私が頼んだのに…この女には念を教えていたのね?」

 

あ~。そういえばそんな事もあったような気がする。いや、でもあの頃は俺も色々と…

 

「そうなのですか?私の場合、特に頼まずとも教えてくれましたが…」

 

何言ってるのーーー!?いやまぁ、確かに念について教えた時になし崩しにそうなったような覚えはある。

 

面と向かって、オウカから念を教えてくれと言われた記憶がないのだ。

 

あれ?

 

「ふふ、ふふふ……。ねぇ、クラン」

 

こ、怖ぇえええ。なんだこれ?これが俗にいう修羅場という奴ですか?

 

なんだ?なんで修羅場っているんだ?

 

こいつらもしかして俺に気があるのか?

 

いや、リエルは前はそうじゃないかなーとは思っていたんだけど、再会して間もない訳で…。

 

オウカの方も…今思えばそんな素振りがあったような。

 

アイアイで数々の経験を積んできた今だからこそ気が付いた訳だが…。

 

「私がね、何故此処に現れたのか…教えてあげるわ。それはね、あなたが私のターゲットだからよ。」

 

「…えっと、昔のよしみで見逃してくれたりは…」

 

「……そうね。さっきまではそう考えもした。でもね、個人的に聞きたい事もあるし…」

 

フッとリエルの姿が消える!

 

なんだ!?これ、俺より早…うぉっ!?

 

気が付けば目の前まで距離を詰められ、振るわれた拳を間一髪で避ける。

 

そして、尚も追撃をしようとするリエルを…

 

「瞬間移動という奴ですか。放出系でしょうか?」

 

迎撃したのはオウカだ。間に割って入り、相手を蹴とばした。

 

だが、リエルも咄嗟に腕をクロスさせガードする。

 

その結果、若干吹き飛ばされて俺達と距離が開き…。

 

俺を庇うようにして立っているオウカとリエルの二人が対峙する事になった。

 

「…邪魔をする気?」

 

「はい。私のターゲットはあなたなので…」

 

オーラの質が互いに変わる。

 

もう、完全にやる気…臨戦態勢という奴だ。

 

「お、おい止めろよお前ら!」

 

「……その女を庇う気!?」

 

「引っ込んでいてくださいませんか?」

 

止めに入るも、聞く耳持たず。

 

……もういいや、好きにしろよ。

 

まぁ、怪我したら治してやればいいや。

 

 

 

先手を取ったのはリエル。

 

また、フッと姿が消える。

 

多分放出系のテレポート能力化と思われる。

 

一瞬で距離を詰められ、さらにどこから来るか分からない…驚異的な能力だ。

 

だが…

 

「なっ…」

 

「芸がありませんね。それに同じ手を何度も使う物ではなりません。」

 

出現し、今度はナイフを手に持ち攻撃してくるリエルを簡単に裁くオウカ。

 

そう、俺もさっき攻撃を避けた事から気付いたが、出現から攻撃までの動作が若干遅い。

 

オウカは一応、俺と同等のスピードを持ち…さらに刀を使った近接戦闘は俺より上だ。

 

いや、過去の訓練時の対戦成績は五分なのだが、それは俺がオーラの総量や念の練度が上なのを利用し、強引に勝利を捥ぎ取っていただけであって、同じ条件下ならオウカの方が強い。

 

ゆえに、あれくらいの攻撃なら問題ない。あと一つ、問題があるなら瞬間移動で攻撃が何処から来るか分からないという点だろう。

 

しかしそれも…

 

「な、何で…」

 

「円です。そこのクランのように馬鹿げた範囲ではありませんが、自分の間合い程度の範囲の円なら私でも使えます」

 

そう、円で相手の出現を察知しているのだ。

 

リエルの瞬間移動からの攻撃よりもオウカの出現を察知してからの攻撃の方が速い。

 

なので…

 

「ぐっ…ごほっ…」

 

再度、瞬間移動からの攻撃を仕掛けたリエルだったが、今度はカウンターで腹部にオウカの掌打が叩き込まれた。

 

刀を抜かないのは加減をしているからなのだろう。一応、多少の冷静さは残っているようだ。

 

それほど、この二人には差がある。

 

攻撃時、防御時にきちんと流を行い、オーラの移動を適材適所に行っているオウカに対し、

 

リエルは常に一定。発こそ使ってはいるが、流を使用しているようには見えない。

 

さらには凝も使っていないのだ、念での戦闘の心得が無いのだと思われる。

 

俺とオウカは短い間だが組手も行っており、一応俺の知るすべての知識は叩き込んである。

 

この差はでかい。

 

「…ふぅ、プレートも頂きましたし…用はすみました。」

 

戦闘の合間に、何時の間にかプレートを奪っていたオウカがそう告げる。

 

「ま…まだ……負けてないわよ」

 

ふらふらと立ち上がるリエル。その間に割って入る。

 

「止めとけ、念の戦闘の心得のない。今のお前じゃオウカには勝てない。」

 

きつい視線を向けてくるリエルを無視しつつ、近づき薬を振り掛けてやる。

 

あらゆる傷に効くすごいきずぐすりと、腹部に関する怪我、病気を治す名称セーロガーンを使用する。

 

「あの巾着袋といい、つくづくあなたの能力は便利な物ですね。そういえば、身体の欠損部も治すことができるとか言っていましたよね?」

 

「いちおうあるにはあるけど、まだ人間に使った事は無いからな…」

 

因みにその薬の名称はピッコロサァァンだ。

 

「なら、手を抜く必要はありませんでしたね」

 

「いや、君、人の話聞いてた?」

 

刀に手を触れるオウカを見て若干引く。

 

唖然としながら自分の怪我が治った事を確認していた。リエルがはぁっと息を吐き…

 

「負け…完全に私の負けね。」

 

そう告げた。

 

「ねぇ、あんたに教わればそいつに勝てる?」

 

「あ~。さぁなぁ。でも今よりは確率上がるんじゃないか」

 

「……そいつに教えて私に教えないってことは無いわよね。」

 

ガシッと俺の腕を掴むリエル。

 

一度断っているせいだろうか?逃がすまいとしている。

 

はぁ…

 

「分かったよ。教える。教えますよ」

 

こいつに対しては後ろめたい事だらけだし…

 

冷たく接していたりとか…

 

暴言吐いたりとか…

 

見捨てたりとか……。

 

「……ごめん。なんかごめんなリエル。」

 

今までの自分の行動を振り返り、思わず謝ってしまう。

 

「前、断った事?い、良いわよ。今度教えてくれるんだし、だ、だからそんな顔しなくてもいいわよ」

 

いや…もう…ほんとごめんなさい。

 

「それで、これからどうするのです。クランはプレートは集まったのですか?」

 

「いや、俺はあと1点分。だから適当な受験生を見つけて狩ろうかと思ってるんだけど…リエルは?」

 

「私は今、持ち点ゼロよ。……今回のハンター試験は見合わせようかと思うの。あんた達二人からプレートを奪えそうにないし、6人も受験生を探して倒すのも大変だから。だから、クラン。あなたの試験を手伝ってあげる。その代り、点数集めたら残りの時間で早速念の事教えてね」

 

「あぁ。クリアしたら時間まで暇だしな」

 

ターゲットとして狩られる心配も、俺のプレートを狙ってたのがリエルだったから無いしな。まぁ、俺みたいに1点分のプレート欲しさに遭遇戦をする事があるかもしれないけど…。

 

そん考え、後1点分を狩ろうかと歩き出したところで、何故かオウカも着いてきた。

 

「どした?」

 

「私も手伝ってあげます。それに、そこの女が不意を衝いてあなたからプレートを奪う可能性もありますし…監視してあげます」

 

なんだろ…ピキっと亀裂が走った音が聞こえた気がする。

 

「ふふ、面白い事を言うじゃない。オウカさんだったっけ?」

 

「そうですか?クランの知り合いとは言え…疑うのは至極当然かと思われますが…」

 

互いに不気味に微笑む。

 

俺はそんな二人を放置して、とっとと狩りに行く事にする。

 

付き合ってたらこのまま落ちかねんからな。

 

そして…

 

名も知らない、念も使えない受験生を大人げなく3人がかりで包囲し、プレートを奪い。

 

人目を避けつつ、時間を潰し。

 

俺とオウカは4次試験を突破。

 

リエルは4次試験で不合格となった。


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