異世界のカード使い   作:りるぱ

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第08話 黒い飛竜

 さて、次は移動方法の召喚だ。

 まず機械族は却下。小回りが利かないので、木々生い茂るジャングルでの走行には向かない。

 次に考えたのは馬。古来から人は馬を調教し、移動手段としてきた。驚くことに、これは地球のあらゆる地域でなされていたことである。発祥はどこか一箇所ではないということだ。

 それだけ馬は人が乗るのに適した動物なのである。

 そこで、サンライト・ユニコーン、宝玉獣サファイア・ベガサス、ダークゼブラの三枚の馬型モンスターが候補に挙がった。だがイラストを眺めでいる内に、こいつらには(くら)も手綱も(あぶみ)もないことに気づいた。何か代用できるものはないかと更にスーツケース内を大捜索したところ、モンスターカード、花騎士団の駿馬が見つかった。ステータスは弱いが、こいつには前述の全てが揃っている。

 しかし、そこでまたまたはっと気づいた。俺の乗馬経験は小学生時代に家族旅行で行った牧場の乗馬体験コースがその全てだったことを。そんな俺にこの障害物の多いジャングルの中、操馬ができるだろうか? モンスターとの意思疎通ができる点を考えればこれはもしかしたらいけるかもしれない。だがしかしだ。例え操馬の問題をクリアーできたとしても、自転車で約二十時間の距離を、俺は馬にしがみつくことができるだろうか?

 

 とまぁ、色々ゴチャゴチャ考えたが、その結論だけを簡潔に述べよう。

 馬をあきらめて空路を行く。

 

 まず、長距離移動に俺が耐えられないのが一つ。

 空路を使うなら、木や岩などの障害物がなく、襲い掛かってくる野生動物も限定される。出せるスピードも違うし、移動は大分スムーズになるだろう。かなりの時間短縮が望めるはずだ。

 

 続けて、暖かいワイトキングのローブを手に入れたのが一つ。

 保温性能があるといっても所詮ローブ一枚なので、そこまでは期待できない。しかしそれでも低空での飛行には耐えられる程度の暖が得られる。完全にではないが、これで一応寒さの問題を解決したと言える。

 

 最後に、水・食料の問題が一つ。

 当然の如く、移動途中に水と食料を出すことはできない。ブルー・ポーションは大きな壺が、非常食は十食分くらいまとめて出てくるからだ。

 問題となるのは食べ切れなかった分だ。量があるのでそのまま騎獣に積むことはできない。ならその場に放置すれば、当然の如く二十四時間後にはカードに戻る。この広いジャングルの中、後からカード一枚を探し出し、回収するのは至難の業だろう。つまり出せばそのカードは失われることになる。その場に留まってカードに戻るのを待つ方法もあるが、あまり効率がいいとは言いがたい。

 

 以上のことから、空から短時間で行くのが一番いいと判断したのだ。

 

「さっさとやっちゃおう」

 

 あらかじめ用意したカードを取り出す。

 

真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)、出ろ」

 

「ギャアオオウ!」

 

 出現したのは漆黒に染まる飛竜。つまりはワイバーンだ。

 伝説上におけるワイバーンの大きな特徴は二つ。翼と同化している腕。尻尾に生える毒の棘。

 こいつはその二つを忠実に守っているように見える。

 後の特徴といえば、鳥類のクチバシのように鋭く尖っている口と、その名の通り、爛々と真紅に輝く目だろうか。

 体格は馬の三回り程大きい。

 

「これなら乗れそうだな」

 

 よぉ、マスター。よろしく頼むぜ。

 

「ああ、よろしく

 俺を乗せて飛んでもらうことになるけど、まぁ、安全飛行で頼むよ」

 

 それくらいお安い御用だ。

 

「それは心強い。

 ――モンスター・アイ、召喚」

 

 黒飛竜と喋りながらも案内役を召喚する。

 7体の目玉が呼び出される。

 

「用件は分かってるよな」

 

 大丈夫。案内。

 了解した。案内。連れてく。

 聞いた。昨日聞いた。

 

「それじゃあ、ローブの中に入ってくれ」

 

 そう言ってローブの袖をめくると、7体の目玉はわらわらと中に入ってくる。

 

「よし。真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)、乗るから体を下げてくれ」

 

 こんなんでいいか? おっと、尻尾の毒には気をつけろよ。

 

「ありがとう」

 

 真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)の体のあちこちから突き出る角のような取っ掛かりを足場に登る。肩の少し上を跨ぎ、上半身は抱擁するように首につかまる。

 

「ワイトキング、固定だ。昨日言った通りにしてくれ」

 

『分かっておる! まったく、我輩をここまで顎で使ったのはキサマが初めてだぞ!』

 

 そりゃそうだろう。何言ってんだこいつ。

 

 見た目、歩く骨格標本となったワイトキングは黒飛竜に跳び登り、俺の背後に回る。そして俺を抱え込むようにがっしりと黒飛竜の首に抱きつき、俺を固定した。

 骨と黒飛竜の首にサンドイッチされ、これで安全ベルト完成。容易に振り落とさることはなくなるだろう。

 普通なら骸骨に抱きつかれるのは気持ち悪いと思うだろうが、不思議とそう言った嫌悪感はない。こいつの召喚主だからだろうか?

 

「最後にフレムベル・ベビー、尻尾あたりにでもしがみついてくれ」

 

 了解さー、もう掴まってるさ。黒竜の旦那、熱くないさ?

 

「キャォオウ」

 

 嘗めんなよ! 俺にとっちゃ溶岩もただの風呂だぜ。お前ぇこそ毒は大丈夫なんか?

 

 火の塊に毒は効かないさ。

 

「これで準備は全部終わったな。

 飛ぶ方向の指示はモンスター・アイが出す。なるべく低空飛行で頼む」

 

 まかせとけ!

 

 黒飛竜は大きく翼を羽ばたかせ、ぐんっと一気に高度を上げる。

 ひゅんっと心臓が体内を駆け登っていくような感覚。

 ワイトキングが体を固定しているおかげで姿勢はかなり安定している。その為、上空に上がった恐怖感はそれほど感じない。

 十分に高度が取れたところで、号令をかける。

 

「行くぞ! 出発!!」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 三時間程経過し、空の旅にも大分慣れてきた。

 予想通り、強い上空の風は冷たく、抱きついた黒飛竜の体も硬い為、気持ちのよい空中遊泳とはならない。

 ワイトキングは後方からがっしりと固定してくれている。掴まる力を少し抜いても、揺れや強風で落ちることがないのは非常に助かる。

 

 集落についたらどうするか、昨夜の内に色々考えた。

 どうするかとは、主にモンスターについてである。住民を驚かさないよう手ぶらで行くのは簡単だが、俺の力は彼らモンスター達そのものだ。やはり力を持っているのと持っていないのとでは、向こうの対応も違ってくるだろう。

 そもそも村人は友好的であるとは限らないわけで、その辺りを鑑みても、集落においては能力を隠さないでいた方がいいと結論に至った。辺居にある村なだけに、きっと迷信なんかも多いだろう。俺の能力についての誤魔化しも効くはずだ。

 後々の為にも、この世界の魔法や魔力に対する認識がどのようなものであるか知りたい。まずはできるだけの情報をあの小さな村で集めてみよう。

 

「大丈夫かな……?」

 

 戦力的にという意味だ。もちろんいざ攻撃された時のことを考えてである。

 しがみ付いている黒飛竜を簡易鑑定する。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)       -闇ー

             ☆☆☆☆

【ドラゴン族】

      ATK/1800 DEF/1600 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 以前鑑定した村の狩人だと思われるステータスは攻撃力300だった。俺の攻撃力が80であることを考えれば、これは相当なものだろう。モンスターを連れていかない場合、武力で来られたらどうしようもない。

 だが黒飛竜の攻守は彼らの約六倍。流石にこれをどうにかできる奴はいないと信じたい。

 

 そんなことをつらつら考えていると、懐に入っている目玉達が声をあげた。

 

 湖。ここ湖。湖。

 湖。私食べられた。

 大きい魚。湖。前。

 

 黒飛竜の首にくっ付けていた顔を持ち上げ、右側から前方に目を向ける。

 

「湖か……。でかい……と言うか、向こう岸が見えない。それに――」

 

 渓谷……なのだろうか?

 湖と隣り合わせの右側前方の密林は、まるで何かに食われたかのように、一直線、縦に割れていた。湖と同じく終点が見えないので、長さは数キロ単位に及ぶだろう。深すぎる為、下まで光が届かず底は見えない。

 俺達はその渓谷を右手に、湖の上を飛行する。水の冷たさを得てさらに低温となった風が頬に当る。

 

「ジャングルのど真ん中にこんな大きな大地の裂け目があるってのも、何か不自然な感じだな……」

 

 馬鹿な考えかもしれないが、人為的に作られたようにすら見える。

 

「個人レベルでこんなことができたりとか、やめて欲しいね……」

 

 流石に過ぎた妄想だと思うが……。

 

 主。そろそろさ。

 

 サイヤ的な人達がいたら嫌だなー。などと考えていると、黒飛竜の尻尾にしがみ付く火の玉が俺に話しかけてきた。

 

「ん? もうか。

 真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)、一旦止まってくれ」

 

 黒飛竜はゆっくりと減速し、大きく上下に翼を羽ばたかせて、その場でのボバーリング飛行に体勢を移行させる。

 全身にかかるGと冷たい風が止んだと同時に、火の子供は俺の右手へと飛んできた。

 

「ワイトキング、少し拘束を緩めてくれ」

 

 手をフレムベル・ベビーの真下に差し出す。

 主、これでしばらくお別れさ。またオレのことが必要になったら呼ぶさ。

 

「ああ、ほんと、助かったよ」

 

 フレムベル・ベビーは満足そうに体の炎をボォッと燃え上がらせると、カードとなって俺の手に落ちた。

 このまま蜻蛉(とんぼ)帰りでもしないかぎり、彼の出番はしばらくない。思えば、彼には一番お世話になった気がする。 

 

「それじゃあ、五分休憩して、それからもう少しスピードを上げて飛ぼう」

 

 了解だ。

 

『もう好きにすればよい』

 

 休憩。お休み。休憩。

 休憩。

 五分。休憩。五分。

 

 何故か投げやりなワイトキングに、ざわめく懐の中の目玉達。

 因みに休憩とは、勿論俺の為の休憩である。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 見える。あった。見えた。

 村。見えた。村。

 着く。

 

「あ、ああ、みみみ見えてる」

 

 溢れる思いを抑えきれず、にんまりしてしまう。ついでに溢れる寒さも抑えきれず、声が震えてしまう。

 長かった。実際この世界に来てまだ一週間なのだが、気分的には一月くらいサバイバルしてた気がする。まぁ、アレをサバイバルと呼ぶのはプロの人に色々と怒られそうだが、俺にとっては間違いなくサバイバルだったのだ。

 

「とと取りあえず、おおお降ろしてくれ」

 

 はははは、お疲れ様だな、マスター。

 

『はん! 無茶をして速度を上げさせるからだ』

 

 でもそのおかげでまだ日は高い。いい感じに早く辿り着くことができた。

 眼下には目的地の集落がある。家屋八十数軒の村と聞いて必要以上に小ぢんまりしたものを想像したが、実際見るとかなり広いことが分かる。今丁度上空にいて村の全体像が見えている。形は歪で円形や正方形と分かりやすく表現できない。一番距離の長い部分で見れば、村の端から端まで6キロメートル程ある。

 そして最も目立つのは、そんな広い面積を囲む赤銅色(しゃくどういろ)の壁だろう。

 高さは7メートル程。それがぐるりと村を守るように続いている。材質は何だろうか? 石のようでいて、金属のようでもある。継ぎ目がまったく見当たらない。これを建てるには相当高度な建築技術が必要となるだろう。上空から見たところ、壁の対角線上に出入り口が一つずつ――合計二箇所あり、それぞれの横に背の高い見張り塔がついている。この塔も赤銅色であり、きっと壁と同じ材質でできているのだろう。

 

「壁の外側の入り口付近に降りてくれ」

 

 目的は友好だ。いきなり中に進入したら敵と判断される可能性がある。まずは受付を通らないとね。

 入り口の門からは踏み均された道がある程度続いている。そんな門の近くの道に黒飛竜は降り立つ。

 長時間の空の旅により筋肉の凝り固まった肩を回す。ゴキゴキと骨の音が鳴る。

 少し体を動かしたいと思い、黒飛竜に声をかけて下ろしてもらうことにした。

 変なものを踏んで足に怪我しないよう、ゆっくり歩いていく。早いところ靴を入手したい。

 

 さて、この世界で初の人間との接触。第一声はどうしようか。

 おっす! 気安いな……。

 たのもうー! いやいや、道場破りじゃないんだから。

 こんにちは。……と、これは普通過ぎるな。

 嘗められない為にも、やはり少し偉そうに喋った方がいいだろうか?

 

 残り僅かな距離を進みながら考える。まったく日本語って難しい。

 黒飛竜は俺の後に続いていて、ワイトキングは未だその背中に乗ったままでいる。そして目玉達は俺のローブの中だ。

 ……それにしても……、……何か見落としてる気がするんだが……。

 地面は冷たく、砂の感触でざらざらしている。そんな大地を踏みしめ、とうとう門の前に辿り着いた。

 

 目の前の門はいくつもの細い木の丸太を縄で束ねて作られたものだ。赤銅色の壁の材質と比較してやけにアンバランスに見える。

 

「なんだろ? 未来的住宅の中にダイヤル式の黒電話を見つけた……みたいな?」

 

 そんなことを考えながら更に一歩門に近づくと、高さ4メートルある門は音を軋ませつつ外側――つまりこちら側に向かってゆっくりと開いた。

 

 てっきり塔の上から職質的に色々聞かれるかと思ったが、いきなり開くとは……。

 少し無用心じゃなかろうか?

 

 たっぷり20秒かけてようやく門は開ききり、その向こう側に待機していたらしきとある集団を視認できるようになった。

 中央にはもさもさと(ひげ)らしきものを生やした老人。杖をついているのできっと老人で合っているはずだ。その両脇にはそれぞれカラフルな民族衣装を身に纏った顔役らしき中年。更にその外側に、皮鎧を身に着けた青年らしき人物二人。先ほど門を開き切り、今入り口の両端に立っている青年二人を合わせると総人数七名。盛大なお出迎えである。

 彼らの後方20メートル程離れた場所で、口に指を咥えた子供がじーっとこちらを見ている。あ、今お母さんらしき人が慌てて掻っ攫うように彼を抱いて逃げていった。

 

 歓迎……されてないね。明らかに。

 

 カツンッ。

 中央に立つ()()()()()()()()()は杖の音を鳴らし、背後にいる()()()()()()()()を守るよう一歩こちらに近づいた。

 

 …………。

 ……。

 ……。

 ……あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 おれは人間の集落に辿り着いたと思ったら、そこは二足歩行する猫の村だった。

 な……何を言っているのかわからねーと思うが以下略。

 

 勿論、毛むくじゃらの老人も猫である。

 

「ど、どうも」

 

 つい無難なセリフが口から滑り出た。

 何だかしまらないファーストコンタクトになってしまった。

 

 身長1メートルちょいある猫達は俺をじっと凝視している。

 これがアニメとかなら「可愛い~」で済むのだが、現実に目の前にいるとなると、はっきり言って結構怖い。

 そして、ここではたっと気づいてしまった。

 

 ――日本語、通じるわけないじゃん!

 

 こんな当たり前なことに気づかないとか、何たるお粗末!

 や、やべー! どうしよう!

 ここに来てまさかの意思疎通不可能。

 俺の内心は大根らん状態だ。

 だ~いこんらん、だいこんらんですぞ~!

 せ、せめて表面上だけでも冷静を装わなければ。

 

 いつの間にか、猫の老人は俺の目の前まで歩を進めていた。

 そして彼は、ゆっくりと、(ひげ)を生やした、その口を開く。

 

「――にゃーーーー」

 

 に、にゃー?

 よし、こ、ここは冷静に!

 

「に、にゃーーーー!」

 

 って全然冷静じゃねーー!

 

「…………。

 ……わしはこの集落の代表役をしとりますにゃ。

 不躾な質問にゃが、賢者殿。我らが村へ何用ですかにゃ?」

 

 ――――

 ――

 ――

 ――初めて出会う異世界人の言語は、語尾に”にゃ”をつけるあやしい日本語でした。

 

 

 

――――――――――――――――――――

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未熟なカード使い      -闇ー

               ☆

 

【上位世界人族】

異世界に迷い込んだカード使い。魔力を

消費してカードに秘められた力を解放す

ることが出来る。しかし、その力はまだ

未熟だ。

 

ランクアップ条件

知的生命体と接触せよ Clear

魔力の最大値が1アップしました。

 

信奉者を獲得せよ 0/10

 

魔力 3/9    ATK/80 DEF/130 

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 因みにレッドアイズ・ワイバーンとワイトキングはスカルライダーの如く、主人公の後で睨みを利かせてます。
 モンスター・アイ達は「マスタ-を守るぞー!」とローブの中でスタンバってます。

主人公 → 事前に色々考えるが、肝心なことが抜け落ちる残念な人。

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