アンリさんの能力研究、は~じま~るよー(ウザ
日曜日。
それは職業、学業に従事している者を問わず、大多数の人が休みの日であり、一週間の憩いの時間を連想する人もいるだろう。二人も例にもれず、この日曜日は魔女の探索をやめ(先日魔女を倒し、早々に出現もしないだろうと考えたため)、住民登録の手続きと衣服を調達する予定だったのだが……
「雨、降ってんなぁ」
「そうねぇ」
ザァァァ……と、天から降り注ぐ神の涙。こればかりは、どこかに恨み言をぶつけるわけにもいくまい。
加え、見た目の問題上、アンリは着の身着のまま人の前に姿をさらせないので荷物を持つことができない。ゆえにマミが買って帰るしかないのだが、この雨天では買ったものが濡れてしまう。
このままでいても埒が明かないので、渋々といった表情でアンリが切り出した。
「マミ、金渡してくれ。自分で服買ったらそのまま戸籍の手続き済ませてくるから」
「えぇぇ!!?」
マミが驚くのも仕方がないだろう。上半身裸・赤い腰布一丁・全身刺青・肌の色etc.etc……ここまで記した他にも突っ込みの入れようは多々存在し、外を出歩くだけでもきつい問題点を抱えているのだ。
有名な国家権力の象徴『赤いランプ』が回るかもしれない。
「でもさすがにあなた一人じゃ、ちょっと…ねぇ?」
「よく考えたらさ、オレみてぇなのがマミの傍にいるともっとヤベぇと思うんだよなぁ」
追記事項:誘拐疑惑 までが追加されようものならば、確実にブタ箱が待っている。さすがにそれは不味いと考え、先の提案をしたのであった。
「そういうわけだからマミは家で待機しといてくれ」
「はぁ…仕方ないわよね…それじゃ、はい。」
「ん。おお、結構あるな」
渋々といった表情のマミからは、アンリへと衣服の予算と黄色いチェック柄の傘が手渡された。その額は結構なものであり、彼女には市からの補償金が出ているのであろうと予想される。
玄関前まで移動すると、バッ! と傘が開かれた。
「頑張ってくるからな~。行ってきまーすっと」
「気をつけて、行ってらっしゃい!」
右手をひらひらと振り背を向けて歩き出す。後ろのマミから見送られ、この日に初めて、別行動を開始するのだった。
「嗚呼、周囲の視線が痛かった…」
数十分後、何とか赤いランプのお世話にはならなかったものの、近くにあるデパート(この町の洋服店などはすべてデパートなどにに集約されているらしい)に行くまでの間、周囲の通行人からは好奇の目で見られ、アンリはうんざりしていた。
「さっさと探すか。ええっと服、服は、と。…ああこっちか」
客や店員からの奇異の視線を向けられながらも衣服コーナーを見つけ、そちらに向かった。その中にいる店員を発見し声をかける。
「すみませーん」
「あ、はい。どうなされましたかお客さ……!?」
「いや、落ち付いてください。普通に買い物しに来ただけで不審者ではねーですから!」
「し、失礼しました……。コホン! 本日はどのようなものをお求めで?」
さすがに驚きはしたものの、咳払いで気持ちを切り替え、すぐさま営業スマイルへと変わる店員。まぁその口は少し引き攣り、どことなく高い声の返答であったが。
「っと、この刺青が上手いこと隠れて黒か赤の模様が入ったのありませんかね?予算は6万円位なんですけど」
「それでしたらこちらにどうぞ。ご案内いたします」
注文の内容から、まともな人であると判断した店員は通報の考えを思考の隅に追いやり、アンリを目当てのコーナーまで案内した。これで第一関門突破といったところか。
修羅の門を通るがごとき覇気を携え、店員を多少おびえさせながらも先に進むと…
「こちらの品はいかがでしょうか?お客様のご要望通り、上下セット。色合いは黒地に赤のラインがデザインされたライダースジャケットですが・・・」
「(…
「承りました。ではレジにどうぞ」
そこまで言って店員は服を持ってレジへと移動すると、アンリもそれに続いた。レジに到着するとバーコードを読み取り、値段が表示される。
「こちらの上下セットが一品とこちらのシャツが二枚。合計で36896円になります」
「じゃあこれで。あ、更衣室借りていいですか?出来ればすぐに着替えたいんで」
「40000円ちょうどお預かりします。ええ、それでしたら左手の道をまっすぐ行った先にあるのでご自由にどうぞ。それではこちら3104円のお返しになります。レシートは…「ああ、要りません」はい。それでは、またのご来店をお待ちしております」
説明された通り移動し、早速、更衣室に入って着替え始めた。
おそらく値段は違えども、その服はギルガメッシュのライダースジャケットと同系の物であり、その違いといえば、下のシャツが黒いことと、入ったラインの色が赤色で二本という点であろう。
「ん。こんなもんか。しっかし似合ってんのかねぇ?」
肩を回してサイズや動きやすさの確認をし、同じように靴屋に向かう。こちらは無難にスポーツ用のシューズ(黒)¥4980を購入。何故か足に巻いてあった黒の包帯(アヴェンジャーの画像参照)が伸びたので、足全体に隙間なく巻いて靴下代わりにした後、再び確認してから店を出た。
着替えた姿で市役所へと足を進める。先ほどより視線の数は減ったが、今度はその格好とはジャンルの違う傘の色合いの不釣り合いで、少し目立っていた。
「まぁこんなもんでいいだろ。次は、っと」
もう慣れたのか、そんなこともどこ吹く風。こちらに来てから叩き込んだ頭の中の地図を思い出し、役所へと歩を進める。
「おぅわ!?」
が、突如激しい光がアンリを包んだ。
視界を麻痺させるほどの光が消えたのを確認して顔を覆った手をどかすと、見たことのある場所にいた。
「久しぶりだな?そちらでは3日ほど経っているか」
後ろから聞こえてきたのは、懐かしい
「ったく、いきなりどうした、神さんよう?」
当然、そこにいたのは、いつぞやの自分を転生させてくれた神である。
驚いたものの、まぁこんなこともあるか、となるべく平静に返事を返した。
「ふむ、突然すまないな。頃合いだと思って声をかけたまでだ『
「へぇ? そりゃ、ありがとよ」
お互い親しい雰囲気で会話を始める。久しい再会に両者の顔はいい笑顔であった。
突如、右手のひらを上に向け、神は一枚の『用紙』を虚空から出現させてアンリへと渡す。
「これはお前の住民票の写しだ。受け取っておけ。すでに生活面の資金も公的な理由で済ませてあるから心配はいらん」
「ハァァ!?」
なんと、その用紙にはアンリが見原滝町の住人の一人ということが記されていたのだ。
びっしりと書き込まれた個人情報に、本物だということが証明されている。
「いや、え? いいのかよ…こんなことやっちまって」
「いや、私ではなくそちらの『世界』が用意したものだ。情報としては日本の巴家へ養子に入った、という情報のはずだ」
内容はほぼその通りであり、登録名は「巴・M・アンリ」、追記事項には「■■族に捨てられた『忌み子』を巴夫婦が旅行先で引き取り、養子として登録」と記入してあった。
「この■■族、てぇのは?」
「実際に存在する部族で、『この世全ての悪』を生みだした村の末裔たちだよ」
「マジか!? つうかさ、なんだこの設定」
「私も知らんし、別になんでもない。ただの世界の『修正力』だ。まぁ…お前の情報に限定されたものだがな」
そこでいったん区切り、神は続ける
「そういえば、お前へ言わねばならぬことがあった。あのキュゥべえという個体を知っているな?」
「ああ、アイツって負の感情が全くねぇし、最近は薄気味悪く思ってたんだが、なんかやらかしたのかよ?」
「あやつの種族『インキュベーター』のしていることだがな?しばらく様子を見ておくといい」
「『インキュベーター』……。そりゃまたどうして? あいつのやってることは、人類にとって危険な化け物退治の手伝いみたいなもんだろ?」
確認するように繰り返すと、湧き上がってきた疑問を口に出す。
いつものように軽く返されると思っていたが、対する神は重く首を横に振った。
「あ奴らもまた『抑止』の一種、『真祖』のようなものなのだが…まあ、君には気をつけてほしいのだよ」
「…へいへい、御忠告は心にとどめておきますよ」
あくまで忠告。だが、この神が直々にいうことだ。
ここですべてを明かしたというわけではないのだが、アンリが警戒するには十分な情報であった。
「何の因果か、再び出会ってしまったが、今回の
そう言うと右手を掲げる神。そのまま振り下ろすと蜃気楼の様なものが現れ、その向こうにはアンリがここに来る前の景色が映っていた。
「これをくぐれば戻ることができる。今度こそさらば、だな」
「おう、こんな奴にいちいち忠告ありがとよ。もし、また会えたらそんときゃゆっくり、茶でも飲もうさ」
「ほう、嗜好品としては悪くない。ちょっとした約束といこうか?」
「そりゃいい! 約束だ。そんじゃ『また会おう』」
「ああ、『また』」
果たされることなどない『約束』。それを交わし、アンリは歪んだ景色を通る。再び視界は光に閉ざされる。静かに目を開けると、さきほどの役所までの道に戻ってきていた。
「ロマンチックだねぇ……約束だぜ?神さん」
その呟きは誰にも聞かれず、人ごみにまぎれていくのであった。
時間は午後の5時半。いくつかの袋を抱えてアンリは巴家に帰宅していた。
「ただいまーっと」
「あ、お帰りなさい!どうだった?」
「ご都合展開があってな、問題はないさね。ああこれと、これ、冷蔵庫に入れといてくれ」
流石にあの神に再会したとは言えないので、事実をはぐらかす。帰りに余った金銭で買ってきた食材を片づけ、リビングに集合。一服ついてから、あの用紙をマミに渡した。
「ほいこれ、親御さんを理由付けに使ったのは悪いが、こういうことになった」
「別にいいわよ。それにしても巴・
「いや、保護者としても兼ねているらしい。年齢欄も18になってんだろ?」
「あら、本当ね。これからどうするの?」
「現状維持。『お偉いさん』が言うには、生活費の問題も無い、とさ。」
お偉いさんという言葉でごまかしながらも、アンリはカーペットに寝転んだ。手足を放り出すような形で、十分なリラックスができる体制をとる。
「大丈夫?だいぶ疲れているみたいだけど…」
「なぁに、問題ないから先に飯食っててくれ。今日はピザ買ってきたからよ」
「はいはい。それじゃ休んでおいてね?」
「おう、今日はこのまま休むさね」
そう言って霊体化して消えたアンリ。彼はそのまま自分の部屋(元両親が使っていた部屋)へと移動したのだった。
「さてと…」
時刻は午後11時。流石に雨の降る外にいるわけにもいかないので、あてがわれた部屋にて彼は瞑想していた。
「ちょっとやってみるか…魔力の補充にな」
そう言って、彼は…
「『
宝具を発動した。
いやまあ、これぐらいしか考え付きませんよね。
それから、修正力が働いたのは『マミが喚んだから、世界が受け入れた』ためです。さすがに、自分の舞台に上がらせるんですから、チケットの発行ぐらいはしますよね。『世界』といえど。
では、お疲れさまでした。
下のほうには『適当』に解説入れたいと思います。
ほとんど役に立ちそうにもないですが……
次回は、時系列が二年ほど飛びます。