「魔術に聖杯…ねぇ」
「魔法少女に魔女…ってか」
「にわかには信じられないけど、あまり意味はないようだ。その結果が地球の科学と同じなら、その程度のエネルギーじゃ宇宙は救えないよ」
「…キュゥべえ、なんのこと?」
「長くなるけど、聞くのかい?」
「……今はいいわ」
あの夜から一夜明けた。
その日の午後、マミが小学校から帰ってきてから、情報交換として各々の世界の『特殊な事情』を互いに話し合った。
誰もアンリの服装に突っ込まないのは御愛嬌である。
アヴェンジャーが魔術についてこんな簡単に話したのは、キュゥべえという存在が居たからでもある。帰ってきたマミの肩に乗っていた白い生物。もといキュゥべえが言うには、もしこの世界に魔術の歴史があったなら、自分たちがすでに発見し、その理論について研究か何かを進めてあるはず。と言ったからだ。
その考えをまとめるようにキュゥべえが口(?)を開いた。
「とにかく、君の言う『聖杯』があるならともかく、魔術じゃ宇宙の延命はできない。男の君が魔力を持っていたりと中々興味深い話だけど、僕はこのあたりでお暇するよ。契約者を探さないとね」
「あ、おい! まだ続きが・・・って行っちまったよアイツ」
アヴェンジャー改めアンリが引き留めようとするも、その願いもむなしく、キュゥべえは姿を消した。どうやら他の魔法少女の候補を探しに行ったらしい。
ちなみに彼が引き留めたのは、魔術について話したことは『科学で再現できることは魔力を使ったものと手順は違えど同じ結果にしかならない』ぐらいのものであり、『魔術回路』や『サーヴァント』、『根源』について等は全く話していない。・・・もっとも『回路』については誰にも話す気はないのだが。
「キュゥべえはまぁ…今はいいでしょう。それでアンリ、こちらの魔法少女についてはこれで全部話したと思うけど、魔術の続きって?」
「ん? ああ、さっきあいつが言ってたエントロピーをも覆すかもしれないってのが、オレのいう『魔法』だって言いたかったんだが、・・・アイツも気が早いもんだ」
「『魔法』? 魔術と何が違うのかしら」
「よく言われる質問ベスト3のトップをよくぞ聞いてくれましたっと。
それはともかく、魔法はさっき言った魔術と違って『どんだけ金と時間をかけても科学では結果をもたらすことができない』っていう反則の塊でバカげたシロモノだ」
「ふーん、アンリはどんなものがあるか知っているの?」
「つっても全部の説明はできねぇんだけどな。全部で5つあってな…っと、
第一魔法は『無の否定』。実際のとこ知らん。使い手はすでに死んでるらしい。
第二魔法は『並行世界の運用』。ゼルレッチっつう爺さんが使えるんだが、よくわからん。
第三魔法が『魂の物質化』。死んだ人を蘇らせることもできるらしい。
第四魔法なんだが、これ本当に誰も知らないんだよなー
最後に第五魔法で『青』。詳細はしらんが、使ってる奴の歩いた後には草木一本生えないとか言う物騒な噂しかないから、『時間旅行』か『破壊』に関するかもって噂もある」
あいも変わらずの長話。まだ小学生だというマミに聞かせるのも難しい単語が多く、普通なら首をかしげるであろうそれらであったが、マミは少々特殊な生い立ちゆえに積み上げてきた知識を使い、アンリの話を真剣に聞き入っていた。
「詳細はともかく、名前だけでもとんでもないものばかりね。それじゃあ本当に魔法よ。私たちのとは全然違うみたいだし」
「だからこそ、魔術師たちも『魔法』って呼んでるんだがな」
呆れながらも二人して同意する。アンリはその魔法にも再現できなかった世界そのものからの移動をどうやって果たしたのか。と考えるまでの思考にマミが行き着かなかったのが、まだ幼いゆえだろうと思い、魔法についてを話していたその内心で、ここにいる理由を聞かれずホッと息をつく。いざとなれば令呪があるからだ。
だが突然、思い出したかのようにマミは話を切り出してきた。
「そう言えばアンリは反英雄って言っていたわよね?昨日の時の自己紹介で悪とか神様とか言っていたけど、どこの英霊なのかしら」
どうやらアンリ・マユについては知らないようだ。
確かに、いくら知識をつけようと、それは大人の様に自分ひとりで何でもこなせるようになるためであり、ゾロアスター教などはその宗教の人や歴史には悪いが、日本人にとって雑学の域といっても過言ではない。辞書でも『アンラ・マンユ』と出るほどだ。
キュゥべえはアンリ・マユの名称からその正体をすでに一部は看破できていたようだったが、マミは知らない。説明が面倒だと思った矢先、いい方法をアンリは思いついた。
「あ、そうだ。マスター。チョイと目をつむってから、オレに集中してみてくれ」
「え?ええ・・・」
いぶかしみながらも言われた通りに目をつむり、アンリに意識を向けてみる。
「あら?なにかしら、これ。頭の中に表が・・・」
「そいつがオレの能力を現すパラメータだ。真名がわかってるなら説明もわかんだろ」
どこか投げやりに説明をするアンリ。彼とて多少は疲れたようだ。
マミの頭にはこんなものが映っていた。
クラス:アヴェンジャー
真名:アンリ・マユ
性別:男性
属性:虚無
身長:160~165cm
体重:52~54kg
パラメータ:()内は何らかの方法で強化時
筋力・D(C+)
耐久・E(D+)
俊敏・C(B+)
魔力・B-(EX~∞)
幸運・C
宝具・D~B+
クラススキル:アヴェンジャー
対魔力:D
一工程による魔術を無効化する。効果としては魔除けの護符程度。
浮かばれぬ怨恨:A
~
保有スキル
殺害権限:―
~
聖杯:EX
~
神性:C+(A+)
~
単独行動:―
~
宝具
~
両者ともに静かになった。マミはこのステータスを読み取るのに集中しているようである。
対してアンリは疲れたとも諦めたともいえる表情で別の部屋に移動。彼女が読み終えるのを待つことにした。
時は流れ、外はすっかり日が落ちている。マミの片手には辞書があり、読めない字はそれで何とか呼んでいるらしい。
だが、その近くにアンリはいなかった。彼は台所でマミの夕飯を作っていたからである。マミの好物を知らないので、マミでも食えそうなものを、と考え生前の家事スキルを発揮し、簡素に栄養バランスのとれた晩飯を作っていた。豆腐と葱の味噌汁に鮭の焼き魚、白ご飯とありあわせのサラダ。…材料を勝手に使うあたり、なんと言おうか……
…余談だが、恰好は英霊時の服装そのままである。
とりあえずは完成したので、いったん食事をとらせようと思い、パラメータの読み取り作業を中断させるためマミの部屋に呼びに行った。
アンリが部屋に入った瞬間、何かが腹のあたりに飛び込んできた。耐久がEのアンリは「ウグッ」とむせながら、ぶつかってきたマミに目を移した。
「どうして最初に言ってくれなかったのよ!あなたは何も悪くないじゃない!あんなふざけた理由で殺されて、それで…それでぇ……!」
苦笑するアンリは、マミからほどほどの悲しみと怒りを感じた。あのステータスにある『このアンリ・マユ』の生い立ちを見て、これほど感情的になってまで自分を心配してくれたようだ。
何故かは知らないが、マミから発せられる悲しみや怒りといった負の感情が『人より異様に傾きやすい』ので、『この世の全ての悪を背負わされし者』を使いながら彼女からの穢れを吸収する。
そうして泣きやむまでの間、子供を諭すように頭をなで、アンリはこう言った。
「ったく、別にマスターがそこまで悲しむ必要もねぇだろうさ。すでに死んじまったもんはしょうがねぇし、オレはここに『いる』ってだけで十分だ。
それによ、マスター、世界は続いている。
死亡済みであろうが死後痛みにのたうちまわろうが、今もこうして生きている。
それを―――希望がないと、マスターは泣くのか?」
それは引用された台詞。
彼はいくら似せても『アンリ・マユ本人』になることはできない。だが、彼に近づくことはできるし、このように理不尽に嘆くマスターを叱責するにはこの言葉しか思いつかなかった。
泣きじゃくるマミの顔を、食事に使わせようと思い持っていた手拭いで拭きとった。
「なに、ずいぶん集中してたようだから晩飯、簡単なものだが作っといた。
いろいろ聞いて、今みたいに泣いて疲れただろ?マスターは飯食って風呂入ってさっさと寝といてくれ。
明日っからの魔女退治、オレもついてくからよ。な?」
「…ええ、ありがとう。アンリ」
まだ涙目ながらも、アンリの励ましと慰めでいくらか調子を取り戻して、気丈にふるまうマミ。アンリはその手を引いてダイニングへと連れて行ったのであった。
夕飯の後、いつの間にかキュゥべえも姿を現し、いつものマミの自室にて明日以降の予定を二人+一匹で話し合っていた。
初めに口を開いたのはマミ。先ほどとは正反対の笑みを浮かべていた。
「さっきはありがとう。こっちが逆に慰めて貰っちゃったわね」
「いんや、マスターの管理も
「?僕がいない間に何かあったのかい」
「「いや別に」」
「まったく、わけがわからないよ」
そして二人は笑い始めた。昨夜の様なものではなく、ただ純粋な可笑しさとして。ただ一匹、キュゥべえは理解できないようだが。
「昨日魔女を倒したわけだし、私のソウルジェムにも反応がなかったから今日は大丈夫だったけど、明日からまた探索を始めましょう。アンリの戦いを一度ちゃんと見ておきたいしね」
「了解だマスター。オレも「ああ、そうだ!」――どうした?マスター」
「それよ、その『マスター』って呼び方。私のほうが年下だし、これから名前で呼んでくれるかしら」
それを聞き、こいつもよくある難関か、と内心苦笑する。
「へいへい、そんじゃマミと…あぁ、やっぱこっちのが呼びやすい。今度からそう呼ぶさ。それと、言いかけたが明日は『霊体化』してついてくから人目は気にすんな」
「霊体化? そんな魔術があるのかい?」
「いいえ、サーヴァントの能力の一つらしいわ。他にもアンリから色々聞いたけど…やっぱりキュゥべえには秘密にしておこうかしら♪」
意味ありげにマミがほほ笑むと、キュゥべえは小さく息を吐く。
「へぇ…まぁ、あまり魔術には期待していなかったからね。別にいいさ。明日、アンリが能力を使うときがあるならその時にまた来るよ。じゃあねマミ、アンリ」
そう言うと例のごとく、キュゥべえは夜の闇にまぎれ溶け込んでいった。
白い体のはずなのだが、宵闇と一体化するのは何とも不思議な光景であったが。
(ん? そういやアイツ、負の感情が全くなかった。常にポジティブ思考の持ち主なのかね?)
見るたびにキュゥべえが怪しく見えてくるアンリだが、気の迷いだと思考を払った。
そして…
「明日、戦いがあったらアンリのバックアップは任せて。絶対に守るから」
マミが決意のこもった瞳をこちらに向け、まっすぐに彼を見据える。それに対しアンリは
「なぁに、マミを守んのがサーヴァントの役目だ。そっちの支援なんざいらねぇぐらいあっという間に勝っちまうから、そっちこそ覚悟しとけよ?」
いつものニヤケ顔で勝ち誇るように宣言した。それに答えるように会釈をし、眠りに入るマミ。アンリは霊体化し、屋根の上に移動して己がマスターの家を荒らそうとする不届き者がいないか警戒に入るのであった。マンションの最上階なのだが。
そして、虫の音が響く夏の夜、この世全ての悪を受け入れた見滝原町の運命は回り続ける。
初陣の時は――――――近い。
マミが感情的なのはまぁ…魔法少女だからじゃないですかね(苦笑)
名台詞改造しましたし、ここからドンドン物語を発展させていきとうございまする。
それでは、お疲れさまでした。
目にはブルーベリーがいいと聞きますし、ドライフルーツを丸かじりなんてどうでしょう? 私もよくやっています。