魔法少女と悪を背負った者   作:幻想の投影物

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相変わらずの急展開であり、最終話です。
一応前回の話に至る補足の話を次回に投稿するつもりですが、物語はこれで終わりとなります。

他、悪神シリーズの微クロスが最期にありますが……物語そのものには関わっていないので、スルーしてくれると嬉しく思います。


鹿目・まどか

 

 暁美 ほむら

 

 それは、ただ一人のために戦った少女。

 同時に、ただ一人を最も苦しめた少女。

 

 その存在は終わりを告げ、人を逸した彼女という人格も消滅した。

 だが、それこそ引き金だったのだろう。

 彼女がいなくなったからこそ、「救済の魔女」は動き出したのだ。

 

 その、深い根を伸ばして

 

 

 

 かくして、始まりの鐘は鳴り響く。

 それを祝福せんと迫りしは、救済の名を掲げた大いなる愚者

 ―――魔女と呼ばれる最悪の存在。

 

 深く深く、人の心につけ込むような根っこを伸ばし、絶望と希望(いのち)を糧にして再び成長する。その自分勝手な姿は、伝承に描かれし「魔女」という醜い存在を浮き彫りにする。

 本人にとっての救い。それを行っているだけなのだが、私達にとっては実に御免こうむりたいものだ。

 そうとも分からず、彼女は救う。それこそ、人の醜さなのだから。それこそ、自分達までもが間違っているのだから。

 

 彼女のように間違えて、私たちもまた、間違え続けている。誰もが考える最高のエンディング。それは、「大衆」という名の逃げ道。それでも、所詮は本当の救いなど何処にも存在しないのだ。

 

 だからこそ、皆が皆、「間違った」救いをもたらそうとするのだ。

 それが、神であっても人であっても動物であっても植物であっても物であっても……

 

 間違いを問う者は、間違いを知らない。人は、だからこそ伝えていく。

 【正しい間違え方】というものを。

 

 【    (間違っている)】。だからこそ、伝えられない。

 

 

 

 

 根は、結界を覆う。

 それに触れれば、命は無い。

 だが、危害を加えても、びくともしない。

 だからこそ、彼は願い、願いを聞き届けるのだ。

 

「我が聖杯へ、望みを告げる」

 

 彼の持つ、万能の願望機たる聖杯。その壊れた存在。

 それは正しく機能し、正しく間違いを犯す。

 故に、彼はそれへ願ったのだよ。

 この地を巻きこまない為。

 

「この世界を越えて、彼女(・・)と、語らいの場を設けよ」

 

 彼曰く、声は遥かに、私の檻は世界を縮る。

 彼女曰く、声を遠くに………

 

 

 閃光が弾け、彼と魔女の姿は居なくなる。その場に残されるのは、救済を構えし魔法少女たち。そして、彼に付き従った、理性ある白き獣。

 

「オイ! どうなってんだ!?」

「……まどかさんと、アンリさんは?」

 

 力を得た人間は、大いなる脅威を排さんと構えていた。だが、その原因となるべき者は消えている。金色(こんじき)を靡かせ、月を見上げた縁人(えにしびと)は確信する。

 

「……任せましょう。アンリは話しに行ったのよ。あの子も一緒に、ね」

「( ´ー)ガンバレ」

 

 ただ一言、彼女らは待てばいいのかもしれない。それは、この地の静寂が示している。

 

「何を考えているか、まったく理解できないよ。でも……それが―――」

 

 ―――巴・M・アンリ。

 

 悪神を騙った、限りなく神のように。気まぐれは天変地異。性格は人を救う慈悲。何よりも、終焉を望まない者。何よりも、清潔を好む者。世界の正常と、限りない安寧を祝福する。禍根と憎悪を、同時に受け入れ、己達が力へと昇華する。

 その身が、不滅であるが故に。

 

「滅びを限りなく内包する者。アンリは、そういう存在だから」

「それって、駄目なんじゃ…?」

「内包するだけ。決して外には出さないのよ」

 

 故に、マミという個体は望んでいるのだ。

 (アンリ)のいる世界を、親身に近づく存在として。

 

「負けるなんて、許さないから覚えておきなさいね」

 

 タン、と。

 「」は遠くに、彼女の手は……悪を覆う。

 

 

 

 

 その場所は、ひたすらに混ざっていた。望まれない命が渦巻き、それらは侵食するように自らを壊す。命がそこで終えられると、新たな命が巡って力と成って行く―――筈だった。

 

「……全ての人類(・・)は掌握した。もう、幸福な者しか地球には居ない筈だ」

「だから、魔女(まどか)。あなたの救済は、私たちにはいらないの」

≪……そう/こんにちは/煩いわ!/なんですか?/どうやったの!/死んじゃえばいいの!!≫

 

 混沌として、一つに定まらない意識の集合体。もう元の桃色をも成さない、穢れ切った魂の塊を前に、アンリ達は「狭間」へと訪れた。

 彼が新たな世界を渡る時に一度弾かれる、何処にでも在って、入ってみれば無い場所。

 虚空と0と1と現実と仮想と三次元と四次元とで満たされた世界(くうきょ)

 

 祈りを感じた聖杯は、こうして話し合いの場を設けた。世界の壁を「破壊」して。

 

≪どうしてきたの/お話しようよ!/騙すなんてひどい……/私はいらない/もう止めて!≫

「オマエさん、……“鹿目まどか”は、何を望んだ?」

≪キュゥべえの消滅/皆が幸せに/壊れちゃえ!/ネコを助けて/ほむらちゃ――≫

 

 全ての世界のまどかは絶望し、全てのまどかが彼に願う。答えを応えて、応えると堪える。そこに、真の意味での祈りなど存在しなかった。

 

「私は、魔女と言う悲劇を無くしたかった。でも、貴女は?」

≪終わり/終焉/閉幕/諦観/絶望/……希望≫

 

 混沌は、ただただ聖なる杯の祈りに従わされる。

 その全てが本音であり、その全てが本人であり、その全てが本懐であった。

 

「希望を望み」

「絶望を終わらせて」

「オレは戦った」

「私は祈り続けた」

「「あなたはどうして諦めたのか?」」

≪違う! 私はあきらめてなんかいない!/どうしてそんなこと言うの? ひどいよ……私は殺してなんかない!/もう嫌なの。みんな死んじゃった/どうして私だけこんな目に遭うの?/こんな世界は望んでなんていなかったなんて、詭弁だよね/だから私が終わらせたの。皆が幸せに“生きられる”ように≫

≪だから/だから/だから/だから/だから/だから/だから/だから/だから!≫

 

≪もう“救い”たくない!!!≫

 

 それは、全てのまどかを言い表した言葉であった。

 それは、全てのまどかが嘘をついた言葉であった。

 

 虚偽と真実が入り混じり、本心となって吐きだされる。それは、それは本当に……残酷で、どこまでも救われない。

 

「だったら、消滅を望むか?」

「それなら、自分の意識を捧げられる?」

「世界と契約してまで」

「自分を恨み続けてまで」

 

 言葉は逆巻く刃と成り、言葉は撃ち抜く一矢と成り、魔女を打ち倒さんと放たれる。

 切り込まれ、一人一人にバラバラへ、撃ち込まれ、一つ一つにパラパラと。

 まどかという意識は、個人を主張し始める。

 

≪死にたくない!≫≪それでいいよ≫≪私は生きたい!≫≪祈りを捧げるよ≫≪ほむらちゃんと一緒に≫≪お母さん?≫≪みんな……≫≪騙されないで!≫≪いいよね? 頑張ったもんね≫≪取り返しなんてつかないよ……≫≪殺しちゃった人は、もうかえってこない≫≪帰りたい。みんなのところへ≫

 

「救済を望み」

「帰還があって」

「生への渇望」

「死への諦観」

「私たちはそれを全て叶えるよ」

「オレ達はできるだけの業がある」

「「神への祈りは、信仰の力へ!」」

 

 “女神(まどか)”には天に至る翼を授け、

 “悪神(アンリマユ)”には杯を与えたもうた。

 

 信じる者は救われる。信じない者は引っ張られる。命の終わりを現した彼女等は、その殻を現出させる。命の渇望を掴み取った彼女(まどか)等は帰り、その「 (から)」へと送られる。

 さあ、幕引きは間近だ。何処にでも在って、何処にもないこの世界。

 

「語らい、戦い、傷つけあうのが望みなら」

 

 刃を交差。唸りを上げる!

 

「倒れ、開放し、祝福するね」

 

 矢を番えた。悲鳴を上げろ!

 

 赤黒い祈りと薄桃色の光は意志の集合体へと突き刺さる。罅が広がり、彼女たちは解放され、その醜い殻を脱ぎ捨てた。

 魂はただ、個人を無くして個人を保って個人を尊重して個人を貶して!

 

 そんな二人を、羨ましく思う。

 

≪≪≪≪ありがとう。ほむらちゃんを救ってくれて≫≫≫≫

「「どういたしまして!!」」

 

 さあ、残るは根っこの殻だけだ。吼えて削って、助けを呼ぼう。

 この世界にも、救いはあるのだと!!

 

 

 

 

 

月は逆向き、雫を垂らす。魔法少女はくすりと笑った。

 

「来たわね。さ、準備はいいかしら?」

 

 マスケット銃を肩に担ぎ、マミはウィンクした。

 当然とばかりに、悪の概念を背負う(つき)と救済の概念となった(たいよう)を見上げて己の脚で大地を踏みならす。絶望を払う、魔法少女と言う希望の星であると証明するがために。

 

 祈りを力に、思いを心に宿している。

 誰ひとりとして、真実を知って人形へと成らなかった。

 希望は、「まどか」が祈ったのだから。

 

「キュゥべえ、もう一度聞いていて」

「わかっているよ。今一度、君の望みを僕に預けてくれ」

 

 まどかの祈り。魔法少女達が絶望しないように、この人類に希望があるように。

 曖昧で、確固とした意志を込められた祈りは、全ての魔法少女に希望を与えた。

 魔女となる事は無く、延々と戦う為に魂は切り離されず、取り残される為に肉体の成長は復活する。全て等しく“少女”と戻って、世界で幸せを受け始めたのだ。

 

「みんなが、みんなで在れるように」

「此処に正しく、君の願いはエントロピーを凌駕した。さぁ、立ち向かうと良い。これが君の運命だ」

 

 災厄の根を前にして、少女・鹿目まどかは正しく希望の星(魔法少女)へと成る。

 紅き少女が傍に立ち、白き獣が彼女を見上げ、金の少女が祝砲を鳴らす。

 

 だからこそ、それを待っていたかのように月は雫を垂らしていた。落ちてくる雫は、次第に影を作る。それはそれは、大きく巨大な恐ろしい影。

 魂を抜け落とし、殺戮と破壊を“救済”と称する存在と成り果てた「まどか」の抜け殻がそこにはあった。アンリとまどかの言葉により、魂を失って暴れ回るだけの怪物の肉体。人々に恐れられるだけの、倒されるべき「魔女」。

 その周囲には飛び回る黒と桃が光っていた。雄叫びと、武器の軋む音を上げながら落下してくるソレは……

 

「神ちゃん、撃てぇ!」

「はあっ!!」

 

 アンリ・マユ・巴。鹿目まどか。この世界に実在する、二柱の神。

 

 片や透明の羽をきらめかせ、片や泥の波と戯れる。それはそれは、美しい舞を踊るように、魔女の身体をえぐり取っていたのである。

 その舞踊を見たマミは、一人右手を掲げる。手から伸びたリボンは、その後方に無数の大砲(・・)を形作った。そう、これは彼女の十八番。その名は―――

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 響く爆音。それとともに、淡く金色に発光する弾丸が無数に街の空を舞う。それらは街を侵そうとした魔女の根を正確に打ち抜いた。終焉を告げる筈の技が引き金となって、魔法少女たちの戦いを告げた。

 

 それを見ていた神の二柱。二ィッと笑うと、大きく後退する。

 魔法少女たちが次々と斬り込み、魔力の砲撃を放ち、番えた弓を引く。そんな大立ち回りは、どこかのサーカスの様に繰り広げられた。

 

「決戦とは、気がきくじゃねぇか!!」

 

 アンリは牙を剥き、荒々しく空を回りだす。もう用は無いとその場を離れれば、思い出したかのようにそこに在った魔女の体は引き裂かれていた。

 

「気をつけて!」

 

 “まどか()”は“(まどか)”と同じく後方に下がり、彼の離脱した先に在る根の一部を狙って膨大な魔力の籠った矢を放つ。その一つ一つが懐中し、救済の名を失った魔女を穿ち、削って行った。

 

「かぁ~っ! 図体がでかいだけの的かよ。遅いし、つまんねぇの」

「まぁまぁ落ち着きなさい。私もいるんだし……さ!」

 

 文句を言う杏子に、場所を同じくして砲撃の陣を展開するマミが気楽に告げた。そんな二人は、このまどかの祈りのおかげで素晴らしい程の連携をしている。急旋回してマミに飛来していた根の一部を容易く葬り、仕方ない。というべき表情で中距離戦闘が得意な魔法少女に、杏子は合図を告げた。

 

「オラァアアアアアア!!!!」

 

 魔力を纏わせた、貫きの概念を帯びた刃による刺突の一撃。その一撃は星ほどもある魔女の身体を街数個分は容易く削り、魔力の余波で上へと続くでこぼこの階段を作り上げた。

 そこにアンリは目をつける。

 

「鹿目ちゃん、いけぇっ!!」

「キュゥォオオオオオオオオン!!!」

 

 形態移行したシャルロッテが立ちふさがり、鹿目まどかの元へと降り立つ。

 彼の言葉に従ってシャルロッテの上に降り立つと、まどかを乗せた彼女は魔女の顔のある部位へと一直線に飛行した。途中で彼女たちを襲う根が出現したが、マミの正確な砲撃と「まどか」による強大な一撃で根は次々と灰燼へ帰されていく。仕返しするようにシャルロッテが魔女の一部を喰い破って上空へ向かい、追従するように「まどか」と杏子が進路の排斥を請け負った。

 

「いよっし! このまま連れて行ってやれ」

「ギュァァアアアアア!!」

「杏子ちゃん!?」

「けじめ、付けてやれよ。こいつも元はオマエと一緒なんだろ? アタシじゃこの高度が限界だからさ」

 

 大気圏にほど近い場所で、抵抗を行う魔女の攻撃を受けとめた杏子がまどかに笑い掛ける。「まどか」に後を頼むと、シャルロッテが更なる上を目指したせいで杏子の姿がまどかには見えなくなってしまった。

 

「後少しだから、頑張って」

「まどかさん……」

 

 だが、魔女の顔に至るまであと少しと言う事で油断をしていたのだろう。

 下から豪速で迫る、巨大な槍のような形状に集まった根の塊が、二人に狙いをつけていた。激突。誰もがそう思った瞬間、無数の桃色の矢がそれを相殺する。魔力を散弾状に放った「まどか」は、彼女を振りかえらず、彼女に告げた。

 

「ここで足止めしておく! 私よりも火力が在る貴女は、この子に乗って早く上に!」

「でも!」

≪もともとは概念に過ぎない私が現界すると、もうこの魔女を救えない! 希望は貴方の手に在る事を忘れないで! が―――≫

≪まどかさん!?≫

 

 まだギリギリ射程内だったキュゥべえの通信で軽く会話をしていたが、それが断ち切れるほどにシャルロッテとまどかは高く昇って行った。

 先ほどの杏子の様に、根に覆われて姿が見えなくなる「まどか」を見て、これ以上は立ち止れないのだと彼女も覚悟を決める。シャルロッテは、言葉無くそれに応え、更なる上昇を続けた。

 

 元々、「救済の魔女」に普通の攻撃は効き目が無く、その吸い上げた生命力から生じた不気味なまでの再生能力と、世界そのものの命を吸う根っこのような身体を用いてこの地球を脅かす最悪の存在であるだった。だが、現在はその絶対的防御の要となるべき「核」ともいえるまどか達の魂は全てアンリと「まどか」によって輪廻に戻った。

 だからこそ、目的も無くただ暴れるだけの存在と成り果てた今は、“まどか”の祈りも意志も失くしたまま、こうして魔法少女達を残った根で無差別に襲うことしかできていない。

 しっかりと、戦いの終わりは近づいていたのである。

 

「もうすぐ…もうすぐだから……!」

「キュォォオオオオ!!」

 

 遂に見えた魔女の頭頂部。すでに宇宙空間へと到達していると言うのに、息をしなくても生きている魔法少女の身体に対し、まどかはほむらの止めていた契約の恐ろしさを痛感した。

 そして思うのだ。確かにこれでは、ゾンビではないか――と。

 

「ギュァァ!」

「シャルちゃん!?」

 

 そして、また油断が危機を誘ってしまった。シャルロッテの身体には深々と顔の付け根あたりから伸びた根の槍が突き刺さっており、鮮血にも似た体液を無重力空間へと撒き散らしていたのである。

 ここは宇宙空間。そんな下手な衝撃を受けてしまえば、延々と明後日の方向に向かって滑り続けてしまう。現に、シャルロッテから投げ出されたまどかの身体は魔女の頭頂部とは見当違いの方向に向かおうとしていた。

 それでも、こんなところで終わるわけにはいかないのだ。

 

「ギィイイイイイイイイ!!!」

「あ……」

 

 身を捻り、まどかの足の裏に向かって尻尾を振りおろしたシャルロッテは、その反動で地球の重力に惹かれて落下して行った。彼女の最後の力を振り絞った行動はを実を成し、まどかは魔女の顔と正面から向き合う位置に滑り込んだ。

 

 目の前にある惑星規模の顔と対面すると、圧倒的なプレッシャーが伸しかかる。

 

「―――――――――ッ!」

 

 スカートのフリルを握り、全ての命運が自分に託されてしまった事を思いだした。息を吸っても居ないのに、心臓の動悸が止まらず早鐘を打ち続ける。肺の中から吐き出した空気も全て宇宙のどこかへと消え去り、屍の様な身体を持った中、意志だけが残されたような気がした。

 しかし――――

 

「あなたは……」

 

 まるで、子供の道化が塗りたくったような醜い顔に、どこか心のない空しさを感じた。暴れているのも、それが原因だと思うと緊張が無くなり、ただただ、目の前の存在は悲しいものだと理解してしまう。

 気付けば、自分の腕は弓を番える形になっていた。その矢の番え方に型など無いが、心の籠った、どこか優しさの溢れた自然な形。それを意識して、膨大な魔力が矢の全体に注がれる。勿論、己の心も注ぎこんだ。

 

「……ごめんね。そして―――さようなら」

 

 その言葉を嘲笑うような魔女は無数の根をまどかへと集結させたが、余りに多い魔力の密度に、逆に近づいた根の方がバラバラに分解された。視線を向けると、目の前に一つの文字を描く。

 そんなとき、何処からか声が聞こえた様な気がした。まどかが知る由は無かったが、それは「宝具」と言う名の最上の奇跡。それは確かに彼女の耳を打ち、最後の決心を固めさせる。

 

 ―――信仰せし神の醜形(タローマティ)

 

 ふわりと、別れた筈の「まどか」の手が自分の手に重なったような気がする。

 いや、それだけではない。自分の周囲に、「自分」がいる。無数の自分が、この魔女の中にいたと思われる自分の気配が“まどか”を包みこんだ。

 

「…みんなで、終わらせよう」

『そうだね』

 

 微笑んで、最後の一撃を――――

 

 

 

 

 遥か先の上空で鳴り響く爆音。音など聞こえない筈なのに、光など見えない筈なのに、確かにそれは地上で戦う魔法少女たち、全員がその光景を目撃していた。

 彼女等が見たのは桃色の光。世界を慈愛で包み込むような明るい光に、地球にいた誰もが目を奪われていた。シャルロッテが気絶したことで結界を突き抜けた魔女の身体も、その部分から光の粒子へと変貌し、世界を風に乗って駆けまわっていく。

 

「……全部、終わったみたいだね」

 

 神へと至った「まどか」が、その圧倒的な力を感じて弓を下ろした。その先方に、大輪の花が咲いた木を用いただけの単純な作りをしたそれは、まどかの意志でその姿を消す。他の魔法少女も、その光景を見て次々と武器を消していった。

 

「勝った。アタシらが、勝ったのか……」

 

 呆然と上を見上げて、杏子がそう呟いた。次の瞬間――――

 

 ―――わあああああぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁああ!!!!―――

 

 戦っていた者。その全てが勝利の歓声をあげた。その反応はさまざまだったが、誰もがこう思っていた。終わったのだ、と。

 

 そして、閃光が上空を埋めてから動きを止めていた魔女の姿は完全に分解されてしまった。何度も魔法少女を貫き、切り裂き、命を奪おうとした根は、灰のようにボロボロと崩れ去った。その姿は、既に存在しなかった筈のものが、現実に否定されるように。

 

 そんな中、空から桃色の衣を纏った人物が落ちてきた。

 海の水面に墜落するまえに、どす黒い泥がその堕ちて来た人物を守る様に受け止める。

 

 そして、何でもないように笑って言った。

 

「……ただいま」

 

 当然、彼女らが返す言葉は決まっている。

 

「おかえりなさい」

 

 かくして、戦乱の時は幕引きを迎えるのであった。

 

 

 

 

「こうして、この物語は集結しました。重要人物の死、エクストラの活躍。皆さまはお楽しみいただけたでしょうか?もし、そうであるなら私は嬉しいです。

 

 ……ですが、この世界の暁美ほむら。巴マミ。美樹さやか。彼女達が死んでいるのに、本当に皆さまはこれでいいとお思いですか?私は、そうは思いません。ハッピーエンドと言うからには、どうしても皆が笑っていなければならないのですから。――――ああ! 失礼しました! あくまでこれは、私の考えでしたね。皆様に押し付ける気など、毛頭ございません。少々語らせていただきますと……」

 

 語り部は本を閉じ、悪神の身体に走っている物と似た模様が描かれたブックカバーをその本にかぶせた。

 それは此方を向くと、笑ったのだ。

 

「このような悲劇とは、必ずしも必要と言う訳ではございません。あった方が成長できると言う方もいらっしゃるでしょうが……結局のところ、幸せを助長する添加剤に過ぎないのでございますよ。

 ならば―――それが無い方が、良いとは思いませんか? 例えそれが、夢想だとしても」

 

 語り部は金色の尾を揺らし、愛おしげに本を撫でた。

 





これにて、悪神シリーズの原初「魔法少女と悪を背負った者」完結と相成りました。
短い第二部でしたが、第一部が「悪神による救済」というお題目を持っていたのに対し、こちらは「自分の手による終焉」という原作主人公:鹿目まどかを最終的に中心へと据えたつもりの話となっております。
手腕が足らず、描写不足はこちらとしても痛感しているところですが。

なんにせよ、これまでご感想や評価などありがとうございました。
救いの無い物語に私達が勝手に手を加えた、というテンプレートを踏襲した二次創作でしたが、一応は完結にまでこぎつけることができました。

それでは、次回の補足話で最後としましょう。
1万字近くの長い読文、お疲れ様でした。

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