魔法少女と悪を背負った者   作:幻想の投影物

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今日の天気は、血雨ときどき肉あられ。
深夜のベルは真夜に鳴り響くでしょう……


下弦の月詠
壊死・崩壊・不動


 

全ては終わった。ここに記すのは、語られなかったもう一つの結末。

……まあ、蛇足だと笑うなら笑うが良いさ。だけど、本当にアイツは救われなかった。それだけは言えるな。

手を差し伸ばしたが、払われちまったからな。オレっていうのもまだまだらしい。

聞くなら、心して聞けよ? お前らが知る奴と同じ、同一人物が織り成した物語だ。

 

ただ、オレは今でも思ってる。

 

―――アイツの元に、どうしてもっと早く行けなかったんだ。って

 

 

 

 

『魔女』

 

この世界には、そう呼ばれる存在が居る。

絶望と負を振り撒く醜い存在。魔女が居る限りはその世界に救いは無く、ただの一度も救済は訪れなかった。その存在が居る幾多の並行世界でさえ、一つの光明も見えなかったのだから。

 

その絶望溢れる世界を、何度も繰り返し経験する少女が居た。

 

その少女は、約束を忘れず“ある人”の為に最強の魔女と戦い続けた。傷つき、倒れ伏し、やっとの思いで伝えた真実も、それを聞いた仲間である筈の者から命を狙われた。それでも、諦めること無く、とっくの昔に心は壊れて、ただただ歩み続けた。

それは『彼』が現れなかった世界。見捨てられたとある、『一つの世界の少女』が歩んだおはなし。そんな彼女に、ようやく『彼』が訪れた。そんな、噺。

 

居る筈の無い奇跡が現れ、ある筈の無い救いを与える事のできなかった、数多くある希少な世界達の物語。足掻けども、何度繰り返そうとも、何をするでもなく散って行った世界の物語。

いったい何度繰り返したのだろう? 少女はそんな事すら疑問に思わなくなった。

その身を動かすのは、たった一つの、『四回目の約束』。

 

女神は祈る。

 

―――求めるならば、呼びましょう。

 

―――救われないなら、放りましょう。

 

その言葉も届かず、また一人。“百回目の初めての青い少女殺し”を行う。

時雨に打たれ、紫電に焦がされ、死因を伝えられる。そんな経験ばかりをしてきた。そんな、とある少女の目は…

 

 

 

 

 

ただただ、黒かったのだろう。

 

 

 

 

 

 

魔法少女まどか☆マギカ

 

手遅れだった世界。救いの無い世界。

現れるは『救済』。現れるは『救済』…………

 

 

 

 

 

 

 

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時は、幾百―幾千―幾億―幾兆

 

繰り返す。

 

繰り返す。

 

繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返すクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエスクリカエクリカエクリカエクリカエクリカエクリカエクリカエクリカエクリカエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ

 

 

 

 

 

 

 

 

救いは一人の為だけに、そして終焉は訪r―――――――

 

某月16日水曜日。

 

晴れ晴れとした朝日。

ほのかに香る、太陽の匂い。そんな優しい光を受けて、とある看護師は浮かれた気分で歩みを進める。今日もカルテを手に、己の担当する患者の元へと向かっている。

 

「ふんふんふ~ん♪暁美さん、今日はどんな様子かな?かなり順調にリハビリしてたし、退院も近いわよね」

 

彼女は、『暁美ほむら』と呼ばれる少女専属の看護師である。

幸い、入院している重傷患者もあまり数はおらず、これまで付きっきりでほむらの担当をしてきた彼女は、今日も浮かれた気分で病室を訪れた。

 

その先に、変わり果てたナニカガ…?いいえ。そうでしょう。きっと来るって信じてた。きっと狂うって信じてた。きっときっときっと

 

……はてさて、何をしていたやら。

 

おや、既に彼女は病室に入ったようだ。

 

「おはよう暁美さん! 今日もいい天気―――暁美さん? どうしたの」

 

その看護師は、挨拶をしても、窓を見つめたままピクリとも動かない暁美ほむらに額を寄せた思う。自分は医療を行うべき者である、そんな志を胸に、ほむらが向く方向に移動し、彼女と目を合わせて話そうとしたのだが…

 

「暁美さん。どこか調子でも………ヒィッ!?」

 

目が合う。目があった。

そこには、何も映らない、ナニモワカラナイ目ガ在ッタ

 

「……―――…―――――――――――」

「キャアアア!!!」

 

暁美ほむらを中心に、暴風が巻き起こる。

それは病室の備品を破壊し、看護師の彼女を立たせなくする程の暴風。しかし、それでも風は止まらない。止まらない。

看護師の彼女はひたすらに待つ。割れる音がした。きっと窓が割れたのだろう。大きな音がした。きっとベッドが吹き飛んだのだろう。ギシリと音がした。きっと何かが―――

 

―――心が、軋んだのだろう。

 

風は収まり、部屋は空き巣にでも荒らされたかのような…いや、それ以上の惨状を晒している。脅威は去ったと思ったか、患者を放っておいた己を叱責して目を開けたのだが、

 

「…………暁美さん?どこに行ったの!!!?」

 

いくら呼べども返事はせず。

 

この日、『かの夜』が襲来する一ヶ月ほど前。暁美ほむらは消息を絶った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔法少女』

 

先の魔女と相対する存在であり、魔女に魅入られ死を選ぶ人間の洗脳を解く事ができる、希望を振りまく聖の存在。しかし、その正体は魔女に成る前の騙された少女たちで構成されていた。

 

ソウルジェムと、そう呼ばれるモノが魔法少女たちの手にある。

彼女らは、それを肌身離さず持ち歩き、変身と共に衣服の装飾品として持ち歩く。そうして宝石と共に戦う魔法少女の武器でもあるそれは、『(ソウル)()宝石(ジェム)』。そんな少女たちの『魂』そのものでもあった。

 

ソウルジェムの濁りは即ち、魂の穢れと同意。

濁れば濁るほど所有者の気持ちは沈みゆき、最後の一線。そう、堕ちてしまった際には魔法少女は見るもおぞましき怪物―――魔女へと変貌を遂げる。

 

彼女達が魔女と戦うための力。『魔力』を使えば使うほど、その魂は濁り行く。また、その気持ちが沈めば沈むほど、同じく魂は濁って(堕ちて)いく。倒した魔女から現れる、元はソウルジェムであった『嘆きの種(グリーフシード)』を当てれば、穢れはそちらに流れ込むので、一時的な処置は可能ではあるが。

 

しかし、そんな中で一つの疑問が浮かぶだろう。

 

もし、そう。もしもの話だが……魂の天秤ともとれるソウルジェムを心の無い、もしくは、心をその中途で失ってしまった人物が所持していたならどうなるのだろうか。

心が揺れず、常に不動。絶望へ傾くことも無く、戦いの中でしか魂は濁らない。戦いの外に措いては一切の消費の無い存在へと成り果てるだろう。

想いは失い、戦うだけの存在。だが、それに一つの希望(呪い)が動力源となる。

 

それは即ち魔力を扱う機械人形。そんな存在に出会ったインキュベーターのとある個体は、一度だけ、彼女にこう告げた。

 

≪君を魔法少女にしたのは、僕ら最大の成功であり、同時に最大の失敗であった≫

 

今は『亡き』、彼が告げた言葉。

幾億もの代わりの体を破壊され、如何なる法を用いたか、その思念でさえも消し去られた故にその真意を聞く事は不可能である…が、それもまた、件の心亡き少女によって行われていた。

その少女の行方は、時間の先に行かぬ限りは知ることも出来ずに忘れ去るであろう。

 

 

 

 

そうして、件の少女はこの世界をも巡っていた。ふらりと訪れれば、災害のように立ち向かう『敵』をなぎ倒す。これまでに過ぎ去った時間は既に二十日余り。

 

再び場面は移り変わる。青き少女が魔女へと変じ、その死は誰にも徳と損を与えぬまま。

 

しかしそれは、あくまで自然に。

そうだな。例としてあげるなら……季節の移るが如く、と言った方が正しい(適切)だろうか。

 

「なんで……どうして! 答えてよ! ほむらちゃん!!」

「…………必要だった」

「さやかちゃんが死ぬ事に、何の必要性があるの!?」

「…………ワルプルギス。倒しましょう」

「ちゃんと答えてよ!!」

「おい、もう諦めろ…コイツはどう考えたって何も聞けないだろ!! まどか!」

「うっ……ううう………」

 

無邪気は既に消え去り、まどかは悲痛に泣き叫ぶ。その涙は、今は亡き親友へと追悼を送る。

それを疎めるは杏子。未だまともな会釈を返さないほむらへ向かって吐き捨てるように言った。

 

「テメェ…何を考えてるかは知らねぇが、まどかもこんな風に切り捨てるってんなら容赦は―――」

「何を言っているの? 私はまどかだけは切り捨てない。約束。約束だもの。あなたとの、私との、約束。……待っててね。まどか。きっと、ワルプルギスを倒して見せる。キュゥべえももう居ない。今度こそ。何度繰り返したかもわからない今度こそ。それでもだめなら切り捨てるわ。だって、私には次があるんだもの。武器の補充もしなくちゃいけないわ。でも、人との関係は必要ない。いつかどうせ居なくなる。私も貴女も。ならばその先には私が行けばいいの。繰り返して何度でも何度でも―――」

「薄気味、悪い……行くぞ、まどか。こんなキチガイに付き合う必要なんて無い」

「う、うん。……うううう…………」

 

壊れたレコードのように、つらつら、淡々と言葉だけを紡ぐ彼女を置き去りにして、杏子とまどかは鹿目の家へと歩を進め、その場を後にする。

残された彼女は、まるで闇かと見紛う程の瞳を向け、その様子を見送っていた。一歩たりとも動かぬ。影さえぶれぬ。その体の一切を掌握したのかの如く、不動。

 

「ええ。今は帰りなさい。でも、避難所から出ちゃ駄目。私の爆破に巻き込まれて死んじゃったから。この街はどうなるの? 安心して、『あなた』は守る。どうなるの? 大丈夫、『あなた』は無事に。それじゃあ、帰りましょう……言えってどこだったかしら? まあいいわ。魔女の姿は見過ごせない。私のために糧となるもの」

 

(うつ)(うつ)らとふらふらと、風になびいて髪揺れる。

体も揺れて、軸ぶれる。ぶれてぶれて……先には何が?

 

身体を揺らすは己が意志。その意思さえもなくなってしまう人形は、ポトンと切れて、血に墜ちる。濡れた赤は屍の数だけ――

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってその場を見下ろす影があり。

闇を背負い、悪を背負った彼は現れる。お伴には、金色少女とお菓子魔女。いやはや…ご開園は近い物ですかな? 道化師たりえる御招待。この世界にはチケットを、道化師嗤って手渡した。

 

「美樹ちゃんの魂改修っと……しっかし重傷、だな。手遅れ感しかしねぇが」

「大丈夫なのかしら? 私の初めての世界旅行なのに……」

「(>_<)コワイヨナニアレ?」

「隠す気も無く喋ってんな。それでも、行動が行動で、狂言として受け取られちまったか……ってかマミ、旅行言うな」

 

よしよし、とシャルの頭を撫で、落ち着いた所を苦笑いのマミが優しく抱きしめる。

 

彼らが世界から召喚されたのは実に一刻前。

丁度、さやかが自分に絶望し、魔女へと変貌を遂げるほんの少し前の事であった。

訪れたはいいのだが、勝手知ったる(知らぬ)別の物語が紡がれていた街。ただただ、放出される魔力を辿ってしかこの場所に辿りつけなかった彼らは、全てが終わらされる10秒前にこの場へ到着した。

そして見たるはあの惨状。魔女へと変じた瞬間のさやかを、その堕ちる過程にて手のひらにある、砕けたソウルジェムをさやかごと爆破。飛び散る紅い血をまどかと杏子に振らせ、ほむらは悠然と立ち尽くすという地獄の光景を連想させるその瞬間であった。

当然、彼らはまったく無駄の感じられない『作業』を終えた彼女の元に飛び込もうとしたが、それは叶わず。お菓子の魔女に引き留められてからはその後を見送り、今に至る。と言う訳である。

 

「私が居ないって事は、既に死んじゃってるみたいね」

「ここはシャルにガップリルートだろうな。あの様子の暁美ちゃんなら、容赦なくやってそうだ」

 

その考えは正解である。

この世界に居る暁美ほむらは、何度も繰り返すうちに自身が救済を行った際と、行わなかった際のデメリットについて行わない方が弾薬、疲労の消費が少なくなると割り切って一切手を貸さなかったのだ。

ただ、本人も予想だにしなかったのは、マミが死別の際だろう。最後の抵抗と言わんばかりに、この世界のマミは全ての魔力を銃身に集め、自分の体そのものを砲台として引き金を引き、ここのシャルロッテ諸共に自爆したのだから。その光景は、まどかに深い心の傷を残したのは間違いなかったが。

 

「とりあえず、私達は私達で動くわよ。まずは鹿目さん達に合流。訳を話して協力を取り付けましょう」

「了解だマスター。あー…でも、出来るなら、神ちゃんと連絡つきゃあ良かったんだな……」

「そうねえ。あの子、いつもは既婚のあなたに迫るほど馬鹿やってるのに、こういう時だけいないんだから……」

 

アンリとマミは頭を抱え、ここには居ない最上の救い(壊し)手を思い浮かべる。

だが、彼らにその小さな手を置き、シャルはこう言った。

 

「(-_-)トラヌタヌキノ…」

「皮算用だってぐらいは分かってるさ。だけどよ、この惨状見りゃ、無いものねだり位はしたくもなるって話だ」

 

アンリはひらひらと手を振って、自分の考えを述べる。その一言で一同は落ち込んだ空気を漂わせた。しかし、いつまでもそこに居られないのが彼らの服装。夜が明ける前には移動しなくてはならなった。

 

「でも、行動あるのみが今の私達にできる事だから」

「ま、そういうこった。とりあえず日を待つとすんぞ。あの『暁美ほむら』は学校に行ってなさそうだし、昼休みの辺りに屋上で鹿目ちゃんと話はつけれるだろうしな」

「(^.^)サンセイ」

「それまで他の魔女でも狩りに行きましょう? キュゥべえの行方も確認おかないといけないし」

 

アンリはマミのその言葉に首を振る。否、と返せばマミは驚いたような顔で彼に説明を求めた。

 

「いや…あの言葉通りなら、キュゥべえは何故か消えてる筈だしな。それにあっちも狩りに行くって漏らしてたしよ。鉢合わせには時期が早い……この世界、一筋縄でいきそうにねぇもんだ……」

 

彼の言葉は、この場に居る二人の心境をも体現していた。先が思いやられるのは確かな事実。だが、ポジティブを装って彼らは笑い合う。その次の瞬間には彼らの姿は広場の上から消え、そこに痕跡を残さないままにひっそりと移動していた。

 

イレギュラーは、新たな波紋を作ったのか―――

 

さぁ揺らしましょう。さぁ謳いましょう。

物語とは謡われるモノ。踊る道化師は悪神が配役に御座います。

幾億の世界を駆けた道化は踊らされ、時には踊らせて参りましたのは事実に御座い。人形師は誰なのか、哀れなドールは何を踊るか。それはまた、次の機会に……

 





第二部、すたーとです。
さて、書き直し作業始めましょうかね。

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