魔法少女と悪を背負った者   作:幻想の投影物

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今回20000字もあります。
適度な休憩をとって挑んでください。

あと、オリジナル設定多発なのでご注意を。


決戦・夜

「ついに明日か……ウェッ、ゲホッゲホ……あぁ畜生……笑いすぎて喉痛ぇ」

 

日が昇り始めて3時間。太陽はすっかり顔をのぞかせていた。いままでもストレスがたまっていたのだろうか、鬱憤すべてを吐き出すがごとく、彼は笑い続けていたようだ。

 

さて、アンリが居るのはいつものリビング。あれから家に戻ってキュゥべえを「――――」する手段を練っていた。

 

「ま、こんなもんか。失敗しても代わりはあるから問題ない。アイツもそう言ってたからな」

 

その方法はどれだけ手荒いのやら、皆目見当もつかないが、マスターに命じられたこと……『人間』に願われたことは必ず遂行する。それが彼の信条であり存在理由(レーゾンデートル)。願われぬ万能に、価値などないのだから。

 

たとえそれが壊れていようとも。

 

 

 

 

 

 

昼。

 

「なあ」

 

「どうした佐倉」

 

昼食を食べてしばらく、杏子がアンリを呼んだ。

なんの用かと思いつつ、声のする方へ向き直る。そこには、神妙な表情が浮かんでいた。

 

「話してなかったけど…アタシは幻術も使える。……いや、また使えるようになったみたいだ」

 

「どうした、藪から棒に」

 

「……そんだけだ」

 

「ちょっと待て」

 

足早にその場を離れようとする杏子を引き留めると、アンリはつづける。

 

「規模は、見せる対象の捕捉人数はどんぐらいだ?」

 

「え?」

 

「いや、え? じゃなくて」

 

「……聞かないのか?どうして今まで言わなかったとか…」

 

「聞いたところで過去が変わるわけでもねぇだろ? んなことより現状を何とかするのが一番だ。過去にやらかしたことを変えても、今が変わることはあり得ん。並行世界が生まれるだけだろうが」

 

「…………ハァ…アタシがバカみたいじゃないか」

 

「バカはいつもの事だろうが」

 

「お前が言うか! ……規模はアタシが自由に決めれる範囲。内容も同じくアタシが決める事ができる。元々祈りから生まれたものだから、ほむらの時間停止と同じだ」

 

「なーる。……となると、いざという時の回避要員だな。他は遊撃か―――? む」

 

突然言葉を詰まらせ、アンリが壁のほうを…いや、壁の向こうにある何かに視線を移す。

 

「どうした?」

 

「魔女が出たっぽい。昼間だってのに珍しいもんだ。ちょっと殺ってくる」

 

ほかの魔女を全て救うのは不可能というのは、最早皆の間で暗黙の了解となっている。それに、使い間から成長した魔女もいるということもあり、魔女たちには『安楽死』させるのが、彼らのこれからの行動指針だ。

それに従い、肩を回して家を出ようとしたアンリを杏子が引きとめた。

 

「待てよ! アタシが行く。せっかくだしその技でも使うさ」

 

「そうか? ……まあ行って来い。慣れとけよ」

 

「ああ………判ってるさ」

 

そう言い残して杏子は玄関から飛び出て行く。開け放たれたドアから見える景色には建設途中のビルなどがちらほらと。この街の成長過程を映し出していた。

 

「思い悩んでたな……ふっ切れたみたいだが」

 

彼はそう言って、電話を手に取った。ダイヤルをある番号に掛けると、しばらくのコール音が鳴り響く。

そして、通話先の相手はもちろん。

 

≪なにかしら?≫

 

「…暁美ちゃん、突然だがチョイと聞いてくれ。鹿目ちゃんの魔法少女の素質についてなんだが―――」

 

そう言って、暁美ほむらにとっての絶望をなんなく話しだす。両者が互いに受け入れ合った今なら、そう簡単に絶望しないであろうとの希望的観測を交えた上での通話だった。

さぁ――――彼の企てる作戦は、これからだ。

 

 

 

 

 

 

見滝原町・某所。

そこに張られている魔女の結界には杏子の姿があった。アンリの各地に放った宝具獣の案内があったからこその速さ。獣は案内を終えると、杏子に全てを一任して消えていったが。

 

それは置いておくとしよう。

今回出てきたのは委員長の魔女。その性質は傍観。一見、人型の学生服を着た少女なのだが、腕は四本あり、足の代わりにこれまた腕が生えている魔女だ。その見た目は言うなれば、蜘蛛のような人間だろう。

だが、杏子が入ってきてから、その魔女は使い魔を差し向け、逃げ回るだけだった。その行動がうっとおしく感じてきたのか、杏子は魔力を自分に集結させる。

 

「ほらほら」

 

「「どこ見てるんだい?」」

 

「「「「アタシ達はこっちさ!!」」」」

 

サラウンドに聞こえる杏子の掛け声。それとともに魔力が弾け、彼女自身が次々と増えて行く。二人・四人・八人、とまだまだ増えていく。そうして天敵が増加した事で混乱した魔女は動きを止めた。

使い魔を操って片っ端から彼女に攻撃しようとするが、攻撃した杏子は―――もちろん幻影。

 

「!!?」

 

当たったはずなのに攻撃が擦りぬけてゆく。そんな未知の経験に魔女は恐れをなす。

元々戦いそのものが苦手だということもあり、侵入者などどうでもいい。学校の備品のような姿をした使い魔を差し向け、我先にと再び逃げようとしたのだが……

 

「こっちだよ。ノロマが!」

 

空間がぶれるように揺らめいた後、杏子本人が眼前に出現していた。突然突き出された凶器に魔女がよけきれる道理もない。人外の反射神経を用いてとっさに反応しようとするも、その全てはフェイクだった。

 

「!?……???!!」

 

魔女は己の背中に鋭い痛みを覚える。

その音の出所を確認すると何もないところ(・・・・・・・)から自分の体が切り裂かれていたのが見えた。その光景を最後に、魔女はその命を終えた。

結界が消滅し、落ちてきたグリーフシードを回収すると杏子は一人立ちつくす。

 

「……久しぶりだけど、調子いいみたいだな」

 

その表情から読み取れる感情は『懐かしみ』と『後悔』だろうか。

だからこそ、己の祈りに苦汁をなめた過去。それだけは―――

 

「これだけはアタシだけが持っていないと。誰かに押しつけたら駄目なんだよな。これは、アタシの罪だ……他の誰にも任せられるかっての」

 

その瞳の奥。思い描くのは家族の事、自分が壊した団欒の日々。自らの罪を忘れることなく、『罪』だと認識したうえで生きて行く。それが自らの償いであり、自らに対する戒めの鎖。

償いきることなどできないが、精一杯幸せになってやる。

彼女はそう、決意した。

 

「Amen――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに決戦の時は来た。

場所は見滝原中学校の校門前。

すでに空は大荒れ模様であり、スーパーセルが確認されてからは避難指示が発令されていた。ここにいる『関係者』は、ここでしばしの別れを告げていたのであった。

 

「ほむらちゃん。みんな……頑張って」

 

「あたしたちも皆で祈るよ。だから絶対に勝って!」

 

無力を実感しながらも、決してそれを嘆かぬまどかとさやか。

その二人は契約を交わさず、戦力となりえぬ二人ではあったが、信条だけは破るつもりはない。そんな彼女らに見送られるほむらは、はっきりと決意する。

 

「……どんだけ大変な時でも必ず駆けつける。だから―――」

 

「『キュゥべえが現れたら呼ぶ』…でしょ?大丈夫だよ」

 

まどかが確認をとると、ほむらは真剣な面持ちで頷いた。

この辺りも風が強く吹き荒れてきた辺り、お別れもこの位が妥当だろう。

 

「ああ、じゃあ『また』」

 

「はい。『また後で』」

 

告げて、さやかとまどかは避難所の方に走り出した。地域住民は全員避難済み。後はワルプルギスの夜を乗り越えるのみだ。

何事もなく終われば、それでいいのだが。

 

「いいの? 暁美さん。鹿目さん、行っちゃったわよ」

 

「……下手に約束しなくても、私たちは負けない。もう、負けられないわ」

 

「そうだな。ま、さっさとブッ倒しちまおうぜ」

 

彼女達には一切の絶望が見えない。

『勝てる』。そう確信しているからこそ、彼女達は立ち向かうのだ。『ワルプルギスの夜』へ、絶望の夜へと。

 

「準備は、言わずもがな…か」

 

「「「当然」」」

 

くはっ、と笑みを吐き出し、アンリのニヤケた表情が引き締まる。

鋭い眼光が虚空を睨み、感情を押し殺したような声が静かに響く。

 

「シャル」

 

「アイサー!!」

 

そして魔法陣が出現する。巨大な…巨大な魔法陣が。

 

――――アハハ……アハハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

 

嗤い声が聞こえた。

全てに絶望し、狂ってしまった悲しさよ。

 

――――♪~~♪…♪~♪♪♪~~~

 

そんな悲しみを面白おかしく埋めようとでも言うのか? 誰もが泣き叫ぶであろう、騒がしいだけのパレードの音楽も流れ始める。

虚空に浮かぶビル、色とりどりのゾウ、国を現さない国旗、突如出現した鉄塔、開園を告げるブザー。その数々は彼女の一部であり、彼女の使い魔である。

 

こうして絶望は、その頭角を現した。

 

 

―――固有結界・お菓子の魔女(シャルロッテ)

―――無限の残骸(アンリミテッド・レイズ・デッド)

 

 

絶望は弾けた

負の怨念とともに

 

この未来、債の目が示す数字とは―――

 

 

 

 

 

 

 

一方、避難所へ向かったまどかたち。ようやく家族のいる場所へたどり着いたようである。

よほど急がなければ危なかったのだろう。制服はびしょ濡れ、濡れ鼠の様相である。

 

「ハァ、ハァ…まどか、大丈夫?」

 

「う、うん。何とか……」

 

ここまで来るのに暴風、それに破壊された瓦礫が二人のゆく手をさえぎり、疲労を与えていた。契約も何もしていない女子中学生なのだから、これぐらいの息切れは当然のことであろう。

 

「まどか!!」「さやか!!」

 

「「お母さん!!」」

 

二人の家族が此方を見つけたようだ。彼女達を見つけて安堵の息を吐いている。

愛する娘だ。濡れているのもお構いなしに、二人の母親はしっかりと抱きしめている。

 

((どうか、どうか。無事に……))

 

母に抱かれる中、キュゥべえに祈る(叶えて貰う)のでもなく、ただ単純な祈り。それは彼らに届くのだろうか?

否、疑問など不必要。奇跡は自分たちで起こさなければならない―――

 

祈りを嘲笑うかのように、白い、小さな影が闇にまぎれていた事に、気づく者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

自身の名を叫び、構築されたシャルロッテの結界内。

当然ながら、そこでは死闘が繰り広げられていた。

 

「そっちいったぞ!!」

 

「ええ!」

 

合図一つで、次々とほむらの掻き集めたミサイルを巨大な魔女に命中させてゆく。その一つ一つにはソウルジェムが一度でグリーフシードへと変わってしまうほどの魔力が込められている。ひとえに魔女化しないのも、アンリが使ったそばから絶望をすくいあげたおかげだ。

その一発が確実に魔女を捕え、一つの小島なら吹き飛ばす程の大爆発を起こしているが、彼らの主力はこれだけではない。

 

「キュオオオオオオォォォォオオ!!!!!」

 

宝具と呼ばれる神秘にまで昇華した、己の体を第二形態へと移行し、シャルロッテは結界内に咆哮を轟かせていた。敵の魔女に勝る事は無くとも、その巨大な体は、敵の魔女を吹き飛ばす。

彼女が歯を立てるごとに肉が毟られる。相当のダメージが貯まっているのか、爆撃と斬撃で傷ついた体は、人形の本体を地面へ打ち付けた。

 

――――アハハハ? アハハハハハハハハハ、ハッハハハアハハハハ!!!!!アアアアッハハハッハハハハハハ!!!!!!!ッハハハハハハハアアッハアハハハ!!!ハハッハハッハハハッハハッハハ!!!!!!!!!!

 

それでも気にせず魔女は狂う。くるう。クルウ。笑い、嗤い、哂い続ていた。

その隙を逃すことなど、ある筈がない。

 

「砲撃用意! 藻屑と消えなさい!!」

 

マミは幾多の砲撃を放ち、倒れこんだ魔女へと追撃をかける。そうして魔法少女は攻撃をやめない。止められない。攻撃の手を止めてしまえば待っているのは自らの破滅であるからだ。

猛攻は続くが、一向に相手方の魔女が疲弊する様子は見られない。倒れても起き上がり、何事もなかったかのように、浮遊ビルを魔力で投擲してくる。

そういった不安は焦りを呼び、焦りもまた―――此方の隙を生む。

 

「っ、佐倉さん!!」

 

「やっべ―――」

 

使い魔を幻影で翻弄、殲滅していた杏子の本体(・・)には、ワルプルギス周囲に浮遊していたビル群が向かっていた。高速で飛来する大質量の物体は轟々と迫り、杏子の足を驚愕で止めさせる。

 

「手を――!」

 

あわや人肉のミンチ……かと思われた瞬間、ほむらの伸ばされた手が杏子の手を掴み、全ての時間が止まった。色褪せ、時折ゆがむ空間が、二人以外のすべてを止まらせる。

 

「なっ……」

 

「手を離さないで。あなたの時間も止まってしまう」

 

緩みそうになった手をほむらが握り直し、二人はビル群の上へと跳躍する。

安全地帯となる魔女の死角へ抜けだし、時間停止を解除した。

 

「ック!! アタシの幻術が見破られるなんて…!!」

 

「アレも規格外になってるのね。彼が作った模擬体よりも、ずっと『堅い』…!!」

 

攻撃の気配に注意しつつも、ほむらは苦虫を噛み潰したかのような顔をして悔しさを見せた。

 

「だったら!!本格的にぶっ潰すだけだ!!この程度でへこたれんじゃねぇ!!!」

 

杏子はそんなほむらに喝を入れる。まだ、自分たちは戦える。いくらでも闘えるのだと。

その叱責で、彼女たちは絶望に染まりそうな心を引き戻す。

まだまだ、このようなところで負けてはいられないのだから。

 

「暁美ちゃん、次だ!! 叩き込めぇ!」

 

魔女とは反対側にいるはずのアンリの号令が聞こえる。

そうだ。自分たちは負けているのではない。

堅さがどうした?

違いがどうした?

 

忌々しいが、キュゥべえも言っていたではないか。

自分が魔法少女で、相手が魔女と言うのならば―――答えは一つしかないだろう。

 

「倒すだけよ!!!」

 

23の火薬が混沌の結界内を衝撃にふるわせる。さながら、竜の吐息(ドラゴンブレス)が再来したかのごとく、魔女へと炎熱の牙を剥いた。

 

 

 

指令を発してすぐ、アンリはセカンドフォルムに移行したシャルの頭上へ降り立った。

意識を集中させると、虚空から怨嗟を含んだ泥が生み出される。其れを纏わせた己の武器からは、漆黒の斬撃が放たれていた。

 

「ソラァ!!ドオォォォ!!!!!!」

 

これでもか、というほどに叩きつけられる負の塊。曲線を描き、熱と渇きの斬撃を延長させ、これまでになく消費される量の泥だが、今戦っている魔法少女のソウルジェムの浄化。それに加え見滝原(知り合い)の恐怖におびえる人々の負の念を吸収し、その魔力総量は減るどころか増えてさえいた。

いい具合に直撃するアンリの連続攻撃は、確実に遠距離から魔女へダメージを蓄積していく。だが、その場から動かない固定砲台を放っておくほど敵も馬鹿ではない。

 

「ッ、旋回!」

 

「オオォウウ―――ウォ!?」

 

「ッチィィ!!」

 

後方から幾多もの魔法少女を模した使い魔の砲撃が迫る事を感知し、回避を指示したのだが、前方には新たな使い魔と魔女の影。シャルの巨体では回避しきることができず―――

 

空中で、巨大な魔力のうねりが巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事でよかったよ」

 

口は一切動かず、頭の中にはそんな言葉が聞こえてくる。

幼さを含んだ、純粋―――正に、純粋すぎる声が。

 

「キュゥべえ!!」

 

「あんた!どの口でそんな事を言ってる訳!?」

 

避難所では、キュゥべえがその姿を現していた。

まどか達以外にもその家族がいる場所で、だ。

 

「まどか…?」

 

「ママ……!」

 

まどかの母、鹿目詢子(かなめじゅんこ)。彼女は明らかに変わった娘の様子に…というよりは何か得体のしれないものを見たような表情で、言い放つ。

 

「なんだ、その生き物は(・・・・)。知り合いか?」

 

「―――ッ、ママ、キュゥべえが見えるの……?」

 

キュゥべえが尻尾を動かせば、まどかの母親、詢子の視線もそちらに注がれる。

避難所の人物もキュゥべえの姿が視認できるらしく、言葉を話す人間以外の生き物にこの避難所の人間の注目は集まっていた。

 

だが、それすらも見越したようにキュゥべえは淡々と語りだした。

 

「やっぱりね。どうやら僕が見えるほどの因果(才能)がこの町の住人全員についてしまったみたいだ」

 

「ちょっと、それってどういう事よ?」

 

「簡単な話だよ、さやか。ここの住民は、『この世の全ての悪』と豪語する英霊との遭遇。世界を破壊するほどの魔女と、間接的にでもかかわっているんだ。これだけの要因が関われば、『素質(因果)』が生まれるに決まっているだろう?」

 

ここで、一つおさらいをしておこう。

キュゥべえ達がエネルギー回収のために『第二次成長期の少女』へと契約を持ちかけるのは、あくまで『回収の効率(発生するエネルギー)がいいから』である。

おそらく、ここ以外の時代や場所でもキュゥべえ達の姿を見ることができた大人や男性は居たのだろう。それこそ、因果の量は『悲劇のヒロイン』だけではなく、悲劇の『少年』にもあったのだから。

彼らが女に目をつけていたのは、あくまでも『効率』。宇宙の存続を願う彼らインキュベーターにとって、男性の契約者はそれほど重要ではなかったからこそ、最初の時点では何も言わなかっただけなのだろう。

 

「あんたって奴は……! 潰れてろ!!」

 

「ギュブ!!」

 

込み上げてきた怒りに任せ、さやかは彼を踏み潰す。

キュゥべえは、存外にもあっけなくミンチとなった。

 

「な、何やってんだ!?」

 

だが、その正体を知らない人にとってはその行為は異常に見える事は免れない。まどかの母である彼女は道徳を説こうとさやかの肩を掴んだが、さやかはそんな詢子の目を見据えて叫んだ。

 

「あの生き物の言う事には絶対に耳を貸さないでください!!」

 

「一体なんの害があって―――」

 

「ママ、聞いて! お願い!! みんなもどうか聞いてください!!」

 

「まどか……?」

 

二人の必死な懇願にその手を離した。当然ながら、避難所の人間も何事かとその二人に注目する。

彼女らは、初めてこのような大勢の前で意見を出し、初めて幾多の視線に晒された。その緊張と恐怖で体が震えるが、そのようなことに構っていては、この夜が、ほむらの行為が全て無駄になってしまう。

意を決して、口を開いた。

 

「あの白い生き物が『契約』を持ちかけても絶対にしないで下さい!!」

 

「アレと契約するととんでもない事になるんです!!」

 

その要領を得ない発言に、人々の疑惑の視線はさらに強まる。なんとか説明を続けようとして……

 

「あ、あれと契約してしまうと―――」

 

「ひどいなぁ、さやか。僕はまだ君たちをどうこうするつもりは無いんだけどなあ」

 

――『!!!!』――

 

たった二人少女の言う事に疑問を持つ人々だったが、潰され、その場で命を終えた筈の動物が何ともないかのようにそこに居るのを見て、ぎょっとする。

あながち、この二人の言っていることは間違いではないのだろうかと、それぞれが考え始めていった。

 

「やあ、君がまどかの母親だね? 初めまして。僕からはいつも見ていたけど、こうして対話するのは新鮮な気持ちがあるよ」

 

「感情なんか無いくせに…! ママに近づかないで!!」

 

「まどか。一体どうなってんだ? 頭に直接話しかけるようなこれ……しかも、コイツはさっきさやかちゃんにつぶされた筈だろ?」

 

「こいつはいくらでも体の代わりがある化け物なんです! だから―――」

 

「今はまだ何もする気は無いって言ってるだろう? それより君たちに話しておこうと思ってね」

 

「くっ……」

 

淡々と話のペースを握るキュゥべえ。警戒心を隠そうともしない二人だったが、いつのまにやら、詢子はそんなキュゥべえに近づいていた。

腰を落とし、同じ視線で言葉を紡ぐ。

 

「なあキュゥべえとやら。話ってのはなんだ?」

 

「ママ!!」

 

「この町を襲うスーパーセルについてさ」

 

一般人には探そうとも探せない原因。まさか見えない『なにか』が街を襲っているとは誰も考えないだろう。だからこそ、この『異常な生き物』に問いただしたのだ。

娘の制止を振り切るには、十分な理由だろう。何より、知ることで愛する者の安全を守れるのなら。

 

「異常発生だったらしいな? それがどう関係してるって?」

 

まどかの母である詢子は、『母』として娘を、家族を守るためにその原因を尋ねる。

そして、視線を合わせるうちに薄々と理解し始めていた。

 

「僕らが見える人にだけ見える、魔女という存在が居てね? その中でも最悪と呼ばれる存在がこの町に出現した。だからその二次被害として暴風や天候の変化がもたらされたのさ」

 

「……倒す方法は?」

 

「簡単な事さ。僕と契約してくれれば、ここに居る誰もがアレと戦える。『どんな願いも叶える事ができる』という特典付きでね。君の娘であるまどかが契約してくれれば、一撃で倒す事が……いや願いの段階でそれを消すことができる。

 君たち人間にとって、この上ない契約内容だろう?」

 

確かに甘美。

負の気持ちから解放される、光明が差し込んだようにも思えるだろう。

だが、そう考えるのは子供まで。大人はいつも二手先の事まで踏み込むもの。

 

「じゃあ詳しく聞くが、契約したら最期はどうなっちまうんだ?」

 

「最期まで魔女と戦い続けて、君たちも魔女になるよ。そして、その時に発生する感情のエネルギーを僕らが回収して、宇宙の寿命を延ばすんだ。

 君たちはこの山場を乗り越えることができ、何でも願いを叶えることができる。宇宙の寿命は延び、僕らの目的も達成される。正に一石三鳥だ。これほどの好条件もないだろう?」

 

「確かに、そうかもしれないな」

 

詢子は腕を組み、じっくりと考え込むようなしぐさをした。

熟考を終え、組んだ腕を腰に当てると言い放った。

 

「そうか。じゃあ―――」

 

――――断る。

 

「…へぇ」

 

「小さい子も含めて勝手に考えちまったけど、みんなもそれでいいな?」

 

「もちろんだ!!」「そんなちっちゃい子に任せて逃げてちゃあ、儂達大人の威厳に関わるだろう?」「胡散臭いのはみーんなお断りよ!」「願いが叶うのはいいけど、俺は戦うのは勘弁だっつうの!」「おっさん、道楽だなぁ……」

 

母親の詢子が、見滝原の人々が出した答えは『否』。

甘い餌だけチラつかされて、それに乗るほど欲に溢れた者はこの町に居なかった。

幸か不幸か、他でもないアンリがそんな要素を吸収してしまっており、彼のおかげで街のほとんどの人間が団結力を生み出していたのである。

更に、

 

「どうしてだい? ここで君たちが確実に助かる方が都合がいいだろう?それとも、君たち人間以外の手を借りるのは嫌とでも?」

 

「そう言う訳じゃないさ。上条の坊っちゃん家から大体聞いてるよ。既に何人か戦ってくれてるんだろ? それならあたし達はそれを信じて待つだけさ」

 

実は、恭介が親に進言していたのは避難勧告だけではない。見滝原を襲う脅威についての正体や、それに対抗する人達の事をまどか、さやかを除いた全ての住民に知らせてあったのだ。

この二人に伝えなかったのは、上条家の一人息子が反対を押し切って付き合う事になった彼女、さやかに対するサプライズだとか。約一名、それには苦笑いしていたが。

 

「残念かな。せっかく微量ながらもそれなりのエネルギーが手に入ると思ったんだけど」

 

そんな言葉に反して、キュゥべえからは当然ながら感情が感じられない。

残念がっているのは本当かどうかは分からない。その瞳に感情の光が灯らない限り。

 

「忘れてた、さやかちゃん!!」

 

「あ、そうだ!」

 

「二人とも、どこに―――」

 

「ママ、ごめん!!」

 

キュゥべえの誘惑につられる者はもういない。

そう判断したまどかは、さやかと共に避難所の屋上に上がった。扉を開けたとたん、殴りつけるような暴風と暴雨が二人を襲ったが、手をメガホンのように口に当て、力の限りに声をとどろかせる。

 

「アーーーンリさーーーん!!!!!」

 

「来てくださぁぁぁい!!!!!」

 

嵐吹き荒れる街の向こう側に向かって二人は何度も叫ぶ。

雨風に声がかき消されながらも、懸命にアンリの名を呼び始めた。

 

「? 彼の獣はここにいない事は確認した。声が届くはずがないだろう?」

 

最期まで契約の機会を狙ってか、彼女らの後ろについてきたキュゥべえの言うとおり。ここら一帯には宝具獣がいない。現在の決戦中にそちらに注意を割くこともできないため、この街に放っている獣は全て、決戦の場で戦うアンリの中に戻っているからだ。

 

「そんなことない! 私たちに出来ることはなくても……アンリさんならきっと!!」

 

「例えアンリさんに全てを任せるような選択をしても、祈れば祈るだけ、私たちの力もアンリさんに加わっていくんだ! 信頼できる人なんかいないあんたには、分かんないだろうけどさ!!」

 

「まったく、訳が分からないよ」

 

二人は呼び続ける。届くはずもない声を。

 

そして―――後押しするような叫びが、新たに加わった。

 

「アンリさん!! こっちです!!!」

 

「恭介!? こんなとこまで来なくても……」

 

「さやか、恩を返せるなら、今からでも遅くはないよね?」

 

突然二人の横で叫び始めたのは恭介。

いつの間にか隣で、アンリの名を呼びかけていた。

 

「刺青男! なんだか知らないけど、来るなら早くきやがれってんだ!!」

 

「巴君、こっちだよー!!」

 

「にぃーちゃ! にぃーちゃ!!」

 

「ママ、パパ、たっくん!?」

 

「ったく、そういう変な事情でも、あたしら家族だろう? バカ娘が、心配掛けさせんじゃないよ」

 

「ママも、まどかの事が心配だったんだ。だから、今は家族一緒に、ね。それに……」

 

まどかの父親、知久が振り向いた先に居たのは、巴家行きつけの魚屋の店長。いつしかの夏、母親といたジン君。学校の演説で知り合った早乙女先生。彼に憧れを抱いた学生の中沢君。町内会のヘルパー代表島野さん。

彼と関わった人や、会った事は無くとも街に知れ渡った彼を呼ぶ声。次々と彼を呼ぶ声は強まり、彼への『信仰』へと昇華される。

 

屋上には、避難所に居た全ての人が集まっていた。

そして彼へ対する信仰は――――戦場へ。

 

 

 

 

 

 

 

再び場所は大橋の決戦結界内。ほむらの銃器が火を噴き、マミの砲撃が降り注ぎ、杏子の槍が貫き、シャルの巨体が暴れまわる戦場は、ついに最終局面へと入っていた。

 

「っし! もうアイツボロボロじゃねぇか。このまま畳みかけちまうぞ!!」

 

「佐倉さん、油断は駄目よ。まだ使い魔もいるし……ティロ・フィナーレ!!!!」

 

振り向きざまに放った砲撃は、全て使い魔に命中して爆発の余波でワルプルギスの体を揺らす。

 

「それもそうだなっとぉ!!」

 

続いて投げた槍で団子の串のように使い魔を貫く杏子。

ワルプルギスの夜は既に反転しており、さかさまの状態ではなくなっていたのだが、それでも満身創痍には違いなかった。

さかさまになった際、すさまじいまでの衝撃波が発生したが、アンリとシャルの協力で防ぎ切り、一瞬の魔力が無くなった隙に総攻撃を仕掛けてワルプルギスの半身は吹き飛んでいたのだ。だが、最強と言われていた魔女は、それでも死んでいない。

 

それでも確実に、使い魔を出し、ビルを出現させる魔力もワルプルギスには残されていなかった。

 

「あと、もう少し!!!」

 

―――アハハ……アハ、ハハ………アッハアハハハ………

 

ほむらの睨む先。

ワルプルギスの夜は、名前負けするほどにボロボロであった。ピエロの様な帽子は片方がちぎれ飛び、下半身の歯車はところどころがもぎ取られ、全体に罅が入っている。

さらに、先程のマミの攻撃で使い魔共々周りのサーカス施設も破壊されていた。

 

そんな中、アンリは何かを感じとる。

 

「…呼んでるな…………! しかもあの二人だけじゃねぇ。ってか」

 

彼らの祈りは通じた。彼はそれに気付いたのだ。

 

「「「行って!!!」」」

 

「おうよ!!! とどめは任せた!!」

 

「アンリ! 令呪において命ずる。『私の望みを叶えなさい』!!」

 

―――令呪:残数1画

 

マミからの命令。

三人に後押しされその場を離脱する。人々の祈りは僅かな信仰となり、彼に活力を与えていたのだった。

 

「必ず叶える!! ……強化・開始!!!」

 

さらに魔女との戦いで掛けた、身体強化の重ね掛け。足の模様はより一層どす黒く輝き、その速度は最速の英霊、ランサーのクラスに匹敵するほど。

嵐の夜。絶望の夜明けは、確かにそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、どうしてそういった無駄な事が好きなんだろうか。僕には理解できないよ」

 

そういった瞬間、全員から非難の視線を受けていてもキュゥべえは全く動じていない。感情を持たないという事は自分に向けられた感情の意味を知ることができないことと同意であるからだ。

 

「無駄じゃないよ。私達はあなたには負けない」

 

まどかの後ろでは未だ、アンリを呼ぶ声は収まっていない。彼らの気持ちを代弁するかのように、まどかはその意思をインキュベーターへと示していた。

 

「分からないかな。ここの一帯に彼の獣がいないのは同じなんだよ。それに、ワルプルギスの夜は『どれだけの魔法少女が集まっても乗り越えられない』」

 

「そんなこと無い!!」

 

「事実を言っているだけじゃないか。ワルプルギスは裏返った瞬間、世界をひっくり返すほどの魔力の爆発を起こす。どうやっても滅亡の道しかないというのに、どうして人間は自分達の都合の悪い事を否定することしかできないのか―――」

 

そこまでキュゥべえが言いかけたとき、突然の轟音がその避難用のビルに鳴り響いた。

そして現れたのは……

 

「っとぉ、アンリさんここに参上ってな。……やべ、ちょっと恥ずかしい」

 

頬を指で掻きながら、上空から落ちてきたアンリだった。

 

「アンリさん!!」

 

「本当に来るなんて、君はどういう仕組みをしているのやら……」

 

全身に奔った赤黒い模様、紅い腰布とバンダナ、浅黒い肌と黒き髪の持ち主。

アンリのニヤケた顔は、決戦前の気楽な彼のものだった。

 

「ほむらちゃん達は…!」

 

「大丈夫だ。今頃あの魔女にとどめでも刺してるだろうよ」

 

甘露甘露と笑うアンリに、街の人間は素っ頓狂な彼の格好に注目し始める。

 

「いや、本当に来たよ」「アンリさーん、学校ではありがとうございました!」「今度家の魚安くしとくよ。刺青の坊主!」「アンリちゃ~ん! シャルちゃんどこいったの~!?」

 

「オーケーオーケー。聖徳太子じゃねえから!! お前ら避難所に戻っとけ!」

 

突っ込みを入れたところで、キュゥべえが何食わぬ顔でアンリの下に移動する。

それに気づいたアンリは、こんな状況でもマイペースな街の人を避難所に戻すと、キュゥべえの感情の無き瞳を見返した。

 

「……今頃君が来て、どうすると言うんだい? 僕はいくら殺しても代わりはある。それに、まどか達の契約が無ければ、絶対にワルプルギスの夜は『絶対に乗り越えられない』んだよ?」

 

「ワルプルギスはもうそろそろだろ。殺しに来たんでもねぇさ。マミからの頼まれごとだ。オマエに関してだよキュゥべえ……ッと!!!」

 

掛け声とともにアンリが右手を振り下ろした空間には、漆黒大穴が空いた。一切の風もなく、その穴自体から本能から人が拒絶する雰囲気があった。

そしてキュゥべえをむんずと掴み、振りかぶって穴に狙いを定める。

 

「きゅっぷい! …その穴に放り込む気かい?でも無駄さ。その穴はどんなものか知らないけど、僕が自殺すれば済む事だからね」

 

「はっ、大人しくしろって。悪いようにはしないさね」

 

そう言って腕を引き絞り―――キュゥべえを投げ入れた。

 

 

 

 

 

 

「まったく、ばかだなぁこんな程度で僕は……?」

 

ここはアンリの創った穴の中。真っ暗な光一つない世界。キュゥべえはさほど落ちることなく、半液体状の物体の上に自分の体が浸かった事を確認した。

そんな中、ナニカオカシイ…?キュゥべえが思ったのはそんな疑問。

 

(母星とのつながりが感じられない?……いや、それよりこの感覚は……?)

 

そう思っていると、彼は体の浸かった部分の泥が光を放つことを視認する。

またたく間に光は止み、そこにはアンティークな雰囲気を醸し出すBARのような部屋が広がっていた。

 

「これは――――」

 

彼が確認していくと、唯一存在する酒が置いてある棚に、なにやら光る物があった。近づいてみてみると、そこにあったのは泥が詰まったワインの瓶。

まぎれもなく、ここは彼の―――

 

気付いた瞬間、ナニカが何かがなにかがナニカガががががががっがggggg

 

取り囲まれている

 

 

人に

 

人に人に人に人に人に人に人に人に人に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎イ死ネ滅ビロドウシテ嫌ダ殺スクタバレ犯ス罪ヲ滅ビロドウシテ嫌ダ殺スクタバレ犯スナクナレ消エロバケモノダ殺スクタバレ犯ス罪ヲ居ナクナレ居ナクナレ消エロバケモノ笑エ叫べ泣キ喚ケ来ルナ助ケテ無駄ダ気持チ悪イ吐ケ誰カ怖イ駄目ダ嫌イ憎イ死ネ滅ビロドウシテ嫌ダ殺スクタバレ犯ス罪ヲ居ナクナレ消エロバケモノ笑エ叫べ泣キ喚ケ来ルナ助ケテ無駄ダウザイ吐ケ誰カ怖イ駄目ダ憎イ死ネ滅ビロドウシテ嫌ダ殺スクタバレ犯スナクナレ消エロバケモノダ殺スクタバレ犯ス罪ヲ居ナクナレ消エロバケモノ笑エ叫べ泣キ喚ケ来ルナ助ケテ無駄ダ気持チ悪イ吐ケ誰カ怖イ駄目ダ嫌イ憎イ死ネ滅ビロドウシテ嫌ダ殺スクタバレ犯ス罪ヲ居ナクナレ笑エ叫べ泣キ喚ケ来ルナ助ケテ無駄ダウザイ気持チ悪イ吐ケ誰カ駄目ダ嫌イ死ネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネ死死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネ死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネ殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中には穴が開いたまま、アンリはその中を見つめていた。

確かな手ごたえを感じると、ぼそりと言葉を漏らす。

 

「上手くいったみたいだ」

 

「ア、アンリさん。キュゥべえはどこに行ったんですか?」

 

そう尋ねると、アンリは作った穴を閉じた。

キュゥべえの姿が一切見えなくなった事に疑問を持ったのだろうと辺りをつけて、軽く答えを返す。

 

「ああ、オレの『内臓』っつうか、『壊れた聖杯』の所だ」

 

「聖杯? それって……」

 

「今言ったようにブッ壊れてんだがな。ま、オレの魔力タンクで、目に見えないところにあるソウルジェムみたいなもんだと思ってくれればそれでいい」

 

「はぁ……」

 

アンリは壊れてはいるが聖杯を保持している事は皆さんご存じだろう。それこそが『無限の残骸』で使用する泥の出所であり、アンリの溜めた人々の悪意を収める場所だったのだ。

そしてそこには、アンリ自身が行き来することも出来る。前述したBARのような場所は、泥を飲み物へと変えて、彼自身が喰った魂との語らいの場に過ぎない。

 

「まぁ、そんな感じだが、『実体をもつ負の感情』に感情の無いやつが飲み込まれたらどうなると思う?」

 

一瞬、話を聞いた二人は固まったが、その意味を理解すると同時に、あり得ないものを見るようにさやかは叫んだ。

 

「まさか、アンリさんの目的は『キュゥべえに感情を持たせる事の』なの!?」

 

「『あたり』だ美樹ちゃん。どっちかっつうとマミの願いだけどな。『マーボー神父』が『セイギノミカタ』相手に実証してたから助かったぜ」

 

「?」

 

そう、そんな『負』という感情の中に飲み込まれた人物は、大抵が廃人になるか精神を病む原因になる。それが凝縮され、魔力の補助があるとはいえ、物質化された強い感情に触れればキュゥべえに感情を植え付けるくらいは可能だと思ったのだ。

当然、泥は何もしていない状態では『英霊を汚染する』か『人に負の感情を浴びせ続ける』くらいしかできないので、キュゥべえが死ぬ危険性もない。本物の聖杯の泥ならともかく、こちらのはアンリ個人が扱える程度の物。元々の聖杯と比べ、込められた感情と魔力が反対になったようなものだと考えればいいだろう。

 

「あとは、アイツらに任せるだけだ……この世界の、あいつらにな」

 

この世界。

よそ者である自分が、最後の一撃を担う訳にはいかない。

 

アンリは、自分の両腕を巨大な翼に変え、さやかとまどかに背中を乗るように促した。

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロッテ!!」

 

「オォォォウウウウ!!!」

 

ほむらの指示でシャルロッテは魔女の右面を渾身の力で叩きつける。バランスが取れなくなったのか、魔女はついにその体を浮かせる事を止め、力なく体を横たえた。

 

――――アハ……………ハハハ……………

 

陸に上がった魚のように、結界内にある海面に浮かぶワルプルギス。

憐れむものを見るような眼で、ほむらは銃を構えた。

 

「……止めは私にやらせてくれないかしら?」

 

「ふぅ、別にいいさ。因縁の相手だったんだろ?」

 

「いいわよ暁美さん。任せたわ」

 

「ありがとう……」

 

ここにアンリはいないが、それでも彼の加護はあり、彼女達のソウルジェムはそれぞれを明るく輝かせ、鮮やかな色を保ったままである。その状態でもほむらは一瞬で黒く染まるほどの量の魔力を銃に込めていった。

前の世界で『まどかを殺した銃』を魔女へと向ける。

 

その約束を果たす為に―――

 

「これで……終わりよ!!!!」

 

引き金を引き絞り、その口径では有り得ない、とてつもない反動が彼女を襲った。その威力に恥じぬ、最期を表す大爆発が鳴り響き、シャルロッテの結界ごと魔女を打ち抜く。

バギィ、と結界が割れた先には、一切の被害がない周囲の景色が出現し、この魔女との長き戦いはついに、終わりを告げる。

 

そして、ほむらの体がワルプルギスの消滅と同時に倒れ伏す。

 

「暁美さん! 大丈夫!?」

 

「しっかりしろ! こんなとこで終われねぇんだろ!!?」

 

「……平気よ………………」

 

ほむらはその身を地面に任せていた。達成感、疲労感が彼女に一気に押し寄せ、緊張の糸が解けたのだ。

 

「……い…」

 

そんな中、遠くから声が聞こえる。

 

「……ら……ん!」

 

それは彼女が守り通すと誓った『友達』。

 

「ほむらちゃん!!」

 

今ここにいないはずの

 

「まどか……?」

 

「やったね!!ついに倒したんだねワルプルギスの夜を!!」

 

眩暈のするぼやけた景色に映るのは、鮮やかな桃色。

彼女が魔女を倒したタイミングでちょうど到着するとは、神の思し召しか、はたまた、これまでの苦労が報われる事を示しているのかは分からないが、彼女はしっかりとそこに存在していた。

 

「まどか…まどかぁ……!」

 

「ほむらちゃん……! ありがと…ありがとう……!」

 

それを確認するかの様にしっかりと彼女を抱きしめるほむら。目からは溢れるほどの涙がこぼれ落ちていた。

 

そんな二人を見つめると、アンリはマミへ声をかける。

とても戦いがあったとは思えない辺りに対して、魔法少女たちの体は血と怪我にまみれていた。

 

「お疲れさん。きっちり倒したみたいだな」

 

「ええ、暁美さんがキッチリ決めてくれたわ。シャルの結界ごと吹き飛んじゃったけどね」

 

「ありゃあ凄かった。多分魔女100体分は一撃なんじゃねぇか?」

 

「ソイツはすげぇな!オレも見ときゃよかったかね?」

 

茶化す杏子にアンリが悪乗りする。それを呆れながらも、マミが微笑ましく見守っている。それぞれが互いの健闘を称えていた。

ちなみにシャルはと言うと……

 

「(◎_◎;)キュ~」

 

「あれま、シャルちゃん大丈夫?」

 

「(ノ ̄□ ̄)ノダメポ」

 

「完全に目が回ってるよ…」

 

一番魔力の消費が少ないぬいぐるみ姿に戻り、さやかに介抱されていた。どうやら先の衝撃で目を回してしまったようであり、目を覚ます気配がない。

そんな彼女達を尻目にマミは訊ねる。

 

「キュゥべえは?」

 

「そうだな。そろそろ取り出すか」

 

「……取り出す?」

 

マミの疑問を聞き流し、手を振りおろすと自らの中身への入り口を開けた。

そしてその中に手を突っ込み、何かを探るような仕草をした後……

 

「いよっと」

 

「あ……が…」

 

「お~い、起きろ。目ぇ覚ませ」

 

すっかり放心したキュゥべえが取り出された。だが、そんな事は気にせず、アンリはキュゥべえの頬をポムポムと叩いて起こしにかかる。

しばらくシリアスに不似合いな音が続くと、次第にキュゥべえの双瞼が開き―――

 

「ッツ!!!」

 

意識がはっきりすると同時にアンリから距離をとる。そしてすぐさま振り向くと、アンリたちを威嚇するように声を張り上げた。

 

「こ、の…! よくも……」

 

キュゥべえの体はわなわなと震え、瞳には、烈火の如き炎が宿っている。

アンリへ向けて彼が初めて覚えた感情は『怒り』だったようだ。彼の怒りは、母星との『つながりが断ち切られ』、単一個体となってしまった『孤独感』が起因していた。

 

そんなキュゥべえの様子にほむらや皆がキュゥべえを見、あっけにとられている。

無理もないだろう。感情を顕わにしなかった『あの』キュゥべえが、怒っているのだ。

 

「母星との通信が閉ざされた! 僕はあの輪に戻る事ができなくなったじゃないか!!」

 

「やっぱり感情芽生えたか。キュゥべえ」

 

「なにをぬけぬけと……! 君のくだらない『中の魂』にも出会ったよ! とんだ殺人者じゃないか、君も!!」

 

だがアンリだけはその雰囲気に呑まれること無く平然としていた。そんな中、一つの問いを投げかける。

 

「一つ聞く。エネルギーの回収については今はどう思っている?」

 

「そんな事どうでもいい! それより―――」

 

「それでいい。やっぱオレの予想は間違って無かったみてぇだな。()抑止力さんよ?」

 

「なっ……!? どういう意味で、そんな……」

 

極限まで瞳孔を開いて驚愕するキュゥべえに、アンリはキヒヒヒッ、と気味の悪い声を漏らす。そしてすぐさま非礼を詫びると、彼はつづけた。

 

「ま、一つ聞いてくれや。……お前達インキュベーターには一つの行動理念として、エネルギーを回収し、それを宇宙の活動エネルギーへ還元する。というものがあった(・・・)な」

 

「……」

 

感情を持った今、それがどういう意味をもつのかという事への疑問。キュゥべえが気を失う直前に持った、様々な疑問と理解の中に含まれていた事の一つだ。

 

――――なぜ、あれほどまでに宇宙の寿命を延ばすことに執着していたのか?

 

その答えを持っているのは、皮肉にも感情を持たせたアンリだけだった。

 

「話は変わるが、今まで言っていた『抑止力』っつうものの説明をさせて貰おうかね」

 

そう言って一息つく、この深い夜の中、少女達も静かに息をのみ、聞き入ろうとしていた。

注目が集まったことを確認すると、咳払いをして話し始める。

 

「……抑止力は惑星・恒星・生物の絶滅や消滅を防いだり、世界の矛盾を正そうとする『意思』だ。世界に異物があればそれを排除し、元に戻そうとする働きでもある。

 だが、それらはあくまで『意思』でしかなく、指向性のない巨大な力でしかない。それなのにどうやって働くかと言うと、『他の生命に契約を持ちかける』んだ。それこそ『今の望みを叶え、死後を強制的に拘束する』…って具合にな」

 

「それって……」

 

「そう。言ってみればインキュベーターと同じやり口だ。だがな?ここでキュゥべえ。お前の話に戻るんだよ」

 

「…続けなよ………」

 

落ち着いたか、と心の中に思いをとどめ、彼は再び笑った。

それは心底、さぞ可笑しそうに。

 

「そこで違うのは一つ。そういった世界規模からの抑止力に囚われた存在は物理的な排除を行う際、『一切の感情を持たされること無く、ただ延々と世界からの依頼をこなし続ける』ってところだ」

 

「「「「「「!!!!!!」」」」」」

 

「だからこそ、既に『種族』として世界と契約しているインキュベーターには『感情が存在しない』。という説が成り立つわけだ。そこから考え、導き出されたのがこの結果。

 『感情が芽生えれば、抑止から解放されるんじゃないか?』……結果は大成功。無事キュゥべえは単一個体として確立しましたとさ。めでたしめでたし。ってな」

 

「ふざけないでくれ!! だとしても僕は…僕は……!!」

 

アンリのふざけたような締めくくりに怒りを増大させ、キュゥべえは、心からの叫びを彼にぶつける。

 

「これからどう生きて行けばいいんだ!!? 母星だけじゃない! 他の個体であるハチべえやロクべえとも繋がりを感じない!! こんな恐ろしい状況でどうすればいいんだよ!!!」

 

それは群体として生きてきた故の寂しさだ。

突如全てから切り離され、感情と言う未知の存在を抱え込んだ彼は、抱え込んだものの一部、『怖い』という気持ちで押しつぶされそうになっていた。彼の内面の泥に触れたが故の、負の爆発。

だからこそ、『キュゥべえ』となった彼は心から願うのだ。

 

―――人類の破滅を。

 

「もういい…こんな星は、君たちが生み出した『ワルプルギスの夜』を乗り越えられずに滅んでしまえばいいんだ!!」

 

「なに言ってやがる!!? ワルプルギスはアタシらが倒した筈じゃ……」

 

「君たちは単一の魔女にどうして『夜』という名称が使われていたのか、疑問にも思わなかったのかい? だとしたらホントに愚かなものだ。それこそ『笑い話』にもならないよ!」

 

「この…テメエ、どういう意味だ!!」

 

「佐倉さん! 落ち着いて!」

 

「私、も、聞かせて貰いたい、もの、ね……」

 

「ほむらちゃん!?」

 

キュゥべえの『感情(嘲り)の籠った』言葉に魔法少女達は怒り、焦燥、絶望を感じていた。それを嘲笑うかのようにキュゥべえは続ける。

 

「それに言ったはずだよ。あれは『舞台装置の魔女』だと! なのに、使い魔が『道化役者』しかいない事にも疑問を持たない!! 実に滑稽なものだねぇ、君たちという愚かな生き物は!」

 

「……チィッ、まさかとは思うが、魔女の―――」

 

アンリが何かに思い至った時、突如、突風が吹き荒れる。雲行きは怪しく、雨も降らないが晴れでもない天気になり、どんよりとした空気までもが流れ始めた。

その異常をいぶかしみ、マミはアンリへ問いかける。

 

「アンリ! なにか分かったの!?」

 

「『ワルプルギスの夜』……北欧から中央までに行われるお祭りの名前『ヴァルプルギスの夜』と非常に酷似している……『アンラ・マンユ』と『アンリ・マユ』みてぇなもんだな」

 

「それがどうしたって…!?」

 

「英霊になった時、与えられた伝承・伝説の知識の中に含まれていたんだが……その祭りの伝承の一つにこうあった。『魔女たちが山に集い、彼女達の神々とお祭り騒ぎをする』と…」

 

「その通りだよアンリぃ? 君たちはそんなお祭りをするための『舞台』と『神々』を壊してしまったんだ。もし、君たちが祭りをしようとしている時に、準備していたものを壊されたらどうなると思う?」

 

「怒って、その人を捕まえちゃう…?」

 

「じゃあ、もしかして!!」

 

さやかが叫ぶと同時に、空には無数の魔法陣が現れる。

星の真ん中に目があるもの。画家の人が筆を持っているようなもの。長い棒が太陽を指し示しているようなもの。木が生い茂る中に兎の様な動物が逆さまに描かれているもの。

いまや空だけではない。近くのビル、海や川の水面であったり、木の陰や雲の向こう側にまで。いたるところに結界の入り口が出現し、その扉が重い音を立てて開かれようとしている。

 

淀んだ空は、よく見れば巨大な結界の魔法陣を表しており、この見滝原そのものが魔法陣となっていたことが分かる。

 

「どうして!? 魔女は結界の中に身を隠すモノじゃ…」

 

「それも『舞台装置の魔女』の役目だよ。アレ自体がこの魔女達を守る一つの『移動型結界』として機能していたんだ。死んだあとにも残ったみたいだけどねぇ?」

 

「だったら、他の魔女の結界には出てこれないんじゃ……」

 

「彼女達は『出てこられない』んじゃない。『出て来ようとしないんだ』。それ自体は既にシャルロッテが実証しているはずなんだけどな? 君たちは、本当に分からない奴だ」

 

「あっ……」

 

真実を突き付けられ、怯むまどか。

そんな事をしている間に、魔女達の結界の扉は開かれ、次々とその身を乗り出している。

 

「あれは、影の魔女!?」

 

「あー……あっちに居るのは美貌の魔女かしら?」

 

「空には銀の魔女まで出てきてるわね……」

 

これまでに倒した事のある魔女達の元だろうか?

使い魔は成長し、鼠算式に増えてゆくので同じ姿の魔女も見受けられる。おそらく、太古より生き延びてきたオリジナルも居るはずだろう。

 

「どーすんだよ…! こんな量の魔女、いくら倒してグリーフシードにしてもこんなに絶望の気が強いとすぐに羽化しちまうぞ!!?」

 

「それに、鹿目さんと美樹さん! 戦えない街の人たちも危ないわよ!?」

 

「そんな…こんな事って……」

 

「ほむらちゃん!!!」「転校生!!」

 

「…………!?……………………」

 

街全体に広がった、魔女が顔をのぞかせる結界の入り口の数々。

街の中心部の空間にも当然それらはあり、このままでは避難所まで魔女に襲われてしまうだろう。

 

「どうだい? まどか、僕と契約するかい? どちらにせよ、すぐに最強最悪の魔女になっちゃうけどねぇ!!」

 

「黙ってろキュゥべえ!! おい、アンリ! なんかないのか!!」

 

負の感情を浴び、一時的な混乱に陥るキュゥべえ。さらに魔法少女たちが絶望する中、アンリの様子がおかしい。そう思った杏子が彼の肩を掴み、振り向かせたが、彼の顔から伺える感情は―――

 

―――無、だった。

 

「アンリ? どうしたのよ!?」

 

「なあ」

 

「なんかいい案でも出来たのか!? なら早く言ってくれ!!」

 

先ほどとは一転し、傷ついた体に鞭打って武器を構える魔法少女達。ほむらは一般人である二人をかばい、杏子は槍を構え直す。マミが砲を多量に設置している中、アンリはただ一人、呆然と立ちつくしていた。

 

唇がかすかに動き―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯が…………『完成』した…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

それは誰のつぶやきだっただろうか?その言葉を皮切りに、

 

 

黒い太陽が空に出現した。

 

「な、んだアレ…? さっきの、穴…!?」

 

「アンリ! 聖杯が完成ってどういう事!? あの穴ってもしかして…」

 

マミが言葉をつづけようとすると、穴からは泥がこぼれ落ちてきた(・・・・・・・・・・)

とめどなく絶望を勝る負の塊が吐き出され、街の地面を埋め尽くし始める。

 

「アンリさん!! その体、一体どうしたんですか!?」

 

その中でいち早くアンリの体の異変に気がついたのはまどか。

彼女が異常と言ったアンリの体は、糸がほどけるように消えようとしていた(・・・・・・・・・)

 

「ああ、

 

 行ってくる」

 

「「「「「アンリ(さん)!!!」」」」」

 

彼が虚ろに告げると、その体は消滅した。

誰もその場には居なかったように、布切れ一つ、足跡一つさえその場には残っていない。

 

「どういう事よ? アンリ!?」

 

「くそっ!! ……ほむら! アタシの幻術でアイツらからなるべく姿を隠す!! その二人ちゃんと守りきれよ!!」

 

「あなたはどうするの!」

 

「なるべく魔女をブッ倒す!!」

 

「テツダウ!!」

 

絶望をはねのけるようなるべく陽気に笑い、杏子は槍をかついでそう言った。

シャルもいつの間にか復活し、叩く意思を見せている。形態移行すらできていないが、アンリとのつながりによる供給で、戦えるだけの術は扱うことが出来るようだ。

 

「無茶だよ! アンリさんも居なくなったのに、それじゃ杏子ちゃんのソウルジェムが!! シャルちゃんだって無敵じゃないんだよ!?」

 

「大丈夫、じゃないかしら?」

 

そんな彼女を心配したまどかだが、マミにさえぎられる。

 

「マミさん……どういう事?」

 

「あの穴。多分アンリだと思うの。あれがあそこにあるってことは魔力を使ってもソウルジェムは穢れないんじゃないかしら」

 

「そう…? ……っ、そう言えばキュゥべえは? あいつはどこに行ったの?」

 

「アイツはほっとけ! 今はこっちが先決だろうが!!」

 

アンリと共に居なくなったキュゥべえにも疑問はあるが、今はそんな事を行っている暇はない。

最後の決戦は最強の魔女ではなく、大量の魔女。質と量を兼ね備える絶望に魔法少女達はどう立ち向かうのか?

消えたアンリ達はどこに行ってしまったのか?

 

物語は終結へと向かう。果たして、その先にあるのは未来(希望)絶望(絶滅)か…………

 

 

宇宙は、微笑んだ。

 





最終回じゃなかったですね。
これ以上詰め込むと、さすがに私の指が破裂しそうなのでやめときました。

本当の最終回のほうは、すでに私たちが書き始めています。

では、また今度会いましょう。

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