前日の会議を解散した翌日。
最強の魔女が襲来するカウントダウンを示すかのように空は陰っていた。
だが、そんな日にも登校という責務を果たすのが学生の仕事だ。今日も今日とて彼女達は日常を満喫する。
ある者は思い人と過ごし襲来に備え
ある者は先の事に好奇心を抱え、胸に秘めた思いを募らせる
ある者は自らの宿願に終止符を打つべく思案する
そして、またある者は―――
「流石にそう簡単に見つかんねぇか……」
「当たり前だって。真昼間にそうそう出てくるもんじゃないさ」
魔女探索を終え、いつかの公園でまったりしていた。
件の公園にいるのはアンリと杏子の二人だけである。
他の戦える人物は学校に行っているので当然と言えば当然なのだが…
「しっかしさっきの奴らは何だってんだ…ガッコーガッコーうるさいったらありゃしない…」
「ハハハ、その辺があの人らの持ち味みたいなもんだ。よっぽどいいやつしか町内会には出席しないからな」
「こないだの魔女よりもタチが悪いよ……いきなり連れだして何かと思えば『ソウルジェム貸せ』だなんてジョーダンきついにもほどがあるってーの!」
両手を上に突きだし、んー! と身をのばす杏子。初体験となる堅苦しい社交場で凝り固まった体をほぐしていた。どうやら、アンリに連れられて町内会に出席したらしい。
反対に、余裕そうな言葉とは裏腹にぐったりしていたアンリは、両手に冷えたアルミ缶を携え、杏子の横に移動しベンチの背もたれて身を預ける。二人がベンチに座る姿は『そういった意味で』様になっていたが、その事に二人は気づいていない。
「仕方ねぇだろう? あんとき使い魔逃したって言ってからというもの、それっぽい報告聞いてないんだからよ」
「とにかく、今日は夜にまた集合だってぇ? 今日ぐらいは休ませてくれって感じなんだけどなぁ」
「ソイツは聞けねぇ相談だ。大体よぉ、佐倉だっていざって時の戦闘技考えてねぇんだろ? ……ほれ」
「ん、サンキュー。……それもあるんだよなー。なーんでアタシはあの時に意気込んでたんだろうねぇ」
「人間、周りにつられやすいもんさね」
「人間、か……」
そう言ってから受け取ったジュースのタブを押し込み、中身を存分に味わう。予想より上等なものだったのか、先ほどより機嫌が良くなっているようにも見える。
「…ッく~! ま、いいさ。アタシらしく気長に考えてみるよ」
「それが一番だが、人間やるときゃやらんと駄目な時もある。それまではせいぜい悩めばいいさ」
「やる時か……アタシはキュゥべえとの契約がその時だったのかな。今となっちゃ……後の祭りだけどね」
「まあまあ、そう落ち込むな。オレも確かに契約は反対だが、実際に見ればデメリットしかないわけじゃないだろう? 世の中はプラスとマイナス0で成り立ってるもんだ。永遠にプラスが来ねぇ時はほとんどないと思うぜ?」
「……そう、か。アタシでも報われるときはあるのかね」
「どした、随分らしくないな?いつものお前はどこ行ったよ」
「ホントだよ!何言ってんだか……ねっ」
いつの間に飲み終えたのか、空になった空き缶をゴミ箱へと投げる。缶は放物線を描いて見事カップイン。アンリが称賛の口笛をヒューッ、と鳴らした。
「流石ってとこか?」
「この程度なら訳ないさ」
「そーかい。んじゃま、戻りますか」
そう言って二人は公園を出て行った。
時刻はちょうど12時を示し、公園の噴水がそれに合わせて水のアートを描き出す。それは、戦地へ向かうと者に祝福を祈っているかのようにも見えたのだとか……
一方。見滝原中学校の屋上では昼の時間になり、まどか・仁美・ほむらの三人が集まっていた。さやかは未だリハビリの途中で松葉杖である恭介の付き添いがあり、教室で二人の空間を作っているのでここにはいない。
あの空間に突入しづらいということもあるが。
「それにしても、上条さんがさやかさんと付き合っていたのは驚きましたわ。……あのように微笑ましい御二方、うらやましい限りですわ~」
「あはは、仁美ちゃんもやっぱりそういうの興味あるの?」
「ええ、私にも少しばかりは想っている人はいるのですよ? そうです、暁美さんはどうでしょう、そのような方はいらっしゃいませんか?」
「……別に、今まで考えた事もなかったわ」
そういったほむらの頭の中では、先日アンリに言われた事がリフレインする。しかし、今はワルプルギスの夜を乗り越えるのが先決。そんな浮いた話はしていられないとその記憶を捨てた。
その間も表情一つ変えなかった事に不満なのか、仁美はそっと溜息をつく。
「暁美さん。そう素っ気ないとこちらは不安になりますのよ? 私では仲良くなれないのでしょうか」
「そういう訳ではないの。私もあまり慣れていないだけで、あなたが気にするほどの事は無いと思うわ」
沈む仁美にチクリと心が痛んだのか、ほむらは冷静な口調で弁明する。
「ほむらちゃん……」
「あ、ごめんなさい…最近まで心臓を患っていたのでしたね……でも、大丈夫です。あなたならきっと皆さんと仲良くなれますわ!」
「あ、ありがとう……?」
最後はほむらの手をとってズイッと力説する仁美。その気迫に押されて、ほむらはついどもってしまった。
―――ここで予鈴の放送が鳴り響き、昼休みの終わりを告げる。仁美はそれに反応し、急ぎ広げていたご飯の片づけを始めた。
「あら、もうこんな時間! ごめんなさい、私は家庭室ですのでお先に失礼しますわ!!」
「うん、また授業でね」
「それではごきげんよう」
小走りで階段へと急ぎ、掃除へ向かった仁美。まどかとほむらは今週は休みの日なのでそのまま屋上に残っていた。
それを見送ったまどかはほむらへと向きなおる。これからは、二人が共有する秘密の話題だ。
「……もう、ほむらちゃんも少しは楽しそうにしてくれたらいいのに!」
「そうはいっても…ワルプルギスの事もあるから、はしゃいでばかりもいられないのよ」
その言葉に反論するように頬を膨らませたまどか。
ループによる頑張りを受け入れたまどかと、受け入れてくれたまどか自身に感謝を告げたほむらの両名には、最早大きな隔たりはなくなっていた。
「皆を守ってくれるのはいいけど、ほむらちゃんもキチンと休もうよ?無理してばかりだと体壊しちゃうよ」
「平気よ。魔力で体の異常は回復できるから…」
「それだけじゃなくて! ほむらちゃん、ワルプルギスの夜が来るって時からずっとピリピリしてるから、学校にいるときくらいはゆっくりしてほしいんだ。昼は魔女もでないって、アンリさんに聞いたから。だから―――」
そこまでで言葉を区切ると、顔を紅潮させる。
「……学校はだめでも、私がいるときくらいは……ゆっくりしてくれると、嬉しいなっ、て」
「まどか……」
言われて、ほむらは彼女の事を認識し直した。彼女は本当に優しいのだと、彼女の為に頑張ってきたのは決して無駄ではないのだと。
今回、それがついに果たされるのかもしれないのだ。ならば今は―――
「そうね。少しはここで休んでもいいかしら」
「……うん!」
頬笑み、ゆっくりと目を閉じた。彼女達の手はしっかりと繋がっている。
次のベルまで約20分。二人は寄り添い、僅かな安らぎの時を過ごしたのだった。
時は少し遡り、まどかたちが屋上にいる頃の教室では―――
「いよっ、今日も熱いねバカップル!!」
「な、なにさー!」
「顔赤くして言ってちゃ世話ないわよー!じゃ、まったね~!」
からかいに来たクラスメイトが退出するのを見届けて、さやかは恭介の隣に座った。
前を見れば、顔を赤らめた恭介がさやかの顔を覗き込んでいる。
「っふふふ……もう皆に知られちゃったね、僕たち」
「も~! 恥ずかしいのか嬉しいのか、わかんなくなっちゃったけどね」
周りから囃し立てながらも幸せそうな二人。周りの喧騒で自分たちの会話が聞き取れないようになった事を確認すると恭介は表情を一転、真剣な面持ちで話し始めた。
「それで、最近そっちはどうなったのかな」
「うん、対策は練ったから個々の実力を研ぎ澄ますんだって」
短時間で新しい力を得ようとしてもうまくいかない。だから、現在の自分ををより見極めて無駄をなくすることで、戦いも楽になる。というのはほむらの談。現に、彼女自身は戦闘力を能力の発展と応用で魔女を屠っているのだから、説得力があったとか。
「それにしても魔法か…まだ信じられないけど、僕の手が治ったからには感謝しないとね」
それが癖になったかのように、彼は怪我の跡が残った手を撫でた。
「あはは……最近アンリさんも忙しいからなー。全部終わったら、改めてお礼言ったらいいんじゃない?」
「そうだね、自分の意志が治癒を促したって言っても、そのきっかけをくれたのはアンリさんなんだから……」
恭介はさやかとのお付き合いの折、直ったのは『病は気から原理』が基になったのだろうとアンリから聞かされていた。礼を言う暇もなく、その日は地面に溶けるように消えていったので、結局例の一つも言えてはいなかったが。
「そういえば大橋のあたりに住んでる人たちの避難の方はどうなったの?」
「それは大丈夫。父さんに話をしたらすんなり信じてくれたからね」
少ない事実を知る一般人の上条恭介。彼はアンリと再会を果たす前の退院が近くなった日に、さやかからほとんどの事を聞いていた。恭介はそんな人たちの助けになりたいと考え、最近知ったワルプルギスの夜が現れそうな場所の近隣住民の避難させる役を買って出たのだった。
彼自身の実家も街に影響力のある大家ということもあり、着々と避難所の整備は進んでいる。
「となると、後はアンリさんやマミさんが勝つのを祈るだけか……私も戦えたらよかったのにな……」
「今のままでもさやかは十分立派さ。僕もそうだったけど、つらい事とか関係なく話す事ができる相手がいるのってすごく安心できるんだ。だからさやかも明るく後押しするといいんじゃないかな?」
「そっかぁ…そうだね! ありがと、恭介!!」
「どういたしまして」
そこでベルが鳴り響く。昼休みの時間が終わったようだ。未だ歩行が困難な恭介はさやかへと問いかける。
「肩貸してくれるかい?」
「いくらでも、それじゃがんばろっか!」
退院後とはいえ、病み上がりもいい所の恭介である。
さやかに支えられて立ち上がり、この二人も日常を謳歌するのであった。
そうして時刻は夜になった。
エルザマリア、ウーアマンと連続で魔女を倒した事でしばらくの魔女の出現は無いだろう。という事で、ワルプルギスの夜への対抗策として模擬戦を行うために現在、魔法少女や関係者はある場所に集合していた。
「良好良好。良き哉っと」
「ナジム……ジツニナジムゾー」
そのとある場所というのは、シャルロッテの結界内。
アンリが供給するのは絶望と負の感情しかない故か、なおさら禍々しい景色へと変貌している。簡潔に言うなら、絶望先生のOPを混ぜ合わせたと言えば分りやすいだろう。
とはいえ、結界に見た目ばかりに気を取られて消費する時間は彼女たちには必要ない。多少の気分の悪さは抑え、こうして最終決戦場となるシャルロッテの結界を展開しているのだった。
「んじゃ、早速始めるか」
アンリがシャルに目配せすると、彼女たちの前には大きなテーブルが生えてくる。向かい合うように全員が座ると、アンリが説明を開始した。
「作戦を説明する。今回集まったのは、ワルプルギスとの仮想訓練のためだけじゃねえ。自分自身を見つめ直すことが第一目標だ。自分の攻撃方法、魔法の発展……何でもいい。それらすべてを無理なく戦闘中に発揮できるようにするための練習。
今回用意する目標は、あくまでそのための的だ。攻撃は最小限の威力に抑えてあって、直撃したところでかすり傷にもならん。……が、最終的には一撃ももらわないつもりでやれ。……こんなところか。悪い話ではないと思うぜ」
「下手に魔女との仮想訓練をするより、各々の能力を高める事が本懐っていうことね」
「そこの義妹、簡潔にまとめ過ぎだ」
かくして、そんな茶番はあったものの練習は開始される。
使い魔の形を変えてワルプルギスを再現。使い魔やビルを投げる攻撃はほむらの微修正も入れながら本物に近くしたものの、最終的には魔法少女たちの能力確認となるのであった。
「……しっかし、意外と応用とか何とかできるんだなぁ、アタシらって」
「私は、復帰訓練だけになっちゃったわね。アンリと一緒にいると、どうにも無駄な動きって無くなってるみたいだから」
「時間停止、ね」
訓練終了後。
場所は再び結界の中。模擬戦用ワルプルギス人形が浮かんでいる下で、魔法少女たちはそれぞれの反省を行っていた。とはいえ、その顔には疲れの色が見える辺り、長時間の戦闘で疲労をしたのだろう。
彼女達は結界にあるテーブルを中心にして反省会を続ける。
「で、どうだ。なんか掴んだか?」
ひらひらと手を振ったアンリが言うと、ほむらが難しい表情になる。
「本物の恐ろしさはこの比じゃないわ。私から言ったことだけど、ワルプルギスの夜が襲来した時に本当に役の立つのかしらね」
「っとぉ、これは手厳しい。……ま、息抜きと確認にはなっただろ?」
「あんたの基準はイマイチわかんないねぇ。まぁ、必要時以外の変身が出来なかったころに比べれば、最近の魔女をなめてたことは確かだね」
「脅威の再確認は重要だぜ? 油断して死んだら元も子もねえ」
カラカラと気楽に笑うアンリ。それを見たほむらは深いため息をついた。
「ま、アタシは次の魔女で『技』の練習でもしてるよ。穢れの浄化は任せるよ」
「おっ、ついに来たか。佐倉の『必殺技』!」
「あら、佐倉さんそんなの考えてたの?」
「へっへ~。本番までは秘密な!」
「気楽なものね……」
「ングッンクッ…ウマシ」
すでに反省会というより、座談会となってしまっているのは御愛嬌と言ったところか。気楽な事に、皆が思い思いの一時を過ごしていた。シャルに至ってはマミ特性の紅茶を堪能している始末である。
「それにしても、結界の中でこうしてゆっくりできる日が来るなんて夢にも思わなかったわね」
「そりゃそうだ。フツーはドンパチやらかす事しかできねぇ場所だからなぁ」
「ひとえにシャルのおかげかしらね? アンリと契約しなければどうなってたことか……」
「巴マミ、貴女の首から上は消えてたわね」
「えっ?」
「えっ」
シャルを撫でていた手がピタリと止まる。
そんなこんなで反省会は続き、ある程度の話がまとまった所で終了を告げる号令がかかった。
「こんなもんでいいだろ、今日は解散だ。今だからこそゆっくり休んでおくぞ。シャルも結界はもう解いていい」
「……フゥ」
シャルが何か力が抜けるようなしぐさをした途端、周りの景色はゆっくり回り始めてシャルに集結していった。最期の一辺までがシャルロッテに収まるころには、結界の張った場所全てが元に戻り、美しい夜空に浮かぶ月が顔をのぞかせて優しげな光を放っていた。
月光が結界の光より明るく、そこにいた全員が目を細める。
「それじゃ、私はこれで」
言うが早いか、ほむらは消えるようにして居なくなった。言うまでもなく時間停止を使ってこの場から去ったのだろう。
「なんだ? アイツも随分気が早いな」
「暁美ちゃんも思うとこがあるんじゃねぇか? もしくは武器の点検ぐらいか」
「あー、なるほど。アイツって銃火器ばっか使ってるもんな。手入れしとかないと駄目になっちまうか」
アンリの出した例に、ありそうだと杏子が頷く。
その真意は違っていようと、彼女なりに最終決戦に臨む意気込みがあるのは間違いない。
「そうね、それじゃ私たちも帰りましょうか」
「「へーい」」
巴家一行も皆、マンションへ帰るのであった。
日が昇る頃。
マミ達が住むマンションの屋上には腕を組み、自分の宝具獣の戻りを待つアンリの姿があった。
「……見つかったか?」
宝具獣もアンリと同じ悪意の泥で出来ているため、視界共有はまだ不可能だが、何かに触れた感覚がある程度なら感じ取れるようになっていた。ひとえに宝具を使用し続けた賜物だろうか、アンリも宝具に『慣れて』いった。
先程の言葉から察するに各地に放った獣達が探し物を見つけたようだ。
「おー、来た来た。5時間もかかっちまったなぁ。暇つぶしに泥は溜まったから別にいいんだが……」
彼の
そして『発見』から1分後、戻ってきた宝具鳥が上から落としたのは―――
「きゅっぷい!」
言わずと知れた白の詐欺師、キュゥべえであった。
「お疲れさん。『エリー』」
泥の鳥をひと撫ですると、嬉しげに鳴き声を上げてその鳥はアンリの中に還って行った。
そして、アンリの足元には―――
「まったく、訳がわからないよ」
いまや定型となった言葉を、吐きだすように口にする。そんなキュゥべえからは、どことなく恨めしげな様子が見て取れた。
「なあに、そう言うな。今は別にどうこうするつもりはねぇ……が、聞きたい事があってな、ちょいと来てもらっただけだ」
「今はって……僕も新しい魔法少女と契約するために忙しいんだけどなぁ…ま、いいよ。それで、聞きたいのはワルプルギスの夜についてかな?」
アンリが首を振ると、キュゥべえはそれなら……と続けるが、彼は口早に用件を告げた。
「いんや、それは十分だ。オレが聞きたいのは魔法少女について、もうちょい詳しくな?」
「へぇ。それぐらいなら別に構わないよ」
「それじゃ、率直に聞こう。…魔法少女の素質伝々ってのは一体何が関係してるんだ?」
アンリが聞いたのはとある目的からだった。まどかとの契約を執拗に迫り、そうするだけの素質がまどかにある理由を聞くため。そこからもう一つの活路を見出すことができ中と考えたというのもあるが。
「なるほどね。アンリ、君は『因果』についての知識は持っているかな?」
「なんか悪い事すっとそれが未来に自分へ返ってくるっつう事だろ」
「ここでの意味は、背負いこんだ『業』の量を表すと思ってくれるといい」
「……へぇ。そういう…………」
アンリは裂かれた笑みを浮かべるが、キュゥべえはその笑みではなく、彼の考えを読み取って続ける。
「君が考えた通りだろうね。魔法少女の素質はその人物が背負い込んだ因果の量に比例されるんだ」
「しっかしよぉ、そうだとすると―――」
「『平凡な中学生のはずのまどかへ契約を迫る理由が無い』という事だろう?」
アンリが言いたい事をズバリ当てられた。幾多の人と関わってきたキュゥべえにとって、この程度の予想は簡単だったようだ。
「っと、お見通しってか? 流石にお前にゃ敵わねぇか」
だが、アンリの考えはその奥。悟られていない事にアンリは内心嘲笑していた。
「だけど、それが分かれば僕も納得できるんだけどね」
(…………)
「まぁそれはどうでもいいさ。まどかが契約してくれたら僕らのノルマは達成できるからね。……君が聞きたいのはこれだけかい?」
「いんやぁ、最期に一個だけあるんだが、大丈夫か?」
「いいよ。君が望むのなら答えてあげよう」
なら、とアンリは語りだす。
約束のために真実を探るために。仮説を現実と変え、最終決戦を幸福な結末に導くために。
「インキュベーターってのは体の代わりがあるんだろ? っつーことは『群体』でお前らは繋がっているのか?」
「へぇ、よく気付いたね。その通りさ」
二つ目の問いにもニヤリとキュゥべえは答えた。
ここでアンリの聞いた内容の捕捉をしておこう。
アンリが聞いた『群体での繋がり』とはインキュベーターという種族の生命体、その全ての個体が一種のネットワークを構築しているのかどうかということだ。
いくつもの体をある個体の精神が保有する種族。体が壊れると同時、別の体が死に先で交換されるということは、『精神的なつながり』が存在し、その繋がりを通して新たな体へ精神を移動させるという一つの予測をアンリは立てた。
あてずっぽうもいいところの問いだったが、その問いにキュゥべえは『是』と答えた。
となると、アンリが聞くべき事は一つ―――
「そんじゃこれで最後だ。『この地球に来た中でその繋がりから抜けた者は?』それと『その原因について』だ」
身内の事を聞かれたとはいえ、母星からの緘口令が出ているという訳でもない。キュゥべえはいくらか訝しんだが、結局話すことを決めた。
「最初に地球に来た『イチべえ』という個体がそうだったよ。
彼は『思春期の少女が最もエネルギーを回収できる』という事を発見した個体だったんだけど、日本で言うなら、江戸時代を境に通信が
もし僕ら自身が無限をもっていたならそれを研究するだろうし、回収の為とはいえわざわざ他の惑星にエネルギー回収をしには来ないさ。……これでいいかい?」
「なーる。聞きたいのはそんだけだ。邪魔して悪かったな」
「こんどこそ、お暇させて貰うよ。またね、アンリ」
キュゥべえは後ろを振り向き、その場から去ろうとした時、アンリは言った。
「精々頑張りな、『抑止力』さんよ」
「!」
キュゥべえは急ぎ振り返り、その言葉の意味を問おうとするも、既にアンリの姿は影も形も無くなっていた。おそらく霊体化、もしくは何らかの方法で長距離移動をしてその場を去ったのだろう。
テレパシーの届く範囲にも彼の存在を感知できなかったのだから。
「まったく、わけがわからないよ………」
地平線から昇る朝日も眩しいくらいになってきた頃。
「『感情』、『群体』、『ロスト』、『抑止』、『個体』、『原因不明』………くかかかかっ、繋がった繋がった。やっとできるなぁ、ッハハハハハ!!」
人気のない路地裏。初めてアンリが魔女と戦った場所で、彼は狂ったように笑っていた。
先の会話で得た情報が彼の頭の中では絶えずリフレインしていた。彼が考えていた。『何を』『如何にして』『どうするか』。キュゥべえは自ら嵌め込んでくれたのだ。彼が考える最上の
彼の目指す道はここにきてようやく決まる。ならばそのために奔走する彼を誰が止められようか。
定まった道はやがて人が通り、轍をつくる。
たとえそれを辿るモノが――――並行世界と呼ばれる可能性であっても。
彼は狂ってでも、貫き通すと誓ったのだ。
これぞ私達の特技、書けば書くほど文才と内容が薄くなる!
……どうにも、こればっかりは…………
それでは
あ、次回最終回になります。