不幸・転生
ここは全てが真っ白の部屋。
ここにあるのは白い椅子と白い机。
その椅子に座ってこちらを見ている老人だけであった。
「よくぞここまできた。まあ、座るといい」
そう言って目の前の老人は着席を促してきた。それに従い素直に座り、老人に向きなおって言を紡ぐ。
「それで、やっぱり俺は死んだんですかね」
「…理解が早い。その通り、だと言っておこう」
やはり想像どおりらしい。だが未練は無いし、残すようなこともしなかった。生来より人よりも運が悪かっただけ。小さい頃はいつも大きな怪我をしてばかりであったし、かつあげ等もざらであった。死因もそれと同じで、運悪く重傷を負い、運悪く病院に着くまでの間に処置が間に合わなかっただけだ。思考の海から浮上したその時、老人が感心したように口を開いた。
「激昂しないのだな、久しぶりに見るパターンだ」
「いや、したところで何が変わる。というわけでもないですし、あなたが悪いわけでもないでしょ―――」
「いや、実は私のせいだ。」
「は?」
生前の考え事が吹き飛んだ。いやいや、この人何をおっしゃっているのか?まさか魂を連れていく死神か人の魂を管理する閻魔―――
「後者の回答が近しいであろうな」
「人の考え事に口はさむのはどうかと、というかやっぱり読めたんですね、心というか頭の中」
「That’s right.ついでに私は『神』だといっておこう」
そのたたずまいや態度からある程度の予測はしていたが、面と向かって言われるとより一層、目の前の人物が神々しくも見えてくる
「それはともかく、あなたがやったと?」
「うむ、それで間違いない」
要するに俺はこの御老公のせいで死んだと……
あるんだなーそんなミス。神様も万能ではないってか
「That’s right.あと、君のそうなった原因は管理の時にまれに起こりうるミスでね、『今』の君にあるはずの幸福を入れ忘れ、平均値-2くらいの量で輪廻から送り出してしまったのだよ」
「はぁ。つまり、俺の今までの不幸はそれが原因でもたらされたと。先ほどパターンって言っていたということは他にも何人かいて、それでこれを聞くと殴りかかってきた。ということですか」
「先ほどから実に察しがいいな。それで私に掴み掛かるかね?それで君の憂さが晴れるならとことん付き合おう」
老人はそう言ってニヒルに笑ったが、ため息ばかりが出てくる。
「そんな度胸も趣味もないので遠慮します。で、死んだことはそうとして、こうして話すということはこのまま死んだ先には行けないということですね?」
「ああ。その他にも事があるのでここに留まってもらったが、君に対する謝罪をせねばなるまい。こんな言葉でも受け取ってほしい。
―――すまなかった」
「いいですよ。俺が怖かったのは、死んだ先は何も考えられない『無』しかないのか、それともってところだけでしたから。というかもう少し感情こめましょうよ」
「なかなかに面白いことを考える。普通、その年の頃はもっと楽しむものだとも思うがね。まぁ、感情の方は少しばかり難しいが」
それからはしばらくの間、二人は会話を続けた。内容はこれからの事について。これまでの不幸な人たちはこのままリセットされ輪廻に戻っていくか、記憶を持ったまま輪廻に入るというもの。
後者はいわゆる『転生』で元々居た世界とは違う法則がある世界に行くというものであり、生きたい世界があるのなら自分で選べるらしい。だが、前者と後者のどちらの場合も蘇ったとき、自分で選んだ特典を持つことができ、その特典の制限はその世界によって変わるが、神に匹敵するほどの力は選べず、地球全体規模の大災害程度が限界らしい。(十分だと思うが)
また、どんな能力であっても、神が思考を読み取り、その力を決定するとのこと。ちなみに、その力を使い世界の運行に危害を加える、もしくは世界を滅ぼそうとすると、この神とは関係なく『世界』自身からのペナルティがあるようだ。要約すると「この世界に入れてやったんだから勝手に暴れるな」とのこと。世界とて生きているのだから当たり前だとは神(老人)の談。
しばらく思考にふけり、出した答えは
「分かりました。『転生』にします」
「あいわかった。特典のほうはどうする?」
「『
「……アレとて神の一柱、神には近づけぬといったが?」
「いえ、fateというゲームに出てくる聖杯の泥と彼の英霊としてのスペック、加えて俺の考えた追加要素さえあればそれでいいです」
「ふむ、本当に変わった奴だ。今までにはない新しいタイプだよ。どれどれ?……ほう、これはまた面白い。まさに信仰を受けて力をつける神、いや畏れを形成し形作る妖怪のような存在が近しいか……。ふむ、承諾しよう。君はその道を歩むことに迷いはないな?」
「ええ、決して」
老人…いや、神はこちらの目を覗きこんできた。
その真っ直ぐな視線を、真正面から受け止める。
「…ならば送ろう。世界はどうする?」
「ランダムでお願いします」
そうか、といって神はあごひげを撫でた。
どこかしらおもしろげに笑うと。
「それらの願いは確かに受け取った。これは定型文だが君にも送っておこうか
―――次なる人生こそ君に多くの幸あらんことを―――
これから悪を背負わされる者に言うのも変なことだが、謝罪と一緒に受け取ってくれたまえ。
ではさらばだ。選んだ力とその特性ゆえに、一つどころの世界に留まることは難しい、かつ渡ると同時、その世界に囚われてしまうという奇妙な現象が起こるため、君の魂はもう輪廻に来ることも無いだろう」
そう言ったと同時、俺の内面には変化が訪れ、足元には底の見えぬ大穴があいた事に気づいた。これは……
「ああ、言い忘れていたがすでに力はついている。魂の進化とも劣化とも取れぬ異例ゆえ年齢の成長は打ち止められているだろうな。死にはするので気をつけるように」
「りょーかい。俺はオレとして楽しませてもらいますかね…ッ!?」
そう言い残し『悪』となり口調も魂も変わった青年は穴に落ちた瞬間、苦悶の表情を浮かべながらこの白の世界から姿を消した。
そこに残されたのは再び神が一人だけ。
「ふむ、中々に面白い。元々が背負わされたモノゆえに、人の負の感情を吸い取り、自らの力へと変え、泥へと還元する能力か。まぁ今回の峠を越えた後、あ奴の生きざまを覗いてみるのもよかろうて」
依然と終始変わらぬ口調で神はひとり呟いた。
ふと何かに気付いたようで、感慨深い表情から一変。初めのような無表情になり、姿勢を正し、ある方向を向いてその言を紡ぐ。
「よくぞここまできた。まあ、座るがいい」
これからも神は魂を導き続ける。それがこの神の役割であるのだから。
輪廻は終わらない。
さて、短めのお話なのは目をつむってください。
はじめまして皆様。これからこのサイトにお邪魔させていただきます。