二度目の人生は長生きしたいな   作:もけ

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続~11歳、粛清を回避するための提案

 対面するやいなやマチルダさんにマンツーマンで詰問される羽目になったモード大公とは自己紹介がまだでしたので、そちらを手早く済ませ、次いでシャジャルさんとティファニアの存在に気付いた経緯とアルビオンの国体を揺るがすような騒動は望んでいない事、それに対して協力関係を結びだい旨を説明します。

 

「本来なら2人の存在が露見した時点で命の危険があったからこそここに避難してきたわけだが、その相手、しかも水の精霊を味方に付けるような常識外れな相手の方から協力関係を申し出てもらえた事は我々にとって僥倖と言っていい。ただ……」

「何でしょう」

「君や君の家が家族の平穏のために動いているのは承知した。が、それだけでは釣り合いが取れん」

「釣り合い、ですか」

「うむ、まだ年若い君には分からないかもしれないが、秘密を共有する場合はそれ以外の所でも利害関係を結び結束を深める必要があるのだ。それが安心と信用に繋がる」

「共犯というだけでは足りないという事ですね」

「そうだ」

「では、大公様には何か腹案がおありですか」

「例えばだが、こういった場合は婚姻関係を結ぶのが一番手っ取り早い方法という事に昔から決まっているのだが」

「おじ様っ」

「落ち着け、マチルダ。公に出来ないティファニアではその役は難しく、マチルダはサウスゴータの跡取り娘ゆえに簡単には出せん。傘下の貴族の中から爵位の釣り合う娘を見繕っても良いが」

「いえ、それには及びません。と言いますか、できれば他の案をお願いします」

「ふむ、既にそういった相手がいるのかな」

「そうではありませんが、我が家の方針として結婚相手は自分で見つけて来るべしとありますので」

「ほほう、貴族の嫡男にしては珍しい事だ」

 

 家を継げない次男三男なら別ですが、確かに跡取りである長男に許嫁の一人もいないというのは珍しいと思います。

 

「我が家の輸出の主産業は嗜好品です。そのため不買運動などが起こらないように宮廷内の権力争いから距離を置いているのですが、その辺りに配慮すれば後は自由にしていいと言われています。先ほどの話は他国という事で影響は少ないのかもしれませんが、大公様は我が国の王ともご兄弟の関係にあるお方。非才の身では後にどんな波紋が広がるか見当も付きませんので」

「確かにそういった事情があっては仕方がないな」

「ご理解ありがとうございます」

「しかし、何も無しとはいかんぞ」

「おじ様、よろしいですか」

「何か考えがあるのか、マチルダ」

「はい。カミルが我が家に滞在している事は隠していませんので噂が広まるのは早いと思います。であれば、おじ様ではなくサウスゴータ家がアルテシウム家と関係を結ぶ方が自然な流れ。おじ様が動かれるのでなければカミルが懸念している影響も抑えられるのではないでしょうか」

「一理あるな。して、どうする」

「領地に港を持つオックスフォード家を巻き込んで、三家での経済流通協定を結びます」

「ふむ」

「一度、人・物・金の流れが出来てしまえば変えるのは容易ではありません。それにジュリア様の嫁ぎ先であるオックスフォード家を巻き込んだ事で、おじ様の影はより薄くなると思われます」

「カミル君、ワシは良い案だと思うがどうだね」

「確かに私にも悪い話には聞こえませんでしたが、事が領の経営に絡むとなれば決定権は両親にあります。なので申し訳ないですが相談してみない事にはなんともお答えできません」

「道理だな。では、今はその方向で話し合うとだけ決めておくとしよう」

「ありがとうございます」

 

 ふぅ~~、肩が凝る話でしたが、これで協力関係は結べたと見ていいでしょう。

 

 王族に連なる程の方だと、そうホイホイと相手を信じる事もできないとは実に大変そうです。

 

 などと気楽に構えている私ですが、貴族である以上、他人事ではないんですけどね。

 

 でもこれでやっと具体的な話に入れます。

 

「それではここからは、シャジャルさんとテファの身の隠し方についての提案に移りたいと思いますが、その前にシャジャルさん」

「はい、なんでしょう」

「先ほどテファには10月生まれと教えてもらいましたが、シャジャルさんは何月生まれでいらっしゃいますか」

「私ですか? 8月生まれですけど、それが何か」

「ではシャジャルさんには4ヶ月、テファには6ヶ月早い誕生日プレゼントを贈らせてください」

 

 手荷物からリボンをかけた小包を2つ取り出し2人の前に置きますが、しかし何かに感づいたシャジャルさんは受け取ろうとはせず、手を伸ばそうとしたテファの手もやんわりと止められてしまいます。

 

「シャジャル?」

 

 シャジャルさんは大公の声には応えず、包みから私に静かに視線を戻します。

 

「この包みの中からは精霊の力を感じます。マジックアイテムでしょうか」

「はい、そのマジックアイテムが今回の話の肝になります」

「先にどういったものか聞いても」

「もちろんです。形状はイヤリング。宝石の部分に水の精霊の力の結晶である水石を使い、見た目を変化させる変身魔法を付与した、ミツハさん特製のマジックアイテムです。その効果によってエルフの特徴とされる尖った耳を人間ものに変えてしまおうというのが、身を隠す方策の提案その1になります。ちなみにご存知かもしれませんが、この変身魔法は系統魔法のフェイスチェンジと違ってディテクトマジック、系統魔法の探査では見破れませんから、変えてしまえば後は安心して生活してもらえると思います」

「そうですか」

「やはり抵抗がありますか」

「ない、とは言えませんが、私たちの存在が主人やマチルダ、協力してくれている周りの方たちを危険にさらしているのは自覚しています。それに何よりこの子の身の安全には代えられません」

「お母様……」

 

 自分の手を包んでいる手に力が入った事で、気遣わしげに母親を見上げるテファ。

 

 シャジャルさんはそれに優しい微笑みで応える。

 

「カミルさん。プレゼント、有り難く頂戴します。待たせてごめんなさいね。テファも、もういいわよ」

「はい♪ カミル、プレゼントありがとう。開けてもいい?」

「はい、どうぞ」

 

 さて、このイヤリングですが金属部分はプラチナのような地金を使っていて、下に丸みのある雫型の水石をぶら下げるというシンプルかつベターなデザインをしていますが、目を引くのはその水石の色。

 

 それはサファイアでは最上級とされるコーンフラワーブルーと似ていて、矢車菊の青と呼ばれる深い色合いに加え、その透明度の高い輝きは海の煌めきを想起させます。

 

 まだお子様なテファは天真爛漫を絵に描いたように「キレー♪」と目を輝かせてハシャいでいますが、大人の女性陣からはとろけるような艶っぽい吐息に混じって感嘆の声が漏れ、大公はその予想される価値に眉を寄せて短い呻き声をあげています。

 

 そもそも水石自体が滅多に産出されない稀少鉱石ですし、ミツハさんお手製ゆえの高純度、さらにマジックアイテムという事を加味すると値段はつかないでしょうね。

 

 いわゆる非売品、国宝級というやつです。

 

 実際に作る前にイヤリング以外にもいくつか候補はあったのですが、パーティードレスには合わないだろうという理由でブレスレットや腕輪の類は早々に却下。

 

 耳繋がりでピアスも考えましたが、自然と共に生きるエルフに、体に穴を開けるという行為は抵抗があるだろうとこれも却下。

 

 見目麗しい女性に高価な貴金属では襲ってくださいと言っているようなものなので、防犯対策として人目に付きやすい指輪も却下。

 

 最終的にネックレスとどちらにするか迷いましたが、ドレスとの兼ね合いでより影響の少ない方という事でイヤリングに決定しました。

 

 服の下に隠せるというネックレスの利点は惜しいですが、イヤリングも髪を下ろしてしまえば目立たなくなりますから、その辺は妥協しました。

 

 ちなみにこのイヤリング、落下防止措置として一度身に着けるとミツハさんに頼まない限り外せなくなる仕様です。

 

 そこだけ聞くと呪いのアイテムみたいですが、いきなり変身が解けるのも、落として無くしてしまうのも問題なので当然の処置だと思います。

 

 さて、女性陣が鑑賞に満足した所で実際に装着してもらい、耳だけが人間サイズに変化するのを確かめます。

 

 取り外しができるのはミツハさんがいる間だけですから、今のうちに納得いくまで鏡の前で位置を調整してもらいます。

 

 お洒落に関して女性は個々人でこだわりを持っていますからね。

 

 男性にとってはどっちでもいいような些細な違いでも、意見を求められたら必ず答えるようにしておかないと機嫌を損ねる事態になってしまうので注意が必要です。

 

 ちなみに大公は、シャジャルさんがマチルダさんと話し合って決めた結果に頷くだけで済みました。

 

 運の良い事です。

 

 テファは母親任せでしたが、それも含めて母親とお揃いなのが嬉しかったのか、ご機嫌な笑みを浮かべています。

 

「それでは身を隠す方策の提案その2に移らせていただきます」

 

 緊張感はもはやありませんが、浮ついた空気が少し落ち着きます。

 

「今のシャジャルさんとテファは外見上完全に人間ですから、今までの様に人目を避けて引きこもる必要はもうありません。しかし、今まで執拗に隠してきた存在がいきなり出てきては無用な混乱を引き起こしかねません。ですから痛くもない腹を探られないためにも大公様にはお屋敷の使用人に対して、シャジャルさん親子を王室に連なる貴族ゆえの世間体から隠してきた平民の妻と実子であると説明していただきたいと思います」

「それは望む所だが、正妻として迎えろという事か」

「いえ、それは周りが許さないでしょうから、後継ぎに関しては別に正妻を迎えるか、養子を取る事をお勧めします」

「養子か……」

 

 その様子だと、大公の気持ちの中ではシャジャルさんが正妻なんですね。

 

「せっかくシャジャルさん達が大手を振って歩けるようになったのですから、政務については養子の方に丸投げして、今まで取れなかった家族の時間を大切にされてみるのも良いと思います」

「それも提案か」

「いえ、これは子供の視点から見た個人的意見。と言いますか、お願いですね」

「そうか……うむ、考えておこう」

「ありがとうございます」

 

 大貴族になればなるほど家族で過ごす時間は減っていくものです。

 

 基本的に子育てはメイドや家庭教師が行い、王族ともなれば親子といえど気軽に会う事さえ叶いません。

 

 それが間違っていると否定するつもりはありませんが、必要にかられず、なおかつ他に優先しなければならない事がないのなら、出来れば家族を省みて欲しいと思ってしまいます。

 

「次の提案その3ですが、その前にお聞きしたい事があります。シャジャルさんとテファは魔法を使うための杖を持っていらっしゃいますか」

「私は持っていませんが。テファ」

「これ、ですよね」

 

 予想通りの答えですね。

 

 しかし意外そうにしなければいけません。

 

「質問しておいて何ですが、なぜエルフであるテファが杖を? 偽装するなら2人とも持っていそうなものですが」

「偽装ではありません。精霊の力を行使する私に杖は不要ですが、テファは人間の血が入っているせいか精霊の姿を見る事も声を聞く事も出来ませんでした。ならば人間の使う系統魔法を使えるのではと杖を持たせました」

「使えたのですか」

「それが、よく分からないのです。いえ、全く使えないというわけではないのですが、なぜか魔法を唱えるとどんな魔法でも爆発を起こしてしまって……。原因は分かっていません。それでも自衛のためには使えるだろうと割り切ったのですが、本人は誰かを傷付けるのは嫌だと言っていて」

「ごめんなさい、お母様」

「いいのよ、テファ。あなたが優しい子で母さんは嬉しいわ」

「お母様……」

 

 テファの他者に対して優しい姿勢は生まれつきみたいですね。

 

 傷付けない魔法、忘却の虚無ですか。

 

「分かりました。ありがとうございます。それではまずシャジャルさんですが、万一のために杖を持つ習慣を付けてもらい、系統魔法のルーンを覚えてもらいたいと思います。杖さえ持っていれば平民は騙せますが、メイジに対してはルーンを唱えてみせないと誤魔化せませんから」

 

 いくら耳を隠しても先住魔法を偽装なしで使ってしまえば、エルフとは特定されなくても亜人という事はバレてしまいます。

 

「精霊の力の行使をやめる。と言えらたいいのですが、万一には備えないといけませんね」

「最初は慣れないとは思いますが頑張ってください。それでテファについてですけど」

「私?」

「はい、テファは爆発魔法以外の魔法を使えるようになりたいと思いますか」

「えっと……」

 

 落ち着かない様子で両親やマチルダさんの顔を伺っては、視線で自分で決めなさいと促され、目をぐるぐるさせながら一生懸命に考えるテファ。

 

 幼いテファの挙動は全てが愛くるしく、見ていて微笑ましい気持ちになれますね。

 

「あの、カミル」

「ん、なんですか」

「どんな魔法が使えるようになるかって分かる?」

「ある程度なら。聞きますか」

「うん、教えて」

「まず私が知る限り攻撃魔法は一つしかありません。エクスプロージョンという魔法なんですが、これは使い手次第で凶悪にも優しいものにも変わる魔法です」

「優しい攻撃魔法?」

「そう、爆風で二次被害が出る事もあるかもしれないけど、基本的にこの魔法は爆発させたい物だけを爆発させる魔法です。例えば、今テファの前にナイフを持った盗賊がいるとします」

「う、うん」

「エクスプロージョンを上手く使えば、ナイフだけや着ている服だけ、髪の毛だけなんて感じで怪我させる事なく爆破できるそうです」

「髪の毛だけって、ふふふ」

「ね、優しい魔法でしょ」

「うん、そう思う」

 

 なるべくネガティブなイメージを持って欲しくないので、嘘はつきませんが、テファの性格に合った使い方を強調させてもらいます。

 

「次も使う人次第で良くも悪くもなる魔法で、相手の記憶の好きな部分を消せる忘却の魔法。さっきの盗賊の場合で説明すると、悪い事をしようと思った記憶を消してから『あなたは道に迷ったんですよ~』『家に帰る途中だったんですよ~』と囁くと、あら不思議。平和的にお帰りいただけるという寸法です」

「ふふ、面白い」

「でも、この魔法の真骨頂は別にあります。それは心のお医者さんになれること」

「心のお医者さん?」

「そう、夜も眠れない程の怖い体験や、ご飯も食べられなくなってしまう悲しい体験。普通だったら自分の力で乗り越える事なんでしょうけれど、みんながみんな強いわけではないように、挫けて動けなくなってしまう人は必ずいます。そんな人に優しく手を差し伸べる事ができるのがこの魔法です」

「怖かったり悲しかったりする記憶を消してあげるのね」

「正解」

 

 トラウマや自殺を選ぶ程の辛い体験を苦しみながら多大な時間と労力をかけて克服するくらいなら、スッパリと消してしまった方が優しくもあり効率的だと思います。

 

「後は便利な魔法ですね。早く動ける魔法や、もっと遠くまで一瞬で移動できる魔法。物に宿った記憶を覗ける魔法に、自分のイメージした通りの幻を映し出す魔法。魔法を打ち消す魔法なんてのもあったはずです」

 

 異世界に行ける魔法についてはルイズ嬢が自分の力と想いで見つけた方が良さそうなので、ここでは黙っておきましょう。

 

「そ、そんなにいっぱいあるの?」

「私が知っているのはこれくらいですけれど、きっと本当はもっと沢山ありますよ」

 

 原作で出て来たのは中級まででしたからね。

 

 上級には物騒ないわくつきの魔法『生命』しかないというオチもあるかもしれませんが……。

 

「そ、そうなんだ」

「どうです、使ってみたくなりましたか」

「えっと、うん、そうね。今の爆発するだけの危ない魔法よりずっと良いと思うの」

 

 それは良かった。

 

 頑張って説明した甲斐があるというものです。

 

「カミル、ちょっといいかしら」

「どうしました、マチルダさん」

「えっと疑うわけではないのだけれど、聞いた事ない魔法ばかりで正直ちょっと信じられないというか……」

「それはそうですよ。これらは失われた系統の魔法なんですから」

「それって……まさかっ」

「そうです。テファの系統は虚無ですよ」

「なぜ、そう断言できる」

 

 困惑から驚きに変わったマチルダさんの反応とは対局的に大公は冷静のようですね。

 

 年の功でしょうか。

 

「逆にお聞きしますが、アルビオンには虚無に関する文献や口伝は残っていないのですか」

「ない。とは断言できんが、少なくともワシは知らん」

「ロマリアには虚無を専門に研究している部署がありますが、ご存知ですか」

「いや、知らぬ。が、考えてみれば確かにロマリアが始祖ブリミルの御業について調べていないわけがないな」

「場違いな工芸品という言葉はどうです」

「それならば聞いた事がある」

「聖地のあるとされるサハラから発見される事が多いそうですが、ロマリアはこれも独自の部署を設け集めているそうです。これも虚無に関係する物だとか。ちなみに横流し品が裏のルートで出回る事もあるそうですよ」

「ほぅ、カミルは博識なのだな」

「あ、いえ、訳知り顔で語ってはいますが、これらはブリミル教の神官に袖の下を掴ませれば意外と簡単に集まる情報なのでお恥ずかしい限りです」

「いや、そうだとしても見識を広めようとしたカミルの行為は褒められて然るべきものだ。現に役に立っているわけだしな。卑下する事はない」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて後少し情報を開示させていただきます。虚無に目覚めるメイジは始祖ブリミルの直系の子孫である3王家の血筋に限定されています。ロマリアについてはその辺りが謎ですが、それについては今は別にいいでしょう。次に虚無のメイジを見分けるコツですが、これは普通の系統魔法が爆発してしまうことです。一目瞭然ですし、目印としては悪くないと思います。最後に虚無に覚醒するための方法ですが、王家に伝わる秘宝を同じく王家に伝わる指輪をはめて触れる事で覚醒するそうです」

「王家に伝わる秘宝と指輪というのは『始祖のオルゴール』と『風のルビー』の事だな」

「はい、トリステインだと『始祖の祈祷書』と『水のルビー』ですね」

 

 感心して何度も頷いている大公に、情報を処理しきれず混乱に拍車がかかっているマチルダさん、自分が使えるという魔法に思いを馳せるテファ、そして……。

 

「シャジャルさん」

「なんでしょう、カミルさん」

 

 何とも形容しがたい複雑な表情をしていらっしゃいますね。

 

 エルフとして、親として、その葛藤は相当なものなのでしょう。

 

 それを分かっていながら卑怯でも私は貴女にこうお願いします。

 

「テファを、貴女と貴女の愛した人との間に出来た娘を信じてあげてください」

「あなたはそれも知っているのですね」

 

 エルフにとって虚無の魔法は悪魔の力。

 

 『4つの悪魔が揃いし時、真の悪魔は目覚め、大災厄をもたらす』という予言もあります。

 

「自分の安全より相手を傷つける事を厭う心優しい貴女たちの娘なら、むしろ大災厄の抑止力になってくれると思いませんか」

 

 娘という事を強調して親としての良心に訴えかけます。

 

 せっかく粛清される未来を変えようというのです。

 

 どうせなら家族仲も良好でいて欲しいと思うのは、決して欲張りではないと思います。

 

「そう、ね。そうですね。ありがとうございます、カミルさん。私は何を迷っていたのでしょう。親が子を信じられなくてどうすると言うのです。この子にどんな力があろうと、それは優しい力になると信じます」

 

 そう言ってテファの頭を優しい手つきで撫でるシャジャルさんの表情は、慈愛に満ちていながらもどこか力強さを感じさせるもので、自然と『母強し』といった言葉が浮かんできます。

 

 そんな妻の肩に手を置き、頷いてみせる大公。

 

 事情は半分も分かっていないでしょうに、それを飲み込んだ上でなお相手を包み込める度量の深さ。

 

 そんな両親を見上げ嬉しそうにしているテファ。

 

 一枚の絵画のようなその光景に、マチルダさんも一息つけたようです。

 

 これなら色々と大丈夫そうですね。

 

 それから虚無に覚醒させずに魔法から遠ざけるか、覚醒すればコモンマジックも使えるようになる事から爆発云々の条件を欺きつつ自衛手段を得るか話し合い、後は……。

 

「最後に使い魔の情報ですが、虚無のメイジの使い魔は人間が喚ばれます。つまりそれだけで虚無だとバレてしまいますので、喚ぶ時、喚んだ後は情報の秘匿に気を付けてください」

「人が使い魔として喚ばれるのか」

「はい、基本は普通の使い魔召喚と同じく運命の相手が自動で喚ばれるそうですが、特定の人物を強く願うと喚べるという話もあります」

 

 原作での二度目のルイズとテファがそれですね。

 

「私の使い魔……」

 

 さて、再度妄想空間に突入してしまったテファですが、どんな人を喚ぶのか気になりますね。

 

 世界の修正力とかそんな感じで、ランダムでサイト少年を引き当てるならルイズ嬢と競争なんて事態になったりならなかったり……。

 

 特定の誰かなら、やはり大好きなお姉さんのマチルダさんでしょうか。

 

 粛清の回避が上手くいけば土くれのフーケにはなる事もないと思いますが、土のトライアングルになれる素質は変わらないので護衛としての力量には申し分ないです。

 

 使い魔のルーンですが、ジョセフ王より先に喚んだらミョズニトニルンになったりしませんかね。

 

 巨大ゴーレムにマジックアイテムの知識、加わえてシャジャルさんの協力があれば、ヨルムンガンドを越えるのも夢ではありません。

 

 見てみたいですね、ゴーレム無双。

 

 さて私も妄想はそのくらいにして、万が一にもバレてしまった際の緊急対策マニュアルの作成を提案して、長かった今回の話し合いを締め括るとしましょう。

 

 さすがに疲れました。

 




これで姉ジュリアの平穏を守るための工作の半分が終了しました。
もう半分は……もっと短く書けるといいな。

テファを虚無に覚醒するように仕向けたのは、ロマリアに目を付けられた際に抵抗するためです。
最悪、エルフ+虚無+土のトライアングルなら逃げ切れるでしょう。
原作では謎のままだったリーヴスラシルの能力どうしましょうかね。
魔法の器に適した能力……なんだろうな。

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