ずっと胞子でいると余計にしんどいから、みんながいない時はシズネさんに変化して、シズネさんの影分身として通すことにしたよ。
あと、結局母さんは真ん中のあたりに行くみたいだね。僕たちは予定通り最後方だけど。
後ろから敵が来た場合は戦わないといけないけど、あまりそういうことはないんだよね。
白眼の人がいて、敵を見逃さないから。
でも、物資を運んだり丸薬作ったりご飯を作ったりはするから、暇ではないんだよ。
他に比べれば緊張感はゆるめで、楽だけど。
「医療班、来い!」
「はい!」
こうやって呼ばれると、ちょっとだけ出向くんだ。
安全な範囲でね。
そして、一仕事終えると再び後方へと戻る。
ちょっとだけ休憩時間をくれる。
「今日はケガ人が少ないね。母さんがいるからなのかな」
2人でゴロンと寝転がって、たわいない会話を交えたりする。
「そうかもしれないね」
「ちょっと見てこようか。霊化の術で」
「やめときなさい。チャクラがもったいない。必要な情報はカツユが教えてくれるはずよ」
「それもそうだね」
なんて感じでぽけーっとして、体も心も休ませる。
しばらくすると「休憩時間は終わり」なんて言われる。
「今から陣を少し前に移動させる。持てるだけもって移動しろ。ただし、いつ襲われても対処できるようにな」
「はい」
母さんがいたら1人でいっぱい持ってくれるんだけどね。
僕やシズネさんはふつうだね。
そうして一日が終わる。
体力にはかなり自信があったけど、さすがに疲れたよ。肉体的にも、精神的にも。
移動も大変だったし、治療も大変だった。それに、なんだかんだ言って怖いからね。近くの草木がざわめいただけで、ビクッとなっちゃうくらいに。
まあ僕には創造再生があるから、戦闘で死ぬことはないと思うけどさ。幻術にかかったら術自体が使えなくなるけどね。そこは注意だね。
次の日。
起きてすぐに、ちょっとした騒ぎになっていることに気が付く。
「おい、綱手様を見かけなかったか?」
「カカシにリンに、ヒノキもだ。どこにもいない。連絡も取れない」
母さん達がいなくなったらしい。何かあったのだろうか。
「シズネさん、起きていますか?」
と、隣で寝ている相手に話しかける。
「うん。今起きた。綱手さん達がいなくなったってのも聞こえた」
「理由を知っていますか?」
「いや、知らない」
シズネさんも知らないのか。
なら、カツユなら。
「カツユ、カツユ」
返事はない。寝ているようだ。
くすぐってみる。やはり反応がない。
うーんと悩んでいると、近くから「シズネと一緒にいるのかもしれない。どこだ?」「ああ、あそこのテントの中だ」なんて声が聞こえてきた。
「シズネ、入るぞ」
「どうぞ」
おっさんが2人入ってくる。
「綱手様の場所を知っているか?」
「知りません」
「何か聞いてないか?」
「何も聞いてません」
その返事にがくんと肩を降ろす。
「どうするんだ? この大事な時に」
「いないなら、それで作戦を組み直すしかないな」
「本気か」
「そうせざるをえない」
彼等はいっそう苦い顔になる。
「まさか、連れ攫われたのだろうか」なんて言っている。
僕も不安になってきた。でも、カツユがまだここにいるということは、少なくとも意識ははっきりしていると思う。カツユが起きたらすぐに尋ねてみよう。
というか、母さんの近くには僕の木遁分身がいるはずだ。それも2体も。なら、彼らに連絡を取ればいい。
僕はテントから出て、近くにあった大きめの木へと歩を進める。
その幹に触れてから、目をつぶり、集中する。
僕の木遁分身が木に触れていれば、すぐに居場所を特定できる。この森にいたらだけどね。
……いないようだ。
ならば次は、分身を解除……、はまだやめておこう。先に霊化の術で見回りしてみよう。
土遁で地中に潜る。
そこに本体を隠して、生霊となって周りを探しに行ってみる。
「シズネさん、頼みました」
「うん」
本体はシズネさんに任せておく。
カツユもいるけどね。
「霊化の術」
さあ、探しに行こうか。
連れ去られた可能性を考えると、まず一番は水の国の国境沿いを調べてみた方がいい。
だからそこへと飛んでみる。
あんまり飛ばすとチャクラがすぐになくなっちゃうから、そこそこの速さで。
上空から遠くを見渡す。
川を挟んだ森の向こう側で、じわじわと霧が濃くなっているのが分かる。
というか、一カ所明らかに濃い場所がある。怪しい。
あそこに行ってみよう。
霊体化した僕は、生身ではありえないスピードでスイスイと進んでいく。
チャクラがけっこう減っている。今日の治療は地獄だな。
額に溜めているチャクラを使っちゃおうか。もしくは、敵から吸い取るか。いや、それは戦うことを意味するからね。やめておこう。
霧は本当に深く、5メートル先も見えない状態だった。
あちこち飛び回るが、見つかる気がしない。チャクラだけが減っていく。
「はあ」
と、霊体のままため息をつく。
場所を変えよう。
そう思った時だった。
「……なんだ、これは」
生命力、とてつもない生命力を感じる。
僕の力に似ているけど、自分のものだとは思えない。
いや、改めて考えるとやっぱり僕の生命力、チャクラだ。質がそっくりだ。
たぶん僕の分身体が、誰かのチャクラを奪ったのだろう。それも何十人も。ひょっとしたら百いってるかも。
一体何が起こってるんだ。
急いで気配のした場所へと飛ぶ。
ぼやけた視界に、何か巨大なものが映ってくる。少し影も差す。
目の前に現れたものは、大きな竜の顔。
「うわっ、でかっ」
驚いた。霊体なのにビクついてしまった。
だけど、よく見ると木でできた竜だ。これは僕の術で生み出した木龍だろう。
「ってか、どんだけチャクラ込めてんだよ」
顔だけで僕の3倍くらいある。長さはたぶん100メートルを超える。
己の分身体の規格外っぷりに、自分で驚いてしまう。
それに、こんな術を使わなくてはいけない相手って、いったい何者なんだ。
たいていのやつなら挿し木の術で十分なのに。
とにもかくにも、この近くに僕の分身たちがいるはずだ。
「ぎゃあああ」「ガハッ」「血霧の里を舐めるな!」なんて敵方の声も聞こえてくる。
「クソッ、穢土転生か」
「二代目火影、卑劣な男の術だな」
「己の先祖の屍を操るなどと、なんたる畜生か」
「初代火影、朽ちてなお我らを阻むと言うのか」
あれ?
なんか話がおかしい気がする。
「じいちゃん。今度もどでかいのを頼むぜ」
今度は母さんの声だ。やっぱりここにいたんだ。
というか、じいちゃん? 初代火影様のこと?
「任せろ」
って、僕の声じゃん。
……うん。でも実は、そういう話をされたこともあるんだよね。
「木遁が使えるとバレそうになったら、変化の術で化けて初代火影だと言い張れ」ってさ。
穢土転生って術で死者を口寄せできるらしいから、ともすればごまかせるんだとさ。
でも、声が高いよね。知らないとは言え、もうちょっと工夫できたんじゃないかな。
「クソッ! せめて女だけでも回収するんだ!」
「貴重な実験体だ。敵の手にわたすな」
「しかし、あんな巨竜にグルグル巻きにされては……」
「泣き言を言うな!」
「はいっ」
敵さんはいっぱいいるようで、多くの声が聞こえてくる。
でも、女を回収とか実験体とか、何のことだろう。
それに、そいつが竜に巻かれているみたいだ。気になる。
木龍をじっくりと見回してみる。
「うわっ」
いる。なんかすっごいのがいる。
気味が悪いくらいドス黒いチャクラを出してる。量がはんぱない。チャクラの塊みたいだ。
僕の木龍がこんなにでかくなったのは、こいつが原因か。
「はーーーはっはっは! 蹴散らせ! 我が木龍よ!」
誰だよお前。
声が高いんだよ。カッコついて無いんだよ。
でも、威力はすごい。
木龍が暴れると風で霧が晴れる。音も破壊力もすさまじい。
すぐ後には「ぎゃああ」「うわあっ」「ぐふっ」なんて感じで、10以上の叫び声も聞こえてくる。
「クソッ。今ので何人やられ……うわっ」
「この巨体では、霧に隠れてもさしたる意味が……ちょっ、待っ」
「バカが! やつらの近くで声を出すな! 場所が知れる! 綱手もいるんだぞ!」
すごい戦闘だ。僕の演技のせいでいろいろと台無しだけど。
でも、とりあえず場所は分かったよ。戻って報告してみよう。