ミナトを観察していて分かったことがある。
やつは強い。それも、この里では一番。完全に想定外の水準だった。
飛来神の術とやらが特にやばい。マーキングした場所へと瞬間移動できるらしい。
僕も生霊状態ではスピードに自信があったけど、それでも瞬間とは行かない。瞬間に対抗できるものは瞬間しかない。
まあ生霊は、見えないって利点もあるんだけどね。
だけど、やつは霊体の僕に気付いている節さえある。白眼を持っているわけでもないのに。どうなってんの。
悩みが1つできたところで、実はもう1つ悩みは増えていた。
「おいヒノキ。お前、実力を隠しているだろう」
同い年のうみのイルカって男が、僕のことを勘ぐり始めたんだ。
「ひょっとしたら、素直になれないのかもしれないね。忍びの性ってやつで」
「何わけのわからないことを言ってるんだ。俺はごまかされないぞ」
彼はキッとにらんで、顔を寄せてくる。
僕は小さく苦笑いする。
「なぜ隠す。みんな真剣にやってるんだぞ。失礼だと思わないのか」
「忍びの礼儀作法の中に、隠すってのがあるから。なのかもしれないね」
僕はこのように、わざとよく分からない言い方で返すことにしている。
肯定しても否定してもヒントになってしまう気がするから。
「授業中に寝ているのもそうだ。なぜ真面目に授業を受けない。今が大変な時期だって分かってるんだろう?」
「そうだね。みんな真剣にがんばっているから、自分だけ寝ると目立っちゃうね」
「じゃあ寝るなよな」
「そうだね。僕もそうした方がいいと思う」
「じゃあ寝るな!」
「がんばってみるよ」
イルカはさらにいら立ちを露わにする。「口先ばっかり」なんて言って地団太踏む。
が、実際には僕は寝ていない。生霊となって各種情報を集めているだけだ。
だいいち、学校で習うことなんてとうの昔に母さんやシズネさんに教えてもらっている。寝ていてもなんら問題はないのだ。
ちなみにだけど、この子は僕を勘ぐっていて鬱陶しいけど、悪い子じゃない。
僕に「真面目になれ」と言っているのは正義感からだろう。それに、こうやって叱責する時は、いつも誰もいない場所でしてくる。僕の悪いうわさが広まらないようにと気を遣ってくれているのだろう。
だけど、今日も今日とて僕は里を回る。生霊となって。
そんな感じで大した進展もなく生きていると、僕は8歳になった。
シズネさんは中忍になった。カカシに至ってはもうすぐ上忍になるらしい。
僕は「そろそろアカデミーを卒業してもいいのでは?」的な目で見られることも多くなった。確実にいろいろとバレてきている。必要に駆られるとついつい力を出しちゃうから。特に医療とか命が関わってくると。
母さんが医療のスペシャリストなだけあって、僕も医療忍術はそこそこ使えるんだ。命が危ない人の治療をしたこともある。それで、その時のチャクラ量とかコントロールのうまさとかを鑑みて、戦闘能力を推し量られていると思う。「既に中忍の域に達しているのではないか」と邪推してくる人すらいる。正解だけどね。
でも、前線に送り込まれることはないと思う。医療忍者は基本的に後方支援だから。それに僕はまだ若いしね。血筋もいいしね。死なぬように手配してくれるはず。
の前に、アカデミーを卒業しないで済むように足掻くけどね。戦争が終わるまでは。
それと、1年くらい前から、リンさんが家に来るようになった。ミナトの班にいる中忍の女の子で、シズネさんと同い年で、両のほっぺたになんか貼っているのはらリンさんがね。
理由は修行のため。僕とシズネさんとリンさんの3人で、母さんに忍術を教わっている。僕とシズネさんは親子の延長線上みたいな感じだけど、リンさんは弟子って感じだね。一応は僕の弟分ってやつだと思う。全然うやまれていないけどね。
それがよく分かるのが、僕を除け者にしてやっている恋バナ。
誰それがかっこいいとかなんとか。最近はカカシの上忍昇格祝いとか言って、そのプレゼントの話に夢中になっている。
「もう何回目になるか分からないけど、医療パックには何を入れるのがいいかな」
「単に高価なものを詰め込むんじゃなくて、愛情込めて術式を書き込んでおくのがいいと思うわ。時間がかかるかもしれないけど、それだけ愛情の深さがにじみ出ると思う」
「だが、あいつはにぶいからなあ。気付かないかもしれないぞ」
「それはそうですね。でも、そんなところも、かっこいい」
「きゃはははは」なんて言っている。あまり気分のいいものではない。
惚気んなと言いたい。言わないが。
「リンさん、オビトは?」
ふと、少し気になったので聞いてみる。
「何? 急に」
「いや、オビトと仲よさそうだけど、何もないのかなあって思ってさ」
「ははは。ないない。あいつはそういうやつじゃないって」
「はははは」なんて笑っている。
残念だったね、オビト。
実は僕は、オビトに同盟を持ちかけられたことがあるんだ。「俺がクシナさんの情報を集めるから、お前はリンの情報を集めろ」なんて言って。
もちろん断ったけどね。だって僕の知らないハバネロの情報を、彼に集めることができるとは思わなかったから。
でも、ちょっと気になるから、リンさんの情報の方は集めちゃってるんだよね。それで勝手に笑わせてもらってる。
だけど、分かっていたけど、戦争ってのは悲しいものだ。
ある日家に帰ると、リンさんが母さんの胸の中で泣いていた。カカシが上忍になって初めての任務で、オビトが死んでしまったらしい。
今までにも何人も知り合いが死んできたし、残された遺族の涙も見てきたけど、彼みたいな明るい人の死は初めてかもしれない。
何かむなしい。こんなことなら、知り合いになるんじゃなかったと思ってしまう。
でも、父さんやおじさんが死んでしまった時の母さんの悲しみは、こんなものじゃなかったのだろう。それこそ、今もすすり泣いているリンさんのように、嗚咽を交えて嘆き苦しんでいたのかもしれない。
僕はやっぱり、こんなのは嫌だ。泣くのも、泣かれるのも嫌だ。
じゃあどうすればいいって考えると、やっぱり母さんの言っていることを守ればいいのだと思う。安全なことしかしない。死んでしまいそうな人とは関わらない。それに尽きると思う。
だけどもう関わってしまったから、母さんとシズネさんとハバネロ、それにリンさんはがんばって守ろうと思う。ミナトはほっといてもいいよね。男だし、ライバルだから。