「きゃー、ミナトさーん」なんて黄色い声が飛び交うその場で、僕たちは変化の術で女性になって時機を見計らう。
そして、ミナトが最も接近したその瞬間、ピタッと声が止む。作戦開始だ。
「何これっ。影縛り? って、う、うぐ」
「木遁・黙殺縛り」
「土遁・土流壁」
僕がクシナさんを縛った後、いのいちさんが眠り粉を嗅がせ、油目なんとかさんが土の壁を作る。
「では、達者でな」
「はい」
返事をしてすぐにクシナさんを担いで駆ける。
後方からは物が壊れる音も聞こえてくる。乗っておいてなんだけど、あまり怪我をするような戦闘はしない方がいいと思う。「心せよ、日向は木の葉にて最強!」とか聞こえてくるし、けっこう心配になってきた。
移動中は何度も叫び声が聞こえてきた。泣きそうになった。
緊張しっぱなしで、やっとの思いで神社の手前の広場に到着した。
2人の忍びが待ち構えていた。やはりキツネの面をしている。なんとなくだけど、自来也と母さんだと思う。背の高さとか胸とかを見るに。
「ここでミナトを迎えうつ。卑怯だと言われようが関係ない。3体1で、全力で叩きのめす」
自来也らしき男が言う。声も自来也のものだったし、決まりだね。
なんて思っていると、自来也がガマを口寄せし「クシナはこやつの上に乗せろ」と言ってきた。
僕はそれに従って、グルグル巻きのクシナさんをガマの背に乗せる。
それからチャクラを練り始める。
「木分身の術」
分身体を3つ出す。
土遁で僕自身は地中に潜る。頃合いを見て、霊化の術でミナトを狙ってやるのだ。
「来たぞ! やつだ!」
と、自来也が緊張感たっぷりに叫ぶ。
「なんですか先生? この茶番は」
声も聞こえてきた。今だ。
「霊化の術」
地中で印を結び、生霊となる。
「誰のことを言っているのかは知らんが、わしは先生ではない。それよりも、クシナを返してほしくば力づくで奪ってみるのだな」
会話している間にも分身達に印を結ばせていく。
油断している今がチャンスだ。いきなり全力全開でいく。
「行け! 木龍!」
声と共に分身達から3体の木龍が飛び出す。
顔の大きさは1メートルくらいのものだ。
「っ!」
と、ミナトは少し驚いた風に後ろに飛びながらクナイを投げる。
分かっている。もうすぐ飛来神の術でどれかのクナイに飛ぶのだろう。なら僕は、クナイ全てを木龍で攻撃してやる。いや、それでも何カ所かは残るだろう。が、それはそれでかまわない。
「来た!」
ほらね。残ったクナイにミナトが飛んでくるから、狙いが定まって都合がいいんだ。
生霊の僕は先回りしている。そのまま後ろから押して、バランスを崩させてみる。
「うおっ」
成功だ。あとは僕の木分身が。
「八卦空掌!」
攻撃に転じようとしたところで、吹き飛ばされてしまった。
そのまま分身は解除されてしまう。
「ありがとうございます。ヒアシさん」
「気にするな。しかし、今のは木分身だな。ヒノキか。土中からのチャクラの流れも見える。霊化の術で浮いてるぞ」
うわっ。霊化の術までバレた。
もうダメだ。
「よそ見していていいのか?」
「うわっ。って、螺旋丸じゃないですか。当たったらケガじゃ済みませんよ」
「私もいるぞ。桜花衝」
「白眼に死角はない。八卦掌回天」
急いで地中の本体に戻ると、ものすごい地響きが襲ってきた。
もう怖い。戦意は失せた。帰りたい。
僕は土遁でさらに地中深くに逃げることを決心した。
どれほど時間が経っただろうか。
地中で息をひそめていると、地響きがしなくなった。
そろそろ土から出ようと思う。出て、ミナトかヒアシさんに出会ったら即土下座しようと思う。
恐る恐る地表寸前まで移動する。あとはもう出るだけだ。
「1、2、の3」
素早く出て周りを確認する。
半径10メートルほどのクレーターの中心には、ボロボロになって握手を交わすヒアシさんと母さんがいる。
その半ばほどには大の字になって倒れている自来也もいる。
そして、ミナトはクシナさんを抱いて、僕が出した木を引きはがしている。
うん。やっぱりこうなったか。
多少なりとも対戦できたし、もう悔いはないかな。いや、それもないけど、諦める気にはなったと思う。なんとなく、負けを認めているから。
「ミナト、助けに来てくれたの?」
「うん、まあね」
「思えば、あの時もこうして。そして、あの時から」
「僕も覚えているよ。雲隠れの忍びに連れ去られた時だろう?」
「そう、ミナト。私は、あの時からずっと、あなたのことが好きだった」
「僕もさ。いや、僕はそれよりも前からきみのことが好きだった」
「ふふっ。ミナト、私と結婚してほしいの」
「ああいいさ。結婚しよう」
遠くだからよく聞こえないが、たぶんそんな感じの会話をしていると思う。
2人ともすごく顔が赤い。
「さあ! 新たな火影の、初めての仕事じゃ! 皆の者、精いっぱい祝うのじゃ!」
と、隣にいるガマから火影様の声が。
そう言えば、自来也が気絶しているのにこっちに留まったままだったね。ということは、口寄せしたガマじゃなかったんだね。火影様の変化だったんだね。
ぼふん。と煙が出てガマは姿を変える。
やっぱり火影様だった。いや、もう元って付けるべきなのかな。
それから、その声を合図にわあっと人が出てきた。
四方八方から老若男女問わず。
多くの「おめでとう」という声と共に、拍手も聞こえてくる。「ミナトさま……」「僕のハバネロが……」「あの跳ねっかえり娘がねえ」なんて声も聞こえてくる。
たぶん今から結婚式が始まるのだろう。すぐそばは神社だしね。
というか、大蛇丸さんも火影に立候補していたと思うけど、完全に無視なんだね。まあ危ない人だからしょうがないか。