本編のキャラもこの作品のキャラも何も出て来ません。
4話構成で、残りの3話は5/11の14、18、22時に投稿。
多分後々、これだけはpixivにも投げると思う。 <=しました。
「ラクーンシティに拡散するウィルスの封じ込めは不可能と判断しました。
10月1日に巡航ミサイルでラクーンシティを爆破します。
未感染だと判断する市民はただちに脱出してください。
これは試験放送ではありません。
繰り返します、ラクーンシティに拡散する――」
いつものように眠らされ、けれど気付いたら見知らぬ場所で出来るだけ人間を殺せと言う命令だけを受けて離されて。
いつもは四方に壁がある場所だったり、大きな銃を持っている人間が沢山居る場所で命令を受けていたのに、今回はそんな壁も人間も何もなく。それに従って沢山殺したけれど幾ら殺せど何が起こる事もなく。
どれだけ駆けても何をしようとも、どれだけの時間が経ってもいつも自分達を支配している人間が現れる事もなく。
良く分からないけれど、自由になったらしいと困惑しながらも段々と喜びが湧き上がり始めた、そんな時だった。
遠くから命令を下される時のような、その言葉を発する機械から延々と流れ続けている言葉の全てを理解出来た訳じゃない。ただ、理解出来る部分だけを拾い集めるのと、知性も失ってただただ同族を喰らい続ける人間、ゾンビとかカンセンシャと言われているのが沢山溢れている状況とを合わせてみるだけでも、物凄く嫌な予感がした。
けれど、どうすれば良いのか分からなかった。脱出? 逃げる? どこに?
危機感のままに高いところに登った。沢山の建物。各地で炎が立ち上っているようで明るい。遠くまで眺められる。
ぐるりと見回すと、遠くに行くほど建物が無くなって木々が生え始めているのに気付いた。そこまで行けば良いのだろうか? 分からない。でも、ここに居る事はとても危険だと思えた。とにかく、激しく。
どの方向に逃げれば一番近いか、何となく見当をつける。足に力を込めて、建物を伝って行こうと考える。
その時、薄らと脳裏に同じ形をした皆の事が浮かんだ。
命じられるままに共に走ったり登ったり、殺したりする皆の事を、仲間とは感じていなかった。足が遅いのは居なくなった。体調が崩れたのは居なくなった。命令をいつまで経っても理解しなかったのは居なくなった。強い怪我をしたのは居なくなった。一際元気なのも居なくなった。
それらはここにも居ない。
仲間ではなかった。生き残る為の競争相手だった。それでも少しだけ迷って、けれど跳んだ。木々が数多に生えるここから最も近い方向へと向かって。
命令違反を冒しても追って来る者は居なかった。暫くびくびくと物陰に隠れたりしていたけれど、そんな必要もなくなって建物から建物へと軽やかに跳んで行った。
従来より機動力が向上した、という事を良く聞いた。
従来というのは良く分からないけれど、その位の事が出来る手足には感謝した。
飛び移れる建物が無くて、地面に高くから着地して転がる。目の前にはゾンビじゃない人間が居た。
ただ、冷たい雰囲気はなくて「ひいっ」と、唐突に現れた自分に対して怯えていた。怯えながらも銃を向けられて咄嗟に躱した。
「あっ?」
無防備になった首に爪を突き刺せば、何も言わなくなった。
その直後、車が走って来る音がする。人間が操る早く移動する為の物。
「車取って来たぞ…………ああああああああああああ!!??」
そのまま車が自分に向けて突っ込んできた。横に避けるとそれは急旋回してまた追って来た。でも、まだ速くない。
跳び乗って、ガラス越しに爪を向けた。中の人間が銃を向けてきて、また咄嗟に跳んだ。車の上だった。思いきりごろごろと転がって壁にぶつかった。
ドガァッ!!
隣で車も激しく壁へとぶつかっていた。
パーパーパーパー、と車がうるさく音を立て始めた。
痛みを堪えながら立ち上がる。
人間は潰れた車の中にもう居なかった。それ越しに自分を銃で狙っているのか?
逃げ道はある。でも、殺さないと気が済まなかった。身を低くする。脚に力を込める。癖でガリリ、と爪で地面を引っ掻いた。
パーパーパーパー、とてもうるさい。
一歩下がった、その時、人間が車を回り込んできていた。手に持っているのはさっきよりも長く大きい銃。
「死ねえええええ!!」
車の上に跳んだ、自分の居たところを貫通して壁が弾けた音がした。
その銃からジャコンッ、と音がする。跳んで首に爪を薙ぐ、のをその銃で受け止められた。
「ぐうううっ」
必死に受け止めているところを、もう片方の腕で下から切り裂いた。
「いぐっ」
人間の体ががくりと崩れる。
それでも未だ銃を強く掴んでいる人間。その銃を自分が掴んで引っ張れば人間の体も付いて来て、その胸に爪を突き刺した。
「がぼぉ」
深くまで、爪の先端が背中に飛び出した気持ちの良い感触。人間の口からは沢山血が吐き出されていって、顔からは血の気が失せて行く。絶望した顔で自分を見て来る人間。蹴り飛ばして引き抜く。
「ギャララララッ!!」
思わず吼える程に中々良い気持ちだった。パーパーパーパー鳴っているのは未だにうるさいが。
蹴りつけてやろうかと思ったが、そんな事をしている時間は無い事も思い出した。途端に胸が冷えて行く。
「……」
爪の血を舐め取って、また走る事にした。
建物の数が少なくなるに連れて、ゾンビでない人間が増えていく。人間達は銃を持っていないにせよ鈍器などで武装していて、数の多さから殺しに行く事はやめた。
遠くに居ても自分が目に入るだけで撃って来る人間も多かった。
少しだけ、誰も連れて来なかったのを後悔した。
建物が少なくなって、身を隠す場所も少なくなる。人間はそこら中に居て、けれど自分は自分だけで隠れて動かなければいけないのが腹立たしかった。夜なのは幸いだった。
小さい銃くらいなら人間なんかよりよっぽど硬いこの甲殻が守ってくれるだろう。けれど大きい銃、さっき殺した人間が持っているようなものだと多分駄目だ。あの大きい銃は壁をも砕いていたけれど、自分の甲殻は壁じゃない。
また、疲れも少しずつ溜まっていた。これだけ長い時間跳んだり走ったりするのはそもそも初めてだった。
呼吸が大きくなっている。座って休みたい。肉でも食べて眠りに就きたい。そうすればとても心地良いだろう。でも、人間達は未だ外へと向かって逃げていた。歩きで、車で、時々どこかしらで悲鳴を上げながらも。
ここはまだ、危険だ。
スピードを落としながらも走り続けた。
明け方になる頃に、建物が殆どなくなり、木々が数多に生える場所まで辿り着いた。
人間達は流石に休んでいる。数はとても大きく、皆が居たとしても真正面から攻め掛かったら袋叩きにされて呆気なく殺されそうな程だった。
用を足しに人間がその集まりから外れる事もあったが、それでも手を出しに行ったとしたら最悪その数の人間全てに追われそうな予感がして止めた。
それに、流石に疲れていた。
本当に、逃げろという命令に従うべき何かが起きるのだろうか?
建物の方を見られる場所、高いところに行こうと思ったが、そういう場所には大抵人間が居た。ただ、木に登っている人間は流石に殆ど居らず、人間の目に触れないような場所まで離れて木に登る事にしようと思った。
歩いていく内に人間の会話が聞こえなくなっていく。
久々に感じるような静寂。目が覚めてから長い時間が経っているようにも思えたが、実際はそんなに時間が経っていないようにも感じた。
人の姿が爪先程の小ささになったのに気付いて、高い木を探した。爪を引っ掛けて登り、そしてその途中の事だった。
ゴオオオオオオッ!!
空を、何かが飛んで行った。鳥なんかより、車なんかよりとても速く。尻から炎を猛烈に吐き出しながら。
「…………」
生き物じゃない。人が乗る物でも無さそうだ。何だ、あれは? あれが?
気付けば口を開いていた。自分の牙をぽっかりとさせて。
それはその建物が沢山ある、ラクーンシティとか言うのだろう場所の真ん中に落ちて、そして、
ドオオオオオオオオオッッッッ!!!!
とんでもない爆発を起こした。
火柱が、爆炎が空高くまで立ち上る。何かが迫って来て、直感的に木にしがみついた。
その直後、吹き飛ばされてしまうような激しい風が自分を襲った。どの木もゆっさゆっさと揺れていて、必死に爪を立てて、強く齧りつきもした。
揺れる視界の中で、遠くで同じように木に登っていた人間が落ちて行くのが見えた。
……自分という存在が余りにもちっぽけなものに感じられた。
自分達に色々と課した上でここに解き放ったのも、自分が簡単に殺せるのも、もしかしたら自分が簡単に殺されるのも、そしてこんな爆発を引き起こしたのも、全て同じ人間だという事に訳が分からなかった。
揺れは次第に収まって行った。
けれど、爆炎がそのラクーンシティを飲み込んでいく様が眼下で広がっていた。何もかもが爆ぜて、燃えて、灰になって行く。
人間も、ゾンビも、皆も等しく。あんな爆発が起きて誰かが生き残れるとは早々思えなかった。
あの言葉に従った自分は、正しかったのだ。
でも、それを嬉しいとは今となっては思えなかった。
――自分が育った場所で人間の言葉を徐々に理解していく内に、作られた生き物とそうでない生き物がそれぞれ沢山居る、という事を知った。
そして人間とは違って自分、ハンターβという種が作られた生き物だと言う事は知った。別に今まで気にした事はそう無かったが、皆が死んでそれを思い出した。
それは即ち、自分、ハンターβが少なくともこの近辺では自分しか居なくなったという事だった。
初めての感情。今まで、怒り、喜び、楽しみ、退屈、恐怖、そんな単純な感情しか殆ど抱く事しか無かったし、それ以外の感情は知らなかった。何と呼ぶのかも知らなかった。
恐怖に近い気がしたけど、それとは明らかに違いもある。
寒くないのに体が寒い。
この感覚は人間を殺そうが解消されそうになかった。皆が居ればじっといつまでも抱き締めたい気持ち。そんな事した事ないけれど。
どうすれば良いのか自分には分かりそうにもなかった。
ヒュンッ、と何かが飛んできた。
気付けば人間達が遠くから銃を向けてきていた。体が更に冷えた。
逃げなければ。でも、どこに? でも、とにかくどこかに逃げなければ。
人間を殺している時にも銃を向けられた時にもそう感じなかった恐怖がどうしてかとても、とても強く感じられた。
遠くから撃たれた弾丸は風切り音からしてもそう強いものでないのに。
まるで、いつしか自分の前に投げ出された、支配している側だった人間のように。
木から降りて、当ても無く走って行く。木々に紛れて更に奥へ、奥へと。息が切れるまで走って、どこから人間がやって来るのかそれでも怖くて、歩いて、走って。小川で水を必死に飲み、泳いでいた魚を捕まえて貪り食い、そこからまた走って、すぐに疲れが来て歩いて、倒れた。
走るのは、人間より得意だ。だから、大丈夫なはずだ。車なんてこんな木々が生えている場所で使えるとも思えない。だから、大丈夫なはずだ。
乱れ切った呼吸を整えながら、ごろりと仰向けになった。
高くそびえ立つ何本もの木。木漏れ日はそれでも自分にとっては眩しくて、腕で視界を遮った。脚はもう動きそうにない。人間が今やってきたら碌に戦える事もなく、逃げられる事もなく殺されそうだった。
大丈夫、大丈夫なはず。
爪に魚の血肉がこびりついていて、それを舐め取った。呼吸が落ち着いてきて、深く息を吸って吐く。
眠気が一気にやってきた。
自分は起きた時生きているだろうか? 起きた時死んでいるって何だそれ。
死んだらどうなるのだろう。死んだ後自分というものはどうなるのだろう? 体は動かなくなる、きっと今考えている自分のこれも動かなくなる。
動かなくなって? ずっとそのまま?
怖くて木の傍に体を寄せて、丸めた。疲れてて、寂しくて。怖くて、眠たくて、眠りたくないけど体はもう動きたくなくて、動きたくなくて。
気が付けば、真夜中だった。
まだ、生きていた。
最初見た時グロテスクだなーって思ったけど何だかんだでやっぱり格好良い造形。
特に爪で地面を引っ掻いて威嚇する動作が好き。
元々の肉腫塗れな造形だったら多分書いてなかった。
気に入った部分
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キャラ
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展開
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雰囲気
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設定
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他