真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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行き止まり

―逃げる者

 

 

「カイト〜、どこへ向かってんのぉ?」

 

「いや、あいつらを振り切れればそれでいいんだ。とにかく距離をあけるぞ。」

 

 

―追いかける者

 

 

「どうすんのさ、アミ姉。このままじゃ、いつか振り切られるぜ。」

 

「そこについては心配ないさ。この先は………行き止まりだよ。」

 

 

両者の距離が縮まる。

前者は止まり、後者が近づいてくる。

 

 

「なんつーこった…」

 

「おい、どう見ても続く道がないようだが…」

 

「あはははー、大ピーンチ♪」

 

「いや、まじでそうなんだけどな。」

 

 

当然立ち往生してれば、お互い高速で移動してたわけなので、すぐさま追い

つかれる。

 

 

「ふっ、追い詰めたよ。考えもなしに走ってるからこういうことになるのさ」

 

「とりあえず、そこの白髪と赤髪!今すぐ海斗から離れやがれ!!体使って

誘惑なんて古い手使ってんじゃねぇぞ、オラ!」

 

「いや、天…。とりあえず、落ち着きな…」

 

 

追いついて早々、天使の第一声はそれだった。

こうなってくると、天使も気持ちに遠慮がなくなったようである。

これほど素直すぎるストレートな感情のぶつけ方もないと思うのだが、当の

本人、海斗は気づくはずもない。

そんなやり取りを見たマルギッテは…

 

 

「流川海斗…、本当に色々と人気があるんだな。」

 

「へ?どういうことだ、それ?」

 

「まあ、そういう反応もお前らしいのか……はぁ」

 

「どんかん、どんか〜ん♪」

 

 

なんだか小雪にそこはかとなく、馬鹿にされているような気がする。

マルギッテはマルギッテで、“なんで私はこんな奴を…”とかなんとか、さ

っきからブツブツ言っているし。

なんとなく2人に呆れられているというのは感じた。

 

 

「まぁ、これで逃げ場はないってことさ。」

 

 

女が銃を構える。

くそ、万事休すか。

ここで二人だけを逃がすという手もあるのだが、俺もこの二人相手は少し心

配だしな。

何より“板垣三姉妹”と名乗っていた相手。

正直、あの青い髪の奴は色々面倒くさそうな気がする。

あくまで予感なのだが…。

寝ていてくれているなら、出来ればその間に逃げてしまいたい。

 

改めて、周りを見渡してみる。

本当に高い壁に囲まれた行き止まりだ。

しかも、この壁もコンクリートの中に鉄の棒とかが入ってるヤツだろ。

よりにもよって、こんなとこに使うなよ…。

地面の方も見てみるが、当然都合よく抜け穴なんてない。

 

……ん?これは…

あー……なんとかなるかもな。

しょうがない、あんまりやりたくはない作戦だが…。

四の五の言っている場合ではなさそうだ。

 

 

「ま、どうあっても逃げさせてもらうけどな。」

 

「そうはいかねぇぞ、海斗!ゼッテー逃がさねぇ!」

 

 

天使がゴルフクラブを振り上げて、こちらに攻撃を仕掛けようとする。

よし、来た。

俺はそれを待っていたとばかりにさっき見つけた足元の小石を蹴り上げる。

たかが石、されど石。

思い切り力を加えて、高速で押し出してやれば十分武器になる。

そして、その威力は…

 

ガキン

 

 

「なっ!?」

 

 

天使は一瞬の出来事に驚くしかなかった。

自分の武器が折れている。

 

 

(今の小石でやったっていうのか!?馬鹿みてーな力もやべーけど、この細

いゴルフクラブの柄に一発であの小さいのを当てたっつーことか!?)

 

 

「…まだまだ」

 

 

俺はもう1つあった小石を次弾装填とばかりに今度は姉の方へ。

よく狙いを定め、射出した。

 

 

「ちっ…!」

 

 

先程の威力を見ているため、危機感は感じるだろう。

そして、強ければ強いほど対応は迅速だ。

 

バン

 

小さい的にも関わらず、銃で正確に小石を撃ち落とした。

その見事な銃の腕に俺は………笑うしかなかった。

 

 

(…何かおかしい。何故私は今の小石を撃ち落とせた?何故さっきは見えな

かった小石の軌道が見えたんだ…!?)

 

「じゃあな、天使。またゲーセンで会おうぜ。」

 

「あ…!?え!?う…うん」

 

「誰が逃がすか!」

 

 

咄嗟に銃を構えるが…

 

カチン

 

響いたのはマガジンのまわる音のみ。

弾は発射されない。

 

 

「な…しまった!」

 

 

そう二度目の石は全く一度目のようなスピードもパワーも備えていない。

せいぜいキャッチボール程度の速度だろう。

普通なら判断できるはず。

しかし、一度目のあれを見ているから体が反応してしまう。

それは実力があるからこその罠。

 

そして、俺がそんなわざと視認できるような攻撃にしたのも全ては対応させ

るため、その引き金を引かせるため。

リボルバーの基本弾数は5、6発。

 

最初の威嚇射撃で1発。

小雪と合流するための移動中で2発。

逃げようとしたときの牽制で1発。

マルギッテとの遭遇で1発。

そして、今のが最後の1発だ。

 

当然、弾倉は空。

そこから遠距離攻撃の銃弾は発射されない。

そりゃリロードすれば、すぐに解決だが少しの時間があればいい。

 

 

「小雪、マルギッテ!目ぇつぶれ!!」

 

 

次の瞬間、爆発が起こった。

否、天使や亜巳たちが感じただけ。

実際は海斗が地面を思い切り踏みつけたことにより、粉塵が舞っているだけ

だ。

 

 

「くそ…視界が」

 

 

ただ、時間が経てば煙も晴れる。

しかし、そこには…

 

 

「おいおい、こりゃやられたねぇ…」

 

 

広がっているのは、言うなれば惨状。

地面のアスファルトには抉り取られたようなクレーター。

そして、海斗の背にあった、つまりは天使たちの真正面の壁。

さっきまで壁だったそれには無理矢理貫通された大きな穴が開いていた。

コンクリートは粉々に砕け散り、中から補強している鉄の格子状のものも、

飴細工のようにひしゃげていた。

 

当然のごとく、三人の姿はなかった。




移転活動中、もう一つSAOの完全新作小説を投稿しますので
移転待ってられないよという方はご覧ください。

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