真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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おとなりさん

セットされている銃を構える。

開始早々、極端に苦手な人もいるなと容易に想像できる、気持ちの悪いフォ

ルムのゾンビが出てくる。

妙にリアルでこれも完成度が高いな。

これは無数のゾンビを倒していくというホラー要素のありのガンアクション

といったところだ。

 

ゾンビを敵キャラに採用するのは恐怖という面だけではないらしい。

聞くところによると、そういったゲームには現実で人間や動物に危害を与え

ないように仮想の悪を設定するという思惑もあるのだとか。

嘘か本当か分からないがな。

 

でも、今の世の中、エアガンなんて簡単に手に入るし、それを動物に向かっ

て撃つというニュースもあるくらいだ。

ありえない話ではない。

そんな奴、殺してやろうと思うがな……。

 

次々と沸いてくるゾンビたちを正確に撃ち抜いていく。

出てきた瞬間を狙えば、こちらの被害も少ない。

ちなみに弱点は頭らしい。

 

 

「んー……」

 

 

ちょっと簡単すぎやしないか、このゲーム。

思えば、最初に難易度選択もなかったしな。

なんだかんだでボスらしき奴まで辿り着いてしまった。

そして、呆気なく撃破。

 

いや、これはあまりにも…

よくよく見てみると筐体の横に“Beginner”と書いてあった。

 

ああ、これ初心者用だったのか。

道理であっさりクリアできたはずだ。

初心者用と普通の二機種があったのだが、片方はプレイ中だったので空いて

いた隣のを選んだ結果ということか。

 

じゃあ、あっちが普通のやつか。

そう思って、そちらを見ると…

 

ジーー

 

見る前に見られていた。

隣でプレイしていたはずのその少女は完全にこちらを見ている。

なんだ、俺がなんかしたのか。

 

 

(この狐は…さっきドラムがめっちゃ上手かったヤツだ。初心者用とはいえ

見た感じこれも得意そうだったし…)

 

 

さっきから無言でこちらを見続けられる。

いや、なんか威圧感が凄いんだが…

 

 

「おい、テメェ」

 

 

声をかけられた。

この場にいるメンバーを考えるに、テメェ=俺の式が完成。

待て待て、声かけてきたってことは知り合いなのか。

改めて相手を見直してみる。

 

見た目は快活そうな小柄な少女。

白と黒を基調とした見慣れない変わった服装で、透き通るような肌とコント

ラストになっている。

何よりも目立つのがツインテールにまとめあげられたそのオレンジ色の長い

髪だった。

 

うん、見たことないな。

会ってたら忘れなさそうだし。

 

 

「見た感じ、ゲーム得意そうじゃん。ウチと協力プレイしねーか?」

 

 

やっぱ、知り合いじゃなかったか。

どうやら、ゲームのお誘いのようだ。

物足りなかったし、そっちの機体で出来るなら好ましい。

 

だけど、なんかこの声聞いたことある気がする。

気のせいだとは思うんだが…

まあ、今はどうでもいいか。

 

 

「そっちがいいなら、いいぜ。」

 

「よっしゃ!じゃ、キマリだな。さっさとやろうぜー。」

 

「おう。」

 

 

それぞれコインを投入して、ゲームスタートだ。

 

 

「難易度どうするよ?」

 

「勿論VERYHARDで。」

 

「それって一番むずいヤツなんだけど…。正直、ウチはこの一個下のレベル

も最後まで行けてないんだぜ?」

 

「2人でやればいけるって。」

 

「んー、じゃあ頼んだ。」

 

 

短い会議を繰り広げ、最高難易度に決定。

ビギナーレベルは簡単すぎたからな。

せいぜい、こっちには期待させてもらうぜ。

 

ステージ1が始まる。

さっきのビギナーではチュートリアルもそこそこに小手調べもいいとこであ

ったが、初っ端から比較にならないゾンビの大群が襲ってくる。

 

 

「うおおおおおおい!気持ち悪いほどいるじゃねーか。こえぇよ。」

 

「やっぱ、こんくらいじゃないとな。」

 

 

ゲームのルール自体は同じなので、こちらでも変わらずゾンビの弱点である

ヘッドショットを狙っていく。

ただ、さっきは撃っては待ち、撃っては待ちの単純作業ゲームだったのが、

絶え間なくゾンビたちが出てくるので、右へ左へと振られ相当やりごたえの

あるものとなっていた。

 

 

「うじゃうじゃいるぜー、着いていけねぇよ。どうすんだ、これ?」

 

「倒せないのが積もって固まってきたら、ケチってないで手榴弾を使っちま

え。一掃出来て、スカッとするぞ。」

 

 

助言された少女は素直に従い、ゾンビの群れの中に爆発物を投げ込む。

次の瞬間、強烈な光、振動、サウンドが爆発を表した。

溜まっていたゾンビは根こそぎ消し飛んだ。

 

 

「うっはーーー!これはタマンねーぜ!!一気に蹴散らすのは気分爽快だな。」

 

「だろ?」

 

「最高じゃん。1人じゃこの感覚は味わえなかったぜ。」

 

 

会話は自然につながれていった。

協力プレイというのはこんなにも両者の間に連帯感を生み出すものなのか。

さっき会ったばかりの少女とはゲームの中ですっかり意気投合していた。

 

 

「この回復アイテム取っていいぞ。」

 

「オメェが出したんだから、自分で使えばいいだろ。」

 

「残念だが、俺のライフは微塵も傷ついてねぇ。」

 

「うへー、やっぱテメェ最強に上手いな。じゃ、ありがたく頂戴しちゃうぜ。」

 

「おう、持ってけ。」

 

 

そんなやりとりもしながら、十分に残機を残した状態でラスボスに挑む。

ここまでの戦闘で連携も完璧になっていた俺たちは冷静に対処し、見事撃破

まで持っていった。

 

 

「いよっしゃああぁぁ!ウチ、このゲーム、クリアしたの初めてだぜ。あり

がとな。」

 

「何言ってんだ。2人の力だろ。」

 

「へへ、まあでも楽しかったから、礼は言いたいんだよ。」

 

「俺だって楽しかったぜ。」

 

 

ゲームによって、絆が生まれていた。

たかがゲームといっても、達成感はある。

 

ただ、あまりにも喜びを分かち合っていて、終わったあとの画面など全く気

にもしていなかったせいか。

スコアランキングの1位は“AAA”という名前になったという。


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