真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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ゆるぎない瞳

遂に始まってしまった。

相手はおそらく格上、甘く見ても互角といったところだろう。

今回も俺はフィールド端で待機なので、実質二対一となれば、そんな相手との

勝負の結果は見えてるのだが……

隣の少女は全く諦めていないようだ。

 

 

「せいやぁぁぁぁっ!」

 

 

薙刀で果敢に突っ込んでいく。

だが、今までとは違い、初撃を難なく回避される。

 

 

「おうおう、勇ましいね~」

 

「ほいほーいっと」

 

 

二撃、三撃と薙刀を横に振るうが、それも空を切る。

 

やはり、分が悪いか。

まあここで終われば、これ以上目立たんし一向に構わんのだが。

 

この俺をペアに選んで、優勝を目指そうという精神がもう分からない。

この試合も相手が遊びをやめて、二人がかりで川神一子を獲りに来たら、1分

もって終了というのが、甘口の推測だ。

そんな至極もっともな予測を立てつつ、視線を川神一子に向ける。

 

 

―真っ直ぐだった

 

その瞳は絶望も諦めも不安も、一切の弱さを映してはいなかった。

ただ目の前の敵を見据え、その先の勝利を見つめている。

自信に、あの毎日積み重ねてきた修行による自信に満ち満ちている。

おそらく、学園長に敗北の判定を受けるまで、その目には火が灯っていて自分

の勝利を信じて疑わないだろう。

 

はぁ、なんつー顔してんだか。

 

直後、回避され続けている横薙ぎから、持ち替えて、縦の攻撃に移行する。

今までの攻撃がフェイントとなり、速く鋭い攻撃だった。

なるほど、どうやらハゲ1人にターゲットを絞るらしい。

なかなか、考えた作戦だ。

 

だが……

 

受け止められた。

 

相手は今までの奴等ではない、その程度でダウンなら苦労しない。

技のキレは良かったが、速い分パワーが追いついていないようだ。

一手、足りなかったか……

 

 

「ふふ、残念。あまり女は殴りたかないが……」

 

「川神流 蠍撃ち!」

 

「ガッ!?」

 

 

……驚いた。

攻撃を受け止められた直後、あろうことか川神一子は得物を手放し、素早く打

撃攻撃へシフトした。

まるで受け止められるのを予想していたかのように、というか予想していたの

だろう。

その目は自信に溢れているが、相手の力量はしっかりと測っているらしい。

しかも、武器を受け止め、がら空きのボディに今の内臓をえぐるような正拳突

き。

 

頭を使えるような奴ではないと思ったのだが…

いや、これも実践を積み重ねた努力の結果なのだろう。

ともかく、ノーガードにアレはきく。

もう一発打ち込めば、確実にダウンだ。

川神一子も承知しているとばかりに相手が落とした薙刀で追撃を放つ。

 

だが、その体は前に進むのではなく、後ろへ吹き飛ばされた。

 

 

「ふっふーん、やらせないよ~♪」

 

 

そこには、もう1人の白髪乙女がニコニコと蹴りを放っていた。

 

そう、これはほぼ二対一の勝負だ。

どんなに考えて、奇怪な動きで翻弄したとして、圧倒的に手数が足りない。

なにせ、こちらは2本、相手は4本なのだから。

それに実戦経験といったって、模擬試合のようなものだろう。

とすれば、基本的に一対一の形式であることは予想がつく。

つまり、3本目、4本目の腕から放たれる攻撃に対処できないのだ。

 

 

「おお、助かった助かった。」

 

「しっかりしろよぉ、ハゲー」

 

「ったく、油断大敵だぜ、お嬢さん。」

 

「僕らは二人でチームだよん♪」

 

 

そのうえ、ハゲまで首をコキコキと鳴らし、体勢を整えてしまった。

飛ばされた少女はフィールドの端で悔しそうに睨み付けていた。

これじゃあ勝ち目は薄くなってしまう。

 

…って、なんで俺は勝ち目なんて考えてんだ。

川神一子があの二人に勝てるわけがないと分かりきっているのに。

 

はあ、あの真剣な眼差しを見過ぎたか。

毒されるのも大概にしないとな。

ここで勝たれたら、晴れて決勝進出だ、少なからず目立ってしまう。

そうだ、これは負けて当然の試合だ。

 

 

「じゃ、そろそろいくぞぉ~♪」

 

 

突如、フィールド端にいる川神一子を二人がかりで叩きにくる。

あー、こりゃ終わったな。

そもそもここまで持ったのが奇跡だろう。

相手がその気になってしまえば、挟み撃ちでも、同時攻撃でも、幾らでも手は

あったのだ、ただ今まで相手がそれをしなかっただけのこと。

 

 

「…くっ!」

 

 

少女は薙刀を構えるが、もし二人の攻撃をどちらも運良く止められたとしても

反動を受けて、場外に出てしまう距離だろう。

そんな心配こそ滑稽だ、格上の二人の攻撃を受けきれるわけがない。

 

八方塞がり、ジエンドだ。

流石に努力じゃ覆せなかったか、二対一は……

俺の予想は遥かに超えていたが、ここまでか。

 

だが、その大きく見開いた瞳には相も変わらず、自信の炎が灯っている。

ざわつく会場も気にもとめず、ただ前を見ている。

 

 

はぁ、なんつー顔してんだか。

 

 

そして、二つの拳は薙刀にかすることなく、突き刺さった。


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