真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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必然の変化

よし、状況を整理しようか

 

大体予想はしていたし、それなりに覚悟もしてきた

けどよ…

 

 

「ねえ、流川君、眼鏡とってよー」

 

「おい、お前川神さんに気があるんじゃねーだろうな」

 

「あの手錠って、どこで買ったの?ハンズ?」

 

「君にはMの素質がある我が殴られ部に来ないか」

 

「てか、ホントに昨日の怪我はだいじょぶなの?」

 

「はーい、流川の真似しまーす、“努力し続けんのが天才なんだよ”」

 

「コロッケ食べる?」

 

「お前、やっぱ見た目どおりずるいよなー、あの勝ち方はねえわ」

 

「なんで新しい眼鏡なんて買っちゃうのー、無い方が絶対いいって」

 

「流川って、日本語しゃべれたんだなー」

 

 

これは流石にねえだろうが!!

 

なんだ、こいつら

本当に昨日まで同じクラスに在籍していた奴らか?

 

だから、嫌だったんだよ、目立つのは

途端に馴れ馴れしくしやがる

今まで、厄介者として、邪険に扱ってきやがったくせに

 

 

「お前ら、うっとうしいんだよ、散りやがれ。コロッケはもらう」

 

 

サクサクのコロッケをもらって、しっしと追い払う

うむ、話せるようになったのもでかいな

口撃が出来るようになった、一応収穫か

 

クラスメイトは“なんだよ”だの、“やっぱ変わってねえじゃん”だの、

果ては舌打ちまでする始末だった

 

やはり、昨日の俺を見て、多少話しかけ易いと思ったが、根本での評価は

そう簡単には変わっていないんだな

結局、俺の立ち位置は無口な陰気ヤローから、話はするがとっつき辛い面

倒くさいヤローになっただけだ

 

これは助かった、俺だって誰彼構わずに仲良くするのは御免だ

しかも、こいつらは好意なんかじゃなくて、単なる好奇心で動いている

 

別にこいつらを最低だと責めはしない

人間誰しもこんなもんだし、ある意味人間らしい

 

俺にとっちゃ、一子や由紀江の方がよっぽどイレギュラーだ

あんな簡単に意志をねじ曲げられちまうんだもんな

 

 

「おはよー、海斗」

 

「ああ、おはよう」

 

 

噂をすれば影とは、よく言ったもので、一子が登校してきた

 

 

「あれ?眼鏡かけてる」

 

「ああ、昨日壊しちまったから、新しく買った」

 

「そうなんだ…」

 

「ん?どうかしたか」

 

「いや、ただ眼鏡かけてない方が海斗らしいなーと思って」

 

「・・・・・・」

 

 

なんで、こいつはホントに人の決定を曲げるのだろうか

 

俺は眼鏡を外して、窓の外に放り投げた

あばよ、特価1680円の二代目

先代の後を追ってこい

 

 

「え、いいの、高かったんじゃ…」

 

「いやいい、どうせ勝ち取ったものだし」

 

「勝ち取った?」

 

「気にすんな」

 

 

まさか、露天商と賭け勝負して、強奪したとは言うまい

 

 

Side 大和

 

 

「どう思う?」

 

 

俺は岳人とモロに些かの希望をたくして、状況を問うてみる

 

 

「どう思うも何も完全にアレだろ」

 

「ていうか、アレなのは、大和が一番よく分かってるでしょ」

 

「だよなー」

 

 

最早、今となっては、他の可能性を探ることは現実逃避なのかもしれない

そう、昨日の秘密基地で恐れていたことはほぼ確定事項となった

 

 

 

 

 

「ワン子、優勝おめでとう」

 

「よくやったな、ワン子」

 

「すごかったよ、おめでとう」

 

 

基地には俺、岳人、モロが集まって、ワン子の祝勝会を開いている

色々驚くことがあったが、とりあえずはワン子を祝ってやろうということ

になった

 

何せ、これでワン子と流川のペアも解消なのだから

 

 

「みんな、ありがとう。でも、今日の勝利は私の手柄って言うより、海斗

の力だわ、悔しいけどね」

 

「ブッ」

 

「うわ、汚っ」

 

 

俺は飲み物こそ吐き出さなかったが、その表情は驚きを隠せていなかった

と思う

それは素直に飲み物を吐き出すという形で表した岳人も、つい反射的にツ

ッコミをしたモロにしても、同じことだろう

 

 

「ワン子、今“海斗”って、言わなかったか」

 

「言ったわよ、流川海斗だもん、おかしくないわよ」

 

「いや、そうじゃなくてだな」

 

「なんで名前で呼んでるのさ」

 

「だって、海斗がそう呼んでいいって…」

 

 

ニヘヘと表情を崩す

俺たちは顔を見合わせた

 

 

「でも、そういうのって、親密な関係の間で行われるものだろ」

 

「親密な関係…」

 

 

言葉は尻すぼみになっていき、へにゃりと紅潮した顔が緩む

 

 

「おい…」

 

「待て岳人、何も言うな」

 

「完全にそうだね」

 

 

………

 

 

「それでね“男が女を守るのは当然だ”って言われてね…」

 

 

この後も延々とワン子の自慢話が続いたが、ワン子があまりにも嬉しそうに

話しているので、誰も中断できないでいた

俺たちは精神的な疲労困憊の中で同じことを考えていただろう

 

“真剣で恋している”と

 

 

 

 

「はあ、どうしようもないよな」

 

 

俺に続いて、二人の口からも溜息が漏れる

 

あいつは真っ直ぐな奴だから

もう何を言っても無駄だろう

 

今だって流川と話しているだけで、花が咲いたような笑顔を浮かべていた

 

Side out

 

 

「おいそろそろ、教師が来るぞ。席戻っとけ」

 

「分かったわ、またね」

 

 

そう言って、一子は自分の席に戻っていく

 

俺の日常は間違いなく変わった

それが良いことか悪いこと、どちらに転がるかは分からない

全ては自分しだいだ

 

これからは衝動のままに…

障害は叩き潰してやるよ

 

 

 

 

 

 

 

節度は守ろう、うん


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