真剣で私たちに恋しなさい!   作:黒亜

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一子アフター「水族館」

―川神院

 

 

「一子、門の前にやって来ておるぞ。」

 

「え、もう来ちゃったの!?」

 

「ほとんど時間通りじゃろうが、準備に時間をかけすぎなんじゃ。ほれ、早

くせんか。あまり待たせるでないぞ。」

 

「分かってるわよ!じゃあ、じいちゃん、いってきまーす!」

 

「これ、一子!カバンを忘れておるぞ!」

 

「あぁっ!…改めて、いってきまーす!」

 

 

ダッシュで部屋を出て行く一子。

あの様子だと門まで全力疾走だろう。

 

 

「全く…浮かれるにもほどがあるのぅ。」

 

 

呆れているような口ぶりとは裏腹に鉄心の顔は綻んでいた。

孫があんなに楽しそうに出て行ったのだから。

そう、今日は…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ごめん、海斗待った!?」

 

「おう、今着いたばっかだって。」

 

 

物凄い勢いで突っ込んできた一子に言う。

外は晴天、時間はまだ午前中だった。

何故二人がこうしているのかといえば、

 

 

「じゃあ、行くか。」

 

「うん!水族館へレッツゴーよ!」

 

 

今日は約束した水族館デートの日。

あの日の仕切りなおしだった。

 

 

「にしても、その服似合ってるぜ。」

 

「う…改めて言われると恥ずかしいわ。」

 

 

一子が着ているのは白いワンピース。

デートに行く予定のときに着てきたのと同じものだ。

 

 

「だって海斗がいきなりプレゼントだとか言うから、何かと思ったら…」

 

「はは、まあな。」

 

 

そう一子が着ているのはあの日と同じ服なのだが、新品である。

あの日の服は血まみれになってしまったので、もう着れない。

だから、俺が先日買ってきたのだ。

女物を買うのは初めてだったが、店員が勝手に盛り上がって“彼女さんへの

プレゼントですか?お包みしますね♪”などと言ってラッピングしてくれた

ので、プレゼントとして一子に手渡した。

色々と経験しないことでこっぱずかしかったが、それでも…

 

 

「別に気を遣わなくても、服の1つくらい大した値段じゃ…」

 

「可愛かったから、俺が着て欲しかったんだよ。」

 

「な!?ななな…」

 

「ホント一子免疫ないな。」

 

「そんなの大好きな人に可愛いって言われるのなんて、何回やっても慣れな

いわよぉ。」

 

 

やっぱり可愛い。

普段はスカートの類ははかない一子があのときはオシャレをしてくれた。

その気持ちが嬉しかったから、どうしても着て欲しかったのだ。

普段とのギャップで一層魅力的だ。

 

 

「ズボン感覚であんま足とか上げないようにな。」

 

「そんな無駄に派手な動きはしないわよ。」

 

「いやだって、さっき全力で走ってきてただろ。」

 

「ぅ……、そ、そんなに言うなら海斗が自由に動けなくしてよ。」

 

 

差し出される一子の手。

流石に意味が分からないなんてことはない。

 

 

「今日は思いっきりデートしような。この前のを取り返すくらい。」

 

「あ……うん…。」

 

 

俺たちは互いの手をしっかりと握って歩き出した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「着いたわね。」

 

「ああ、ここでチケット忘れたとかいう古典的なボケはかまさないでくれよ。」

 

「そ、そんな間抜けじゃないわよ。ちゃんと持ってきたわ。」

 

「そりゃ良かった。」

 

(じいちゃんに注意されてだけど…)

 

 

一子がカバンからチケットを取り出そうとしたとき、

 

 

「あっ!」

 

「うわ」

 

 

一子がいきなり手をギュッと握りなおす。

 

 

「なんで離そうとしちゃうのよ。」

 

「いや、手つないだまんまじゃ出しにくいかと…」

 

「大丈夫だから!このままつないでて?」

 

「…ああ、悪かった。」

 

 

まさか少し離そうとしただけであんな反応とは…

なんだか嬉しくなり、俺もさっきよりも強く手を握った。

その後、どんな状況でも一子が手を離そうとはしなかったのは言うまでもない。

 

 

―水族館内

 

 

「うわぁああ、きれーい!」

 

「…すげぇな。」

 

 

入った瞬間一面ブルーの世界。

その青の中に様々な魚たちが躍っている。

今見ている巨大水槽の中では人間よりも大きなエイが、目の前を何度も通り

過ぎていく。

写真でしか見たことのないような生き物から、名前も知らないような生き物

まで、初めての水族館は楽しみが溢れていた。

 

 

「おい、一子。こっちクラゲコーナーだってよ!行こうぜ!」

 

「うん!」

 

「ほら見ろよ、こんな長い奴いるんだな。おい、こっちの奴なんて光ってな

いか?」

 

「ふふ…」

 

 

そこで一子がニコニコと笑っていることに気づく。

そんなに可笑しいクラゲでも見つけたのだろうか。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「海斗、本当に動物好きなんだなーって。さっきからすっごく嬉しそうだか

ら。海斗が楽しんでると私までなんか嬉しくなっちゃって…えへへ。」

 

 

…なんて可愛いことを言うんだ。

いつもと違う服をひらひらと揺らせて、微笑む一子を俺は思わず抱きしめた。

驚く表情も可愛くてたまらない。

 

 

「一子、こっち向いて。」

 

「え、海斗?ここじゃ見られちゃうって。」

 

「無理だって。」

 

「へ?」

 

「これから一生一緒にいるんだから、可愛いと思ったらキスしたくなるし、

それを全部我慢すんのは無理だよ。」

 

「一生…一緒に…。」

 

「一子は嫌か?」

 

「嫌なわけないわよ!」

 

「じゃあいいよな。俺は今可愛くて、我慢できないから。」

 

「んっ…」

 

 

青い光をバックに2人の影が重なる。

幸せになるキスだった。

 

 

「んはっ…海斗、もう一回…」

 

「絶対一子それ言うよな。」

 

「しょうがないじゃない、一回したらもっとしたくなっちゃうんだから…」

 

「分かってるって、俺もしたいよ。」

 

「…うん。」

 

 

俺たちはこれからも何度もデートを重ね、それ以上に数え切れないほどのキ

スをするのだろう。

なにせ期間は一生分だ。

 

“海斗が隣にいてくれれば、アタシはそれだけで世界一幸せ。”

 

そう言ってくれた少女。

俺の出来る範囲以上に幸せにしてやりたい。

不幸や困難なんて俺が守ればいいだけだ。

そのために俺は何が出来るか…

 

 

「海斗、今アタシすっごく幸せよ。」

 

「俺もだよ、一子。」

 

 

ただ、今はこれでいいのかもしれない。

俺も一子もこんなに笑顔なんだから。




移転もだいぶ完了してきましたが、
お暇な方は更新中の禁書目録の小説など
よかったらご覧になってください

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