愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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なぜか途中と最後で変にコメディ色に


凛、召喚

その日は、冬木のセカンドオーナー遠坂家六代目当主遠坂凛にとって、

遠坂の家訓『常に余裕を持って優雅たれ』の実行を試される日だった。

 

 

......................................................

 

 

早朝にベルを鳴り響かせる電話で、一日が始まった。

 

遠坂凛は重度の低血圧である。

まず朝は遅い。そして起きてもしばらくは非常に見苦しい姿である。

ぐしゃぐしゃの髪を整えもせずドスの効いた低いうめき声をあげ明らかに不機嫌とわかる目付きでゾンビのように這い起きて来る。

これが『常に余裕を持って優雅たれ』に反さないのかと誰もが疑問を抱くが、

『家訓は意思を以て貫くもの』と考える遠坂凛に言わせれば

意思そのものが死亡する低血圧の症状では優雅たれる道理もないとし、

『当然家訓に反さない』と結論が出されている。

雑談の中でこれを聞いた妹はなんとも言えない表情で話題を別のものに変えた。

 

遠坂凛の持論はともかく、遠坂凛が朝に弱いのは彼女をよく知る者なら周知のことである。

そんな時間を狙い打つかのようにかけられてきた電話。まずそれだけで遠坂凛は電話の主が兄弟子だと見当をつけた。

存在価値が路上の糞に近い兄弟子相手ならば電話に出る必要などない。

とはいえ遠坂は冬木の管理者、連絡や人付き合いも多い。万が一兄弟子でなかったら居留守など責任ある遠坂当主がとる対応ではない。兄弟子相手ならばともかく。

 

そういう理由で、背すじを伸ばし、頭の痛みをこらえ、ゆっくりと深呼吸をし、電話で耳元に声なんか聞いたらもっと頭痛むんだろうなという思考を他所にやり、しかし相手を待たせるわけにもいかないのでできるだけ滑らかに受話器を取り、優雅なる遠坂家当主の威厳を声に宿して応答し……

予想通り兄弟子だったので用件も聞かず電話を切った。

 

常識的にみると些か以上に無礼な行いではあったがこの兄弟弟子の間ではいつものことであり、凛当人は確実に時間を狙いすましてかけてきたのだろう兄弟子に悪態をつきながら電話を離れた。

 

しかし再び電話のベルは鳴り、無視しようともその騒音は鳴りやまず、頭痛に耐え切れなくなった凛が怒鳴るために受話器を取り上げ耳に当て怒鳴ろうとした瞬間、

 

ガチャッ    ....ッツー、ッツー、ッツー、ッツー、………………

 

 

 

 

──── やり場のない憤怒に、凛は暴れた。

 

 

 

 

 

溢れ(たぎ)る憤激をどうにかして飲み下し、凛は優等生の仮面……もとい、遠坂凛として当然の振る舞いを身に纏って登校した。このときにはもう全く早朝の無様の余韻すらも漂わせていない。

登校途中で挨拶してくる知人達に淑やかな挨拶を返しながら歩くその姿はまさに学園の華、男子の憧れの遠坂凛である。

 

しかし校門に至るときにはその仮面……微笑はひくついた。

校門の前でかの蟻地獄……妹の想い人が女子を熱烈に口説いていたのだ。

 

蟻地獄が登校時間に女子を口説くのは珍しくもない。

しかしいつもは軽く一言二言褒めるくらいのはずなのだが、なぜかこのときの蟻地獄は目に付く女子全てに本格的な捕食を、熱烈なラブコールをかけていた。

……何人か、二年生らしい、おそらくは蟻地獄の友人か知人の女子がぺたんとへたり込んでいる。全員赤面していて顔を手で隠していたり……腰を抜かしているのか。

凛が見ている前でも一人の間近に優しく笑いかけられている一年生が顔を真っ赤にして動揺し、言葉も返せない状態のその女子に一言笑いかけて蟻地獄はすぐ近くの三年生に近付き、ほどなく三年生も急速に赤面して脱兎のごとく校内に逃げ出した。それを惜しむこともなく蟻地獄は手近な二年生に歩み寄り……

 

なんだこの惨状は、と凛は大きくひきつる笑顔を自覚した。

 

蟻地獄がこれほどまでに暴走したことがこれまでにあっただろうか。少なくとも凛は知らない。スキンシップも遠慮がない。ていうかあいつの眼微弱の魅了が発動していないか。

一体何があったのか。アレは口説くときに魅了など発動させていなかったはずだ。ていうかあいつ魅了の魔眼なんてもってたのか。

 

男子はもはや畏怖と驚愕に支配され捕食場面をただ見続けるだけで、なかには女子の反応にこちらも顔を赤くして動揺している男子もいる。

女子は状況を理解している上級生も理解出来ていない一年生も慄き恐怖し、動けずに捕食される者と全力で横を駆け抜ける者に分かれている。……一年生はアレに耐性がない一方、アレも付き合いが少ない分口説きも緩いので被害は軽めで、三年生もアレに多少知られているせいで捕食が念入りなものの耐性もあるのでこちらも被害は軽めだ。……アレによく知られ、耐性はあるはずなのにこれまでにない勢いで捕食されている同学年の二年生の被害は酷いが。

 

自分はどうするべきか? 引きつった笑顔の下で凛は考える。

スルーするか? 止めるか?

感情的にはスルーしたい。非常にスルーしたい。駆け抜けたい。

けれど明らかに魔術師としてやってはいけない行為をしている気もする。

微弱とはいえ無差別の魅了……冬木の管理者としては絶対に止めるべきだ。

それに駆け抜けるなど学園のアイドル遠坂凛のイメージに合わない。やれない。

 

いや、だが、アレに近付きたくないし、やっぱ魅了とはいえちょっとした動揺レベルの微弱さだし……

 

でも、けど、いや、だけど────

 

遠坂当主としてとるべき行動をとる前に、蟻地獄は校内から飛び出してきた銀髪のロリ三年生に後頭部を蹴り飛ばされて鎮圧された。

 

 

 

遠坂の家訓を体現できていなかったかもしれないと反省しながら登校を完了させ、凛はその日の授業を滞りなく済ませた。

噂では問題行動を起こした衛宮と自浄作用で制裁を科していた衛宮は二人とも二時限目からは普通に授業を受けていたらしい。つまり一時限目は受けなかったということか。説教タイムだったのだろうか。

 

情報収集がてら昼食に妹を誘おうかと一年の教室を訪ねたがおらず、どうやら衛宮兄妹でどこかで一緒に食べているようだった。

 

仕方ないのでそのまま一日を優等生として普通に過ごし、妹の部活が終わるのを待つことにした。

屋上で町を眺めるのはいいものだと凛は思う。

 

 

 

部活を終えた妹に声をかけると、今日は問題なかったようで訪問を快諾された。

妹は素直で明るくて良い子だ。懐いてくれているのでとても可愛い。

 

あの不気味なアレに執心していることが大きな悩みだが、言っても聞かないどころか著しく機嫌を損ねるので今ではもう何も言わないようにしている。

以前思っていることをそのまま激しく表現……顧みて見れば罵倒そのものだったが……したときは、妹の目が怖かった。

怒りを通り越して無表情だった。

まるでそこらへんの石か虫を見るような目。

妹の中のあいつの地位の高さと自分の地位の低さを無情にも思い知らされた……。

 

……やはり住む家が違うというのは多大なハンディキャップだったのだ。

あれ以来あいつに何を思っても口にはしないことに決めた。

 

 

恐怖の記憶はともかく、妹と一緒の帰り道は楽しかった。

基本的に話すのは妹の方なのだが、妹は話題も豊富で話しやすく、話し方も気が利いていて気付けばこちらから喋らされていたりする。悔しいがこの社交性の高さは同じ家に住んでいるほうの姉に似ていると思う。以前妹から社交性の低さという悩みを相談されたことがあるが、この子が社交性が低いというなら自分は一体なんなのだろうかと思ったものだ。比べる対象があのカリスマの具現のような元生徒会長というのがまず間違っている。

 

そういえばと朝のあの男の乱行について何かあったのかと聞いてみれば、答えづらそうに「溢れ出る想いを強引に抑えてる反動が出たらしくて……」とよく分からない答え。詳しく聞こうとするも話題を逸らされ聞けないまま。

 

そしてなぜか屋上で過ごす時間の素晴らしさを語りながら目的地である衛宮家に到着。

……朝の反省もあり、衛宮に対して毅然と接し、遠坂家当主として相応しい振る舞いをすることを改めて決意し、こっそり深呼吸して衛宮の門に向かう。

 

 

そこでまず気を惹かれたのが、衛宮邸の結界の高度さだ。

自宅、遠坂邸とほぼ同レベルの複雑かつ強固な結界。

……冬木で二番目に優れた霊地である遠坂邸と同レベル、である。

 

おかしい。

結界はその地の霊脈の太さに依存するのは常識であり必然だ。

霊脈から魔力を吸い上げて結界は維持されるのだから。

それがなぜ、こんな大した霊地でもない場所でこんな結界が維持できているのか?

相当に高度な……それこそ、結界を専門とする家門の秘奥でも使わなければ不可能だろう。

衛宮は確か時間魔術を専門としていて、スポンサーであるアインツベルンも錬金術の大家なのだし……明らかに畑違いのはず。

一体衛宮とは何者なのか。

 

考えているうちに妹は玄関に辿りついており、不思議そうに声をかけてきた。

慌てて動揺を押さえ込み、改めて家訓を意識して笑顔で応え、

ここは謎の強大な魔術師の工房なのだと自戒し、

念の為わずかに魔力回路を励起して警戒しながら妹に続いて玄関に上がり、

 

 

 

絶大な魔力を纏う青い男と目が合った。

 

 

 

足が震えた。魂が怯えた。

『違う』。本能で理解できた。或いは魂が理解した。

おそらく警戒していたからだろう、余計に理解できた。

これは違う。これは絶対に人間ではない。

その粗野な空気の、独特な青い鎧の男。

『格』が違う。違いすぎる。そこにいるだけで重圧を感じる。

 

これはまさに──────英雄、否、大英雄。

 

 

そこまで思考が至って理解する。

この男は英霊────サーヴァントだと。

 

理解できただけで思考が回らない私を置いて、青い男は妹に声をかける。

これは誰かと訊いて、妹は姉と答えて、疑問を浮かべた男に妹は説明し。

私はその間に、英霊が視線を逸らした間に心を整える。

予想していなかった不意打ちではあったが、事前に遠坂の家訓を意識していたおかげだろう、私はまだ無様を晒すことなく立てている。

問題ない。

 

衛宮はすでにサーヴァントを召喚していたのだ。

それだけのことだ。落ち着

 

 

 

「あ? なんだつまり…敵か」

 

 

 

全身が総毛立つ。

突然青い男から沸き起こった威圧、闘気がその空間を埋め尽くした。

瞬時に後ろに跳んで魔術回路、魔術刻印を全力で励起するが、勝てる気が、

逃げ、

 

と、今に逃走しようとした私の前で桜が慌てて男を抑え、召喚がまだだと告げる。

それを聞いた男は残念そうに闘気を収め、玄関は元通りの空間に戻った。

 

…………どうやら、大丈夫なようだ。

サーヴァントを召喚していなければ襲われはしないらしい。

大丈夫、今は襲われはしないらしい。

頭の中で繰り返し言葉にして、興奮状態にある自分を抑制する。

 

「おう嬢ちゃん、できるだけ強ぇやつ召喚してくれよ」

 

男は楽しげな笑みを浮かべ、一言残して奥に向かった。

 

……桜が謝ってくる。

一息ついて、体の力を抜く。

 

 

甘く見ていた。衛宮はすでに聖杯戦争の参加準備を終えていたのだ。

妹の様子を見る限りこの誘いが罠だったりはしないだろうが、

すでに戦闘準備万端の敵の工房にいることを意識しなければ。

……何より、御三家の一角遠坂家当主として恥ずかしくない振る舞いをしなければ。

 

心配してくる妹にできるだけ優雅な笑みを返す。

今のは私が悪い。油断していた。これくらいは予想しておくべきだったのだ。

妹にこの程度で揺らぐ姉とも思われたくはない。

 

 

ひとまず家に上がり『皆』のいる居間に向かう。

……心の準備をしておく。

おそらくさっきの男……桜がランサーと呼んでいたサーヴァント以外にも、もう一体いるはずだ。

もう威圧はされないとしても、居間に入った瞬間にさっきの二倍程度の『格』の重圧を受けると思っていい。

さらにマスターたる嗣郎もいるのだ。そちらからは威圧も受けるかもしれない。

 

覚悟をする。

イメージを済ませる。

 

…………問題ない。毅然と対応できる。

 

桜の姉ではなく、遠坂の当主として気を引き締め。

桜に案内されるままに居間に足を踏み入れ。

 

 

 

 

 

四体。

 

 

 

 

覚悟していたのの二倍です。

意味がわかりません。

 

 

 

 

軽く世界が止まって目眩がした。

それでも立っていられたのは遠坂の矜持のおかげだと思う。

 

......................................................

 

 

 

 

 

 

大丈夫か遠坂、と心配する衛宮嗣郎はなぜか眼鏡をしていた。

よく見てみれば魔眼殺しだ。

それで思い出して、動揺から立ち直るためにも冬木の管理者としての姿勢で朝の行為の警告をすると素直に頭を下げられた。

 

拍子抜けしたが調子をある程度取り戻せたので詳しく訊いてみるが、やはり言いづらそうにはぐらかされる。魔眼を持っていたのかと訊いても起源の暴走みたいなもの、とだけ言われ追求も銀髪幼女に上手く妨害されてしまった。

まあたいしたことではなさそうではあるし正直関わりたくもないので自浄作用と対抗策があるなら気にせずともいいだろう。

 

 

あらためて食卓を見渡す。

 

男性席では青い男と侍のような伊達男がメインディッシュの奪い合いをしている。

ひとつひとつの動作が無駄に速い。たまに見えない。

 

女性席ではエルフ耳の女性と眼鏡の長身の女性と衛宮姉妹がじゃれたり「あーん♪」し合いっこしている。仲睦まじい。ていうか睦まじすぎないか。眼鏡の女性はちょっと恥ずかしそうだ。

 

……カオスだ。これが英霊なのか。

 

 

クラスで呼び合っているのでそれぞれのクラスは把握できる。

ランサー、フェンサー、キャスター、ライダー。

フェンサーはイレギュラークラスか。『剣士』だし、見たままに侍なのだろうが……

 

……なぜ、四人いるのか。

 

 

イリヤスフィール先輩もマスターだったのがまず予想外。

アインツベルンがルールを破ってきたのかと思えば、「そもそも衛宮はアインツベルンの影響下にないよ」と詭弁なのか事実なのか分からない回答。

まぁそこは詭弁でも理があって通ってしまったのなら仕方がない。

だがキャスターがサーヴァントのくせにマスターというのはルール違反では、と追及すれば「今回のルールにそんな制限はないはず」とこれもまた流された。事実確かにそんな規制はない。

 

…………悔しい。腹が立つ。

 

七騎のうち四騎!

過半数を一勢力が保有するなどあっていいはずがない!

御三家も正々堂々と一騎制限なのに!

 

……文句を言ったら可哀そうな子を見るような目をされた。何故。

 

 

 

──そんな感じで、やけに美味しいご飯をいただきつつ、飛び飛びになる遠坂の家訓をかろうじて保ち、騒がしい英霊達の食卓を眺めつつ、衛宮の当主と会談を続けた。

 

 

 

もともと訊く予定だった『桜の参加如何』はすでに答えが出ていたし、『桜を異性としてどう思っているか』や『桜をどうするつもりか』はあまりにも大人数な中では聞きづらくまたもや先送りになった。

 

 

 

 

 

 

「気をつけてな。……ああ、そうだ遠坂。

 お前の家の時計時間ずれてるぞ」

 

 

なんでそんなの知ってるのよ。

 

 

......................................................

 

 

 

 

 

「何なのよ何なのよ何なのよ何なのよ何なのよっ!!」

 

誰も見ていない自宅で腹立ちを声に出す。

脳内では澄ました顔でこちらの文句を受け流していた衛宮嗣郎の笑顔に呪弾(ガンド)を撃ち込みまくっている。

 

そしてしばし暴れた後に大きく息を吐く。

 

「……だめ、だめよ凛。常に余裕を持って優雅たれ」

 

敬愛する父の姿を思い出す。

あの威厳のある父ならこんなに取り乱したりはしない。

遠坂の名を継ぐ者としてあるべき姿を意識せねば。

 

「…………ふぅ。大丈夫、問題ない」

 

確かに衛宮家の戦略は脅威だし数は力だ。

だがそんなもの、優れた力で蹴散らしてしまえばいい!

 

「そうよ、四騎いても三騎士はランサーだけ。最優のセイバーなら……」

 

……可能性が低いことくらいは凛にだって分かっている。

けれど敵が強大だからと尾を巻いて逃げるなど遠坂凛のすることではない!

 

「……セイバー。セイバー! セイバーよっ!」

 

 

 

 

 

魔法陣は万全。

呪文も完全に暗誦できる

最も自分の力が高まる時間も選んだ。時計は1時間ずれてた。直した。

 

「 ―――― 告げる 」

 

触媒は無い。

でも逆に考えれば最も自分と相性が良い英霊が呼べるということ。

戦えない政治家や芸術家が召喚される可能性もあるらしいけれど……セイバーのクラス指定呪文を使えば、セイバー適性がない英霊は召喚されないはず。

 

「 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 」

 

(そう、セイバー。セイバーなの。私にはセイバーこそ相応しいでしょうし)

 

まだ召喚推奨期間より一週間以上早いが、衛宮は四騎も召喚していた。四騎も!

宝石のフォローもある凛が、できないはずはない!

 

「 誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者 」

 

(できることなら大英雄級。……いいえ、格なんてどうでもいい。どんな英霊だろうとこの私が勝利に導くっ!)

 

不安要素はある。もしかしたら他のマスターもすでに召喚を済ませているかもしれない。その場合優勝候補である最優のセイバー枠はすでに埋まっている可能性も低くない。

それでもいい。どんなクラスだろうと遠坂凛が勝利を勝ち取る!

 

「 されば汝はその魂に信義宿らせ侍るべし。

  汝、襲う万難を排す者、我は汝に託す者── 」

 

(…………でも、やっぱ、セイバーがいいわよね。最優だし。私に似合うし。セイバー。セイバーよ。セイバー!)

 

うん、優れているに越したことはない。

セイバー。セイバーを願う。セイバーしかない。セイバーでしょ!

セイバーセイバーセイバーセイバー!

 

「 汝三大の言霊を纏う七天 」

(セイバーよセイバーセイバーセイバーセイバーセイ)

 

セイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバー!

セイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバー!

セイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバー!

セイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバーセイバー!

 

「 抑止の輪よりセイバーセイバーセイバァァァ! 」

(バーセイバー来たれ天秤の守り手よ─―――!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光った。

でも誰もいない。

 

「…………………………………………あれ?」

 

(な、なんで? 魔法陣は完璧、呪文だって間違ってない!)

 

時計も直した。やっぱり召喚が早すぎ──

 

 

 

ドバギャバギバキバキバキドォッッ!!!!

 

「っっ!!??」

 

 

 

居間からの激しい音に全速力で向かってみれば───

 

 

 

「やれやれ……随分と乱暴な召喚もあったものだ」

 

 

白髪に赤衣の男が壊れた家具に埋まっていた。

 

 

 

......................................................

 

 

 

(…………遠坂。遠坂だな。磨耗していない記憶にある。……随分幼い)

 

ドアを文字通り蹴破ってきた少女を見て、酷く懐かしい気持ちになると同時に。

エミヤシロウは歓喜する。

 

(ということはこれは間違いなく第五次聖杯戦争。ならば……衛宮士郎(オレ)もいるはず)

 

それはつまり────衛宮士郎を殺せるということ。

これを歓喜せずにいられようか。

 

(しかし……)

 

「やれやれ……随分と乱暴な召喚もあったものだ」

 

サーヴァントを魔法陣の上ではなく屋敷の上空に召喚するとはどういう了見か。

サーヴァントでなければ死んでいるところだ。文句の一つくらい言ってもいいだろう。

 

「君が私のマスターかね? もう少し丁寧に召か「クラスは?」ん?」

「クラスは何!?」

「うおっ!?」

 

何やら凛が凄まじい気迫で迫ってきた!?

 

「クラスは!? セイバーよね!? セイバーっ!!」

「…落ち着きたまえ」

 

……どうやら凛はセイバーがご所望だったようだ。

だが悲しいかな。エミヤシロウにはセイバー適性など無い。

 

「マスターならばステータスで確認できると思うがね。残念ながら私は」

 

アーチャーくらいしかあるまい、と自分でもステータスを確認し……

 

「…………何だと?」

 

 

『クラス:セイバー』。

 

 

(馬鹿な、なぜ──「よっしゃああああああ!!!!!! セイバァァァ!!!!」

 

「…………マスター、もう少し女性らしい慎みを」

「さすが私! 当然よね! 最優だもの! さすが私セイバァァァ!!!!!」

「…………」

 

 

遠坂凛とはこんな少女だっただろうか。実は思い出が美化されていたのだろうか。

 

エミヤシロウは、一時クラスへの疑問や自分への憎悪など忘れて、なんだかとても悲しい気持ちになった。

 

 

 

 




情報確認、令呪使用後

「あ、部屋片付けといてね」
「君はサーヴァントを何だと思っているのかね?」
「サーヴァント(召使い、使い魔)でしょ。ていうかアンタが汚したんだから責任持ってキレイにしといてよね。じゃ」
「……了解した。地獄に落ちろマスター」

後に衛宮家の待遇を知り、マスター替えを真剣に検討したとかしなかったとか

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